仮想世界β!!

音音てすぃ

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11.シロカミキリカ

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「急がないと……どれがいいかな、ねぇキョウスケ」
「オトメが考えている時間に見合う依頼は存在しません。焦燥に駆られ過ぎています。推奨……」
「ああもう!マジかよ……」

 僕は、ミルザンドのギルド掲示板に来ていた。
 手っ取り早く強くなるような依頼を探しているところだ。
 焦ってるって?そりゃ焦ってるよ!

「あっオトメさん、おはようございます!」
「お、おはようアカネちゃん……」

 今は会いたくなかったなぁ。

「最近、顔を見てなくて心配しましたよ。ご飯ちゃんと食べてますか?というかちゃんと仕事してくださいね!」
「ごめん、ギルドの仕事サボったのは謝るよ、マスターにも怒られるだろうな」
「解ったらいいんです。雑用でも立派な仕事ですからね。明日から来てください」

 こんな優しい子を傷つけるのは辛いが、ここはその要求を受け入れる理由にはいかない!

「悪い、無理だ」

 アカネちゃんが数秒硬直した。

「そ、そうですか……いや、強要するつもりはありませんよ、討伐系のクエストも大切な仕事ですからね!……でも、私はオトメさんが傷つくのは見たくないです」

 身を案じてくれている!?

「大丈夫、僕は死なないからさ」
「許しませんよ」

 アカネちゃんは下を向いたままだった。え、許されないの?

「え?」
「死んだら、許しませんよ」

 そして、少しだけ笑った。死ぬなだってよ。大丈夫、死ぬ気なんてない。

「オーケー、解ったよ」

 死んで記憶を無くしたいなんて思ってない。

 なんだかここになら、いつでも帰ってきてもいいなって思えた気がした。

「なぁアカネちゃん、依頼はこの掲示板に貼ってあるので全てか?ちょっと少ないきがして……」
「いえ、ここに貼れない高難度のクエストはマスターが管理しています」
「へーそうなのか……」

 というかクエストっていうのか、僕はいままで依頼って呼んでたっけ。何か時代遅れ感で恥ずかしー?、次からクエストって言おう。

「基本的に、マスターから直接リョウトさん辺りが引き受けたりしていますが、一部はミル区に掲示されてますよ」
「えホント!?情報ありがとう、行ってくる」
「あー!言わなきゃよかった……冗談です、頑張ってください」

 アカネちゃんって話わかる人だこと。

 僕は、電車に乗ってミル区へと向かった。

 以前訪れた噴水の近くに、ちょこんと存在を消して、しかし丈夫すぎる作りの大きな掲示板がそこにあった。

「どうりで、ここにあったら気づかないな」
「オトメ一人でこなせそうなクエストはありませんね」
「前のタイニーゴブリンも似たようなもんだろ?……それじゃあ前より倍ぐらい難しいクエストを選んで」

 僕はいままで忘れていた、この独り言は周りにダダ漏れだってことに。
 僕の左肩とトントンとタップする何かがいる。

「あのー、どのクエストを受けるんです?」

 キョウスケとの会話で、隣に人がいるのをすっかり忘れていた。体はぴょんとその人から距離をとった。
 それは、雪のような……いや、もっと、それそのものが真の白なんじゃないか?と勘違いする程の白い長い髪の少女だった。
 メラニン色素を忘れて生まれました、と言いたいのか、その白は僕の目も記憶もを魅了した。
 綺麗な人。

「スキャン開始」

『キリカ』Green
・相対レベル 8
・武器 黒打(刀)
・防具 冒険の白
他スキャンを実行しようとしていません。

「え、えっとーまだ決めてなくて……」

 僕は彼女の全身を刹那でチラ見した。
 髪だけでなく、服まで白、一体感がある。
 体を良く動かしているのだろう、細身だが確実に筋量がある。

「もしかして……あのタイニーゴブリン倒したのってあなたですか?」
「えっ、なんで知ってるの?いや、知ってるんですか?」
「見てた……いや!そうじゃなくて何となく」
「何となくって、それって、僕以外の人に言ったら破綻するやつじゃない!?」
「何のクエストやるか決めてないの?」
「まだだね」

 誰だこの人。

「これ、私これやろうとしてるんだ、一緒にやらない?……あ、いや、一緒に……やりませんか?」

 彼女はクエストの紙を指さし、丁寧に頼んできた。
 このぎこちなさは何だ!?
 お互いコミュ障か!

「やらない……って一緒に(つーかよく話かけてこれたな)?」
「そう」

 僕は体験したことのない状況に、相談せざるを得なかった。

「キョウスケ、どう思う?」

 心の中で問いかけた。

「食い気味ですね。二人での攻略ならクエスト攻略の可能性はあります。というかどうして相談を?」
『いやなんとなく、本能が女性の提案を受けてはいけないと言っているんだ』

 微かに機械爪の女性が浮かんでは消えた。
 ううぅ……背筋が冷える。

「どうしたの、動かなくなって。貧血?」
「あー、今相談して……違う違う、考え事。えっとね……やるよ」

 彼女はニッコリ笑う。

「よし!私はキリカ、よろしくね」
「僕はオトメ、よろしく」

 手を差し出された。僕はその手をしっかりと握り、ここにパーティを結成した。
 僕のステータス下にキリカのステータスが表示された。カイナのときもそうだっけ。

「キリカだっけ、訊いてもいいかな、なんで僕に声をかけたの?その……なんていうか、他人っていうか」

 僕だって初めての土地とかだったら道を訊くくらいの勇気はある。でのこのキリカという女性は初対面という壁をすっ飛ばしてきた。その理由が知りたかった。

「え、そんなこと訊く?うーんと……強くなりたいからかな。一人で強くなるのもいいけど、一人より二人でクエスト攻略した方が安全じゃん?」

 キリカの「強くなりたい」という台詞は、僕に共鳴の感を起こさせる。
 それは、安全というワードも手伝った。

「僕も事情で強さが必要になってね、君と一緒……でも、君みたいに知らない人に声をかけるってのは苦手だなぁ、すげぇよ」
「ホント、第一声、断られるかと思ったよ。私も人付き合い得意じゃないし」
「どうして断られるって?」

 その可憐さで断る老若男女はいないと思うのだが。
 キリカは自ら頭を指さした。
 僕は、初めどういう意味かわからなかった。

「眉間に銃?自殺?」
「違う!髪だよ、かーみ。まるで化物みたいでしょ?だから私とパーティを組んでくれる人なんてね、滅多にいないの。当然でしょ」
「……ってことはいままで一人で戦ってきたのか?」

 キリカは黙って頷いた。
 そんなことあるなんて知らなかった、というか聞いたことがない。
 人種差別的なことがあるのかな?

「そっか、でも、僕は気にならなかったよ。まぁ生まれたての世間のことも知らない馬鹿だからかもね」

 僕は頭で問いかけてみた。

「なぁキョウスケ、髪が白いと嫌われるの?」
「一般に不気味に思われるみたいですね。アルビノというものがありますが、ここでは存在は確認されていません。また、青髪、赤髪など多数存在しています。それは魔力の性質が影……」

 話を聞きながら少しため息をついてみた。

「髪の色だけでなんかめんどくさいな」
「ホントだよ。こっちとら勇気持って『パーティ組みませんかぁ?』って言ってるのに『いやぁすいません用事が……』とか言っていつも断られるの!」

 いつも断られてきたのだろう。人に声をかけることに抵抗はないのかもしれない。
 訓練の賜物、そんな悲しい訓練があってたまるものか。

「でも、悪かった。いきなり言いたくないこと言わせちゃって」
「フフ、いいのいいの。こんなに愚痴言ったのは初めてかなぁ」

 少し仲良くなれたかもしれない。

 キリカのように、人に、他人に、自分の悩みを言えるなんてなかなかできないことだ。
 だから、キリカのことは簡単に傷つけてはいけないと思った。
 それ以上に突っ込むことは辞めておいた。
 大丈夫、一時的なパーティだ互いに利用し合っているだけ。この一時だけだ。

「多分、私たち、お互い歳近そうだよね」
「そう?」
「オトメ君は何歳?」
「……あれ?何歳だっけ(20歳くらいだったかな)」
「自分のことわからないの?変な人」
「じゃキリカは?あんまり歳に興味ないんだけど」
「……たぶん……じゅー……16か17。17だよ多分、うん」

 お互い自分の事に無知であることを共有した。

「ねぇオトメ君、もしかしてその装備で攻略するつもり?」
「そうだけど……どうして?」

 僕は未だ『ギルド制服』だった。

「ダメとは言わないけど、やっぱり戦闘向きじゃないよ」
「そうか、なにを装備するといい?」
「んー、じゃ買い物行こうか」

 ということで、新しい仲間キリカと装備を揃えにタナカ武具店に向かい、検討の末、タナカさんオススメの『オリーブアドベント・ベルト』を3万円で購入した。

 そこそこお金があってよかった。
 通貨は円。メモリー全土、共通らしい。
 制服より遥かに可動域が広く動きやすい、また出典不明の異国の繊維の丈夫さゆえ防御力も高い、かっこいい。
 鏡を見る。物語の主人公の服装のそれだった。
 深い緑色もアクセントで、服に巻き付けられたベルトにナイフを、ちょうど太ももあたりに片方三本ずつ付けた。

「気分高揚」
「うん、似合うね」
「おぉ……よし、行くか!」

 背中にルーイの剣を背負った。
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