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1.メモリー
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僕は誰だ?
今まで、どこで暮らしてきた?
友達?誰だそれ?
家族……いたっけ?
「ハッ!!え……」
頭の中から記憶と思わしき映像が小さくなり消えていくイメージが湧いた。
気がつくと、僕は見た事の無い街の通路に立っていた。
見渡すと、一本道の通路で、左右には店が道に沿うようにズラリと並んでいる。
暗いから夜だ。それに対応して、店の暖かい色の灯で美しい。
人も沢山いるし、何かしらで迷子になっただけかな?
「……転送完了、記憶消去、残存記憶保護、保存された記憶を再生します。NO.D9、ID1336542。」
「こっ、声が?えっと……君は?」
「私は、寄生型独立デバイスPEです。愛称はご自分で決定お願いします」
「はぁ……」
すると、視界に水色の文字、ステータスと呼ばれるもの、色々な情報が表示される。
この時、何故か違和感がなかった。
「ん?これは……」
視界左上に、下からMP、CP、HPゲージとその上、名前が表示されている。
「オトメキョウスケ?僕の名前かな」
見知らぬ街に、何者か分からぬ僕は、情報収集のため、歩きだそうとした。
だが、スムーズに歩けなかった。
「前に……進めん!」
「あの!待ってください……!」
振り返ると、僕の背中を小柄な女性が頑張って引っ張っていた。
「どなた様?」
真っ直ぐな黒髪ポニーテール、優しそうな目である。
眉毛を隠している前髪がとてもキュートだ。
恵んであげるお金はないぞ。
「えっと、私はここの地区でガイドをして働いている、アカネ といいます」
PEがロックオンし、スキャンし始めた。
『アカネ』Green
・相対レベル:-10
・武器:なし
・防具:ギルド制服
他スキャンを実行していません
「……ガイド?なんだそれ、仕事?」
「はい。えぇと、記憶……無いですよね?」
「あ……え?」
そうか、僕は記憶喪失というやつになったのか。どうりでここ最近の事が思い出せない。もっというなら、自分が何者なのかすら……
と、自分で納得していたら再度、強く質問された。
「無いですか!?」
「ないです!」
「げ、元気ですね……それでは、ついてきてもらっていいですか?案内したい場所があります」
知らない土地を歩くのは危険だ。
「推奨行動、アカネに同行する」
コイツもこう言ってるし、そうしよう。
連れてこられたのは、「ギルド」と呼ばれる大きな施設だった。
「マスター!連れてきました!あれ……マスター?」
施設の両開きドアを開けて入ると、エントランスがあり、多くの人間が席に座り、それぞれ何か話をしている。
「あ、アカネちゃん、マスターならギルド長室にいるよ。っとー隣のは新人か?」
スキャン開始。
『リョウト』Green
・相対レベル:60
・武器:竜の牙鱗剣(赤)
・防具:炎竜の鎧(赤)、炎竜の鱗盾(赤)
他スキャンを実行していません。
男性でありながら、長い肩まである黒髪が特徴。額を出すようにオールバック。体が大きく、強そう。
しかし、こんなファンタジー風な服を着ている人が今時いるものか?
「もぉー、あの人またカウンターの仕事サボってますね!」
「お前さん、名前は?」
リョウトという人がぼーっとしている僕に質問した。
「そういえば私も訊いていません」
「多分、オトメキョウスケっていいます」
「多分?曖昧だなぁ。しかし、名字と名前、両方覚えている奴がいるとは珍しいな」
「そうですね。大半が名字か名前の片方しか覚えていませんからね。まぁ例外もあって、どっちも覚えてない人もいて、各自で決める場合もありますけどね」
「あの……マスターって?」
「あっいっけない!速く連れていかないと!」
「おう!いそげアカネちゃん!」
ついていった先、ギルド長室に丁寧にノックして入ると、剣を振り回している男がいた。
「せい!はああ!うん、良い剣だ」
「マスター、記憶喪失者、連れてきました」
『タバリ(ギルドマスター)』Green
・相対レベル ??
・武器 なし
・防具 ギルドマスター制服
他スキャンを実行していません。
「おう、わかった。君、今までで覚えていることはあるかい?」
「え…………いえ、ありません」
いきなり話が始まった。
「ふむふむ……名前は?」
マスターと呼ばれる人は、何も無いところから半透明の板とペンを取り出し、メモし始めた。
「オトメキョウスケです」
タバリというギルドマスターは凝視するように僕をみた。珍しいものを見つけたような、ついにというような、心底期待したような目をしていた。
「ほう、どちらも覚えているか……珍しいな。さて、アカネ君、説明してくれ」
質問はこれで終わりなのか。
「わかりました。まず、オトメキョウスケさんの状態からです。あなたは記憶を無くし、この世界に誕生しました。多分……。どうやらこの町には記憶に障害を負った方がやってくるみたいなんです。方法は分からないんですけど」
「は、はぁ」
なんとなく状況が掴めてきたぞ。
「この世には、このようにして記憶の無い方がほぼ全員。なので、この世界を天国と呼ぶ人もいれば、地獄だと言う人もいます。そして何時しか……人々はこの何もかも忘れた世界のことを『メモリー』と呼ぶようになりました」
「なんだよ世界世界って、よくわかんないけど……」
「皆記憶が無いのでしょうがないです。私もそうでしたから。マスター、最初はこんなんでいいですよね」
「あぁ完璧だよアカネ君。あとは実体験で学んで貰おうか。死なない程度に」
「え、死なない程度?」
「なーに、ただの例えさ。そういえば君、行く所、無いんだろ?」
僕は素早く頷いた。
「それなら、ギルドで働かないか?住む場所も提供する」
「……はい!それは願ったりで!」
よくわからない展開だが、居場所ができた。このような施設があるということは、僕以外にも記憶喪失者はいるのだろう。いや、この世界の人間は全てそうなのだろう。そのような人のために作られたギルドか。
「全世界の人間が記憶喪失……不思議なこともあるもんだな」
「オトメ、いいかげんNO.1.00世界からβ世界に飛ばされたということに気が付きなさい」
PEが何かほざいている。
「何言ってんだお前」
しかし不思議なことに、皆(勿論ぼくも)よく記憶が無いってことを覚えているよなぁ。
今まで、どこで暮らしてきた?
友達?誰だそれ?
家族……いたっけ?
「ハッ!!え……」
頭の中から記憶と思わしき映像が小さくなり消えていくイメージが湧いた。
気がつくと、僕は見た事の無い街の通路に立っていた。
見渡すと、一本道の通路で、左右には店が道に沿うようにズラリと並んでいる。
暗いから夜だ。それに対応して、店の暖かい色の灯で美しい。
人も沢山いるし、何かしらで迷子になっただけかな?
「……転送完了、記憶消去、残存記憶保護、保存された記憶を再生します。NO.D9、ID1336542。」
「こっ、声が?えっと……君は?」
「私は、寄生型独立デバイスPEです。愛称はご自分で決定お願いします」
「はぁ……」
すると、視界に水色の文字、ステータスと呼ばれるもの、色々な情報が表示される。
この時、何故か違和感がなかった。
「ん?これは……」
視界左上に、下からMP、CP、HPゲージとその上、名前が表示されている。
「オトメキョウスケ?僕の名前かな」
見知らぬ街に、何者か分からぬ僕は、情報収集のため、歩きだそうとした。
だが、スムーズに歩けなかった。
「前に……進めん!」
「あの!待ってください……!」
振り返ると、僕の背中を小柄な女性が頑張って引っ張っていた。
「どなた様?」
真っ直ぐな黒髪ポニーテール、優しそうな目である。
眉毛を隠している前髪がとてもキュートだ。
恵んであげるお金はないぞ。
「えっと、私はここの地区でガイドをして働いている、アカネ といいます」
PEがロックオンし、スキャンし始めた。
『アカネ』Green
・相対レベル:-10
・武器:なし
・防具:ギルド制服
他スキャンを実行していません
「……ガイド?なんだそれ、仕事?」
「はい。えぇと、記憶……無いですよね?」
「あ……え?」
そうか、僕は記憶喪失というやつになったのか。どうりでここ最近の事が思い出せない。もっというなら、自分が何者なのかすら……
と、自分で納得していたら再度、強く質問された。
「無いですか!?」
「ないです!」
「げ、元気ですね……それでは、ついてきてもらっていいですか?案内したい場所があります」
知らない土地を歩くのは危険だ。
「推奨行動、アカネに同行する」
コイツもこう言ってるし、そうしよう。
連れてこられたのは、「ギルド」と呼ばれる大きな施設だった。
「マスター!連れてきました!あれ……マスター?」
施設の両開きドアを開けて入ると、エントランスがあり、多くの人間が席に座り、それぞれ何か話をしている。
「あ、アカネちゃん、マスターならギルド長室にいるよ。っとー隣のは新人か?」
スキャン開始。
『リョウト』Green
・相対レベル:60
・武器:竜の牙鱗剣(赤)
・防具:炎竜の鎧(赤)、炎竜の鱗盾(赤)
他スキャンを実行していません。
男性でありながら、長い肩まである黒髪が特徴。額を出すようにオールバック。体が大きく、強そう。
しかし、こんなファンタジー風な服を着ている人が今時いるものか?
「もぉー、あの人またカウンターの仕事サボってますね!」
「お前さん、名前は?」
リョウトという人がぼーっとしている僕に質問した。
「そういえば私も訊いていません」
「多分、オトメキョウスケっていいます」
「多分?曖昧だなぁ。しかし、名字と名前、両方覚えている奴がいるとは珍しいな」
「そうですね。大半が名字か名前の片方しか覚えていませんからね。まぁ例外もあって、どっちも覚えてない人もいて、各自で決める場合もありますけどね」
「あの……マスターって?」
「あっいっけない!速く連れていかないと!」
「おう!いそげアカネちゃん!」
ついていった先、ギルド長室に丁寧にノックして入ると、剣を振り回している男がいた。
「せい!はああ!うん、良い剣だ」
「マスター、記憶喪失者、連れてきました」
『タバリ(ギルドマスター)』Green
・相対レベル ??
・武器 なし
・防具 ギルドマスター制服
他スキャンを実行していません。
「おう、わかった。君、今までで覚えていることはあるかい?」
「え…………いえ、ありません」
いきなり話が始まった。
「ふむふむ……名前は?」
マスターと呼ばれる人は、何も無いところから半透明の板とペンを取り出し、メモし始めた。
「オトメキョウスケです」
タバリというギルドマスターは凝視するように僕をみた。珍しいものを見つけたような、ついにというような、心底期待したような目をしていた。
「ほう、どちらも覚えているか……珍しいな。さて、アカネ君、説明してくれ」
質問はこれで終わりなのか。
「わかりました。まず、オトメキョウスケさんの状態からです。あなたは記憶を無くし、この世界に誕生しました。多分……。どうやらこの町には記憶に障害を負った方がやってくるみたいなんです。方法は分からないんですけど」
「は、はぁ」
なんとなく状況が掴めてきたぞ。
「この世には、このようにして記憶の無い方がほぼ全員。なので、この世界を天国と呼ぶ人もいれば、地獄だと言う人もいます。そして何時しか……人々はこの何もかも忘れた世界のことを『メモリー』と呼ぶようになりました」
「なんだよ世界世界って、よくわかんないけど……」
「皆記憶が無いのでしょうがないです。私もそうでしたから。マスター、最初はこんなんでいいですよね」
「あぁ完璧だよアカネ君。あとは実体験で学んで貰おうか。死なない程度に」
「え、死なない程度?」
「なーに、ただの例えさ。そういえば君、行く所、無いんだろ?」
僕は素早く頷いた。
「それなら、ギルドで働かないか?住む場所も提供する」
「……はい!それは願ったりで!」
よくわからない展開だが、居場所ができた。このような施設があるということは、僕以外にも記憶喪失者はいるのだろう。いや、この世界の人間は全てそうなのだろう。そのような人のために作られたギルドか。
「全世界の人間が記憶喪失……不思議なこともあるもんだな」
「オトメ、いいかげんNO.1.00世界からβ世界に飛ばされたということに気が付きなさい」
PEが何かほざいている。
「何言ってんだお前」
しかし不思議なことに、皆(勿論ぼくも)よく記憶が無いってことを覚えているよなぁ。
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