仮想世界β!!

音音てすぃ

文字の大きさ
上 下
112 / 121

107.花束

しおりを挟む
「……あ、あぁあああ?どこだここ」

 左目の痛みで呼吸を取り戻した。四肢を拘束されて、仰向けに寝ている。腕も足も動かない。

「動かない……アレ?拘束されてる?」

 大の字でベッドのようなものの上にいるのだろう。
 首が多少まわる。広い空間に見慣れない器具と薬品群、白衣の老人がなにやら作業中のようだ。

「す、すみません!ここ!どこですか!?なんで拘束されてんですか!?」

 僕は目の痛みを我慢してガチャガチャと拘束を解こうとするが、びくともしない。キョウスケの声もしない、ストレージも反応しない。ひどい喪失感に似たものが体を駆けまわった。

「おや、お目覚めか。欠損した四肢の再生ご苦労。ヲルによって君の再生スキルのみがアクティブだ。PE固有の能力は使えないよ。あきらめろ」
「四肢の再生?そうか、そういえば……」

 前の記憶が蘇る。そういえばヲルという少女に目をやられたのだった。この老人の話によるなら、僕が使えるスキルは再生スキルのみだ。通りでなくなったはずの手足があるわけだ。
 で?なんで拘束?その器具はなんだ?いやな予感しかしない。

「君にはここで実験に付き合ってもらうよぉお!想定の起床時間より速かったから予定の数より増やしてもヲルは怒らないだろ?さささささ!歯ぁ食いしばってね!」

 老人は小型のナイフを右手に、白濁した液の入った瓶をとりだし、僕に近づいて来た。
 脈動を感じた。無意識に体を動かすが、頑丈な拘束具はびくともしない。腕や足を引きちぎって逃げようとしても体に以前の力が働かない。

「おい、何する気だ!?」
「それは自身の体で体感してくれ」

 僕の腹部にナイフが突き立てられる。変に体に力が入って、洪水みたいに血が流れた。

「いっでぇ……あああああ!」

 逃げられない痛みを感じていると、刺さったナイフで傷口を無理やり広げてくる。体の中で異物が動いている感覚に吐き気を覚えた。

「いくよ!いくよ!D9!」

 広がった僕の傷に薬品が注がれる。ひんやりした感覚の後に体が暴れだした。ある毒物を致死量取り入れた時、並みの人間が数メートル飛び上がって死んだという話を思い出した。多分それに似た何かが体で起こっている。拘束具の中で手足が千切れんばかりに暴れた。

 何かを叫んだせいで喉が壊れた。

 何かの笑い声が聞こえてくる。きっとあの老人だろう。意識が戻った時、腹の痛みはほとんど消えていて、腹の中で何か小さいものが動いている感覚があった。

「意識が戻るまで5分……再生まで30秒、ヲルの封印を受けても30秒?少し早いな、素晴らしい!」
「あ……」

 気持ち悪い、口に溜まった血を床にぺっと吐き出した。

「君の中に入れたのは、並みの人間に投与した瞬間に宿主を食い殺す寄生虫。勿論私のオリジナルだ。ふむ……500匹はいれたのだが……君はなかなか死なないな。再生が食事よりも速いか」
「変なの入れてんじゃ……ねぇよ」
「変とは失礼だ。ECFの全滅の為に作った試作なんだから」

 腹の気持ち悪さを我慢して再び拘束具に力を込める。

「君は基本なにをしても死なないんだから、何をしてもいいよね?」

 僕と老人は嫌悪と喜びの表情を交わした。
 いつまで続くのかわからない拷問という名前の実験。
 寄生虫たちは瓶の中から取り出され、僕に投与される。視界にあった薬品庫の在庫はまだまだある。僕は地獄のような日々をこの老人と過ごすことになった。
 痛みに慣れてきた。
 もう何日たったか分からなくなった。
 彼ら寄生虫は僕を苗床にして生き死にを繰り返している。そのうち抵抗する元気もなくなってきて、あの瓶をみるのが怖くなってきた。いつまでも終わらない時間、変わらない天井と床、ベッドは僕の血で悪臭を放っている。慣れても恐怖は消えなかった。永遠に終わらない全身の痛みの中で、作業を終えた老人が部屋から出ていく時だけが安心できた。
 20種を超えてきた辺りから「やめてくれ」だけが僕の台詞だった。そして50を超えて来たあたりで何も言わなくなっていた。ただ時間が過ぎていくのを、この老人が飽きてやめるのをまっていた。

 痛い、体がいたい。目が痛い。キョウスケ、どこだよ?君に会いたい。キリカに会いたい。ツルギさん助けて!


ーーーーー

「……」

 長い時間が経った。
 体の感覚がほとんど消えてしまった。
 四六時中体を這いずり周る何かを感じているだけ。

「元気かねオトメ君、おやおや焦点が合ってないよ。気が触れたかな?」

 返事をしない僕の腹部に老人が手を触れる。無意識に叫び声をあげる。腹部が隆起し、皮膚を引き裂き、血液が爆散した。

「あああああ!」
「素晴らしい!これはいい、この寄生虫も少し刺激を与えればここまで……ふむ、兵器としては十分以上だ。だが少々投与し過ぎた。3種類まで抑えたい」
「……殺してくれ」

 僕の体の中は寄生虫の巣となっていた。しかも外部からの少しの刺激で体が爆散するレベル。もうまともな生活は送れない。この時、いやもっと前に再生スキルを会得したことを後悔していた。

「これが新作だよ、さぁ」

 気を抜いていた時だった、投与された寄生虫はすぐに全身へ周り、効果が表れた。
 体中が硬直するようだった。筋肉も骨も全て硬化し、変形し、木の枝のような骨が至るところから飛び出していた。

「あ……が」
「ふむ、まるで造花だな」

 唯一原型をとどめていた左目に意識が集中する。全身から出血しても冷たいも暖かいもない。ここから全てを投げ出して消えてしまいたかった。人に誓った願いなぞも投げ出して。
 












しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

タイムワープ艦隊2024

山本 双六
SF
太平洋を横断する日本機動部隊。この日本があるのは、大東亜(太平洋)戦争に勝利したことである。そんな日本が勝った理由は、ある機動部隊が来たことであるらしい。人呼んで「神の機動部隊」である。 この世界では、太平洋戦争で日本が勝った世界戦で書いています。(毎回、太平洋戦争系が日本ばかり勝っ世界線ですいません)逆ファイナルカウントダウンと考えてもらえればいいかと思います。只今、続編も同時並行で書いています!お楽しみに!

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

処理中です...