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102.路傍
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セツナとミセットの闘いにて。
「見えない敵を撃てって?」
三人とギリギリの攻防を繰り広げているセツナをスコープに捉えながらミセットが呟く。不思議といつもより鼓動が速い、息もしづらい、けどすごく目が良く見える。
「震えるな……オトメに任せただろ!」
200メートル先のセツナは、突撃してきたレイミーを綺麗に避けると反射的に反撃した。
白刃が貫いてから意識が戻る。同胞を無意識に傷つけてしまった。
「うぅ!」
「ハッ……レイミー……!」
交渉の余地はあっただろうか、私情を挟んだことによって自ら壊してしまった関係、修復は出来なくても解消は出来なかったか。相手にその気はなくても、それでも、知人を簡単に殺すことはこんなに……
「ごめ……」
横眼に見たレイミーは心臓を確実に貫いていたと思う、回復は絶望的だ。
「セツナァ!」
妹を刺したセツナにソウが振りかぶる。背後からステルスを解除した攻撃だ。
声を聴いた。怒りに身を任せた剣が後ろにある。死にたくない死にたくない!
心をころして剣に刺さったままのレイミーを蹴り抜き、薄目でソウの斬撃の隙間を見極める。
相手が子供で良かった。未熟な体を真っ二つにした。手に伝わった感触で、剣の切れ味のよさを実感した。
「チッ……最悪だ」
罪悪感に似たものが喉に張り付く。仕事とは違うんだ。これは正真正銘ただの殺しだ。
「何が楽しくて殺してんだよ!」
自分に叫びつけたあと、剣を下に振り、血を払った。
次はスイレンだ。どこから来てもいいように剣を構えた。
昔の記憶が蘇る。私がスイレンに拾ってもらってから今までのこと。三年後に一緒になったレイミーとソウのこと。仕事のことを教えてくれたジェリーとマックス。考えることはずっと変わらない、私は皆を家族と思っていた。どこかで読んだ本に載っていた家族という言葉。私はずっとそれだと思っていたのに。
どうしてだよスイレン、私はあなたに教えられた技術で皆を殺したくない!
目前に切っ先が見える。スイレンは正面から決める気だ。
「フッ!」
「うっ」
隠したもう一本の剣、アサシンナイフでいなす。
「さすがだな」
「どうしてだよ……」
イノセントでスイレンとつばぜり合いになる。
「私は……家族だと思ってた。でもそれは勝手だったの?私は死にたくないし、殺したくない、言い訳だけど体に染みついた技術は消えない!……ただ悲しいよスイレン」
「……お前は俺が見てきた中で一番の天才だ」
「え?」
どんなに記憶をさかのぼっても「天才」と言われたことはなかった。嬉しさの反面どう喜んでいいかわからなかった。褒められたことがなかったからかもしれない。
「体に流れる魔力がゼロの人間がこれほどまでにはなれない」
「……もう、どうしたらいいかわからない」
「お前はさっきまでどうしていた?おもうがままに行動していただろう!それが仲間を危険にさらすことだってある、それが理解できていなかった」
いつもの説教だが、自業自得で殺した二人が後ろにいる。言い訳の一つもない。
「スイレンはアイツの優しさを知らない、私の足を潰しておきながらポーションくれるんだよ?いや……自決しとけば良かったか、仲間を思うなら。だから本当に申し訳ない。私の弱さが全部悪い、アイツに流された私が悪い、素直に殺されなかった私が悪い」
何かが光った気がして覗き込んだ先はスイレンの腕輪、気づいた時にはそこから射出された小型ナイフに左目が貫かれていた。
「黙れ」
スイレンのアサシンナイフが赤く光る、これは斬りつけた場所から爆発を引き起こす魔術。
スプリングナイフを受けた衝撃で視界が上を舞う、その間セツナにスイレンのナイフが通る。
痛みの次に熱を感じる。来る、耐えろ私。
「おいおいおいおい!」
ミセットはセツナの体が爆発し、周囲が煙に包まれるのを見ていた。
「……急所は見事に避けたな」
「ゲボッ!あー……」
切り裂かれたのは右の脇腹と右頬、顔の半分が火傷、腹はえぐれて内臓は焦げて爆散している。
「首……は、避けた」
視界が悪い、気分は最悪、体力も残り少ない、意識も遠い、何より痛すぎる。
最後の力でイノセントを腰辺りに構えた。残るはこの一撃のみ。
「死にぞこないが」
「……私が全部悪い、だから……私は私の先を行く!今までありがとう、愛してる!」
「フッ」
私が言いたいことを全て言った後、スイレンは笑ってナイフを振った。私も合わせるように剣を全力で振り出す。
剣の軌道で気づいた、間に合わない。その瞬間にスイレンが姿を消した。少ない視界の上に捉えた、上からスイレンのナイフが来る、おしまいだ。振った剣も残像を切り裂いた。
「一発、打ち抜くなら……」
ミセットは高速で動く二人についていけなかった。
もしここでセツナを助けられなかったら、オトメは悲しむだろうか。やっぱり残ればよかったというだろうか、言うだろうな。だったらやることは一つだ。打ち抜いたのが頭なら十分以上。威嚇でもなんでもいい、引き金を引かなかったことで後悔するな!
「師匠、力を貸して……!」
時が止まった気がした。音が聞こえない。先が見える。勘でわかる今引けと言っている。
「いけ!」
スイレンがセツナの頭上に移り、ナイフを振りかぶった瞬間、スイレンの右肩に弾丸が直撃、爆発音と何か砕ける音と共に吹き飛んだ。
「いっけー!セツナ!決着付けろ!」
この距離では聞こえないが、ミセットは叫んだ。決めてくれ、最大限の支援はした、あとは頼んだという願いを込めた。
セツナは振った剣を止めて踏みとどまる。隣に転がったスイレンに全霊の突きを放った。そうオトメの突きを見た時に覚えた技だ。
完璧な手ごたえの後に、手が暖かい血で濡れていく。
「私の勝ちだ……!」
「ふ、ふ!そうだな……!よく……やった。セツナは天才だ」
意識が朦朧とした二人は虚ろに地面に転がった。決着を見届けたミセットは走ってセツナの所へ向かった。
「おい、死ぬなよ。オトメに何て言えばいいか分からなくなるだろ……」
不安で走っている感覚が薄れていく、早く着きたい、着きたくない、結果を知りたくない、そんな気持ちでミセットは走った。
「見えない敵を撃てって?」
三人とギリギリの攻防を繰り広げているセツナをスコープに捉えながらミセットが呟く。不思議といつもより鼓動が速い、息もしづらい、けどすごく目が良く見える。
「震えるな……オトメに任せただろ!」
200メートル先のセツナは、突撃してきたレイミーを綺麗に避けると反射的に反撃した。
白刃が貫いてから意識が戻る。同胞を無意識に傷つけてしまった。
「うぅ!」
「ハッ……レイミー……!」
交渉の余地はあっただろうか、私情を挟んだことによって自ら壊してしまった関係、修復は出来なくても解消は出来なかったか。相手にその気はなくても、それでも、知人を簡単に殺すことはこんなに……
「ごめ……」
横眼に見たレイミーは心臓を確実に貫いていたと思う、回復は絶望的だ。
「セツナァ!」
妹を刺したセツナにソウが振りかぶる。背後からステルスを解除した攻撃だ。
声を聴いた。怒りに身を任せた剣が後ろにある。死にたくない死にたくない!
心をころして剣に刺さったままのレイミーを蹴り抜き、薄目でソウの斬撃の隙間を見極める。
相手が子供で良かった。未熟な体を真っ二つにした。手に伝わった感触で、剣の切れ味のよさを実感した。
「チッ……最悪だ」
罪悪感に似たものが喉に張り付く。仕事とは違うんだ。これは正真正銘ただの殺しだ。
「何が楽しくて殺してんだよ!」
自分に叫びつけたあと、剣を下に振り、血を払った。
次はスイレンだ。どこから来てもいいように剣を構えた。
昔の記憶が蘇る。私がスイレンに拾ってもらってから今までのこと。三年後に一緒になったレイミーとソウのこと。仕事のことを教えてくれたジェリーとマックス。考えることはずっと変わらない、私は皆を家族と思っていた。どこかで読んだ本に載っていた家族という言葉。私はずっとそれだと思っていたのに。
どうしてだよスイレン、私はあなたに教えられた技術で皆を殺したくない!
目前に切っ先が見える。スイレンは正面から決める気だ。
「フッ!」
「うっ」
隠したもう一本の剣、アサシンナイフでいなす。
「さすがだな」
「どうしてだよ……」
イノセントでスイレンとつばぜり合いになる。
「私は……家族だと思ってた。でもそれは勝手だったの?私は死にたくないし、殺したくない、言い訳だけど体に染みついた技術は消えない!……ただ悲しいよスイレン」
「……お前は俺が見てきた中で一番の天才だ」
「え?」
どんなに記憶をさかのぼっても「天才」と言われたことはなかった。嬉しさの反面どう喜んでいいかわからなかった。褒められたことがなかったからかもしれない。
「体に流れる魔力がゼロの人間がこれほどまでにはなれない」
「……もう、どうしたらいいかわからない」
「お前はさっきまでどうしていた?おもうがままに行動していただろう!それが仲間を危険にさらすことだってある、それが理解できていなかった」
いつもの説教だが、自業自得で殺した二人が後ろにいる。言い訳の一つもない。
「スイレンはアイツの優しさを知らない、私の足を潰しておきながらポーションくれるんだよ?いや……自決しとけば良かったか、仲間を思うなら。だから本当に申し訳ない。私の弱さが全部悪い、アイツに流された私が悪い、素直に殺されなかった私が悪い」
何かが光った気がして覗き込んだ先はスイレンの腕輪、気づいた時にはそこから射出された小型ナイフに左目が貫かれていた。
「黙れ」
スイレンのアサシンナイフが赤く光る、これは斬りつけた場所から爆発を引き起こす魔術。
スプリングナイフを受けた衝撃で視界が上を舞う、その間セツナにスイレンのナイフが通る。
痛みの次に熱を感じる。来る、耐えろ私。
「おいおいおいおい!」
ミセットはセツナの体が爆発し、周囲が煙に包まれるのを見ていた。
「……急所は見事に避けたな」
「ゲボッ!あー……」
切り裂かれたのは右の脇腹と右頬、顔の半分が火傷、腹はえぐれて内臓は焦げて爆散している。
「首……は、避けた」
視界が悪い、気分は最悪、体力も残り少ない、意識も遠い、何より痛すぎる。
最後の力でイノセントを腰辺りに構えた。残るはこの一撃のみ。
「死にぞこないが」
「……私が全部悪い、だから……私は私の先を行く!今までありがとう、愛してる!」
「フッ」
私が言いたいことを全て言った後、スイレンは笑ってナイフを振った。私も合わせるように剣を全力で振り出す。
剣の軌道で気づいた、間に合わない。その瞬間にスイレンが姿を消した。少ない視界の上に捉えた、上からスイレンのナイフが来る、おしまいだ。振った剣も残像を切り裂いた。
「一発、打ち抜くなら……」
ミセットは高速で動く二人についていけなかった。
もしここでセツナを助けられなかったら、オトメは悲しむだろうか。やっぱり残ればよかったというだろうか、言うだろうな。だったらやることは一つだ。打ち抜いたのが頭なら十分以上。威嚇でもなんでもいい、引き金を引かなかったことで後悔するな!
「師匠、力を貸して……!」
時が止まった気がした。音が聞こえない。先が見える。勘でわかる今引けと言っている。
「いけ!」
スイレンがセツナの頭上に移り、ナイフを振りかぶった瞬間、スイレンの右肩に弾丸が直撃、爆発音と何か砕ける音と共に吹き飛んだ。
「いっけー!セツナ!決着付けろ!」
この距離では聞こえないが、ミセットは叫んだ。決めてくれ、最大限の支援はした、あとは頼んだという願いを込めた。
セツナは振った剣を止めて踏みとどまる。隣に転がったスイレンに全霊の突きを放った。そうオトメの突きを見た時に覚えた技だ。
完璧な手ごたえの後に、手が暖かい血で濡れていく。
「私の勝ちだ……!」
「ふ、ふ!そうだな……!よく……やった。セツナは天才だ」
意識が朦朧とした二人は虚ろに地面に転がった。決着を見届けたミセットは走ってセツナの所へ向かった。
「おい、死ぬなよ。オトメに何て言えばいいか分からなくなるだろ……」
不安で走っている感覚が薄れていく、早く着きたい、着きたくない、結果を知りたくない、そんな気持ちでミセットは走った。
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