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101.王殺し
しおりを挟む「カミセェ!」
躊躇なくエンドスナイパーを放つ。
またカミセの剣に届くが一歩も二歩も足りない。この奥に刃を叩きこむんだ。
左手でカミセの剣を掴む。
「ガード……外れろ!」
「なんて力だ」
カミセの鎧が見えた。そこに剣を刺そうとする。
「マジック・アーツ……」
先程聞いたセリフだ。マズイ、回避できない。
「フレイル・ブレイド!」
「クソッ」
半透明の刃が視界の隅で動いた。意識が吹き飛びそうな痛みと共に右肩から腕を落とした。
「てめぇ……」
幻肢は瞬時に再生した。痛みもすぐになくなる。即座に腰のフックショットを構えた。
「これは……銃弾にロープ?」
「返しが付いてるからなぁ、こりゃ痛いぜ」
射出した返しはカミセの首に命中した。この近距離で避けることは出来なかっただろう。
返り血が顔に着く。怯むことなくロープを引き、肉片を宙に飛ばす。
「グッ……」
痛いだろうね。それ以上に出血効果が高い。一気に有利になった。
カミセは首を手で押さえて回復魔術を使っているようだ。完全回復させるか。
落ちているエフェクトシールドを拾って斬りかかる。
「硬い剣だな」
「不覚を取った、動きを止めていいのか?」
無詠唱のフレイル・ブレイドだ。左足を切断され、バランスを崩した。倒れ際に左の腰にあるハンドガンを撃つ。
強烈な金属音がした。適当な斬撃よりは通っているようだ。
「全てを消し去れば再生できないだろう」
剣を体に巻き付けるように構える。回転のモーションに入りそうだ。間違いない、次の技は「螺旋終末剣」とかいうやつだ。まずいぞ足の再生がカミセのスキルに間に合わない、エフェクトシールドのリフレクト発動でもジリ貧だろう。
「推奨行動……」
キョウスケの声がした!
「まだだッ!」
「『螺旋終末剣・仮想消去』!」
カミセの放った360度の回転切りは周囲を焼却するように薙ぎ払った。足のないオトメには回避できないだろうと予想したが、剣のリフレクトも使わなかったようだ。そこにオトメはいない。
「手ごたえはなかった……あっけないものだ。キリカ君の剣の方が骨があったな」
「……だな」
カミセは上で微かに聞こえた声に心臓が震えた。その先を睨んだ。そこには、空高く跳躍したオトメがいる。
「平面しか見てんなよ、仮想は三次元だぜ」
キョウスケの提案は『兜割り・天』の使用。半強制的に飛ぶ。再生効果のある体で遠慮はいらない。
両断する。
「くたばれぇぇぇえ!」
高速で駆ける体がカミセ目掛けて剣を振り下ろす。
「……連続使用だ」
カミセは再度螺旋終末剣を使った。体を倒して、下から切り上げるようにオトメを狙った。
仮想神剣の方が出が速い。移動速度も相まって、僕の体は右膝辺りから左肩まで綺麗に切断された。焦げ臭い。
一瞬飛んだ意識を取り戻して、奇跡的に残ったエフェクトシールドに全てを賭ける。
「それでもキミは前に進むのか」
「うわあああぁ!」
とりあえず叫んで剣はカミセの傾いた体を一刀両断した。全身全霊、身を賭した一撃故にカミセの鎧を裂くに至った。
僕の体は衝撃で数回バウンドして着地した。
「……ハッ!」
「二秒感意識がありませんでした」
驚くくらい身体が軽い。先ほど体のほとんどを失ったはずが、こうも短時間で再生されるとは。
「カミセ……カミセはどこだ」
首を振ると、後ろの方でカミセが細い生きをしていた。
血を吐きながら何か言っている。
「贖罪には……些か安い気がしなくもない」
カミセに近づいて、ストレージから取り出したアサルトライフルの銃口を向けた。
「気は?」
「変わらないさ」
自動発動のスキルか、よく見るとカミセの身体は少しずつ再生されている。だからまともに喋るのとが出来るのかもしれない。
「悔しいものだな……」
このような場面を何度か経験してきた気がする。一度目はルーイとの戦い。二度目はツルバ、三度目はクニテツ、四度目はクリア。短い期間ながらも長く感じた時間だ。多分僕のここでの人生はこんなものなのだろう。人との戦いを強いられる、強いる。そんな。
「そもそもだねぇ……人は死んだら蘇ったりはしないだろ?だからね……京介君」
「気に入らない」
「殺してくれ」
「何もかも諦めたのか?」
「まぁ、これほど瀕死になればな……私は、どんな悪人であっても、この世界、仮想であっても創造できたことを誇りに思っているよ」
再生スキルの効力が弱いのか、カミセの目が虚ろになっていくのが分かった。思わず目を背けたくなる。半分横眼でカミセを見つめていた。
「僕に温情とか求めないのか?」
「ハハハ……最愛の人に殺してほしいと頼まれたと聞いた時にほとんど腹は決まっていた。良かったな、私が発狂してβ世界をデリートしなくて」
「そんな権限あるのか?」
「無いとも」
口からボロが出た。
「降参しないか?」
カミセが嫌悪に似た驚きをこちらに向けた。
「……」
誇りも何もない発言に向けられた無言だったのか、言葉も出なかったのか。
ひと思いにやれと言っているのか、すぐに引き金を引くなんてできない。それがECFの最終目標だったとしても。
空気がまずくなってきた、何か考えよう。
「……あのさ、気持ち悪い質問なんだけど」
カミセに会った瞬間から感じていた違和感を訊いてみることにした。
「カミセは、僕のことを知っていたりとか……する?」
少し銃口を下げて訊くと、辛そうにだが楽しそうに笑いカミセは口を開いた。
「ははは、どうして分かったのかな?勘の強さは父親譲りか」
「何?」
父親だと?僕に君づけをしていたことも考えてもう一度質問する。
「生前というか、元いた世界で僕とカミセさんとは面識がある……ありますか?」
他人の感覚がフィードバックしてくるような気分だ。脳の記憶領域につっかえていた異物が取り除かれていく。
「突然敬語かな?……あるとも、京介君のお父さんとは仲良くしていたよ。それも一緒にβ世界を開発した仲だ。だから京介君を見た時はなるほどと思ったし因果とも思った」
「は?」
口から出たのはあぐあぐとした言葉にならない言葉。質問の渋滞を起こしていてパニックになっている。
「深呼吸してください」
キョウスケの言うことに従って一度深く呼吸をする。どうして足が震えるんだろう。
「つまり僕は、元々そっち側だったのに……まるで裏切りじゃないか!」
湧き上がった自己嫌悪をカミセが止めた。
「それは違う、京介君のお父さんは、私がβ世界を運用すると決めた時には音信不通になったのだよ。きっと嫌われてしまったのだよ。消息は不明だ」
慰めだ、僕にはわかる。一時でも仲間と言わせた仲だったのだ。顔も知らぬ程に覚えていない父がいたとしても、その友人を射抜くことは出来ない。
「京介君、手を握ってくれないか?」
半分泣き目の僕は片膝をついた。
「はっ……いい年のおっさんが寂しくなったんすか?」
「違うさ。京介君に渡したいものがある」
僕は初め躊躇したが、キョウスケが危険性はないというので残った右手を掴む。
脳に映像が送り込まれる。他人の所有物に触れた時に起こる現象だ。
僕の中にカミセの昔の記憶が流れて来る。
十数年前からの記憶だ。膨大で長すぎて感覚に残ったのはカミセの孤独感と罪悪感、僕は憎悪を覚えた。
「おい待て、辻褄が合わねぇぞ」
ここで敬語が消えた。
「やはりか、先に謝らせてくれ。京介君の記憶領域を少しもらったが……」
僕の耳にカミセの言葉は入ってこなかった。その記憶はカミセとツキミさんから聞いたことがほとんどでその話の補足にしかならず、カミセが創設者だと勝手に思っていたライヴには直接的に関わっていないこと、そしてPEの産みの親でないこと。
その産みの親は……
「PEを作ったのはお父さんか?」
「そこまで見えたか京介君、やはりヲルの武器記憶保存技術は成功したのか……」
ヲルという言葉に体が過剰に反応した。そういえば白い空間でもそこ名前を聞いた。
「そうだ!ヲルだ!お父さんはソイツを……作った?」
「あぁ、私は『音目京治』君の天才的な姿を隣で見てきたからね」
「お父さんは、PEをいくつ作った?記憶だけじゃわからない」
「……一つだ。β世界における管理システムのほぼ全ての権利を有するいわゆる神、その体は生身の人を依り代としない完全独立体、生き物と同等、世界の目それがPE.NO.O0:ヲルだ」
ヲル、聞いたことがある。あの黒い少女だ。
「PEっていくつかあるだろ?あんただって」
「京治君の構想としては10個のPEを考えていた。O0から始まり……覚えていないが、最後が京介君のD9だ。O0以外のPEはO0のヲルが作った。私はそれをもらっただけだ」
「……ライヴを作ったのは?」
「ヲルだ。まぁどうして京介君がすでに所有者のいるD9を持っているのかは不明だがね」
すでに所有者が?記憶を探してみる。見えたのは黒い少女から色の付いた何かを配られている風景だ。D9をもらったのは赤い服を着た体の大きな白髪のおじさんだ。剣のような得物は無く腰に二丁のリボルバーが刺さっている。この芸風はツルギさんに近い。
「名前は知ってるか?」
「さてどうだったかな、もうかなり昔のことだ。曖昧な記憶を授けてすまないな」
「キョウスケ、何か知っているか?」
「いいえ、該当するデータは存在しません」
「そうか……それと、記憶ありがとう。でもなんで……?」
カミセは溜まった血を横に吐いて続けた。
「これは私欲だ。本当に申し訳ないと思っている。いいか?おそらくこれから私の死を観測したヲルがここに来る。防衛に努めているゴールドグリップよりも強いやつを引き連れて来る。君一人では勝てない。その時私はヲルに殺されるだろう」
「どうしてだ!仲間なんじゃ……」
「フフフ……京介君に記憶をあげたからに決まっているだろう」
その笑い方に躊躇はない。それなら最初から僕にあげなければよかったのにと言おうとした。
「私はね……β世界を、この愛する者の為に作った世界を……託したい。君になら託せる!」
握られた手に最後の力が入る。冷たくなっていくそれは次第に固くなる。
「もう疲れた。もう……ラクになってもいいかな?妻に会いたいなぁ」
「……なんで僕なんだ?」
「キリカ君さ。彼女をみて一発で思ったよ。京介君にならこの世界の行く末がどうであれ、正解にしてくれるとね。さぁ頼んだよ。魅力的と言ってくれた。敵陣営の同胞よ……」
加速度的に意識がなくなっていくカミセの手をただ握っていた。
「自分で自動治癒魔術を切断しました」
「……そっか」
カミセから受け取った記憶、人を愛する意思。非道徳と言われても失うことを恐れた似た者同士。年齢も過ごした時間は共有できなくても、僕とカミセはつながった。
「もらったよ、ちゃんと」
僕は目を閉じたキリカを抱えて崖まで歩いた。途中振り返ると既にカミセの姿は無かった。彼はルーイのように蘇生はされない。
多分彼はいつだってこの世界を終わらせたかったのだろう。
託された理由はそう。
「楽園に至れ」
躊躇なくエンドスナイパーを放つ。
またカミセの剣に届くが一歩も二歩も足りない。この奥に刃を叩きこむんだ。
左手でカミセの剣を掴む。
「ガード……外れろ!」
「なんて力だ」
カミセの鎧が見えた。そこに剣を刺そうとする。
「マジック・アーツ……」
先程聞いたセリフだ。マズイ、回避できない。
「フレイル・ブレイド!」
「クソッ」
半透明の刃が視界の隅で動いた。意識が吹き飛びそうな痛みと共に右肩から腕を落とした。
「てめぇ……」
幻肢は瞬時に再生した。痛みもすぐになくなる。即座に腰のフックショットを構えた。
「これは……銃弾にロープ?」
「返しが付いてるからなぁ、こりゃ痛いぜ」
射出した返しはカミセの首に命中した。この近距離で避けることは出来なかっただろう。
返り血が顔に着く。怯むことなくロープを引き、肉片を宙に飛ばす。
「グッ……」
痛いだろうね。それ以上に出血効果が高い。一気に有利になった。
カミセは首を手で押さえて回復魔術を使っているようだ。完全回復させるか。
落ちているエフェクトシールドを拾って斬りかかる。
「硬い剣だな」
「不覚を取った、動きを止めていいのか?」
無詠唱のフレイル・ブレイドだ。左足を切断され、バランスを崩した。倒れ際に左の腰にあるハンドガンを撃つ。
強烈な金属音がした。適当な斬撃よりは通っているようだ。
「全てを消し去れば再生できないだろう」
剣を体に巻き付けるように構える。回転のモーションに入りそうだ。間違いない、次の技は「螺旋終末剣」とかいうやつだ。まずいぞ足の再生がカミセのスキルに間に合わない、エフェクトシールドのリフレクト発動でもジリ貧だろう。
「推奨行動……」
キョウスケの声がした!
「まだだッ!」
「『螺旋終末剣・仮想消去』!」
カミセの放った360度の回転切りは周囲を焼却するように薙ぎ払った。足のないオトメには回避できないだろうと予想したが、剣のリフレクトも使わなかったようだ。そこにオトメはいない。
「手ごたえはなかった……あっけないものだ。キリカ君の剣の方が骨があったな」
「……だな」
カミセは上で微かに聞こえた声に心臓が震えた。その先を睨んだ。そこには、空高く跳躍したオトメがいる。
「平面しか見てんなよ、仮想は三次元だぜ」
キョウスケの提案は『兜割り・天』の使用。半強制的に飛ぶ。再生効果のある体で遠慮はいらない。
両断する。
「くたばれぇぇぇえ!」
高速で駆ける体がカミセ目掛けて剣を振り下ろす。
「……連続使用だ」
カミセは再度螺旋終末剣を使った。体を倒して、下から切り上げるようにオトメを狙った。
仮想神剣の方が出が速い。移動速度も相まって、僕の体は右膝辺りから左肩まで綺麗に切断された。焦げ臭い。
一瞬飛んだ意識を取り戻して、奇跡的に残ったエフェクトシールドに全てを賭ける。
「それでもキミは前に進むのか」
「うわあああぁ!」
とりあえず叫んで剣はカミセの傾いた体を一刀両断した。全身全霊、身を賭した一撃故にカミセの鎧を裂くに至った。
僕の体は衝撃で数回バウンドして着地した。
「……ハッ!」
「二秒感意識がありませんでした」
驚くくらい身体が軽い。先ほど体のほとんどを失ったはずが、こうも短時間で再生されるとは。
「カミセ……カミセはどこだ」
首を振ると、後ろの方でカミセが細い生きをしていた。
血を吐きながら何か言っている。
「贖罪には……些か安い気がしなくもない」
カミセに近づいて、ストレージから取り出したアサルトライフルの銃口を向けた。
「気は?」
「変わらないさ」
自動発動のスキルか、よく見るとカミセの身体は少しずつ再生されている。だからまともに喋るのとが出来るのかもしれない。
「悔しいものだな……」
このような場面を何度か経験してきた気がする。一度目はルーイとの戦い。二度目はツルバ、三度目はクニテツ、四度目はクリア。短い期間ながらも長く感じた時間だ。多分僕のここでの人生はこんなものなのだろう。人との戦いを強いられる、強いる。そんな。
「そもそもだねぇ……人は死んだら蘇ったりはしないだろ?だからね……京介君」
「気に入らない」
「殺してくれ」
「何もかも諦めたのか?」
「まぁ、これほど瀕死になればな……私は、どんな悪人であっても、この世界、仮想であっても創造できたことを誇りに思っているよ」
再生スキルの効力が弱いのか、カミセの目が虚ろになっていくのが分かった。思わず目を背けたくなる。半分横眼でカミセを見つめていた。
「僕に温情とか求めないのか?」
「ハハハ……最愛の人に殺してほしいと頼まれたと聞いた時にほとんど腹は決まっていた。良かったな、私が発狂してβ世界をデリートしなくて」
「そんな権限あるのか?」
「無いとも」
口からボロが出た。
「降参しないか?」
カミセが嫌悪に似た驚きをこちらに向けた。
「……」
誇りも何もない発言に向けられた無言だったのか、言葉も出なかったのか。
ひと思いにやれと言っているのか、すぐに引き金を引くなんてできない。それがECFの最終目標だったとしても。
空気がまずくなってきた、何か考えよう。
「……あのさ、気持ち悪い質問なんだけど」
カミセに会った瞬間から感じていた違和感を訊いてみることにした。
「カミセは、僕のことを知っていたりとか……する?」
少し銃口を下げて訊くと、辛そうにだが楽しそうに笑いカミセは口を開いた。
「ははは、どうして分かったのかな?勘の強さは父親譲りか」
「何?」
父親だと?僕に君づけをしていたことも考えてもう一度質問する。
「生前というか、元いた世界で僕とカミセさんとは面識がある……ありますか?」
他人の感覚がフィードバックしてくるような気分だ。脳の記憶領域につっかえていた異物が取り除かれていく。
「突然敬語かな?……あるとも、京介君のお父さんとは仲良くしていたよ。それも一緒にβ世界を開発した仲だ。だから京介君を見た時はなるほどと思ったし因果とも思った」
「は?」
口から出たのはあぐあぐとした言葉にならない言葉。質問の渋滞を起こしていてパニックになっている。
「深呼吸してください」
キョウスケの言うことに従って一度深く呼吸をする。どうして足が震えるんだろう。
「つまり僕は、元々そっち側だったのに……まるで裏切りじゃないか!」
湧き上がった自己嫌悪をカミセが止めた。
「それは違う、京介君のお父さんは、私がβ世界を運用すると決めた時には音信不通になったのだよ。きっと嫌われてしまったのだよ。消息は不明だ」
慰めだ、僕にはわかる。一時でも仲間と言わせた仲だったのだ。顔も知らぬ程に覚えていない父がいたとしても、その友人を射抜くことは出来ない。
「京介君、手を握ってくれないか?」
半分泣き目の僕は片膝をついた。
「はっ……いい年のおっさんが寂しくなったんすか?」
「違うさ。京介君に渡したいものがある」
僕は初め躊躇したが、キョウスケが危険性はないというので残った右手を掴む。
脳に映像が送り込まれる。他人の所有物に触れた時に起こる現象だ。
僕の中にカミセの昔の記憶が流れて来る。
十数年前からの記憶だ。膨大で長すぎて感覚に残ったのはカミセの孤独感と罪悪感、僕は憎悪を覚えた。
「おい待て、辻褄が合わねぇぞ」
ここで敬語が消えた。
「やはりか、先に謝らせてくれ。京介君の記憶領域を少しもらったが……」
僕の耳にカミセの言葉は入ってこなかった。その記憶はカミセとツキミさんから聞いたことがほとんどでその話の補足にしかならず、カミセが創設者だと勝手に思っていたライヴには直接的に関わっていないこと、そしてPEの産みの親でないこと。
その産みの親は……
「PEを作ったのはお父さんか?」
「そこまで見えたか京介君、やはりヲルの武器記憶保存技術は成功したのか……」
ヲルという言葉に体が過剰に反応した。そういえば白い空間でもそこ名前を聞いた。
「そうだ!ヲルだ!お父さんはソイツを……作った?」
「あぁ、私は『音目京治』君の天才的な姿を隣で見てきたからね」
「お父さんは、PEをいくつ作った?記憶だけじゃわからない」
「……一つだ。β世界における管理システムのほぼ全ての権利を有するいわゆる神、その体は生身の人を依り代としない完全独立体、生き物と同等、世界の目それがPE.NO.O0:ヲルだ」
ヲル、聞いたことがある。あの黒い少女だ。
「PEっていくつかあるだろ?あんただって」
「京治君の構想としては10個のPEを考えていた。O0から始まり……覚えていないが、最後が京介君のD9だ。O0以外のPEはO0のヲルが作った。私はそれをもらっただけだ」
「……ライヴを作ったのは?」
「ヲルだ。まぁどうして京介君がすでに所有者のいるD9を持っているのかは不明だがね」
すでに所有者が?記憶を探してみる。見えたのは黒い少女から色の付いた何かを配られている風景だ。D9をもらったのは赤い服を着た体の大きな白髪のおじさんだ。剣のような得物は無く腰に二丁のリボルバーが刺さっている。この芸風はツルギさんに近い。
「名前は知ってるか?」
「さてどうだったかな、もうかなり昔のことだ。曖昧な記憶を授けてすまないな」
「キョウスケ、何か知っているか?」
「いいえ、該当するデータは存在しません」
「そうか……それと、記憶ありがとう。でもなんで……?」
カミセは溜まった血を横に吐いて続けた。
「これは私欲だ。本当に申し訳ないと思っている。いいか?おそらくこれから私の死を観測したヲルがここに来る。防衛に努めているゴールドグリップよりも強いやつを引き連れて来る。君一人では勝てない。その時私はヲルに殺されるだろう」
「どうしてだ!仲間なんじゃ……」
「フフフ……京介君に記憶をあげたからに決まっているだろう」
その笑い方に躊躇はない。それなら最初から僕にあげなければよかったのにと言おうとした。
「私はね……β世界を、この愛する者の為に作った世界を……託したい。君になら託せる!」
握られた手に最後の力が入る。冷たくなっていくそれは次第に固くなる。
「もう疲れた。もう……ラクになってもいいかな?妻に会いたいなぁ」
「……なんで僕なんだ?」
「キリカ君さ。彼女をみて一発で思ったよ。京介君にならこの世界の行く末がどうであれ、正解にしてくれるとね。さぁ頼んだよ。魅力的と言ってくれた。敵陣営の同胞よ……」
加速度的に意識がなくなっていくカミセの手をただ握っていた。
「自分で自動治癒魔術を切断しました」
「……そっか」
カミセから受け取った記憶、人を愛する意思。非道徳と言われても失うことを恐れた似た者同士。年齢も過ごした時間は共有できなくても、僕とカミセはつながった。
「もらったよ、ちゃんと」
僕は目を閉じたキリカを抱えて崖まで歩いた。途中振り返ると既にカミセの姿は無かった。彼はルーイのように蘇生はされない。
多分彼はいつだってこの世界を終わらせたかったのだろう。
託された理由はそう。
「楽園に至れ」
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