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98.楽園に
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「バレてたのか?」
「嘘、それならもっと人が来る」
カミセと名乗った男は一歩ずつ歩いてくる。なんだあの余裕は、思わず一歩下がった。
顔がチリチリする、変な汗が出る、抜剣したまではいい。それからどうする?
「オトメ君、コッチ来るよ、どんな人なの?武器とか」
キリカが刀を抜いた。対策を立てようと言っているのだろう。
「PEだ」
「え……はは、き、強敵じゃない?」
口がひきつって笑っている。最大の脅威にして彼の「支配者」という台詞、無力化して情報を聞き出す。コッチは急いでるんだ。
「ええと魔術を無効化する。キリカの青の剣閃は通用するかはやってみないと分からない。それとあの剣、全ての防御を貫通するみたいだ。回避に徹した方がいいと思う」
剣まで斬られたらたまったもんじゃない。
「四肢でも斬れば充分以上、五分で片をつけよう」
「了解、オトメ君」
カミセはまだ剣を抜かない。
「君がD9だな、初めましてかな音目京介君」
酷く呼びなれたように僕の名前を呼んだ。不思議な違和感を胸に焼き付けるような台詞だった。
「初めまして、カミセさん」
「やはり君はそっちについたのか、倫理の連中も懲りないな。そうだな……訊いてみたい。君はどうして戦うんだい?」
「そ、それは、この世界を破壊して、この不自然を終わらせると────」
「それは君の意識か?」
違う、全てが違うわけじゃないけど。
「京介君だって知っているはずだ、この世界の死人の行く末、再生を」
「知ってます……」
「ならば、何故記憶のない無垢な君が!仮想的に死を超越した世界を破壊するなどと言うのか!」
古い記憶に触れるような言葉と声だった。不意に剣先が下がる。
「何故だ?」
ECFに記憶を戻してやると言われ、入隊した。キリカが僕の代わりに入ると言ったからというのもあるが、詐欺的であっても、あまり後悔なんてしていない。
「京介君、君の人生は彼らに壊されたと思わないか?記憶を奪われ……ECFに入ったのも、何か脅されたのではないか?」
「ま、まぁ間違ってはいないと思うけど」
カミセはキリカに目を向けた。隣の彼女は今にも斬りかかりそうだった。
「君はどうなのだね?初めましてキリカ君でいいかな」
「初めまして、カミセさん」
「そう怖い顔するな、で、君はどうしてECFに?」
「オトメ君が死なないように」
「ハハハ!これは!そうかそうか……いや笑ってすまない。京介君はいい友達をもったな、仲間と言うべきか」
こんな状況で笑っている男に嫌悪感をもった。顎に力がかかる。このふざけた野郎に一太刀入れたい。
「いきなりの提案なのだが……」
自分が分からなくなってきた。剣を握る理由も覚悟も過去も、記録という人生の記憶も信用出来なくなってきた。
「京介君も管理者にならないか?」
「は?え────えぇ」
冗談だ。
天を仰ぐのはこういう時だ。きっと疲れて頭がオーバーヒートしているのだろう。少し深呼吸でもすれば治る。
すぅーはー。
「で?提案って?」
「君も……」
「うるせぇ!そんな魅力的な提案受けるわけにいくか!黙りやがれ!」
場を静かにしてしまったようだ。
あれ?キリカさんが目を大きくしてこちらを見つめているよ。カミセさんは笑いを堪えている。
「僕は何か変なことを言ったか?」
「これは!いま君は『魅力的』と言ったな。ほうほう京介君はそう感じたか……ふむ、ならば何故この話に乗らないのか?」
僕は無意識に管理者になることを魅力的だと?それは裏を返してECFと敵対するってことじゃないか!そんなとこ出来ない。
本当に問題なのはどうして良いと思ったかなのだが、それは簡単にカミセが回答した。
「やはり君はこの死のない世界を愛しているのではないか?」
「それは……」
「キリカ君も、君も見れば小さいころからここで育っているようだが、世界破壊が成されれば君はどうなるか……考えたことはあるのかな?」
「……あるよ」
キリカはすぐに答えた。僕と違って目に迷いが感じられない。
「さっきも似たようなこと言ったけど、私はオトメ君が死ななければいい。それならオトメ君の最後の任務が世界破壊でも何でも構わない。きっとこれは貴方には分からないでしょうね」
「……分からないだと?」
カミセの微笑みの表情は消え、眼光が鋭くなる。
「愛する者の為、全てが敵になるというのならば、喜んで受け入れようと、そんな気持ち、とうの昔に知っているわ!」
ポツリと呟いたのをキョウスケが聞き取った。
「私に似ているよ」
答えたは得ている。本当は大切な人が死ぬのは辛いことだ。呪いのように体を取り巻く怪物だ。それを超えた世界ならば素晴らしいことだ。
「京介!お前はどうだ!愛する者が簡単に死ぬ世界と永遠の楽園と────」
「僕は──!」
完璧な悪役でも構わない。
「僕は僕を必要としてくれる人達のための剣になる!」
「……それは本心からの言葉か?」
「はっ、提案が魅力的なのは変わらないさ、でも、下には仲間がいる。今提案を受けたら、生後数ヶ月の僕の人生に壮絶な裏切りをしたと刻まれるのがイヤなだけだ」
「そうか、やはりリセットが必要なようだ。君は彼らと長く過ごしすぎだ」
下ろした剣を上げる。彼が僕を欲しがるのはPEを所有しているからだろうか。それもこれも、一発ぶち込んでからだ。
「来い、音目京介!管理者カミセが相手をしてやろう。無力を知るがいい!」
「望むところだ、仲間は最強なんだよ!」
魔術無効、リーンフォースを使用した攻撃も無効化されるかもしれない。
「補足、彼の魔術無効は身体強化の類、武器に魔力を流さない限り有効だと……」
「了解、キリカ、武器に魔力を流すな、身体強化なら大丈夫らしい」
「分かった」
「ほう、君のPEは優秀だな」
キリカが踏み出した。
不意打ちの青の剣閃、細くレンジを伸ばした突き攻撃だ。忠告を無視したのではない。カミセの油断を誘ったのだと思う。キリカが信じてないようには見えない。
「何?」
カミセは剣閃を腕で防いた気でいた。たがキリカが斬り裂いたのは鎧ではなくカミセの頬だった。薄皮が切れて血がふわりと顎まで伝った。
「あと数コンマあれば首を飛ばせた……と思う」
「なるほど、鎧ではなく直接攻撃か、やるな」
僕もキリカの技術に驚いているとキョウスケがカミセの腕について教えてくれた。
「傷が着いていません。仕組みは不明です。徹底的に魔力を弾いているように見えます」
弾丸なら通るかもしれない。ここぞというタイミングで使うべきた。ここはカミセの能力を測るといこう。時間もかなり使ってしまった。だが相手が管理者ならばツルギさんも許してくれるだろう。
「デッドエンド・リーンフォース」
力が溢れる。クールタイムを意識しないと。連続使用が出来ないわけではないが、相当負担が大きい。
「ビヨンドに効いた一撃だ、あんたの鎧で防げるか」
「聞いたことの無い技だ」
「エンドスナイパー!」
踏み出し一突き、カミセの心臓を狙った。バフに不動がある。簡単には防げないはずだ。
「チッ」
「速いな」
機械仕掛けの剣が瞬時にエンドスナイパーを防いだ。両手剣に匹敵するそれは接触してからビクともしない。
「コンボ技『ロウ・クレセントブレイク』」
「こい」
出来るだけ早く切り替えて放った三連撃、彼には攻撃予測が見えていないはず、だが綺麗にいなされた。
「攻撃力はある。だが届かないなら意味はない。それにしても……なるほどその剣か。私の剣は防御しただけでも相手の武器を使い物にならなくするのだが」
「へぇ、神格を守る武器だそうだぜ!」
懲りずにナイフ投擲、接近して連続攻撃。的確にクレセントブレイクを使うことを考える。
「まだまだ速く!」
「……ライラの剣だな」
久しぶりに聞いたライラ先生の名前、どうしてこの男が知っているのか。
まずい、気を抜いてしまった。
「ノロイぞ」
背後から柄で打撃を打ち込まれた。
CP-20
痛て。
「あんた今、ライラ先生のこと……」
「オトメ君!」
キリカがカミセの背後から斬り掛かるが剣を背中に回して防いだ。その上から更に力を込める。タイミングを見計らって青の剣閃を発動、回転してカミセに斬り込むが鎧に当たった時点で弾き返される。
「外した……」
「剣を狙ったまでは良かった、そんなことよりも、ライラの剣だな、何故君が持っている?」
「貰った」
「気まぐれなやつだ」
「あんたこそどうして……」
「古い知り合いだ」
つまりライラ先生は昔からライヴと関係があったということだ。
「丁寧に強化された守護の剣か……ふむ、君たちの旅も面白いな」
何とか立ち上がる。どうしてすぐとどめを刺さなかったのか。
「だが、君たちの旅はここで終わりだ。記憶を消去してやろう。そして、無垢な状態でまた会おう」
気張ってみたものの、勇気は尽く破壊された。
「……は、もしここで死んだら下の仲間が許してくれるかな」
「オトメ君?」
カミセの剣に魔力が集中する。光の刀身が何倍にも膨れ上がる。
「見ろよ、絶対破壊の一撃だ」
「オトメ君!どうしたの?諦めちゃだめだよ!」
「京介君の言う通りだ。この一撃をもって君たちの命を奪い、再生させる」
まずいな、何か案を考えないといけない。あらゆる防御を貫通するあの剣の攻略法、どこにある?
「……オトメ君、君は先に進まないといけない。でも前には強い敵がいる。私は君の助けになるなら何でもやろう」
隣でキリカが話してくれる。でも足が上がらない。畜生、こんな所で?
「だから、ここでまってて」
僕の前にキリカが立つ。青の剣閃を最大出力で展開する。
「あれは剣でしょ?なら斬れる」
「やめろキリカ、逃げよう」
キリカが呆れられたか、もうコイツは動かないと思われたか。キリカはあの神剣をみて怖くないのか。
「ここで逃げたら?私たちより強い人がこの人を殺してくれるとおもう?下の人達の……命を無駄には出来ない!」
イデアルで見た以来の魔力濃度だ。それでもあの剣には届くか分からない。
「諦めが早くて私は助かったぞ京介君、君にECFの最終兵器は似合わんね」
キョウスケが合図した。だがその提案には乗れなかった。多分僕がPE持ちで、あの神剣の威力が分かるからこうも怖気付いているのかもしれない。
「さらばだ若き二人よ。仮想世界最大の攻撃にして再生の一撃だ『螺旋終末剣・仮想消去』」
「来い!青の剣閃!」
カミセは周囲の平坦な地面に沿うように全方位の回転斬りを放つ。キリカはそれに合わせるように受け止めた。
「うっ……まだ……まだだぁあ!」
キリカの青の剣閃は徐々に破壊されていく。刃を継ぎ足すように魔力を注ぎ込む。
「ふむ。S5のヒエンの力か、魔力の再生速度が異常だ」
カミセも出力を上げる。神剣の方が何枚も上手であるように、キリカの剣を切り裂いていく。
「これが貫通攻撃か……」
「オトメ君、動けるなら!逃げて、貴方だけでも!この光の中なら目くらましくらいにはなるっ!」
「でも逃げたら、下の人達もキリカも……」
「君が生きていればそれでいいの」
カミセの剣を受け止めつつ、キリカは必死な顔で振り向いた。
「君はね、生きているだけで偉いの、PEとか関係なくてね。だから生きろ!!私は限界だぁ!」
あと少しでキリカの刀が折れる。死ぬのは───。
「まだ……折れない!」
「キョウスケェ!力を貸してくれ!」
「了解」
瞳孔が赤く染まって、体はPEに支配される。エフェクトシールドをもってキリカの肩に手を載せる。
「ありがとう、もう大丈夫だよ」
魔力を流し込んで魔法リフレクトを展開する。キョウスケの提案は僕がこのリフレクトで攻撃を防ぐことだった。
「オトメ君!死んじゃ……」
「消えろぉ!」
剣から熱を感じる。腕が吹き飛びそうだ。僕はそれを全て解放する。カミセのスキルを完膚無きまで相殺し切った。同量の魔力をぶつけたのだ、当然だ。
「……なるほど、貫通攻撃は固有スキルの発動は阻害しない。自爆覚悟の相殺か」
「ベッ……あ」
迅雷に匹敵するかそれ以上の攻撃を跳ね返し、体に直撃した。
痛いという問題ではない。体は腹部から両断され、更にリフレクトの反動で右腕もない。
「キリカ……いきて……いた」
「オトメ君!死んじゃ嫌だ!」
吹き飛んだ僕の体へキリカが駆けつけてくれる。弔いの声かな?意識が遠いぜ。何という提案だよキョウスケ。
ダメだ、意識が持たない、さようなら。
キリカの声も聞こえなくなってきた。
「外部から接続、PE.NO.Q3からの通信です」
「嘘、それならもっと人が来る」
カミセと名乗った男は一歩ずつ歩いてくる。なんだあの余裕は、思わず一歩下がった。
顔がチリチリする、変な汗が出る、抜剣したまではいい。それからどうする?
「オトメ君、コッチ来るよ、どんな人なの?武器とか」
キリカが刀を抜いた。対策を立てようと言っているのだろう。
「PEだ」
「え……はは、き、強敵じゃない?」
口がひきつって笑っている。最大の脅威にして彼の「支配者」という台詞、無力化して情報を聞き出す。コッチは急いでるんだ。
「ええと魔術を無効化する。キリカの青の剣閃は通用するかはやってみないと分からない。それとあの剣、全ての防御を貫通するみたいだ。回避に徹した方がいいと思う」
剣まで斬られたらたまったもんじゃない。
「四肢でも斬れば充分以上、五分で片をつけよう」
「了解、オトメ君」
カミセはまだ剣を抜かない。
「君がD9だな、初めましてかな音目京介君」
酷く呼びなれたように僕の名前を呼んだ。不思議な違和感を胸に焼き付けるような台詞だった。
「初めまして、カミセさん」
「やはり君はそっちについたのか、倫理の連中も懲りないな。そうだな……訊いてみたい。君はどうして戦うんだい?」
「そ、それは、この世界を破壊して、この不自然を終わらせると────」
「それは君の意識か?」
違う、全てが違うわけじゃないけど。
「京介君だって知っているはずだ、この世界の死人の行く末、再生を」
「知ってます……」
「ならば、何故記憶のない無垢な君が!仮想的に死を超越した世界を破壊するなどと言うのか!」
古い記憶に触れるような言葉と声だった。不意に剣先が下がる。
「何故だ?」
ECFに記憶を戻してやると言われ、入隊した。キリカが僕の代わりに入ると言ったからというのもあるが、詐欺的であっても、あまり後悔なんてしていない。
「京介君、君の人生は彼らに壊されたと思わないか?記憶を奪われ……ECFに入ったのも、何か脅されたのではないか?」
「ま、まぁ間違ってはいないと思うけど」
カミセはキリカに目を向けた。隣の彼女は今にも斬りかかりそうだった。
「君はどうなのだね?初めましてキリカ君でいいかな」
「初めまして、カミセさん」
「そう怖い顔するな、で、君はどうしてECFに?」
「オトメ君が死なないように」
「ハハハ!これは!そうかそうか……いや笑ってすまない。京介君はいい友達をもったな、仲間と言うべきか」
こんな状況で笑っている男に嫌悪感をもった。顎に力がかかる。このふざけた野郎に一太刀入れたい。
「いきなりの提案なのだが……」
自分が分からなくなってきた。剣を握る理由も覚悟も過去も、記録という人生の記憶も信用出来なくなってきた。
「京介君も管理者にならないか?」
「は?え────えぇ」
冗談だ。
天を仰ぐのはこういう時だ。きっと疲れて頭がオーバーヒートしているのだろう。少し深呼吸でもすれば治る。
すぅーはー。
「で?提案って?」
「君も……」
「うるせぇ!そんな魅力的な提案受けるわけにいくか!黙りやがれ!」
場を静かにしてしまったようだ。
あれ?キリカさんが目を大きくしてこちらを見つめているよ。カミセさんは笑いを堪えている。
「僕は何か変なことを言ったか?」
「これは!いま君は『魅力的』と言ったな。ほうほう京介君はそう感じたか……ふむ、ならば何故この話に乗らないのか?」
僕は無意識に管理者になることを魅力的だと?それは裏を返してECFと敵対するってことじゃないか!そんなとこ出来ない。
本当に問題なのはどうして良いと思ったかなのだが、それは簡単にカミセが回答した。
「やはり君はこの死のない世界を愛しているのではないか?」
「それは……」
「キリカ君も、君も見れば小さいころからここで育っているようだが、世界破壊が成されれば君はどうなるか……考えたことはあるのかな?」
「……あるよ」
キリカはすぐに答えた。僕と違って目に迷いが感じられない。
「さっきも似たようなこと言ったけど、私はオトメ君が死ななければいい。それならオトメ君の最後の任務が世界破壊でも何でも構わない。きっとこれは貴方には分からないでしょうね」
「……分からないだと?」
カミセの微笑みの表情は消え、眼光が鋭くなる。
「愛する者の為、全てが敵になるというのならば、喜んで受け入れようと、そんな気持ち、とうの昔に知っているわ!」
ポツリと呟いたのをキョウスケが聞き取った。
「私に似ているよ」
答えたは得ている。本当は大切な人が死ぬのは辛いことだ。呪いのように体を取り巻く怪物だ。それを超えた世界ならば素晴らしいことだ。
「京介!お前はどうだ!愛する者が簡単に死ぬ世界と永遠の楽園と────」
「僕は──!」
完璧な悪役でも構わない。
「僕は僕を必要としてくれる人達のための剣になる!」
「……それは本心からの言葉か?」
「はっ、提案が魅力的なのは変わらないさ、でも、下には仲間がいる。今提案を受けたら、生後数ヶ月の僕の人生に壮絶な裏切りをしたと刻まれるのがイヤなだけだ」
「そうか、やはりリセットが必要なようだ。君は彼らと長く過ごしすぎだ」
下ろした剣を上げる。彼が僕を欲しがるのはPEを所有しているからだろうか。それもこれも、一発ぶち込んでからだ。
「来い、音目京介!管理者カミセが相手をしてやろう。無力を知るがいい!」
「望むところだ、仲間は最強なんだよ!」
魔術無効、リーンフォースを使用した攻撃も無効化されるかもしれない。
「補足、彼の魔術無効は身体強化の類、武器に魔力を流さない限り有効だと……」
「了解、キリカ、武器に魔力を流すな、身体強化なら大丈夫らしい」
「分かった」
「ほう、君のPEは優秀だな」
キリカが踏み出した。
不意打ちの青の剣閃、細くレンジを伸ばした突き攻撃だ。忠告を無視したのではない。カミセの油断を誘ったのだと思う。キリカが信じてないようには見えない。
「何?」
カミセは剣閃を腕で防いた気でいた。たがキリカが斬り裂いたのは鎧ではなくカミセの頬だった。薄皮が切れて血がふわりと顎まで伝った。
「あと数コンマあれば首を飛ばせた……と思う」
「なるほど、鎧ではなく直接攻撃か、やるな」
僕もキリカの技術に驚いているとキョウスケがカミセの腕について教えてくれた。
「傷が着いていません。仕組みは不明です。徹底的に魔力を弾いているように見えます」
弾丸なら通るかもしれない。ここぞというタイミングで使うべきた。ここはカミセの能力を測るといこう。時間もかなり使ってしまった。だが相手が管理者ならばツルギさんも許してくれるだろう。
「デッドエンド・リーンフォース」
力が溢れる。クールタイムを意識しないと。連続使用が出来ないわけではないが、相当負担が大きい。
「ビヨンドに効いた一撃だ、あんたの鎧で防げるか」
「聞いたことの無い技だ」
「エンドスナイパー!」
踏み出し一突き、カミセの心臓を狙った。バフに不動がある。簡単には防げないはずだ。
「チッ」
「速いな」
機械仕掛けの剣が瞬時にエンドスナイパーを防いだ。両手剣に匹敵するそれは接触してからビクともしない。
「コンボ技『ロウ・クレセントブレイク』」
「こい」
出来るだけ早く切り替えて放った三連撃、彼には攻撃予測が見えていないはず、だが綺麗にいなされた。
「攻撃力はある。だが届かないなら意味はない。それにしても……なるほどその剣か。私の剣は防御しただけでも相手の武器を使い物にならなくするのだが」
「へぇ、神格を守る武器だそうだぜ!」
懲りずにナイフ投擲、接近して連続攻撃。的確にクレセントブレイクを使うことを考える。
「まだまだ速く!」
「……ライラの剣だな」
久しぶりに聞いたライラ先生の名前、どうしてこの男が知っているのか。
まずい、気を抜いてしまった。
「ノロイぞ」
背後から柄で打撃を打ち込まれた。
CP-20
痛て。
「あんた今、ライラ先生のこと……」
「オトメ君!」
キリカがカミセの背後から斬り掛かるが剣を背中に回して防いだ。その上から更に力を込める。タイミングを見計らって青の剣閃を発動、回転してカミセに斬り込むが鎧に当たった時点で弾き返される。
「外した……」
「剣を狙ったまでは良かった、そんなことよりも、ライラの剣だな、何故君が持っている?」
「貰った」
「気まぐれなやつだ」
「あんたこそどうして……」
「古い知り合いだ」
つまりライラ先生は昔からライヴと関係があったということだ。
「丁寧に強化された守護の剣か……ふむ、君たちの旅も面白いな」
何とか立ち上がる。どうしてすぐとどめを刺さなかったのか。
「だが、君たちの旅はここで終わりだ。記憶を消去してやろう。そして、無垢な状態でまた会おう」
気張ってみたものの、勇気は尽く破壊された。
「……は、もしここで死んだら下の仲間が許してくれるかな」
「オトメ君?」
カミセの剣に魔力が集中する。光の刀身が何倍にも膨れ上がる。
「見ろよ、絶対破壊の一撃だ」
「オトメ君!どうしたの?諦めちゃだめだよ!」
「京介君の言う通りだ。この一撃をもって君たちの命を奪い、再生させる」
まずいな、何か案を考えないといけない。あらゆる防御を貫通するあの剣の攻略法、どこにある?
「……オトメ君、君は先に進まないといけない。でも前には強い敵がいる。私は君の助けになるなら何でもやろう」
隣でキリカが話してくれる。でも足が上がらない。畜生、こんな所で?
「だから、ここでまってて」
僕の前にキリカが立つ。青の剣閃を最大出力で展開する。
「あれは剣でしょ?なら斬れる」
「やめろキリカ、逃げよう」
キリカが呆れられたか、もうコイツは動かないと思われたか。キリカはあの神剣をみて怖くないのか。
「ここで逃げたら?私たちより強い人がこの人を殺してくれるとおもう?下の人達の……命を無駄には出来ない!」
イデアルで見た以来の魔力濃度だ。それでもあの剣には届くか分からない。
「諦めが早くて私は助かったぞ京介君、君にECFの最終兵器は似合わんね」
キョウスケが合図した。だがその提案には乗れなかった。多分僕がPE持ちで、あの神剣の威力が分かるからこうも怖気付いているのかもしれない。
「さらばだ若き二人よ。仮想世界最大の攻撃にして再生の一撃だ『螺旋終末剣・仮想消去』」
「来い!青の剣閃!」
カミセは周囲の平坦な地面に沿うように全方位の回転斬りを放つ。キリカはそれに合わせるように受け止めた。
「うっ……まだ……まだだぁあ!」
キリカの青の剣閃は徐々に破壊されていく。刃を継ぎ足すように魔力を注ぎ込む。
「ふむ。S5のヒエンの力か、魔力の再生速度が異常だ」
カミセも出力を上げる。神剣の方が何枚も上手であるように、キリカの剣を切り裂いていく。
「これが貫通攻撃か……」
「オトメ君、動けるなら!逃げて、貴方だけでも!この光の中なら目くらましくらいにはなるっ!」
「でも逃げたら、下の人達もキリカも……」
「君が生きていればそれでいいの」
カミセの剣を受け止めつつ、キリカは必死な顔で振り向いた。
「君はね、生きているだけで偉いの、PEとか関係なくてね。だから生きろ!!私は限界だぁ!」
あと少しでキリカの刀が折れる。死ぬのは───。
「まだ……折れない!」
「キョウスケェ!力を貸してくれ!」
「了解」
瞳孔が赤く染まって、体はPEに支配される。エフェクトシールドをもってキリカの肩に手を載せる。
「ありがとう、もう大丈夫だよ」
魔力を流し込んで魔法リフレクトを展開する。キョウスケの提案は僕がこのリフレクトで攻撃を防ぐことだった。
「オトメ君!死んじゃ……」
「消えろぉ!」
剣から熱を感じる。腕が吹き飛びそうだ。僕はそれを全て解放する。カミセのスキルを完膚無きまで相殺し切った。同量の魔力をぶつけたのだ、当然だ。
「……なるほど、貫通攻撃は固有スキルの発動は阻害しない。自爆覚悟の相殺か」
「ベッ……あ」
迅雷に匹敵するかそれ以上の攻撃を跳ね返し、体に直撃した。
痛いという問題ではない。体は腹部から両断され、更にリフレクトの反動で右腕もない。
「キリカ……いきて……いた」
「オトメ君!死んじゃ嫌だ!」
吹き飛んだ僕の体へキリカが駆けつけてくれる。弔いの声かな?意識が遠いぜ。何という提案だよキョウスケ。
ダメだ、意識が持たない、さようなら。
キリカの声も聞こえなくなってきた。
「外部から接続、PE.NO.Q3からの通信です」
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これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
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