95 / 121
90.60階
しおりを挟む
この巨大ビルは想定で60階あるとキョウスケが言った。300メートルを超えて、何メートルかは分からないが、あの壁の上が見えるなら何でもいい。今登っているのだが、40階に差し掛かり先はあと少し。でも疲れた。
「セツナ、休憩しないか?」
「何言うかと思ったら、疲れたと。そんな重い格好するから」
「軍人さんはもっと重い荷物持って山道歩いたりするんだぜ、それも何日も」
「へー、私軍人じゃないし関係ないね」
「まぁ僕も軍人とは程遠いと思うよ。こんな目を持っただけ、身体能力は皆に劣るってのにね……大丈夫だもう少し進もう。でも50階にはいったら、耳をどうにかしたい。休憩しよう」
「そうね」
気圧の変化を少し感じた。耳抜きと称して休憩を勝ち取った。
僕の先を進むのはセツナ、先の戦闘でナイフが一本ボロボロになってしまった。意図的に僕がやったことではあるが、少し申し訳ない。
戦って感じたことは、ツルギさんのように二刀流に秀でていること。僕なんかよりも愁と絶叫を上手く扱うだろう。なんなら、刀の二刀流だって。
「上に行ってどうするの?」
「まぁ黙って着いてきてもらってるけど、そろそろちゃんと説明しないとか?」
「基本、このタワーに人は来ない。PEの神に会う以外」
「そうだな、PEがいるのなら、聞きたいことがある。同族として」
「相手にしてもらえるかしらねぇ?」
「その時は黙って屋上に上がらせて貰うよ」
口が裂けても情報収集とマッピングなんて言えなかった。いいや、同族に会いたいのは本当だ。神と崇められる程の人に会いたい。話してみたい。
「それしても、このビル、広すぎだ、どこかに武器とか作っていそうな施設がありそうだ」
「それはないと思う……いや、どうかな。ライヴと結託してる噂もあるし。あの向こうから来る人達の武器……」
「その口ぶりは、ライヴが壁の向こうから来てるみたいじゃないか」
「多分そうだと思う」
「多分?」
「確率が高いというか、そうとしか考えられないというか、皆そう言うし」
この人、常々「皆」という言葉を使う。まぁもちろん自我あるでしょうけど。
新しい情報だ。壁の先からライヴは来る。でもこれはECFで予想されていたことでもある。
「機械仕掛けの街……僕から見るとそうなんだよね。でも、この街に住んでいる人びとはそんなこと思わない。僕が住んでいた街を見たら中世って言うのかな」
「オトメの地元?」
「中世って言葉は最近思い出したというか、イメージが蘇ったというか、そんな感じなんだけど。そう、地元。ミルザンドっていう」
52
「オトメは、覚えているの?その────自分の昔のこと」
「突然どうした」
突然だったから僕も動揺した。セツナに自分のことを訊かれるとは思っていなかった。僕も「一時的」な関係として深入りを遠慮していたから。当たり障りのないことは訊いたけど。
「いやややや、その……そのー、親とか、子供の頃の事とか」
「妙な訊き方だな。うん、覚えていない。セツナには言うけど、僕は奪われた、奪われて、それを返してもらうんだ。僕の記憶は多分18歳くらいから始まってる。誕生日は分からないからもう19になったかもしれない」
セツナの質問は、多分こうだ「私には昔の記憶が無い。お前はどうなんだ?」本質はこれに違いない。彼女もまた自分が何者なのか、どこが起源なのか知らないのだろう。
「ふーん、そう」
「僕の知り合いも、僕が何か言うとセツナみたいな反応をするんだ。適当にあしらわれたというか、流されたというか」
「……」
黙ってしまった。心がわかりません。
「これ貸すよ」
背中からイノセントを取り出してセツナに向けて差し出す。えと言わんばかりの表情で振り向いて、要らないと言いつつ押したら受け取ってもらえた。ナイフと併せたら二刀流が出来る。僕はセツナの可能性をもっと見てみたかった。
「オトメ、気づいていますか?」
「(何を?)」
次のキョウスケの言葉を聞いて、セツナにどんな感情を抱いていいか分からなくなった。でもそれは一般常識の範疇だったから、僕が自由にセツナのことを考えるなら面白いと、興味深いと思う。
僕はセツナの肩に手を乗せて言った。
「別に人と違うことは悪い事じゃないから、僕の知り合いにもいるし」
「な、なにするの!呼び捨てまで我慢したんだから止めてよ!もぉビックリした……」
「あと少しだ。僕も剣を一本持っていないと体が軽い、先急ごう」
「……はいはい」
ーーーーーー
60
踊り場を次いで階段を登る。それだけの簡単な肉体負荷だから時間かからずに60階に来た。PE持ちを探すのに手間はかからなかった。階段を登ってすぐに扉があって、近づくと勝手に開いた。ECFのノアオルタにも自動ドアがあったから慣れている。
広く広い、広すぎる部屋、ベッド、テーブルとイス、開放的なガラス窓。そして黄色の女性がイスに座っている。背中が見える。髪は長くて床まで伸びている、長すぎです。暖かそうな厚手の服を着ている、振り向いてもらおう。
「お邪魔してます」
「間違ってないけど」
「お邪魔します?」
「いいよ別に」
僕らが適当に会話していると、女性が椅子から立ち上がって僕らの方へ歩いてきてくれた。その間に上への階段を探した。あれ?無い?扉の前に階段はあったか?いやなかったぞ!畜生来た意味がない。
「お客様?呼んだ覚えないけれど……ん?監視カメラでは……今度音をもっと正確に拾ってもらうように作り直してもらおうかしら」
監視カメラ?ああそうか、僕がセツナにPE持ちであることを集音出来なかったからか。根暗さんはずっとここで僕らの監視をしていたわけだ。
「私はパララミローの所有者、市長?県庁?大統領?王様?そんなところ。名前はシズク、NO.E6、一人で管理するのは結構簡単だわ。あなたは?」
『シズク』Yellow
相対レベル:40(回避補正:40)
・武器:なし
・防具:暖かいコート?
・NO.E6:personal eyes!
他スキャンを実行出来ません。
目鼻立ちが整っておられます。神と言われれば神と認める。あとは羽がほしい。見たところ25歳ほどで身長も170センチくらいあると思う、これがPE持ち、並の身体能力ならばかなり強い。
PE使いだと、攻撃予測が見えない。そこがもっとも僕にとって不都合な問題だ。
「僕は倫理委員会ECFのオトメ、多分NO.D9だと思う。皆がそう言うから」
セツナの言葉を借りてしまった。
「D9か、彼らも大変ね。それと残念私はあなたと戦うつもりはないの。戦いは好きではないししたくない。まぁ他所でやっているなら好きにして」
「えっとシズクさん?僕はですね、お願いがあってここまで来たんです。屋上を……」
「戦いはしたくない、だから……」
影が横切った。街の街灯に照らされた巨大な何か。ガラス窓から見えたのだ。浮遊物、心当たりはない。
「彼らが戦ってくれるわ。ごめんなさい、住民のためなの、死んで」
窓が電撃を帯びたと思うと消滅、そこから風と共に飛び入る巨大な何か。初めはモンスターの類かと思ったが、その光沢あるボディと金属感、動きから人が操作しているロボットだと理解した。
「抜剣しろセツナ」
「言われなくても」
ロボットの全貌が見える。
シズクの長い髪が揺れている、彼女はあの風圧を立っていれるのか、なんて体幹だ。
「ごめんなさい本当に。ライヴから言われている。いやもっと言えば管理者達から。ここにもしも、もしもPE持ちのNO.D9が来ることがあれば全力をもって排除して欲しいと。だからそこのお嬢さんは見逃してあげる」
「チッ、使える手は使うってことか」
「ライヴがいなければ私たちは生きていけない、残るのは私だけになってしまう。E6だからしょうがないの、理解して」
『理解して=死んで』
「黙れ……いやすみません、あなたはライヴと関係あるんですよね?それなら……僕はあなたを殺さなくてはならない!だから……PEだとしても、関係ないっていってください!そうしたら僕はあなたを斬らなくて済む!」
慢心で言っているのではない。シズクの市民を思う言葉と表情を見て度し難い人ではないと思ったから剣を向けたくないと思っただけだ。
「私はそのライヴとの関係にこだわりはありません。好きに解釈して」
ロボットが動き始めた。モンスターにはない緊張感が伝わる、何だこれは。
「制止時、縦約10メートル、横約6メートル、間違いありません、有人歩行戦術機の類です」
人型、最上階にギリギリ入る大きさ、黒い謎の金属が全体を覆っている。人が乗っているのは胸の辺りだろう、そこだけ少し張っているように大きい。全体的に細く、無骨さよりも曲折のなだらかさ、ウェーブが美しい。まるで美術品だ。駆動音も静かでこんなもの誰が作れる?
「戦術機?」
「分かるのあなた?私の趣味ではないけれど、一機だけ作れと言われたから……名前はビヨンド、もう人が自身のレベルを上げなくても操作の腕があれば楽に強敵を倒せる時代が来たの」
足が震えた。こんな人型の化け物に刃が通るのか?ここは逃げるしかない、相手の情報を出来るだけ盗んで皆に伝えるんだ。皆ライヴに勘づかれないように通信を躊躇っていたが、もう遅い、僕がバレた。容赦しない。
「ふふふふ……ふー。セツナ、数秒だけ戦う。あとは僕に任せろ。危険を感じたら僕を無視して逃げてもいい。セツナは見逃してくれるみたいだし」
「……舐めないでよ、あんな木偶の坊」
「お前には木偶に見えるのか!?」
「見えるわけないでしょ!意地張ったの!分からないの!?ここは『そうだよな!』くらい言ってよマヌケ」
何かが僕を見た。
ニヤリ
搭乗者は誰だ、ライヴの人間か。
唸る音がした後、前からビヨンドとかいう機械が動く、速い。あの図体からしてこの速さは反則級だ。
背中、二の腕、ふくらはぎ、足の裏、その部分から熱を感じる、目視で炎を確認、魔炎に違いない。俗に言うブースターだ。
「他にもブースターが確認出来ます。すね、胸にもあります」
「後にも行けるか……速く逃げる……左だ!」
僕らの左に見えたビヨンドは右手に装備された巨大なアサルトライフルを発射する。
大口径であの発射レート、まともに食らえば即死だ。
セツナは狙わない、それにかけるしかない。
僕はセツナを階段側に突き飛ばして、ビヨンドの方へ走った。攻撃予測なら見える。かなり弾が散るが大きく機体を中心に周り込めば問題ない。
「ビヨンド、相対レベルを予測……オーバー85」
「でしょうね……え!」
接近に成功、エフェクトシールドで足に一太刀入れたのだが、硬い装甲で弾かれてしまった。傷一つ入っていない。すぐに後退した。
「問題は強力な攻撃よりも防御力にあります。ただの金属装甲ではありません。先のオトメの攻撃によりスキャンを行ったところ、黒魔石が含まれているところまで分かりました。他26パーセントが既知の金属に対して残りの物質が不明です。分かるのは魔力をよく通す……くらいです」
「スキャンありがとう」
硬すぎる。イノセントを用いた兜割りでも大したダメージを与えられるとは思えない、やはりここは引くしか。
今度は左手の銃を使う気だ。あれは……ショットガンだ。あの大きさで放たれると……予想は的中し、攻撃予測範囲が僕の体をすっぽり二人分覆った。フックショットを床に打ち込んで巻き取り、高速で移動してそれを回避する。爆弾が弾けた音が響いた。死ぬかと思った。耳が痛む、足音が聞こえない。
「何、あれ」
セツナは呟いて膝から落ちた。戦意喪失気味だった。それでも足が震えていても少しずつ動こうとしている。僕にも見えた。いいから逃げてほしい。
「キョウスケ、スキャンに集中して、10秒くらいしたらセツナをつれてここから飛び降りる」
「了解しました……接近する場合、腰のブレードを抜くかもしれません、お気をつけて」
キョウスケの攻撃予測処理が甘くなる、僕も自身の力で避けなければ。
「銃撃、両手から来ます」
「うおぉ!」
少なくともショットガンは避ける。アサルトライフルは気合いで。
同時発射開始。初手のショットガンを回避、自分が居た床はズタボロに破壊された。次の発射まで二秒程。それまでに接近する。アサルトライフルはまるでカエデの対物ライフルを連射されているよう。不規則な動きで避ける。ここまで狭い屋内でよかった。あのロボット、正確な射撃は出来ないだろう。
「え?」
「残念D9、ビヨンドはそのライフルで2キロ先も当てられるほど性能がいいの。近距離戦闘、不運だったわね」
シズクの台詞を聞きながら「不運」を聞いたとき、僕の左腕はライフル弾にちぎられた。高速の塊が熱エネルギーで焼き切るように僕の腕を通り抜けた。ぶち切られた腕は肘から先、数十メートル飛んだようだ。
「嘘だ……」
ダメだ、ここで止まってはいけない。キョウスケに言われる前にそう思った。
痛みを噛み殺せ。
「死んでたまるかぁ!」
「D9?」
腕が千切れたのに、体から湧き上がる力を感じる。僕はそれをそのままあのデカい機械にぶつける。
『スキル覚醒:デットエンド・リーンフォース』
「くたばれ鉄クズ!」
剣に眩い光を感じる。
突進からの突き攻撃、剣先が装甲を破った気がした。
間髪入れずに回転左切り下げ、右斜め切り上げ、左水平斬り攻撃を放った。
効いている、切断に至らなくともよろめく程のダメージが入っている。薄皮を剥ぐ程度しか装甲に傷はない。
「なぜなの……なぜ新たなスキルが覚醒する?しかもそれは……」
シズクは目を開き両腕でうずくまった。そこまでのことなのか?
いや、人力であの金属の塊を傷をつけたのだ。我ながら凄いと思う。
「スキル覚醒、名称『デットエンド・リーンフォース』」
・使用MP:40%。
・種類、身体強化。
・効果、痛覚遮断LV.2、上限魔力及び体力の増加、攻撃力強化Lv.7、移動速度強化LV.5、効果時間中に固有スキル使用可能
ステータスの下にアイコンが表示され、効果時間があと4分57秒だと分かった。恐らく5分が最大だろう。クールタイムは10分。
『固有スキル:エンドスナイパー』
・使用MP:6%、使用CP12%。
・単発突進攻撃、瞬間状態付加:不動。
・コンボ:ロウ・クレセントブレイク、任意三連撃。
『固有スキル:クレセントブレイク』
・使用MP:10%、使用CP3%
・任意四連撃、瞬間状態付加:システム攻撃強化Lv.3。
接近したことによりビヨンドがこちらを攻撃するまで少しラグがある。それまでにセツナを抱えて逃げる。情報は集まった。僕の剣技では討伐には至らない。
「キョウスケ!もういいだろ!」
「問題ありま……」
「クッ……ソ」
ビヨンドの足が動いた。危険を察知して後に引く。
ブースターによる回転攻撃だった、危ない。
「もうここには用ないよな、コレでも……」
皆もっているグレネード、皆大好きグレネード、ピンを抜いて投げる。同時にセツナの方に走り腰を抱えて窓へ急ぐ。
「うぐっ!……何を!」
「逃げる」
グレネードに気を取られたか、ビヨンドはそれを銃弾で破壊した。爆風が背中に刺さる。少し破片が刺さった。後を振り向く暇もなく外へ飛び出した。
グレネードの破片がシズクへ降りかかると魔力シールドがそれを防いだ。ビヨンドは煤を被り、破片で多少凹んだだけだった。
「うっ……」
浮遊感、セツナは慣れていないのか急だったからか、キャーと叫ぶよりも嗚咽のような悲鳴で僕にしがみついた。かなり力が強い。
落ちる落ちる!速い。ここは下から約360メートル。気圧も考慮して降りないと死ぬが今はどうでもいい。身体強化もあるし。
「最下まで約10秒、最短で約8秒です」
「りょ……了解」
キョウスケが自動で「ループアウト」を使用してくれるから安心。
「腕……置いて……きちゃった」
セツナは僕の腕のことを心配しているようだ。
「大丈夫」
落下中に色々喋れない。それよりも上からあのバケモノが追ってくるかが心配だ。
「キョウスケ」
「追ってはありません」
少し安心してループアウトで着地できた。MPが尽きそうだった、お昼が戻ってくるところだった。
「セツナ、休憩しないか?」
「何言うかと思ったら、疲れたと。そんな重い格好するから」
「軍人さんはもっと重い荷物持って山道歩いたりするんだぜ、それも何日も」
「へー、私軍人じゃないし関係ないね」
「まぁ僕も軍人とは程遠いと思うよ。こんな目を持っただけ、身体能力は皆に劣るってのにね……大丈夫だもう少し進もう。でも50階にはいったら、耳をどうにかしたい。休憩しよう」
「そうね」
気圧の変化を少し感じた。耳抜きと称して休憩を勝ち取った。
僕の先を進むのはセツナ、先の戦闘でナイフが一本ボロボロになってしまった。意図的に僕がやったことではあるが、少し申し訳ない。
戦って感じたことは、ツルギさんのように二刀流に秀でていること。僕なんかよりも愁と絶叫を上手く扱うだろう。なんなら、刀の二刀流だって。
「上に行ってどうするの?」
「まぁ黙って着いてきてもらってるけど、そろそろちゃんと説明しないとか?」
「基本、このタワーに人は来ない。PEの神に会う以外」
「そうだな、PEがいるのなら、聞きたいことがある。同族として」
「相手にしてもらえるかしらねぇ?」
「その時は黙って屋上に上がらせて貰うよ」
口が裂けても情報収集とマッピングなんて言えなかった。いいや、同族に会いたいのは本当だ。神と崇められる程の人に会いたい。話してみたい。
「それしても、このビル、広すぎだ、どこかに武器とか作っていそうな施設がありそうだ」
「それはないと思う……いや、どうかな。ライヴと結託してる噂もあるし。あの向こうから来る人達の武器……」
「その口ぶりは、ライヴが壁の向こうから来てるみたいじゃないか」
「多分そうだと思う」
「多分?」
「確率が高いというか、そうとしか考えられないというか、皆そう言うし」
この人、常々「皆」という言葉を使う。まぁもちろん自我あるでしょうけど。
新しい情報だ。壁の先からライヴは来る。でもこれはECFで予想されていたことでもある。
「機械仕掛けの街……僕から見るとそうなんだよね。でも、この街に住んでいる人びとはそんなこと思わない。僕が住んでいた街を見たら中世って言うのかな」
「オトメの地元?」
「中世って言葉は最近思い出したというか、イメージが蘇ったというか、そんな感じなんだけど。そう、地元。ミルザンドっていう」
52
「オトメは、覚えているの?その────自分の昔のこと」
「突然どうした」
突然だったから僕も動揺した。セツナに自分のことを訊かれるとは思っていなかった。僕も「一時的」な関係として深入りを遠慮していたから。当たり障りのないことは訊いたけど。
「いやややや、その……そのー、親とか、子供の頃の事とか」
「妙な訊き方だな。うん、覚えていない。セツナには言うけど、僕は奪われた、奪われて、それを返してもらうんだ。僕の記憶は多分18歳くらいから始まってる。誕生日は分からないからもう19になったかもしれない」
セツナの質問は、多分こうだ「私には昔の記憶が無い。お前はどうなんだ?」本質はこれに違いない。彼女もまた自分が何者なのか、どこが起源なのか知らないのだろう。
「ふーん、そう」
「僕の知り合いも、僕が何か言うとセツナみたいな反応をするんだ。適当にあしらわれたというか、流されたというか」
「……」
黙ってしまった。心がわかりません。
「これ貸すよ」
背中からイノセントを取り出してセツナに向けて差し出す。えと言わんばかりの表情で振り向いて、要らないと言いつつ押したら受け取ってもらえた。ナイフと併せたら二刀流が出来る。僕はセツナの可能性をもっと見てみたかった。
「オトメ、気づいていますか?」
「(何を?)」
次のキョウスケの言葉を聞いて、セツナにどんな感情を抱いていいか分からなくなった。でもそれは一般常識の範疇だったから、僕が自由にセツナのことを考えるなら面白いと、興味深いと思う。
僕はセツナの肩に手を乗せて言った。
「別に人と違うことは悪い事じゃないから、僕の知り合いにもいるし」
「な、なにするの!呼び捨てまで我慢したんだから止めてよ!もぉビックリした……」
「あと少しだ。僕も剣を一本持っていないと体が軽い、先急ごう」
「……はいはい」
ーーーーーー
60
踊り場を次いで階段を登る。それだけの簡単な肉体負荷だから時間かからずに60階に来た。PE持ちを探すのに手間はかからなかった。階段を登ってすぐに扉があって、近づくと勝手に開いた。ECFのノアオルタにも自動ドアがあったから慣れている。
広く広い、広すぎる部屋、ベッド、テーブルとイス、開放的なガラス窓。そして黄色の女性がイスに座っている。背中が見える。髪は長くて床まで伸びている、長すぎです。暖かそうな厚手の服を着ている、振り向いてもらおう。
「お邪魔してます」
「間違ってないけど」
「お邪魔します?」
「いいよ別に」
僕らが適当に会話していると、女性が椅子から立ち上がって僕らの方へ歩いてきてくれた。その間に上への階段を探した。あれ?無い?扉の前に階段はあったか?いやなかったぞ!畜生来た意味がない。
「お客様?呼んだ覚えないけれど……ん?監視カメラでは……今度音をもっと正確に拾ってもらうように作り直してもらおうかしら」
監視カメラ?ああそうか、僕がセツナにPE持ちであることを集音出来なかったからか。根暗さんはずっとここで僕らの監視をしていたわけだ。
「私はパララミローの所有者、市長?県庁?大統領?王様?そんなところ。名前はシズク、NO.E6、一人で管理するのは結構簡単だわ。あなたは?」
『シズク』Yellow
相対レベル:40(回避補正:40)
・武器:なし
・防具:暖かいコート?
・NO.E6:personal eyes!
他スキャンを実行出来ません。
目鼻立ちが整っておられます。神と言われれば神と認める。あとは羽がほしい。見たところ25歳ほどで身長も170センチくらいあると思う、これがPE持ち、並の身体能力ならばかなり強い。
PE使いだと、攻撃予測が見えない。そこがもっとも僕にとって不都合な問題だ。
「僕は倫理委員会ECFのオトメ、多分NO.D9だと思う。皆がそう言うから」
セツナの言葉を借りてしまった。
「D9か、彼らも大変ね。それと残念私はあなたと戦うつもりはないの。戦いは好きではないししたくない。まぁ他所でやっているなら好きにして」
「えっとシズクさん?僕はですね、お願いがあってここまで来たんです。屋上を……」
「戦いはしたくない、だから……」
影が横切った。街の街灯に照らされた巨大な何か。ガラス窓から見えたのだ。浮遊物、心当たりはない。
「彼らが戦ってくれるわ。ごめんなさい、住民のためなの、死んで」
窓が電撃を帯びたと思うと消滅、そこから風と共に飛び入る巨大な何か。初めはモンスターの類かと思ったが、その光沢あるボディと金属感、動きから人が操作しているロボットだと理解した。
「抜剣しろセツナ」
「言われなくても」
ロボットの全貌が見える。
シズクの長い髪が揺れている、彼女はあの風圧を立っていれるのか、なんて体幹だ。
「ごめんなさい本当に。ライヴから言われている。いやもっと言えば管理者達から。ここにもしも、もしもPE持ちのNO.D9が来ることがあれば全力をもって排除して欲しいと。だからそこのお嬢さんは見逃してあげる」
「チッ、使える手は使うってことか」
「ライヴがいなければ私たちは生きていけない、残るのは私だけになってしまう。E6だからしょうがないの、理解して」
『理解して=死んで』
「黙れ……いやすみません、あなたはライヴと関係あるんですよね?それなら……僕はあなたを殺さなくてはならない!だから……PEだとしても、関係ないっていってください!そうしたら僕はあなたを斬らなくて済む!」
慢心で言っているのではない。シズクの市民を思う言葉と表情を見て度し難い人ではないと思ったから剣を向けたくないと思っただけだ。
「私はそのライヴとの関係にこだわりはありません。好きに解釈して」
ロボットが動き始めた。モンスターにはない緊張感が伝わる、何だこれは。
「制止時、縦約10メートル、横約6メートル、間違いありません、有人歩行戦術機の類です」
人型、最上階にギリギリ入る大きさ、黒い謎の金属が全体を覆っている。人が乗っているのは胸の辺りだろう、そこだけ少し張っているように大きい。全体的に細く、無骨さよりも曲折のなだらかさ、ウェーブが美しい。まるで美術品だ。駆動音も静かでこんなもの誰が作れる?
「戦術機?」
「分かるのあなた?私の趣味ではないけれど、一機だけ作れと言われたから……名前はビヨンド、もう人が自身のレベルを上げなくても操作の腕があれば楽に強敵を倒せる時代が来たの」
足が震えた。こんな人型の化け物に刃が通るのか?ここは逃げるしかない、相手の情報を出来るだけ盗んで皆に伝えるんだ。皆ライヴに勘づかれないように通信を躊躇っていたが、もう遅い、僕がバレた。容赦しない。
「ふふふふ……ふー。セツナ、数秒だけ戦う。あとは僕に任せろ。危険を感じたら僕を無視して逃げてもいい。セツナは見逃してくれるみたいだし」
「……舐めないでよ、あんな木偶の坊」
「お前には木偶に見えるのか!?」
「見えるわけないでしょ!意地張ったの!分からないの!?ここは『そうだよな!』くらい言ってよマヌケ」
何かが僕を見た。
ニヤリ
搭乗者は誰だ、ライヴの人間か。
唸る音がした後、前からビヨンドとかいう機械が動く、速い。あの図体からしてこの速さは反則級だ。
背中、二の腕、ふくらはぎ、足の裏、その部分から熱を感じる、目視で炎を確認、魔炎に違いない。俗に言うブースターだ。
「他にもブースターが確認出来ます。すね、胸にもあります」
「後にも行けるか……速く逃げる……左だ!」
僕らの左に見えたビヨンドは右手に装備された巨大なアサルトライフルを発射する。
大口径であの発射レート、まともに食らえば即死だ。
セツナは狙わない、それにかけるしかない。
僕はセツナを階段側に突き飛ばして、ビヨンドの方へ走った。攻撃予測なら見える。かなり弾が散るが大きく機体を中心に周り込めば問題ない。
「ビヨンド、相対レベルを予測……オーバー85」
「でしょうね……え!」
接近に成功、エフェクトシールドで足に一太刀入れたのだが、硬い装甲で弾かれてしまった。傷一つ入っていない。すぐに後退した。
「問題は強力な攻撃よりも防御力にあります。ただの金属装甲ではありません。先のオトメの攻撃によりスキャンを行ったところ、黒魔石が含まれているところまで分かりました。他26パーセントが既知の金属に対して残りの物質が不明です。分かるのは魔力をよく通す……くらいです」
「スキャンありがとう」
硬すぎる。イノセントを用いた兜割りでも大したダメージを与えられるとは思えない、やはりここは引くしか。
今度は左手の銃を使う気だ。あれは……ショットガンだ。あの大きさで放たれると……予想は的中し、攻撃予測範囲が僕の体をすっぽり二人分覆った。フックショットを床に打ち込んで巻き取り、高速で移動してそれを回避する。爆弾が弾けた音が響いた。死ぬかと思った。耳が痛む、足音が聞こえない。
「何、あれ」
セツナは呟いて膝から落ちた。戦意喪失気味だった。それでも足が震えていても少しずつ動こうとしている。僕にも見えた。いいから逃げてほしい。
「キョウスケ、スキャンに集中して、10秒くらいしたらセツナをつれてここから飛び降りる」
「了解しました……接近する場合、腰のブレードを抜くかもしれません、お気をつけて」
キョウスケの攻撃予測処理が甘くなる、僕も自身の力で避けなければ。
「銃撃、両手から来ます」
「うおぉ!」
少なくともショットガンは避ける。アサルトライフルは気合いで。
同時発射開始。初手のショットガンを回避、自分が居た床はズタボロに破壊された。次の発射まで二秒程。それまでに接近する。アサルトライフルはまるでカエデの対物ライフルを連射されているよう。不規則な動きで避ける。ここまで狭い屋内でよかった。あのロボット、正確な射撃は出来ないだろう。
「え?」
「残念D9、ビヨンドはそのライフルで2キロ先も当てられるほど性能がいいの。近距離戦闘、不運だったわね」
シズクの台詞を聞きながら「不運」を聞いたとき、僕の左腕はライフル弾にちぎられた。高速の塊が熱エネルギーで焼き切るように僕の腕を通り抜けた。ぶち切られた腕は肘から先、数十メートル飛んだようだ。
「嘘だ……」
ダメだ、ここで止まってはいけない。キョウスケに言われる前にそう思った。
痛みを噛み殺せ。
「死んでたまるかぁ!」
「D9?」
腕が千切れたのに、体から湧き上がる力を感じる。僕はそれをそのままあのデカい機械にぶつける。
『スキル覚醒:デットエンド・リーンフォース』
「くたばれ鉄クズ!」
剣に眩い光を感じる。
突進からの突き攻撃、剣先が装甲を破った気がした。
間髪入れずに回転左切り下げ、右斜め切り上げ、左水平斬り攻撃を放った。
効いている、切断に至らなくともよろめく程のダメージが入っている。薄皮を剥ぐ程度しか装甲に傷はない。
「なぜなの……なぜ新たなスキルが覚醒する?しかもそれは……」
シズクは目を開き両腕でうずくまった。そこまでのことなのか?
いや、人力であの金属の塊を傷をつけたのだ。我ながら凄いと思う。
「スキル覚醒、名称『デットエンド・リーンフォース』」
・使用MP:40%。
・種類、身体強化。
・効果、痛覚遮断LV.2、上限魔力及び体力の増加、攻撃力強化Lv.7、移動速度強化LV.5、効果時間中に固有スキル使用可能
ステータスの下にアイコンが表示され、効果時間があと4分57秒だと分かった。恐らく5分が最大だろう。クールタイムは10分。
『固有スキル:エンドスナイパー』
・使用MP:6%、使用CP12%。
・単発突進攻撃、瞬間状態付加:不動。
・コンボ:ロウ・クレセントブレイク、任意三連撃。
『固有スキル:クレセントブレイク』
・使用MP:10%、使用CP3%
・任意四連撃、瞬間状態付加:システム攻撃強化Lv.3。
接近したことによりビヨンドがこちらを攻撃するまで少しラグがある。それまでにセツナを抱えて逃げる。情報は集まった。僕の剣技では討伐には至らない。
「キョウスケ!もういいだろ!」
「問題ありま……」
「クッ……ソ」
ビヨンドの足が動いた。危険を察知して後に引く。
ブースターによる回転攻撃だった、危ない。
「もうここには用ないよな、コレでも……」
皆もっているグレネード、皆大好きグレネード、ピンを抜いて投げる。同時にセツナの方に走り腰を抱えて窓へ急ぐ。
「うぐっ!……何を!」
「逃げる」
グレネードに気を取られたか、ビヨンドはそれを銃弾で破壊した。爆風が背中に刺さる。少し破片が刺さった。後を振り向く暇もなく外へ飛び出した。
グレネードの破片がシズクへ降りかかると魔力シールドがそれを防いだ。ビヨンドは煤を被り、破片で多少凹んだだけだった。
「うっ……」
浮遊感、セツナは慣れていないのか急だったからか、キャーと叫ぶよりも嗚咽のような悲鳴で僕にしがみついた。かなり力が強い。
落ちる落ちる!速い。ここは下から約360メートル。気圧も考慮して降りないと死ぬが今はどうでもいい。身体強化もあるし。
「最下まで約10秒、最短で約8秒です」
「りょ……了解」
キョウスケが自動で「ループアウト」を使用してくれるから安心。
「腕……置いて……きちゃった」
セツナは僕の腕のことを心配しているようだ。
「大丈夫」
落下中に色々喋れない。それよりも上からあのバケモノが追ってくるかが心配だ。
「キョウスケ」
「追ってはありません」
少し安心してループアウトで着地できた。MPが尽きそうだった、お昼が戻ってくるところだった。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
タイムワープ艦隊2024
山本 双六
SF
太平洋を横断する日本機動部隊。この日本があるのは、大東亜(太平洋)戦争に勝利したことである。そんな日本が勝った理由は、ある機動部隊が来たことであるらしい。人呼んで「神の機動部隊」である。
この世界では、太平洋戦争で日本が勝った世界戦で書いています。(毎回、太平洋戦争系が日本ばかり勝っ世界線ですいません)逆ファイナルカウントダウンと考えてもらえればいいかと思います。只今、続編も同時並行で書いています!お楽しみに!

30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる