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音音てすぃ

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88.セツナ

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「セツナ、セツナ、眠いの?」
「え!?いや……」

 街の路地で少女の背中をつついたのは小さな幼児、二人は親方率いる暗殺集団の一員。
 今は街の偵察、目的は昨日の剣士を見つけること。

「任務遂行中のジェリーとマックスを殺した剣士……」
「必ず殺さなきゃね」
「うん……」
「じゃ私行くから、あまりボーっとしないでね」
「うん、そっちも」

 少女の名前はセツナ、生まれの記憶はない。思い出せない。思い出せる一番古い記憶はこの街にいたこと。服はボロボロで食べるものもろくになかったからすぐに死ぬと思った。それでも希望は降ってくることがある。アサシンのスイレンに拾ってもらったのだ。
 覚えている「生きたければ奪え。今日から俺らは仲間だ」それがスイレンが私に言った言葉。私が強くなるまで見守って訓練してくれた。この集団は名前がないけれど、私にとってはかけがえのないものだ。

「あの剣士は私が首を取る!」


ーーーーーー


 第二陣が来てからECFの行動は慎重になった。まず勇者ユイトなどいう存在が問題だった。ライヴ側でもなければこちら側でもない。世界平和のために両方を駆逐する狂人だ。接触は避けるように通達された。

「もうすぐ日が落ちるな」

 屋根の上から見る景色は素晴らしかった。

「山に囲まれたパララミローでは日の出が遅く日没が速いです」
「へぇ」

 黒い街はオレンジ色へと染まって、やがて沈んだ。夜の街、むしろ昼間より明るいのではないだろうか。

「次の目的地は?」
「見えますでしょうあそこのビルです」
「……あぁ見える」

 ビルは山ほどあるが、突出して大きいのがあのビルだ。高く、そして城ほどの敷地面積を使うあのビル、何メートルあるんだ?もしかしたら楽園への壁よりも高いかもしれない。おとぎ話の巨大樹が存在するならあのビルのようなものだろう。

「キョウスケ、あの最上階からなら壁の上が見える……かな?」
「おそらく」
「なら、すぐに行こう、地図埋めラストスパートだ」

 不味い空気を吸いすぎたか、気分が悪くなってきた。

ーーーーーー


 初めは何のビルか検討もつかなかったが、今20階まで登って疑問に思うことは、ほとんど人が居ないことだ。警備を突破するのに問題が無さすぎたし、何よりも無人で何を作っているんだ?

「疲れた……あれは、何の機械だ?」
「家電製品ですね、車の製造ラインも存在します」
「どうしてここに集中しているんだ?それも無人で……」

 働いているのは機械のアームや、所々に見られる自律型ロボット。人が居ないとはどういうことだ。

 無視して階段に登ることにした。

「生命反応」
「……(ついに人間登場か)」

 僕は足音をできるだけ消して階段を登る。地図上に生命反応の予測位置が表示されている。そこを目視で確認する。

「何もないじゃないか」
「……会敵します」

 キョウスケの言葉の後に目の前数メートル先で人間が現れた。ステルスではない、完全に気配を消していたのだ。
 紫色の髪をした少女だった。
 鼓動がして体が一度強ばる。
 持っているのは短剣、一歩で飛びついてくる。僕はそれをエフェクトシールドで防いだ。速く回避が間に合わない。
 コートが脱げる、それほどの威力がある。
 擦れるように音をたてて少女はさらに追い討ちをかける。勝機を逃すわけにはいかない。そんな気迫を感じる。

「覚悟しろ」
「ライヴか!?」

 僕は攻撃の隙を狙って腕を掴み、捻り、床に叩きつける……つもりが、バネのように衝撃を足で受け止め、態勢を立て直し、数メートル距離をとった。

「クッソ……失敗した」
「誰だ?ライヴか?」
「……答える義理がない」
「もっともで」

『セツナ』Enemy?
相対レベル:-5(回避補正:-30)
・武器:アサシンナイフ×2(刃渡り30センチ)
・防具:アサシンの服(対切断Lv.2,移動速度UPLv3)
・アクセサリー:黒魔石の髪飾り(魔よけ)
他スキャンを実行していません。

 ミディアムヘア、よく見ると青紫の髪色、身長は僕より小さいと思う。幼い目をしている、15歳くらいか。
 気になる戦闘能力だが、不意の叩きつけを回避できる、身体能力はずば抜けて高いだろう。そう、倫理委員よりも。

「アサシン……?」
「うっ、どうしてそれを」

 見抜いたことに驚きを隠せないとは、暗殺者として失格ではないだろうか。それよりもアサシンナイフ×2とは、もう一本あるのか?彼女は一本しか持っていないが。
 右利き、ナイフは右に持っている。もう一本に警戒しつつ無力化と突破を試みるとする。ユイトとの戦闘経験から、こういう連中は話し合いよりも力だ。

「あの剣士ではないようね、剣が違う。あなた誰?何しにここに来たの?」

 僕は苦笑いで皮肉を込めて言った。

「答える義理はなーい」
「うっ……たしかにそうね、義理はない」

 お互い黙り込んでしまった。まずいぞこのままではお互い動かない、こちらから動く。

「答えよう、僕はこのほぼ無人ビルを登ってあの壁の上を見るのが目的だ」
「それにしては完全武装じゃない。武器持ちすぎ、重くないの?」

 言われてみると結構重いかも。

「……ビルに登って、見る?冗談」
「冗談?どこが?無人、警備ロボもいないんだ余裕だと思うけど、あんたみたいな人がいなければね」
「知らないの?」

 少女の顔が恐ろしさと残念そうな顔で僕を見た。上に強い警備でもいるのか?

「この上にはこの都市の神、PE所有者がいる、常識でしよう?」

 PEだと?作戦の本分ではないが強力な存在に違いはない。しかもこんなバカ大きいビルにいるようなやつだ。頭のおかしい人間に違いない。それに少女の表情からするに楯突くのは禁忌に近いことなのだろう。

「さて、僕はそんな常識ないよ」
「そう」

 あれあっさりしてるね。どうしたの?

「どのみち私の姿を見ておいて生かすわけないでしょ、最低限のマナーとしてあなたにはここで死んでもらう。常識のないあなたへ教えてあげる。ここには監視カメラはあれど上で神が見ているだけ、何もしない。警備ロボットなんて宛にしてない。なぜなら神の力は強大すぎて皆逆らおうとしないから。オーケー?あなたが愚か者なの」

 ニコッと刃先を向けて喉を使って可愛く言った。畜生、年頃の男にはクルね!

「へー、ならなんであんたはこんな危なっかしいところで僕みたいな人間を待っていたんだ?」
「……それは」

 心を突かれたような感覚だったのか、刃先がグラついて視線を下へ逸らした。

「殺すからいいか……私はある男を殺すためにここで待っていた。彼ならここに必ずくるから」
「僕みたいなやつかな?」
「違うと思う、あなたみたいな甘い男ではないと思う」
「あ、甘い!?」

 思わずコケそうになった。殺意むき出しの相手に手を抜くことはしていないつもりなのだが。

「甘いよ、砂糖に蜂蜜、ホイップクリームにチョコレートくらい甘いかな」
「変な例え、蜂蜜?こんな都市でも取れるのか?」
「知らない、甘くて美味しいお薬でしょ。初見で銃を使わず、ナイフを使わずして私を制した、殺すつもりが底から感じないって言ったの」

 あらら、僕はそんな甘ヌルイ男だったか。

「じゃあさようなら」
「……来いよ」

 警備がないなら、存分にやってやる。

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