仮想世界β!!

音音てすぃ

文字の大きさ
上 下
89 / 121

84.鳥を囲む

しおりを挟む
 時刻は午後2時、僕らは徒歩で数十分歩くと、すぐにそれを見つけた。

「私が首を落とす!」

 現れた巨鳥に機械仕掛けの槍を振り下ろすのは、我らが神槍、カリンである。
 カリンのアサルト・ヘヴンは高純度の黒魔石で作られた2メートルの槍、黒魔石は魔力を通すことにより増幅効果が得られるらしい。
 機械に電気を流す感覚で槍を変形させる、カリンは「黒魔石は魔力によるプログラミングができる」と言っていた。
 かなり貴重な物質故に、あの槍はECFでもトップの人間しか持てないだろう。

「外したか……ッ!」

 すぐに槍に魔力を流す、槍は赤い光を放ち始め、刃が炎とは似て非なるものに包まれ拡張された。
 青の剣閃に似ている。
 それを巨鳥に放つが、PEなんじゃないかってくらいに素早く避ける。

「なにやってるカリン、射線に入るな!」

 彼はサイケン、アサルトライフルを構えている。
 万能の化身と言われるように、剣と銃も魔術も卒なくこなす、その力はもちろんどれをとっても素晴らしい。
 ツルギ隊長に憧れをもつ。

「カリンずるい、ボクもやる!」
「俺にも任せろって感じじゃい!」

 ガラスとカワセミ、仲の良さは兄弟のよう。
 ガラスは内に強大な魔力を秘めるがそれゆえに暴走しやすく、名前に封印をかけられている。
 今はある程度制御できるようだ、魔術に期待したい。
 カワセミは白兵戦において、相手がPEでない限り、負けることはほとんどない程に成長した。
 天性の回避センスと速さの才能がある。
 そして、あまり頭は良くないようだ。

「二人とも避けられてるね」
「……(射撃の時黙っちゃう)」

 100メートル離れた所からスナイピングするのはカエデとミセット。
 ミセットは回復魔術に長けるアリエさんの弟子的存在。
 そして状況判断に才能があり銃が上手い。
 カエデはタクティカルストレージという特殊なストレージをもつ戦闘のプロ。
 アンチマテリエルスナイパーライフルを扱い、2キロ先を当てる。

「コイツなんで銃弾避けるの!」

 白兵戦をしているのはもう1人、シロカミのキリカ。
 ECFの黒い刀ではなく、自前の白い刀を使い、お得意のスキルで何でも断ち切る。
 銃は下手くそと、ツルギ隊長に言われた。
 逸材である。

「……(え?)」

 一歩引いて状況を見ているのが僕、オトメだ。
 イノセントという白い片手剣を握ったまま突っ立ているが、僕が介入するスキが少しもない。本当にない。
 キョウスケというPEの相棒がいるが、その上で何も出来ない、いや、しないほうが上手くいくと結論。
 思えば僕の武器多すぎ、片手剣二本、ナイフ18本、短剣二本、ハンドガン、フックショット、アサルトライフル、日常生活で使える程度の魔術。
 これを使ってどこまで出来る?

「オトメ君、そっち行ったよ!」
「え」

 気づくのが遅れたが、PEのおかげで巨鳥の嘴を回避できた。
 頬を掠めたのは空気だったが、当たっていると思うと怖い、平気で腹に風穴空くぞ。

「キョウスケ、どう思う」
「速いのなら、動きを封じるのがいいと。それと、どんなに回避上手でも必ず止まる瞬間があります」
「……よし」

 巨鳥は戦闘する気満々に感じる、怒ってるだろうな。
 一応僕はPEだ、多分一人で勝てる……はず。
 その上で、PEなのに、今回のパーティ戦に致命的向いていない、ここは頑張って上手く仲間と連携を。

「ミセット、カエデは鳥が逃げないようにけん制射撃、足も破壊出来れば上等。ガラスは魔術を使うな、肉が食えなくなるかもしれない、刀で応戦。カワセミもだ。サイケンとカリンは最後の仕上げがある。最高の一撃のために少し休んで。キリカ」
「……?」
「キリカは二人の攻撃が外れたらそこに頼む」
「う、うん」

 サイケンは少し茶化すように怒る。

「おいおい、俺が外すとでも?」
「次は当てるからなオトメ!」

 僕は苦笑で返してキリカに旨を伝えた。

「アイツは回避こそ速いが連続回避が少し遅い、僕が動きを鈍くするから、そこに……」
「分かった」

 返事が速く、僕もすぐに準備する。

 ガラスとカワセミが奮闘している外でサイケンとカリンが武器を構えている。
 僕は『愁と絶叫』を装備して魔糸を作る。
 キョウスケ頼む、一撃だけ。

「了解しました」

 僕の意識が少し乗っ取られ、投げた短剣は翼に刺さった。
 羽が厚いだろう肉には達していないが、そこに固定できた。
 羽が硬すぎる。

 僕の仕事は終わった。
 後は頼む。

「ガラス、カワセミ、交代!」
「おう!」
「了解!」

 二人が一歩引くと、ジャストタイミングでサイケンとカリンが渾身の一撃を放った。
 真っ赤に光った魔導槍の一閃、ヒット後追撃ダメージの期待できる『抜刀術:桜花』、サイケンの抜刀術とカリンの高速突き、どちらも素晴らしい攻撃だが、巨鳥はそれすらも回避……だが、そこにこそ真打を持ってきた。

「何!はずし……」
「私の高速……」
「今だ、キリカ!」
「……ッ落とす!」

 キリカの抜刀術は数メートル離れた所から抜かれた。
 手に握られた刀からは青の剣閃が伸びて視界に納めた頃には巨鳥の首が落とされていた。

「やったな」
「ちぇー、美味しいところもってかれちゃった」

 カリンは拗ねて槍を折りたたんだ(え、折りたためるの?)。

 連携としてはかなりよかったと思う。やっぱり僕は何かして黙ってるのが一番だ。正直動く鳥に腕が持っていかれると思った。兜割り・天よりはマシだった。
 僕たちは巨鳥を回収するための荷車を手配し、本部に持ち帰ると、シェフキリカさんとエイル、食堂の皆さんに調理してもらった。

 夕食は豪華なものになった気がした。
 ギンジさんは悔しそうだったが、ツルギさんは「美味い」と言っていたし、よかった。

「ねぇねぇオトメ君」
「ん……何なに!」

 食堂で騒がしいどさくさに紛れてカリンが僕の隣にいた。
 近いよ。

「話は色々聞いてるよ!キリカといい感じなんね!」
「は?そりゃずっと一緒に戦ってきたし、戦闘の癖とか分かるけど」
「ほー、で?」
「で、とは?」
「……はぁキョウスケさん、この人ダメですか」
「そうです、ダメです。かなり」
「おいキョウスケ!」

 カリンがなぜキョウスケのことを知っている!というかキョウスケも勝手に人の聴覚使うな。

「まぁいいよ、あのキリカが楽しそうだからね。いいかいオトメ君、これは一応の人生の先輩として言うよ。キリカはね、君ありきなんだ。だからキリカ自身を守るのはあの剣術かもしれないけど、最後は君だからね」
「……わかりました」
「よろしー、じゃあたらふく食べようぜ」
「分かったよカリン」
「何いまの、サイケンの真似?」
「当たりです、敬語は使わないのが流儀です、僕らの」
「ははは、他所では考えられない話だよな」
「まったく。意味あるのかな」

 僕がナイフを握るとキリカが僕を呼んでいた。

「おーい、オトメ君」
「なんだぁ?」
「ホレ行ってきな」
「……ああ」

「私は死んでもキリカは守る覚悟があるよ、君は……どうなんだい?」

ーーーーーー


 話ているとホールに到着した、既に大勢が集まっていた。

「じゃここで」
「うん、また」

 僕らはいつもの場所に着いて待機、すぐにナオヒト本部長が前置きの後に話を始めた。

「……先日のプリズン戦の後、調査隊の報告により、ECFの最大目標である管理者達……つまりはその戦闘部隊ライヴの居場所、敵本部が分かった!!」

 鼓動が聞こえた気がした。

 決戦はすぐそこにいるようだった。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

タイムワープ艦隊2024

山本 双六
SF
太平洋を横断する日本機動部隊。この日本があるのは、大東亜(太平洋)戦争に勝利したことである。そんな日本が勝った理由は、ある機動部隊が来たことであるらしい。人呼んで「神の機動部隊」である。 この世界では、太平洋戦争で日本が勝った世界戦で書いています。(毎回、太平洋戦争系が日本ばかり勝っ世界線ですいません)逆ファイナルカウントダウンと考えてもらえればいいかと思います。只今、続編も同時並行で書いています!お楽しみに!

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

Re:Monster(リモンスター)――怪物転生鬼――

金斬 児狐
ファンタジー
 ある日、優秀だけど肝心な所が抜けている主人公は同僚と飲みに行った。酔っぱらった同僚を仕方無く家に運び、自分は飲みたらない酒を買い求めに行ったその帰り道、街灯の下に静かに佇む妹的存在兼ストーカーな少女と出逢い、そして、満月の夜に主人公は殺される事となった。どうしようもないバッド・エンドだ。  しかしこの話はそこから始まりを告げる。殺された主人公がなんと、ゴブリンに転生してしまったのだ。普通ならパニックになる所だろうがしかし切り替えが非常に早い主人公はそれでも生きていく事を決意。そして何故か持ち越してしまった能力と知識を駆使し、弱肉強食な世界で力強く生きていくのであった。  しかし彼はまだ知らない。全てはとある存在によって監視されているという事を……。  ◆ ◆ ◆  今回は召喚から転生モノに挑戦。普通とはちょっと違った物語を目指します。主人公の能力は基本チート性能ですが、前作程では無いと思われます。  あと日記帳風? で気楽に書かせてもらうので、説明不足な所も多々あるでしょうが納得して下さい。  不定期更新、更新遅進です。  話数は少ないですが、その割には文量が多いので暇なら読んでやって下さい。    ※ダイジェ禁止に伴いなろうでは本編を削除し、外伝を掲載しています。

処理中です...