仮想世界β!!

音音てすぃ

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81.無駄な気がした

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 きっとあの紫色の剣を受けるのは良くない。
 直感で感じるのはそれだ、それしかない。
 警戒を抱きつつ、ツルギは刀を鞘から抜く。

 白打、量産型の黒い刀だ。
 いつもの白の零蘭でなくともヒノキを殺るには十分な代物であることに間違いない。

「ネタばらしは、もう少し後だぁ!」

 ヒノキの動きが先程よりも精度を増して、ツルギに斬りかかる。
 刃で防ごうとした時、ツルギの目には紫色の周りの空気が奇妙に歪んでいるのが見えた。
 刀を交わらせることすら許さない気配がした。

「あぁ?」

 わざと体の重心をずらして、少ない動きで斬撃を回避できた。
 聞こえた音は虫の羽音とは違う五月蝿さを持った音だった、本当に避けて正解だった。

「おっと、流石」
「とんだ芸当だな、それと……」

見えたのは刀だけではない。
彼の目はオトメと似ていた、あれは。

「ヒノキ、どこでPEそれを手に入れた?」

 目を見開いたような気がした。

「やっぱり分かっちゃう?けどまだ教えない、教えたくない」

 基本的な運動性能はオトメを上回るPE使い、だが、紫色のPEを、ツルギは聞いた事がなかった。
 瞬間移動無しでPEの相手は難しい、攻撃予測を狂わすのが仕事みたいなとこあるからだ。
 だが、先のオトメには感謝しなければならない。

「俺の直感だか、それは万物の切断に似たスキルか?」

 青の剣閃に近い、だからツルギはそう推理した。

「へぇ……結構鋭いね、けど惜しい!」

 違うらしい。

「……」

 ツルギは鞘をヒノキへ投げた。
 時間がない、ここで一気に決める。

「話の途中だろ!」

 ヒノキは狂おしく嬉しそうに鞘を振り払おうとした。
 しかし、走り出していたツルギの方が早く鞘へ到達、左手で掴んだそれに刀を納め、ヒノキとの距離がほぼゼロになった。

「チィッ!」
「……まだガキだな」

 爆音が瞬間を駆けた、ヒノキの一閃と、ツルギの抜刀二撃。
 一振目はヒノキに刀を切断されてしまった、しかし、もう一撃でヒノキの右腕を切り落とした。
 出来事が刹那すぎたのか、ヒノキがそれに気づくのに時間がかかった。
 その間、ツルギは落ちた腕の刀を拾い上げ、ヒノキの左腕に一太刀入れた。

「いや、ズレたな」
「……いっでええ!!!」

 PEのくせにこんなものかと舐めた最後の一撃は肩からではなく肘から腕を落とす結果となった。


「まだ喋れるかヒノキ、お前を殺すのは俺じゃない、覚えておけ」
「畜生!俺はPEだぞ!よりによって……」

 なんだか先程よりも酷く苦しそうに、悔しそうに嘆く。
 うるさいと思いつつ、ツルギは光の消えた刀を、左側が少し残ったヒノキへ放り投げた。

「お前……なんだその傷は!」
「は、は、は?ツルギさんよ、いい所に目を付けたな」
「以外におしゃべりだな。腕を失っても口は動く、まるでオトメと一緒だな」
「……」

 気絶したか、もしヒノキがおふざけを一切無しに戦っていたら、俺も少しはダメージを受けたかもな。
 ヒノキの傷口は紫色の光が断面を覆っていた。
 これは一体なんだ?
 そういえばネタばらしをしなかった。

「お前にはまだようがある、ついてきて貰うぞ、こんな程度では死なないだろ、ほら……」
「てめぇは何のために剣を振るんだ?」

 朦朧としたヒノキから漏れた言葉だった、生命力の強いヤツめ。
 体を完全に支配しているのか?

「お前には関係ない」

 ツルギはヒノキの服から鍵と思わしきものをまさぐり、ヒノキの襟を掴み、塔へ向かった。

「……ふ」

 ヒノキが笑ったような気がした。
 寒気、背中に何かを感じる。
 ツルギはヒノキを離して塔の方向へ退避するように距離をとった。

「やっぱり凄いねあんた」

 ヒノキの微笑みの後、写真を撮ったように記憶に残る顔と共に橋は爆発で崩壊した。
 橋の下に爆弾が仕掛けられていたようだった、オトメは一度、堀に落ちたはずだ、何故見つけられなかった?
 これは後で説教だ。
 爆発後の噴水のように降り注ぐ雨のような水を浴びたまま、ヒノキの姿を確認出来なかったことが、心に何か黒いものを植え付けられたような気がした。

 どこかで音が響いた、キリカとオトメが上手くやったのだろうか?

 ツルギは納刀し、自身も塔を登っていった。



ーーーーーー



「オトメ君大丈夫?じゃないよね、いまからポーション出すから待ってて」
「ありがとう……」

 塔に潜入した後、人がほとんどいないことが分かり、一応物陰に隠れつつキリカが治療してくれた。

「こっちはすぐ駆けつけたつもりだったんだけど、どれくらい時間が経ってた?」
「一週間くらいじゃないか?(グビグヒ)」

ポーションを飲み干して少し楽になった。

「そういえばキリカはストレージが使えるのか?」
「使えるけど……そんなことよりもなんて?一週間!?やっぱり砂時計の仕業か」
「砂時計?」
「そう、前のイデアル覚えてるでしょ?あそこにも大きな砂時計か置いてあってね、外との時間の流れが変わる……はずの代物」
「なんだか報告書で読んだような気がする。確か僕が数時間に対して、キリカは一週間経ってたって感じだったような」
「そう、でも今は結界が破壊されたから、外との境界がないから意味ないけどね、おかげで外ではツルギ隊だけで大勢のプリズン兵とやり合うことになってる」
「そうか、こっちの方が早いからか、それとなんでキリカはペナルティを受けないんだ?ここでの魔力使用とSE使用はペナルティを受けるんだ」
「知らないよ、それより、塔の破壊」
「そうだな、僕もそろそろ歩けそうだ」

 僕はとりあえずと、キリカから散弾を撃てるリボルバーと弾丸を18発貰った。

「ごめんね、私大して武器ないんだよね」
「いいや、ありがとう、これで十分」

 僕らは塔を登る、前もこんなことがあった、カイナを助けに行った時もこんな感じだったような気がする。
 しかし、誰もいない。

「おかしい」
「おかしいな」

 あっさりと最上階にたどり着いた。
 ガラスから見える風景、そこには収容施設など様々広がっていて、多くの戦いが見物できた。
 やはり看守側が有利なようだ。

「オトメ君、これ」

 キリカが見つけたのは真っ赤に輝く球体、人の頭くらいの大きさでフワフワ浮いていた。
 巨大な魔力を感じる、おそらく僕の予想は正しい。

「なぁキョウスケ、この球体は」
「結界の本体です。破壊を推奨します」
「キリカ、この球体を破壊すれば結界を止められる」
「任せて」

 キリカの青の剣閃が細く、それを貫いた。
 輝きを失った球体はゴロゴロと音を立てて転がり、力無いように見えた。

「ストレージの使用が可能になったそうです、腕輪が外れます」

 キョウスケの声と一緒に重ったるしい腕輪が外れた。
 これでペナルティを受けることはもうないだろう。

 外の戦い、ツルギさんの戦いが気になるが、僕は僕とツルギさんの装備を取り返しに施設内を探し回った、キョウスケが信号をキャッチできるというので難なく見つかり、ツルギさんとも合流でき、壊れた橋はツルギさんの瞬間移動で渡った。
 腕輪が解放されたことによりキンジが外で大暴れしていた。
 日々の仕事で顔を合わせたことがなかったため、存在を認識出来たのは嬉しかった。
 プリズンの兵を迎え撃ったツルギ隊は全員無事らしい、ほとんどをミセットとカエデのスナイピングが制したらしい。
 カワセミは怪我したらしいが……何故だ。

ーーーーーー

 今回はほぼ完全にECFの勝利だっのだ。
 勝利は久しぶりで、気持ちがよく分からなかった。
 囚われていた人間の何割かはECFへ入隊を希望、審査はツルギさんが担当した。
 後は逃亡、まずECF以外のどういう誰が捕まるんだ?

 調査とツルギさんの審査の結果、あのプリズンはこの世界の警察、ガードの管理する刑務所らしい。
 そのうちのライヴが介入していた場所だと分かった。
 まて、僕って刑を言い渡されたこともないんだけど。
 ツルギさん的に言えば「俺らはヒノキのおもちゃ枠だった」らしい、たまったものではない。
 囚人達を逃がしたのは僕らECFの罪なのだろうか?

 いや、ガードがどうあれ、ライヴと関わりがあるならどうでも……いいよな。

 戦いの激しさは今までで一番小さかったかもしれない。
 死者もライヴ以外ではほとんど出ていないし、何よりギンジさんも元気だ。
 だけど、なんだろうこの違和感は。
 これまでの反省をしつつ、僕は昼過ぎの談話室でキリカを待っていた。
 少し話したいことがあったのだ。

 来た。

「よう、なんだかんだちゃんと話したいと思って」
「何となく聞かれることは分かってるよ」

 キリカは僕の前の椅子に座る。
 午前の訓練の後だ、一応制服でいる。

「まず、ヒノキは……」
「私の兄さん」
「……」

 あの時の会話を聞いていたが、信用出来なかった、いや、信じたくなかっただけだ。
 心に突っかかる何か、人の家族に口出しするのは良くないと思う、けど、ヒノキの死体が発見されない限り、生きているか死んでいるか分からないけど、簡単に扱っていい存在ではないだろう。

「覚えてるかな、ザンゲノヤマで珈琲飲んだ時の事、カエデが私達を襲ったの」
「覚えてるさ、写真のように覚えてる、銃口が」
「その時にね、本当は話すつもりだったんだ、兄さんのこと。言えなかったけど、今度はちゃんと話すつもり」
「……うん」

 キリカは簡単に目を合わせたりしなかった、持ってきた珈琲を飲みつつ少しずつ気持ちを整えているように見えた。
 いや、僕も珈琲ほしい。

「あのさ、自分で言うのもアレなんだけどね、聞いた上で拒絶をね……しないでほしい……な?」

 キリカが抱いていたのは拒絶だったようだ。
 ようやく彼女が何に怖がるのか分かったような気がした。
 自分でこんなこと言うのもダサいと思うけどさ。

「しない、絶対に」
「ありがとう、えっと……私の兄はヒノキ、私と同じシロカミだったけど私の記憶にシロカミの兄さんはいない。前見たのが初めてだった」
「後天性か」
「そう、まぁその兄の話しは、私の昔と、家族について、並行して話すことにするよ」

 こんにちはキョウスケです、キリカの記憶を要約して再生します。
 容量不明。










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