仮想世界β!!

音音てすぃ

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58.眺め

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「おや、オトメにキリカ……あなたは?帰りが速かったね、フレッタという娘は見つかったのか?そうそう武器は思ったより早くできた」

 僕らがカルマ家に帰ってくると、リーラがアサガサと一緒に僕らを出迎えた。
 どうやら『イノセント』と『黒打』の強化は終了したらしい。
 二人で受け取り、出来栄えに声を上げていると、僕の後ろのカエデをリーラは興味深そうに見つめた。

「オトメ、誰だ?」
「悪い紹介が遅れた……その前に、名前言ってもいいの?」

 カエデはそこにいなかった。
 姿を消したのか?

「すまんリーラ、アイツはちょっと恥ずかしがり屋でね、フレッタを探しに行ったら色々あって僕らの仲間になってくれたんだ。だから危険な人間じゃないから安心してほしい」
「……オトメが言うなら……一応布団と食事は用意しよう、大切な友人の仲間とあればな」
「どうだろうな」

 カエデは僕らでも知らない極秘任務を遂行する戦闘のプロ、出来るだけ人に見られたくないだろうし、僕ら以外の人間に正体とか名前を知られたくないだろう。

「カルマの威厳とかあるだろうけど、アイツにはいらないかもな」
「そう?君が言うならいいんだが……」

 玄関のドアは開いていた。
 カエデが出て行ったと思うけど、別れのイメージはなかった。
 むしろ恥ずかしいとか、そんな感情を感じた。
 僕はキリカとリーラが中に入っていく中、一人外に出た。

「いた」
「……」

 家から出て数歩歩いて辺りを見て振り向いた。
 そして違和感と上を向く、そこにカエデはいた。
 もう少しで日が茜色に変わる頃、オリーブ色の戦闘服を染めていた。
 出会った時と同じく無表情、青いネックウォーマーが目立ちすぎた。
 カルマ家の屋根に片足を抱え座って街を眺めていた。
そこからスナイパーライフルを構えるんじゃないかと思った時、カエデは僕の方を見る。

「……」
「なぁカルマを警戒するのはわかる、だけど僕に何も言わないで消えられると探さないといけないから困る」
「……」

 知らん、そう言うかのように顔をそむけた。

「喋れないって不便だな……」
「チッ」
「舌打ちはできんだな!」

 先まで「貴方の銃になる」だかほざいていた奴め、途端に態度が急変してんじゃねぇ!
 僕も威嚇の声を上げた。
 ウゥ!

「YESかNOで返答できる質問するから……」
「……うーん」

 「ふーん」と言いたかったのだろう、それは声というよりも息に近い。

「飯はいるか?」

 首を横に振る。

「布団は?」

 いらないようだ。

「じゃあ……今日はそこにいるのか?」

 首を縦に振った。

「あっそ……あ!お前逃げんなよ!PEが復活したらお前ちゃんとパーティメンバーとして表示されるんだからな!」

 はいはいわかりました、といった表情で返された。
 僕は色々諦めて家の中に入ることにした。

「……」

 カエデは消えていったオトメの残影を見てから視界を街に戻した。
 半壊した街の一部と美しい街灯のつき始めた街の風景、きっと夜は涼しく綺麗なのだろう。
 カエデはSE持ちであった。
 しかしECFの回線に接続できない、いつからだろうか、この街に来てからだろうか?
 ガードに取り計らってくれたのはアサガサであったこともカエデは知っている。

 変な奴。


ーーーーーー

 数時間後、周りはしっかり暗くなり、街灯が綺麗になっていた。

「おーい」
「……?」

 下にいたのはオトメだった。
 大きな皿に大量のおにぎりを乗せて声をあげている。

「腹減っただろ?いまからそっちいくからー」
「……!」

 オトメはどこからか梯子を持ってきて、屋根にあがってきた。
 カエデは少々驚き、身を引きずるように距離をとる。

「まぁそう警戒すんなよ、毒とか入れてないし」

 オトメが一つのおにぎりを掴み、食べてみせる。
 いや、ドヤ顔すんな。

「ほらな?」
「……」

 しょうがないから一つ頂く。
 しばらく携帯食料か野生動物しか食べていなかったから懐かしかった。
 ツルギさんとの訓練でよく食べていたことを思い出した。

 具は梅干し、鹿肉……だけか。

「僕が9割作ったんだ、塩効いてて美味いよな」

 自分で言うのか?

「……」

 まぁ美味いさ。

「多分カエデはECFの中でもツルギさんくらい強いんだろうな」
「!」

 オトメはツルギさんを知っている?

「なんだよ驚いて、ツルギさんだぞ?やっぱりECFだと有名なのかな……そうそう僕『ツルギ隊』だったんだぜ?まぁこのざまだけど」

 この男が?といってもPEだし、ツルギさんが護衛だったのかもな。
 一応今は仲間ってことだし、信じてみよう。
 PE持ちとは思えない、弱すぎる。今すぐリセットしたらいかがでしょうか。

 もうひとつおにぎりを頂く。

「言いたかったことがあって……」
「……?」
「墓参りの時、弾を外してくれてありがとう」
「……」

 あれはただのミスなんですが。

「さっきエイルにカエデのことを話してきたんだけど、なぜかアイツニコニコしながら『いいですよ別に!』っていうんだぜ?変だろ?間違いは誰にでもある……とか言うし、少ししたら会いたいそうだ」
「……!」

 一度は殺そうとした私を?

「だから……明日会ってやってくれない?エイルはカルマじゃないし仲間だし」

 カエデは頷いた。
 任務は忘れず、どうして他人と関わってしまったのだろうか、単独行動だったはず……きっと飽きたのだろうか、いままで誰一人として殺せていないし。
 暫くはいいかな?

「よかった、じゃ寝るよ、これどうぞ」

 オトメは毛布を置いて去っていった。
 声は出ないが、人と話したのはもうツルギさんしか記憶にない、優しさは久ぶりすぎた。

 オトメが去ったあと、暫くその毛布を見つめて、寒くなってきたので体にかけてみた。
 あったかい。
 少しいい匂いがする、誰のだろう?

 どうしてだろう、人に関わりたい、話したいと思ってしまった。
 そして思い出す、私の声帯を奪った人間。
 再生水ならば声帯は回復するか?

 アイツはPEではなかったが、危険人物だ……必ず。



「「ころしてやる」」


 家の中の声とカエデの息はシンクロした。







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