仮想世界β!!

音音てすぃ

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45.旅の始まり

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「準備はいい?」

 僕はいつだってそう。

「忘れ物は?」

 死に切れない。

「これから長くなるぞ」

 死にたいわけではない。

「エイルちゃんは?もう出発だけどいい?」

 痛いし。

「はい、もう大丈夫です」

 守る仲間が増えたか。

「もう少ししたらライラ先生がいらっしゃるみたいなので、待ちましょう」

 何のために剣を振るのか。

「……来ましたね」

 ツルギさんが言ってたっけ。

「やぁ!お待たせ!ゼェゼェ……」

 今回の作戦だけ、自分の決めた正義を貫けと。

「ギリギリって感じですねライラさん」

 なら今回は今回で変えよう。

「間に合ってよかった、君にこれをプレゼントしたかったのだよ」

 誰の命も斬らないと。

「ぼ、僕ですか?」
「そうだ、受け取ってくれよ?」

 そういえば僕のイノセントはヒエンとゴールドグリップとの戦闘で刃こぼれが激しかった。

 渡された長い箱に入った怪しく光る金属光沢、片手剣だろうか、イノセントより重く、切れ味が良いものとは思えない。

「いいんですか、もらっても」
「いいんだ、倉庫に転がっていた出来損ないの一振りだ」
「ゴミをよこしたんですか!?」
「まぁそういうな、この剣は魔力を注ぐと魔力反射の結界を張れる能力がある、その代わりか少し重いが……君なら大丈夫だろう」
「お互いウィンウィンってやつですね、分かりました、有難く受け取ります、ちょうど僕の剣もボロボロだったので」
「それだけではない」
「まだ特殊能力でも?」
「その剣はあまり切れ味が良くない、君も察していただろうが、君にはピッタリだろう?」
「…………」

 見透かされているようだった。
 イノセントはその切れ味から、人に重症を与えたくない僕にとっては使いにくい武器であった。
 躊躇なくぶった斬る勇気でもあれば別だったが。

「ふふ、どうもライラ……先生」

 付属の鞘に納めて、イノセントの上から背中に装着した。

「剣をスイッチしていこうかな。疑似二刀流みたいな?ツルギさんみたく」
「片方ボロボロでしょ、やめときなよ」
「そういやキリカの刀はよく刃こぼれしないな」
「扱いが上手なのでね!」
「はいはい、僕はヘタクソですよ」

「スキャン開始」

『魔具:エフェクトシールド』
・片手剣:少し重い
・特殊効果:魔法リフレクLV.3
・耐久上昇LV.6 攻撃力低下LV.3

「魔具?」

 僕の呟きにライラ先生が説明を入れた。

「魔力を秘めた道具……とか、そういうものだ。厳密な定義は曖昧だがね」
「なるほど、けっこうレア物なんですね」
「餞別として……だね。これはエイルを連れていってもらうお礼のようなものだ」
「どうも」
「じゃあ、元気にいってらっしゃい」

 ライラの台詞の後、エイルがお辞儀をした。

「いままでありがとうございましたライラ先生、お返しもあまりできなくて……」

 ライラ先生はエイルの頭をポンポンを叩いて、右腕で包んでいた。

「いいんだよ、長く生きていれば、ムカつくこともあれば、ハッピーなことがある。もちろん君がいなくなることは寂しいよ。けどね、君も一人の人間だ、若いうちに色々なことを学んでほしいのだよ。私も若くないからね、あ……いや、死ぬのは大分先だが」
「……先生!また、来ますから……必ず!だから……少しだけさようなら!」

 僕には少しだけ、エイルの涙が見えた気がした。
 気がしただけ。
 そう、それだけ。
 だから、それだけだから、出発する。
 手は振った。
 キリカなんて腕をしならせていた。


「そうだな、僕らはまだ若い……管理者達の件をどうにかしたら、また来たい。来れるよな」


 僕らは出発後、道の無い森林を北上する。
 エイルはなかなか体力がある、一日中歩いてもへこたれない。
 むしろ……僕が疲れた。

 道中の食糧はストレージに補給してきた。
 容量レベルを考えて5日分が限界だ。
 あとは現地調達だ。
 どれが食べれるとか、毒とか、キョウスケの知る知識がある限り大丈夫だろう。
 とりあえず、僕らは、ここが知っている土地とどれだけ離れた場所なのか調べる必要がある。
 きっと僕らが考えている以上にECFのメンバーは心配しているかもしれない。
 早く……。

「オトメ君?顔がこわいよ?」
「あ?」
「返事も怖いですね」

 枝を踏んだ。

「べつに……ぼーっとしてただけだし」
「疲れたの?」
「少し休みますか」
「だからそんなんじゃないって」

 枝を踏んだ。あれ……焚き火の後?

「やっぱりここら辺のモンスターは火には寄ってこないんだな」
「私たち以外にも誰か……?」
「足跡追ってみるか」
「街、ザンゲノヤマの方向かもしれないしな」

 空には結界がない、あの町から随分と離れたと感じる。
 緑の木々にも見飽きたころだ。
 そろそろ街っぽいものが見えてきてもいいが……
 とまぁ同じ景色を二日歩くと、木々の隙間から、やけに横幅の広い山肌が見えてきた。

「プリンみたいだね、オトメ君」
「プリン?あぁ……アカネちゃんが作ってくれたことがあるような気が……」

 僕は黄色の光沢を放つプルプルの物体を思い出していた。
 うん、美味しかった記憶がある。甘いアレだろ?

「ここがザンゲノヤマです。山頂が真っ平……そうですねプリンみたいですね、プリン山にすればいいのに……」
「どこから街に入れば……いや、登ればいいんだ?」
「山の中には地下空間、山肌には巨大階段があります。手っ取り早いのは階段ですけど……長いですよ?」
「地下はどこから入れる?」
「麓に入り口が九つあるので」

 地下か……エイルの性別を奪った野郎がまだこの街にいるとは考えにくいが、もしもの可能性を考えて、潜伏しやすいのは地下だろう。
 そこから探す……って、地理情報と仇の情報と同時進行は難しかな?

「迷うな……キリカはどう思う?」
「私は地上の街が見たいな……けど……エイルちゃんはどっちがおすすめ?」
「えっと、久しぶりに来たので、お家に行きたいです」
「──────大丈夫なのか?その、トラウマ的な」
「えぇ大丈夫ですよ、私そういうの得意みたいですから」

 というわけで、僕らは地下入り口ではなく、ながーい階段を選んだ。
 まぁ結局地上からも入り口があるらしく、上に行っても地下に行けるから別にいいかなと思う。

「おい、階段よりこれのほうが……」

 三人が麓に近くなると、人工的な機械仕掛けの乗り物があった。
 隣には古めかしい階段が天へと続いていたが、ほとんど人はいない。

「そうですね……あの乗り物に乗ったほうがいいと思います。私が居た時より発展してますね」

 乗り物近くに接近する。

「ゴンドラですね」
「キョウスケは詳しいな」
「電動ではなく、魔導機械ですね」

 近くに人間がいる(おっさんである)。
 ここでお金でも払えば乗せてもらえるのだろうか?

「ど、どうも……旅の者なんですけど、三人乗せてもらえますか?」
「えーと、券はお持ちでないですよね?一日乗り放題券、年パスとかありますけど、どれにします?」

 おそらくこの券とやらを購入しないといけないだろう。

「じゃあ、一日乗り放題で」
「一人百円です」
「安いな(あれ、お金一緒でいいんだ)」

 とりあえず僕が三人分払って、ゴンドラに乗った。
 快適とはいかなかったが、足で上るよりマシだっただろう。
 最大六人乗りか、窓もついている、外の景色は広大な森ととりあえずデカい山肌。
 一日6回は乗りたいと思った。

「子供みたいですね」
「キョウスケ、どうしてそう思う?」
「私の知る限り、小さな男の子は乗り物、車などに非常に関心があると」
「そうか?車?まぁいいや、てっきり僕は剣とか人気だと思っていたけど」

 10分程で上にたどり着いた。
 視界に飛び込む景色、人、ミルザンドに似ている。
 けど、全体的に高貴そうな人が多い気がする。品があるというか。
 僕は歩く、好奇心が足を動かしていた。
 この町はどこまで広いのか、大きな建造物や武器屋、他にも。

「オトメ君、どこ行くの?先いかないで」
「おっとすまん、好奇心がね……っとそうだ、エイルの家の方に先に行こうか」

 こうして僕らは『ザンゲノヤマ』にたどり着いた。
 エイルの故郷、僕とキリカにとっては新天地。

 どうか、有益な情報が欲しいところだ。
 なんなら……エイルの仇にさっさと出てきてほしい。
 ぶっ飛ばしてやる。







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