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44.劣
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風呂から出た僕らは体がポカポカしていて、調子に乗って、コーヒー牛乳を飲んでいた。
苦味というより甘味、クセになるアクセント、珈琲風味、喉元が歓迎する。
夕方に飲むべきではなかったな。いまさらカフェインとか気にしている。
僕は半分程度飲んだところで、その流動している様を眺めていた。
「美味いなコレ」
「でしょ。ってすみません……」
「うあぁ?べつにいいけど」
僕とキリカは特に気にしないが、エイルは言葉を気にするみたいだ。しょうがない、年上は誰だって怖い。僕だってツルギさんにため口をきけと言われたら卒倒する。
「このコーヒー牛乳、山のようにあるな……」
僕が見つめているのは子供たちのために用意された大量の瓶入りの乳製品たちだ。
「ライラ先生が子供たちには体に良いものを摂ってほしいと、温泉には置いているんです」
「うーん、牛乳の飲みすぎはどうかと思うが……」
その前に、僕は牛を見たことがない。
何処にいるのだろうか?
牧場あるなら見てみたい。もぉーって言いたい。きっと大きいんだろうなぁ。
「つーか、腹減ったぁ」
ECFで訓練をしていると、エネルギーが足りなくなる。
しかも先の戦闘で疲労しているし、僕に至っては自然治癒で治りきっていない傷が……って。
「傷が……ナイ?」
ヒエンに斬られた傷が噓のように消えていた。ゴールドグリップから受けた打痕もない。
手で触れて確かめてみるが、痛みも感じない、元の状態だ。
「温泉効果ってすごいな、また来ようなキョウスケ」
「はい、精神も以前に比べて安定しています、定期的な使用を推奨しますが……無理でしょう」
そう、僕らは明日から出発である。
最終目的は忘れてはいけない、管理者達の撲滅、それだけだ。
それだけが僕の最大の存在理由なんだから。
エイルの家に到着した後は、二人で料理を初めていた。
まだ元気なのかキリカは。
僕は朝から歩いてへとへとです。
椅子に座って瞼を閉じていた。
すこしだけ、少しだけ……眠い、ふあー。
手伝いしなきゃ。
眠気が勝った。
キッチンでは二人のシェフが腕を振り回していた。
「料理は久しぶりだな、旅を初めてからは包丁すら握ってないし」
「大丈夫ですよ、簡単ですから。じゃあキャベツをお願いしますね……」
向こうから聞こえる音は僕の子守歌となった。
意識が薄れていくとともに視界もはっきりしない。
あぁ、最高だ。
こんなに恐怖とか不安の無い日は、ECFに入ってから初めてかもしれない
「あの……」
「ん?どしたエイルちゃん、大丈夫、手は切ってないよ」
「キリカさんの髪って……」
「どうして白いかってこと?」
「はい」
目が少し覚める。
僕の感覚がその会話を全力で拾おうとする。
僕だって知らない、今まで興味が無かったから、でも、少し知りたい。
「うーんと、あんまり言いたく……いいよ、エイルちゃんも言いたくないだろう秘密を話してくれたからね」
僕が一瞬だけキリカの方向を向くと、二人とも髪を束ねてエプロンを付けている。
キリカのポニーテールを見たのは初めてで、新鮮だった。
普段もそうすればいいのに。
「知り合いの人はストレスとか言ってたな、私にはよくわからないけどね」
「何かあったんですか?」
「うん、昔にね……ゴメン、あまり言いたくないや」
「でもありがとうございます、話してもらえてうれしいです」
「そう?ありがと」
盗み聞きした僕は無性にキリカの過去が気なっていた。
エイルだって過去に相当なストレスを負ったはず。
そのエイルですら起きない症状が起きている、それはキリカの方がもっと……?
思考は僕の胸を締め付けるように、悲しみを作っていった。勝手に同情するなって。
ーーーーーー
ごとっと音がした。料理は完成したらしい。
「じゃーん、ロールキャベツであるよオトメ君。他にもいっぱいあるぜぇ」
「……おおぉ」
山盛りのロールキャベツと、その他は僕に知識が無くてわからないが、おしゃれな料理だった。色のせいかな。
どこかで見たことのある記憶がある。
「寝起き?ほら、食べないと回復しないぞー……まぁ時間かかってるか」
キリカは箸でロールキャベツを切り裂き、僕の口に運ぼうとする。
「やっ、やめろ!自分で食えるよ!」
「あ、そう?お米もあるよ」
口前まで運ばれたものは方向転換、キリカの口に入っていった。
「美味しい」
僕も食べてみる。
普通のコンソメ味だった、懐かしさを感じる。何だこれ。これは他人の懐かしさだ。
優しい味、素材の旨味より、自分の涙を感じる。
「あれ?」
知らないキリカの辛いだろう過去、まだ全貌を聞いてすらいないくせに、僕は自分の中でそれを増幅させて、感情を外に出して。
温泉でエイルを信じるとまっすぐ言えたのはキリカだからだ。
僕はどんなにぬるい人生だったのか、そう考えると、言葉が嗚咽になっていた。
「どうしたのオトメ君」
「具合悪いですか?」
「違う……美味いんだよ」
噓だ、味は普通だ。普通においしい。
僕は無理に涙をぬぐって笑顔を作って料理を食べていた。
二人は気を使ってそれ以上涙に言及しなかった。
ーーーーーー
「美味しい?」
「……」
「ねぇどうなの?」
「黙って食べてるってことは美味しいってことだよ。大丈夫だよ」
何か思い出した気がした。
ーーーーーー
食事後は食器を洗って(主に僕が)、布団を敷いた。
順番は左からキリカ、僕、エイル。
三人とも今日は疲れた、眠りにつくのは速かった。
夢と現実の間で僕は、キリカ、エイルの過去を知って、二人を全力で守ると決めたのだった。
突然目が覚めてしまった。
「2時か……変な時間に急に起きたな……」
僕は左右を確認する、キリカもエイルも熟睡中だ。
起こすわけにはいかない、僕はこっそりと外に出た。
理由は月が綺麗だったからだ。
「月、明るいな、満月か」
「そうですね」
「まぁキョウスケで見てるからな」
月が明るいと星が見えない、それは月の主張。
私を見てくれ、こんなに太陽に照らされて熱くなってるんだぜ。
僕は勝手な想像を飲み込んで布団に戻った。
僕を見ないでくれ、こんなに涙で浄化されているんだぜ。
美味しいものには美味しいって言わなきゃ伝わらないよ。そう誰かに言われている気がした。
苦味というより甘味、クセになるアクセント、珈琲風味、喉元が歓迎する。
夕方に飲むべきではなかったな。いまさらカフェインとか気にしている。
僕は半分程度飲んだところで、その流動している様を眺めていた。
「美味いなコレ」
「でしょ。ってすみません……」
「うあぁ?べつにいいけど」
僕とキリカは特に気にしないが、エイルは言葉を気にするみたいだ。しょうがない、年上は誰だって怖い。僕だってツルギさんにため口をきけと言われたら卒倒する。
「このコーヒー牛乳、山のようにあるな……」
僕が見つめているのは子供たちのために用意された大量の瓶入りの乳製品たちだ。
「ライラ先生が子供たちには体に良いものを摂ってほしいと、温泉には置いているんです」
「うーん、牛乳の飲みすぎはどうかと思うが……」
その前に、僕は牛を見たことがない。
何処にいるのだろうか?
牧場あるなら見てみたい。もぉーって言いたい。きっと大きいんだろうなぁ。
「つーか、腹減ったぁ」
ECFで訓練をしていると、エネルギーが足りなくなる。
しかも先の戦闘で疲労しているし、僕に至っては自然治癒で治りきっていない傷が……って。
「傷が……ナイ?」
ヒエンに斬られた傷が噓のように消えていた。ゴールドグリップから受けた打痕もない。
手で触れて確かめてみるが、痛みも感じない、元の状態だ。
「温泉効果ってすごいな、また来ようなキョウスケ」
「はい、精神も以前に比べて安定しています、定期的な使用を推奨しますが……無理でしょう」
そう、僕らは明日から出発である。
最終目的は忘れてはいけない、管理者達の撲滅、それだけだ。
それだけが僕の最大の存在理由なんだから。
エイルの家に到着した後は、二人で料理を初めていた。
まだ元気なのかキリカは。
僕は朝から歩いてへとへとです。
椅子に座って瞼を閉じていた。
すこしだけ、少しだけ……眠い、ふあー。
手伝いしなきゃ。
眠気が勝った。
キッチンでは二人のシェフが腕を振り回していた。
「料理は久しぶりだな、旅を初めてからは包丁すら握ってないし」
「大丈夫ですよ、簡単ですから。じゃあキャベツをお願いしますね……」
向こうから聞こえる音は僕の子守歌となった。
意識が薄れていくとともに視界もはっきりしない。
あぁ、最高だ。
こんなに恐怖とか不安の無い日は、ECFに入ってから初めてかもしれない
「あの……」
「ん?どしたエイルちゃん、大丈夫、手は切ってないよ」
「キリカさんの髪って……」
「どうして白いかってこと?」
「はい」
目が少し覚める。
僕の感覚がその会話を全力で拾おうとする。
僕だって知らない、今まで興味が無かったから、でも、少し知りたい。
「うーんと、あんまり言いたく……いいよ、エイルちゃんも言いたくないだろう秘密を話してくれたからね」
僕が一瞬だけキリカの方向を向くと、二人とも髪を束ねてエプロンを付けている。
キリカのポニーテールを見たのは初めてで、新鮮だった。
普段もそうすればいいのに。
「知り合いの人はストレスとか言ってたな、私にはよくわからないけどね」
「何かあったんですか?」
「うん、昔にね……ゴメン、あまり言いたくないや」
「でもありがとうございます、話してもらえてうれしいです」
「そう?ありがと」
盗み聞きした僕は無性にキリカの過去が気なっていた。
エイルだって過去に相当なストレスを負ったはず。
そのエイルですら起きない症状が起きている、それはキリカの方がもっと……?
思考は僕の胸を締め付けるように、悲しみを作っていった。勝手に同情するなって。
ーーーーーー
ごとっと音がした。料理は完成したらしい。
「じゃーん、ロールキャベツであるよオトメ君。他にもいっぱいあるぜぇ」
「……おおぉ」
山盛りのロールキャベツと、その他は僕に知識が無くてわからないが、おしゃれな料理だった。色のせいかな。
どこかで見たことのある記憶がある。
「寝起き?ほら、食べないと回復しないぞー……まぁ時間かかってるか」
キリカは箸でロールキャベツを切り裂き、僕の口に運ぼうとする。
「やっ、やめろ!自分で食えるよ!」
「あ、そう?お米もあるよ」
口前まで運ばれたものは方向転換、キリカの口に入っていった。
「美味しい」
僕も食べてみる。
普通のコンソメ味だった、懐かしさを感じる。何だこれ。これは他人の懐かしさだ。
優しい味、素材の旨味より、自分の涙を感じる。
「あれ?」
知らないキリカの辛いだろう過去、まだ全貌を聞いてすらいないくせに、僕は自分の中でそれを増幅させて、感情を外に出して。
温泉でエイルを信じるとまっすぐ言えたのはキリカだからだ。
僕はどんなにぬるい人生だったのか、そう考えると、言葉が嗚咽になっていた。
「どうしたのオトメ君」
「具合悪いですか?」
「違う……美味いんだよ」
噓だ、味は普通だ。普通においしい。
僕は無理に涙をぬぐって笑顔を作って料理を食べていた。
二人は気を使ってそれ以上涙に言及しなかった。
ーーーーーー
「美味しい?」
「……」
「ねぇどうなの?」
「黙って食べてるってことは美味しいってことだよ。大丈夫だよ」
何か思い出した気がした。
ーーーーーー
食事後は食器を洗って(主に僕が)、布団を敷いた。
順番は左からキリカ、僕、エイル。
三人とも今日は疲れた、眠りにつくのは速かった。
夢と現実の間で僕は、キリカ、エイルの過去を知って、二人を全力で守ると決めたのだった。
突然目が覚めてしまった。
「2時か……変な時間に急に起きたな……」
僕は左右を確認する、キリカもエイルも熟睡中だ。
起こすわけにはいかない、僕はこっそりと外に出た。
理由は月が綺麗だったからだ。
「月、明るいな、満月か」
「そうですね」
「まぁキョウスケで見てるからな」
月が明るいと星が見えない、それは月の主張。
私を見てくれ、こんなに太陽に照らされて熱くなってるんだぜ。
僕は勝手な想像を飲み込んで布団に戻った。
僕を見ないでくれ、こんなに涙で浄化されているんだぜ。
美味しいものには美味しいって言わなきゃ伝わらないよ。そう誰かに言われている気がした。
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