仮想世界β!!

音音てすぃ

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42.ゆでる

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 二人が帰ってきた。

「おかえりキリカ、どうだった?」
「食べ物とか、面白いものとか……あ、これ要らない」
「おい」

 今日はエイルの家で過ごすことにした。
 エイルはライラの補佐役で、屋敷の横に小さな家がある。
 僕ら二人がギリギリ泊まれる。
 木材が基調で柔らかく、温かい雰囲気、生きている感覚がする。

「少し狭いですがくつろいでくだいさいね」
「ありがとう(僕らは野宿で良かったんだけど)」
「オトメ君……シャワー浴びたい……」
「僕もだ……」

 そういえば、ここに来てから汗を流していない。

「温泉、行きますか?」

 キリカの反応が僕より数コンマ速かった。

「行く!」
「…行きたい!」

 噂には聞いていた『温泉』そう、オンセンだ。
 疲労回復とか、肌が綺麗になるとか……そう聞いた。
 僕はエイルとキリカのビジュアルを視界に捉えて、その輪郭線をイメージしていた。
 これは無意識だった。

「どうしたの、ジロジロ見て」
「別に」

 着替えを持って、温泉に向かうことにした。
 エイルの家から200メートルもないくらいの距離に位置していた。
 見た目は大自然、山、老舗の温泉宿かと思ってしまった。
 え、その記憶はどこから?

「火山が近くにありまして、新鮮な温泉が湧き出ますよ」
「本物だー!嬉しい!明日に向けてゆっくりするぞー」
「はしゃいで転んで死ぬなよ?」

 僕たちはエントランスで受け付けを済ませて、男、女と書かれている暖簾をくぐった

「そうか、僕は一人か……混浴ぅぅう!」
「混浴はありますけど、そうしますか?」

 言うべきでない叫びの後ろ、その声はエイルだった。

「エ、エイル!?こっちは男湯、女湯はあっち」
「知ってます」
「なら……」
「男です」

 あぁ、そういうんだ。

 時間帯は夕方か、子供たちの姿は見えない。
 僕はエイルが女でなく、男であることに衝撃と立ち直れなさを覚えた。
 どうしてかはわからない。
 大丈夫、上がった時には立ち直っている。男女差別とかのあれじゃない。そう思われるなら思ってくれ。でもこの気持ちを許してほしい。泣きそう。

 それは脱衣所、ここも木をこれでもかと使っている。
 僕は全力で全裸になる。
 これが気持ちが良い。
 鏡に映るECFで鍛えられた自分の肉体を賛美していた。
 その隣でエイルも脱衣を開始。
 横眼で見ているが、目が離せない。
 だって、髪も女性的で長いし、女性にしか見えない。
 偏見かもしれないが、誰だって一度はそう思うだろう。
 ガラスとは違う女っぽさ。嗅覚にビビッと来てる。

「マジか……」

 小さく部屋の隅にこぼした。
 男だった。

 僕とエイルは二人で体を流して、温泉に浸かる。
 体を茹でるよう熱い湯は、浸透するように体に触る。
 自然と声が漏れる。
 肺が押しつぶされて、このまま調理されてしまうのではと勘違いしてしまうくらい脳は働かない。
 目の前に映る風景は大自然。
 下には川が望める、天気のいい空はやる気のない赤色だった。
 浮遊感が大きくなってきた。

「気持ちがいいなぁ」
「子供たちもここで疲れを癒してます、いいですよね、こういうのって」
「……えっと、訊いていいかな?」

 お前明らかに女じゃんと言おうとした瞬間だった。

「オトメ君、待ちやがれ!」

 後方で叫ぶのはキリカだった。
 振り返ると体にタイルを巻いていた。
 セーフセーフ、何もなかったら失神していただろう。

「お、おい、キリカ!ここは女子禁制だぞ!こっち来るな!」
「エイルちゃんをどうする気!?」

 そうか、キリカはエイルが女だと思っているんだな。
 体付きは若干男なんだけどなぁ。

「いや、こいつ男だし」
「ウソ……」

 学校の生徒たちがいない時間帯、男湯にいる変態女、これは事件ですよ。

「……じゃあ私はここで」
「おう、さっさと消えな……ってえ!」

 キリカは女湯に戻ることなく、エイルの隣に座った。
 エイルは僕とキリカに挟まれることになった。

「温泉に浸かるな!」
「いいじゃん、別に他の人がいるわけでもないし」
「混浴は向こうで……」
「いいの」

 いや、僕とエイルは色々というか全部丸出しなんですけど。
 キリカさんもどうですか?

「オトメ、それはキリカに伝えるべきです」
「わわっ、久しぶりのキョウスケだ!いや、できるわけないだろう」

 僕が変態扱いで切断されるだろう。

「……やっぱり、エイルは女に見られる……だろ?」
「……えぇ、まぁ」

 エイルはこの時に目をそらした。
 何か隠しているような、そんな感じがした。
 まぁ色々な事情があるのだろう、今言ってもらわなくてもいい。

「僕の知り合いにも男で、すげー女に見られる奴がいてね、世の中は広いと思ったなぁ……あの、訊いてゴメン気分悪くしたかい?」
「あの、驚かないで聞いてもらえますか?」

 ゆっくり僕らに目を合わせた。
 それは不安と恐怖、期待がガラス玉のような繊細さを放っていた。

「私、元々、女だったんです」


 この瞬間から、なぜライラ先生がエイルを僕らに預けたのか理解できた気がした。

 何時だってぼくらはコンプレックス野郎どもだった。






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