仮想世界β!!

音音てすぃ

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22.正義の剣

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 あれから色々考えた。そして思ったんだけど、僕は少し異常かなぁと思う。
 ふつう、人を斬るなんて道理的に出来ないし、半人殺しにキリカを巻き込むとか、そんな思考人外染みている。
 そうか、キリカも異常思考なのかもしれない。だけど、それ以上にこの世界は異常だと思った。
 僕以上だ。

「オトメさん、おはようございます!今日から外出許可が出ますね。記念に買い物でも行きませんか?」

 早朝、僕の部屋を開けたのはアカネちゃん。肩からバッグを下げている姿は外出への気合いがうかがえた。

「実感ないな……つーか眠い」

 僕は起きたばかりで視界がハッキリしない。パジャマっぽい服の袖で目を擦り、窓から走り込む日光を見て目を覚ました。

「おはようございますオトメ」
「おはよう、キョウスケ……」

 僕の一人言にアカネちゃんは疑問を持ったようだ。左右を見渡している。

「誰かいらっしゃいますか?」
「あーいや、ただの一人言」
「じゃ着替えてください。部屋の前で待ってますから」

 そう言ってドアを閉められた。

「そっか……アカネちゃんは僕がPE持ちだって知らないんだよな……」

 ここの人達で僕の秘密?を知る者は、マスター、キリカ、だけ……らしい。
 一応マスターからの僕への配慮だ。
 余程珍しいものなのだろう(僕にはわからないが)。
 外部にバレると騒動になるとマスターは言っていた。
 未だにキリカに「何で教えてくれなかったの?」って訊かれるが、こっちとら生まれたときから持ってるようなものなのだから、知らないよ。皆持ってると思ってたよ。
 だけど、今思えばPEなんてものは異常な異物だって、分かる。

「なぁキョウスケ、僕の身体能力が周りに比べて高いとか、ストレージ機能とか……それは全部君のおかげなのか?」
「御明答」

 あぁそぉか……

「ってことは、だ……僕は仲間を、皆を守る力があるってことだ、この能力は皆の為に使う」
「どうぞどうぞ」

 僕は拳をとギュッ握り締めた。何か胸が高鳴るものがあった。
 それはキリカと同じコンプレックスを持っているとか、そんなものに近いものだった。
 たとえ世界に嫌われた力だとしても。

「オトメさーん?」

 まずい、アカネちゃんを待たせてしまっている。

「ごめん!」

 クローゼットを開いてギルド制服に着替える。
 次に鏡を見る。

「髪、伸びたかな?」

「3センチ伸びましたね」

 ここでの生活も随分と経過したと実感する。
 そう、前の記憶を無くしたとか、覚えていないってことを覚えているんだよな。
 不思議な感覚、頭で覚えてるというより体が覚えている感覚で、その記憶を追求しようとするととたんにフィルターがかかる。

「へぇ、キョウスケは詳しいね」

 前髪を少し引っ張りながら身だしなみは大丈夫か、確認して、ドアを開けた。

「(問題ない)悪い遅れた」
「大丈夫ですよ、じゃあ行きましょうか」
「うん」

 エントランスに行くと、朝だというのに既に人が集まっていた。

「暫く見ない間に新しい顔が増えたな」
「あーれ、先輩気取りですねオトメさん」
「そうだな、人殺しの台詞じゃあないよな……」

 僕は落ち込んだ声で言ってしまった。

「あの……そうゆう意味で言ったんじゃ……」

 マズイ!アカネちゃんを落ち込ませる風に言ってしまった。これは笑えない発言だった!

「あーゴメンゴメン!今のはね──そう!ジョークってやつだよ!」
「ジョークですか?」
「あぁ、僕もよく意味は分からないんだけどね、まぁ今のことは忘れよう!」

 そう、この世界で僕がマトモだと思える人間はアカネちゃん一人である。誤解が無いように言いたい。
 まともでなくても信用できる人間はいっぱいいる。キリカとか。
 そこら辺は言っておきたい。

「さささ!」

 僕はアカネちゃんを後ろから押してエントランスの扉を目指した。

「わわわっ、押さなくていいですよ!」
「あ、そう?」

 両開きの扉を開けて出ようとした時、この辺では見ない藍色の服装をした男、妙に体がデカイ男とすれ違った。
 その時はその人たちが何者なのか、何も考えていなかった。
 だってPEが注意しないんだもの。

ーーーーーー

「オトメさん、沢山買いましたね」

 中央の噴水を取り囲むように広がる商店通り『アスタ区』で、林檎、珈琲豆、調味料とかの補充がメインで、他に食材を買って、荷物持ちは僕だった。
 僕の頭が五か六個入りそうな大きなバッグを肩から斜めに二つ下げて、胸の中央でクロスしている。

「キョウスケ、ストレージにしまってよ……」
「バッグならいくらでも出しますよ」
「やくたたずが」

 殴ってやりたかったが、キョウスケは文字通り『眼中』にいるので殴るにも殴れない。

「オトメさん、他に寄っておきたいお店とかありますか?」
「そうだなぁ……」

 何も考えてなかったから辺りを見回した。人、壁、店、物、魅力を感じない。
 そうだ、と考えて天を見る。

「武器屋がいいな」
「男の子ですね」

 アカネちゃんはかわいいですよと言って、一緒に『タナカ武具店』に行った。
 そう遠くはない。数十メートル先。
 二階建ての建物が道を左右から挟んで道を作る。
 その当たり前と思っていた光景が何故かこんなに美しい。
 暫く外に出なかったからかもしれない。
 暖簾は変わらなかった。
『タナカ武具店』だ。
 今日は買いに来たのではない。僕は店内のタナカさんに話かけた。

「タナカさんお久しぶりです」
「ん?オトメさんか?」

 タナカさんはゴーグルのようなものをグイッと左手で上げて振り向いた。
 作業中か、熱気が外へ逃げるように吹き僕の体を包む。
 奥には真っ赤な炎と大小様々な工具。
 僕はここらの知識は無くてよくわからない。

「お久しぶりですねオトメさん」

 タナカさんは作業を中断した。

「いいんですか?途中じゃ……」
「あ、いや、今おわったんでいいんですよ」

タナカさんは結構若く見られる。僕も彼を二十代と思ったが四十八歳らしい。人とはわからない。

「あの……暫く監禁されてました」
「知ってます」

 タナカさんは少し笑っている。

「いつでもオトメさんを歓迎するんで、今後ともぜひ来てくださいね」
「……はい!」

 この世界はやっぱり優しい……けど、異常だ。
 僕の心の常識では人殺しは許される行為ではない。たが、この世界では少し許容される傾向にある気がする。
 死人は復活する──記憶を無くして。
 そのせいなのかもしれない。
 だからって、人を簡単に殺していい理由にはならないはずだ。
 これは僕の今後の生きるテーマになるだろうと、心で設定した。

「何の正義を持って、剣を扱うのか……か……(わかんねぇな!)」

 その後は真っ直ぐギルドへ帰った。
 ギルド内が騒がしかった。

「オトメさん、マスターが呼んでます」

 ルーイが教えてくれた。

「え?何かしたかな……わかった。じゃあ代わりに荷物よろしくね」

 僕はルーイに荷物を預けてマスターの部屋へ向かった。

「アカネさん……これ、スゴく重いです」
「え?ホント?……オモイ!」

 扉を開ける。
 ギルド制服のマスターとキリカ。その他に……二人。

 すぐに気づいた。あの朝の二人だ。

「オトメ君、よく来たね。ではまず約束してくれ、ここでの会話は他言無用だ、いいね?」

 選択肢はない、一言だ。

「……はい」

 なんだこの妙な緊張感。ここの全員の表情がピリピリしている。そんな感じがする。

 藍色の服の男は窓の横で腕を組んで壁に体重をかけている。少し項垂れたような肩から頭、その位置から僕らを睨むように見ている。彼はタクミさんに似た高い背丈、茶色の髪、この地域では珍しくメガネをかけている。メガネのレンズから見える目はニュートラルなのに殺気を感じる。

「ツルギ、そんなに睨むなよ、怖がっちまうだろ?」

 もう1人……体がデカイ男、ツルギというさっきの男と同じような服(少し豪華というか)色は黒。

「ギンジさん、では私の方から紹介させてもらって……」

 マスターの台詞を一定トーンのツルギの声が制した。

「その必要は無い」

 ツルギという男はノロッと姿勢を正して僕の方へ歩いて来た。

「!」

 一瞬だった音も予備動作もほとんどなくPEすら反応しない動きで、僕の首元に刀が添えられていた。

「なっ……何を!」

 美しい刀、引けば首から大出血サービスだ。

「貴様、本当にPE持ちか?反応速度、遅すぎる、雑魚じゃないか」

 一瞬の出来事すぎて、情報が入ってきすぎて、理解が追いつかない。

「おいツルギ!やめろ!」
「ギンジは黙ってろ……コイツを仲間に入れるなら、それ相応の覚悟と能力が求められるはずだ。それを俺はテストしてるだけだ」

 場は凍りついていた。マスターもキリカも動けなかった。
 ん?いや違う。

「なにやってんですか!?」

 キリカがツルギに食らいついた。黒打の柄に手を置いている。

「テストだ」

 ツルギの声のトーンは変わらない。一番落ち着いているのは彼のようだ。

「コイツが俺の、仲間の命を、未来を背負うに相応しい存在か、剣か、確かめるだけだ」
「ふざけ……ないで!」

 キリカは動いていた。
 刀を抜いて、ツルギに斬り掛かる……しかし、それをキレイに刀でいなされた。キリカは一瞬唖然とした。彼女の手にはほとんど手ごたえが来なかったようだ。

「キリカ君!」
「キリカ!」

 マスターと僕は思わず叫んだ。未知の存在と斬り合いになってほしくなかったからだった。
 キリカはもう一度、斬り掛かるが、ツルギは残像を残して目の前から消えていた。
 キリカの剣を回避できる人間を初めて見た気がする。

「消えた、何処に!?」

 キリカは刀を構えて見回す。

「後ろだ」

 ツルギはキリカの背後についていた。そしてキリカの襟を左手で掴み床に叩きつけた。
 エントランスにまで届くのではないかと思うくらいの衝撃と音。

「グッ…ガハッ!」

 おそらくあばら骨、内臓に響いただろう一撃で、キリカは無力化された。

「白いお前、黙ってろ」

 何も出来ずに黙っている僕に、ツルギは切先を向ける。

「お前は覚悟はあるのか?」

 これがいわゆる意味わからない発言というやつだ。

「てめぇ……キリカに……何しやがる!!」

 衝動が抑えられなかった。いつの間にか僕もツルギに斬りかかっていた。

『ツルギ』Enemy?
相対レベル:測定不能
・白の零蘭(刀)
・倫理委員会戦闘対応制服(藍)
・Unknown
他スキャンを実行できません。

 今なら見える……攻撃予測位置、移動位置、え。
 移動予測位置と攻撃予測位置が同時に無数存在していて、参考にすらにならない。

「そんな迷いでは勝てんぞ」

 ツルギは僕の背後にいた。そうか、これは『瞬間移動』というやつだ。
 僕は背中にイノセントを回して斬撃を防いだ。

「ほぉ……PEって感じするな」
「……(強すぎじゃね?速くて攻撃当たんねぇよ!)」

 今度はツルギが突き攻撃から連撃を仕掛けてきた。
 突きかい?どうやら斬らせてくれるようだ!

「(頭……胴……背中……足……今だ!)」

 全て避けて、足への斬撃のモーションを予測、イノセントでツルギに攻撃を試みた。

「(喰らえっ!)」

 しかし、僕の斬撃は空を切って床に刺さった。
 また瞬間移動か!
 マズイっ殺される!
 剣が抜けなくて、恐怖に駆られた。
 心臓がキュッとするとはこのことだ。

「そうか……思ったよりやるな」

 ツルギが僕の上から刀を振り下ろした。防御も回避も間に合わない。

「ツルギ、その辺にしとけ、そいつにはまだ説明してねぇからよ」

 ギンジが制すと、ツルギの刀はピタリと僕の首元で止まった。

「……そうか、ならたのむ」

 ツルギは刀を離し、僕を無視して倒れているキリカに手を差し伸べた。それをキリカは悔しそうに握る。

「……」

 何をキリカに言ったのかよく聞こえなかった。

「よし!ナノを呼んでくれ、ツルギ!」

 ツルギは刀を鞘に収めた。

「ナノならあと三秒で来るだろう」

 すると、宣言通り、女性が扉を開けて部屋に入ってくる。


「皆さん、ごきげんよう」


 それは、見たことのあるはずの顔だった。
 刺さった剣を抜いた時、体に刻まれた記憶が呼び覚まされる気がした。
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