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20.老魔道士の野望
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「オトメ君……ありがとう……!」
カイナは急に涙を流し始めた。緊張が解けたのだろう。
「おう、怖かったな、お疲れ様……」
僕はカイナの頭を優しく撫でた。慣れないことをするものじゃない、すぐに照れて手を離した。
「槍、良かった。少し痛かったけど」
「ごめんなさい、でもあれだど直撃だったから」
「いいよ、わかってるって」
確かに背中には大きな切り傷が数箇所ある。まぁ別にいい。まだ歩ける。
「キリカ、ありがとう」
「あのねオトメ君……私!」
「いいから、何も言わなくていい……一緒に戦ってくれた、それだけでいいんだ」
「オトメ君……あ、ありがとうございます」
「涙の跡、可愛いな!」
「うっせ!」
キリカに殴られた。
CP-25
デバフ めまい
ツルバは無気力に仰向けになっていた。
「ツルバ、おい」
「ハハハハ、オトメ、勝利は気分がいいだろう?」
枯れた精気の無い声になっていた。
「いや……」
「やはりPEには勝てんのか……少し話を聞かんか?」
「なんだ?」
「動機だ、気になるだろ?」
「まぁ……そうだアイツらも一緒に……」
「ダメだ。お前だけだ。まぁ私が死んだ後でなら話してもいいぞ」
「わかった……ってなんだそれ」
理由はわからないが、カイナとキリカには一階に行ってもらうことにした。
「で?さっきまで殺しあってた間で腹割って話すのも気持ち悪いけど」
「ハハ……そう言うな。お前の目的は果たしたのだろう?私の目的を打ち破った、そして、私はそれを諦めた。もう争う理由も無いだろう」
「僕には理解出来ないな、というか、お前に死んでもらうつもりもないし」
「そうだな、どこから話そうか……」
「あ……話すのね」
僕は無意識にツルバの杖に触れていたのだろう。物語のように頭に話が入ってい来る。
ーーーーーーーーーーーー
三十年は前であろうか、これは嘗てのツルバの話。
「ツルバ君、今日もここで勉強?」
ツルバと彼女は図書館にいた。
「うん。勉強もなんだけど、この本面白いと思って……」
「『アバンドグローリー起動』……へぇこれ、城が動くっていう話でしょ?皆知ってるよね!」
「僕は動いているのを見たいんだ!」
「……私も思う……」
「君も?」
「うん。でも、異端扱いされるから……今まで誰にも言わなかったんだけど」
「ね」
「ん?」
「動かさない?」
「城を?」
「そう」
彼女の目は好奇心の名前を持っていた。
妄想ばかりで何もしないツルバとは逆で、彼女は行動的だった。
どんなことでもやってのけようと誓えるくらいまぶしい人だった。会うたびに惹かれ、生きる理由にすらなっていた。自分の魔術の才能もここで活かせる。未来は輝いて見えた。
「そうだね……やってみよっか」
「僕の夢は城を動かし、この国の軍師になること!」
「私はねー操縦士っているのかなぁ。それにないりたい!」
その後俺たちは二人で勉強に勤しんで国軍に入ることができた。しかし……現実は違った。
ある日、操縦室に入った彼女は王によって殺された。
秘密を知ってしまったらしい。
普段は王族しか入ることの許されない操縦室に無断で入ったからだ。
その後、王は後の姫、レン姫様の目に鍵を封印した。
俺はそれを聞いてから憎しみと残された願いだけを原動力にした。
この国を手に入れる、城を動かす。
いつしかそんな考えになっていた。
彼女との約束を果たすために。
もう誰を殺してきたかは覚えていない。
ーーーーーーーーーーーー
「この国の人間は、昔語りが好きだな」
「何故そう思う?」
僕はクスッと笑って答えた。
「ルーイもそうだった。アイツにも守りたいものがあったらしい。お前と同じだ」
「何っ……うっ……」
ツルバは涙を零れ落とし、ひきつる声で涙を抑えた。
「私は、私は────サリ……私が死んで君を忘れれば何も残らない……私は正しい事がわからなくなった……」
僕はツルバのHPを見てポーションを使おうとしたが、それをツルバは弾いた。
ポーションの瓶は割れ、こぼれてしまう。
「情けをかけるな、怒りを忘れるな……」
「お前!なにしてんだ死ぬぞ!」
「私に生きる価値はない」
「うるせぇ!クソみたいな労働力にはなる!記憶を……無駄にしないでくれ……」
「……」
「ヤバい、HPがっ!待ってろ、今ポーション貰ってくる!」
僕は操縦室を飛びだして下の長い螺旋階段を見て絶望した。
魔導エレベーターなら行けるか?
「いい、ツルバ、お前を担いで行った方が速い!」
剣をストレージへ入れ、ツルバを左腕で担ぎ上げエレベーターに乗った。
初めてのエレベーターだが、何とか乗れた。
下に下り下り……浮遊感を覚える。
「あと数階だ、耐えろ!」
「……あぁ……?」
一階に着くと、無数の死体があった。
そこの中心でカイナが泣いていた。さっき見た光景と全然ちがうんだが。
「だ、誰かポーション持っていないか?」
僕が上手く出ない声でお願いすると、兵士がツルバを見て持ってきてくれた。
「ありがとう!」
しかし、僕がツルバを下ろすと目はどこも見つめておらず、首に力がはいっていない、息もしていないことが分かった。見たくなかったHPを確認すると0になっていた。自分の左手がだらんと落ちていくのが分かった。
「あ……嘘だ」
僕は無意識にポーションをツルバの頭に掛けた。
中身が空になっても何も変わらない。
顔から色が抜けて死体のそれになってしまった。
「うわあぁあ!」
真上に叫んだ。このぶつけようのない怒りを。
何分経っただろうか、ようやく落ち着いた僕にキリカが話しかけた。
「さっきまでここで、あの兵士達が、私たちのためにココを抑えてくれた」
「何人……死んだ?」
「十人、全員……」
「そうか……」
でもなぜだ?死にたくないと言っていたのあいつらだった。
「彼らに伝えられなかった。本当にカイナを殺したのはツルバだって……」
これを聞いた他の兵士達は、僕を信じて戦った十人の兵士達の前で立ち尽くした。
そして僕も同様に十人の兵士に両手を合わせた。
自分に問いた。お前は何をしているんだ?目的のために誰が何人死んだかわかっているのか?
結果的にツルバという危険因子を排除できたのかもしれない、だがそれで良かったのか。
残るねっとりとしたものが頭からかけられた気がした。
「カイナ、キリカ……実は」
僕はさっきのことを話した。
するとカイナが何かを決めたように深呼吸をした。
「……オトメ君、私ここに残ることにしました。だからミルザンド、ギルドには戻りません」
「え?ど、どうして?」
僕はそのために来たのに!?
「今回のことで多く死を招きました。前の私のせいで……だから、罪滅ぼしの為に、この国を作り直したいんです!まぁ?多少身勝手なこと言ってますけど……」
カイナは決意のある表情をしていた。
おい待て、カイナにどんな非があった?僕と同じ記憶障害者だぞ?前の自分がどんな人だって今の自分には関係ないことだろ?そうだろ……?
「でも、だってさ」
「王族が招いた被害です。今でも前でも私なんですから。できる人がやらないと」
立派な犯罪者の僕は死をもたらすことによって平和をもたらした。その後始末をしてくれると言っているのだ。これ以上に適任もいないだろう。
僕は正義の味方か、その逆か。
今はカイナに頼るしかないのか。
「そうか……君なら収束させることができそうだな……」
「はい……!少しづつですけど」
カイナは兵士達に呼びかけた。
「皆さん!聞いてください!」
カイナが皆の視線を集めた。
目は見たことが無いくらいに鋭く、血に宿ったカリスマ性を感じる。
「今回、多くの死を招きました。ツルバ軍師のやったことは元凶は私の父にありました。私は1回死んでいるので記憶がありませんが、この国の王女として治めていきたいです!力不足ですが、皆さん、力を貸してください!お願いします!」
すると次第に歓声が起き始めた。
「新女王の誕生だ!」
「俺らが支えます!」
兵士達もやる気だった。事実を知るものが多くなれば救われる者も出て来るだろう。
元々一つだったものが分かれては殺し合い、また一つになるなんてできるのだろうか。
敵は一人だけでいい。そう、僕だけで。
「もう安心だな……カイナ、僕は目的が終わったから帰るよ」
「え?オトメ君!」
「目的はカイナをツルバから救う事だった。それが叶うなら僕はどんな嫌われ者になっても構わなかった。けど、こんなに悲しい結果になるとは思っていなくて……」
「えぇ私も人が死ぬのは悲しいです。もう、こんな事が起こらないように、かんばります!」
犯罪者マインド僕に、カイナの決意はまぶしかった。
最後に言っておくならこれだろう。
「えー皆さん、今回の大罪人にオトメです。僕の選択は正しかった。けど……人なんか殺したくなんてなかったです……なので、だから……」
最後の言葉を言えずに僕は黒い外套を着て走り出した。
兵士達に合わせる顔がわからなくなったからだ。
「待ってーオトメ君!あ、カイナさんじゃあねー!」
キリカはカイナに手を振った。
カイナは呆然としながら小さく手を振った。
「じ、じゃあね……じゃあね!また……会おうね!」
僕は正しかった。そう、まだ僕のメンタルが軟弱なだけだ。兵士たちの顔を見ただろ?英雄を見る目でもない、憎しみを見る目でもなかった。正しさだけで人は見れないんだ。
最後に言いたかったことは「文句がある奴は僕を殺しにこい」だった。言えるわけないだろ?
ーーーーーー
僕らは電車に乗っている。
空の色が変わって来た頃だ。
数名、同じ車両にいる。
「ふふふっ痛いな右腕!」
気持ちがフッと抜けて疲れが襲ってきた。
まるで体重が倍になったようだ。
「バカじゃないの……本当にバカ……」
だんだんキリカの顔が崩れて来た。
「え?ど、どうした?」
「カイナさんには甘いのに、わだしにはキツいのねオトメ君!」
鼻水とか涙とか色々飛んできたし……
私がわだしになってるし。
「あぁそうだな……さっきまで元気だったから。じゃ」
僕は、キリカの頭を左手で優しく撫でてやった。
「え、ちょっと!」
左腕でギューッと抱きしめた。
「ありがとう、君は今日のMVPだ」
キリカは嗚咽混じり声を僕にぶつけた。きっと剣を向けたこととか言いたかったのだろう。気にするな。キリカがいないと多分僕死んでたし。
あぁ、僕、殺人罪とかになるのかな。
目的の為とはいえ、小国を揺るがした罪は大きいだろう。
更に、キリカをも巻き込んだのだから、ギルドでは相当怒られるだろうな。
目的を果たしたのに、それ以上の重荷を背負った気分だった。
たとえこの世界に『死』が無くても。
カイナは急に涙を流し始めた。緊張が解けたのだろう。
「おう、怖かったな、お疲れ様……」
僕はカイナの頭を優しく撫でた。慣れないことをするものじゃない、すぐに照れて手を離した。
「槍、良かった。少し痛かったけど」
「ごめんなさい、でもあれだど直撃だったから」
「いいよ、わかってるって」
確かに背中には大きな切り傷が数箇所ある。まぁ別にいい。まだ歩ける。
「キリカ、ありがとう」
「あのねオトメ君……私!」
「いいから、何も言わなくていい……一緒に戦ってくれた、それだけでいいんだ」
「オトメ君……あ、ありがとうございます」
「涙の跡、可愛いな!」
「うっせ!」
キリカに殴られた。
CP-25
デバフ めまい
ツルバは無気力に仰向けになっていた。
「ツルバ、おい」
「ハハハハ、オトメ、勝利は気分がいいだろう?」
枯れた精気の無い声になっていた。
「いや……」
「やはりPEには勝てんのか……少し話を聞かんか?」
「なんだ?」
「動機だ、気になるだろ?」
「まぁ……そうだアイツらも一緒に……」
「ダメだ。お前だけだ。まぁ私が死んだ後でなら話してもいいぞ」
「わかった……ってなんだそれ」
理由はわからないが、カイナとキリカには一階に行ってもらうことにした。
「で?さっきまで殺しあってた間で腹割って話すのも気持ち悪いけど」
「ハハ……そう言うな。お前の目的は果たしたのだろう?私の目的を打ち破った、そして、私はそれを諦めた。もう争う理由も無いだろう」
「僕には理解出来ないな、というか、お前に死んでもらうつもりもないし」
「そうだな、どこから話そうか……」
「あ……話すのね」
僕は無意識にツルバの杖に触れていたのだろう。物語のように頭に話が入ってい来る。
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三十年は前であろうか、これは嘗てのツルバの話。
「ツルバ君、今日もここで勉強?」
ツルバと彼女は図書館にいた。
「うん。勉強もなんだけど、この本面白いと思って……」
「『アバンドグローリー起動』……へぇこれ、城が動くっていう話でしょ?皆知ってるよね!」
「僕は動いているのを見たいんだ!」
「……私も思う……」
「君も?」
「うん。でも、異端扱いされるから……今まで誰にも言わなかったんだけど」
「ね」
「ん?」
「動かさない?」
「城を?」
「そう」
彼女の目は好奇心の名前を持っていた。
妄想ばかりで何もしないツルバとは逆で、彼女は行動的だった。
どんなことでもやってのけようと誓えるくらいまぶしい人だった。会うたびに惹かれ、生きる理由にすらなっていた。自分の魔術の才能もここで活かせる。未来は輝いて見えた。
「そうだね……やってみよっか」
「僕の夢は城を動かし、この国の軍師になること!」
「私はねー操縦士っているのかなぁ。それにないりたい!」
その後俺たちは二人で勉強に勤しんで国軍に入ることができた。しかし……現実は違った。
ある日、操縦室に入った彼女は王によって殺された。
秘密を知ってしまったらしい。
普段は王族しか入ることの許されない操縦室に無断で入ったからだ。
その後、王は後の姫、レン姫様の目に鍵を封印した。
俺はそれを聞いてから憎しみと残された願いだけを原動力にした。
この国を手に入れる、城を動かす。
いつしかそんな考えになっていた。
彼女との約束を果たすために。
もう誰を殺してきたかは覚えていない。
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「この国の人間は、昔語りが好きだな」
「何故そう思う?」
僕はクスッと笑って答えた。
「ルーイもそうだった。アイツにも守りたいものがあったらしい。お前と同じだ」
「何っ……うっ……」
ツルバは涙を零れ落とし、ひきつる声で涙を抑えた。
「私は、私は────サリ……私が死んで君を忘れれば何も残らない……私は正しい事がわからなくなった……」
僕はツルバのHPを見てポーションを使おうとしたが、それをツルバは弾いた。
ポーションの瓶は割れ、こぼれてしまう。
「情けをかけるな、怒りを忘れるな……」
「お前!なにしてんだ死ぬぞ!」
「私に生きる価値はない」
「うるせぇ!クソみたいな労働力にはなる!記憶を……無駄にしないでくれ……」
「……」
「ヤバい、HPがっ!待ってろ、今ポーション貰ってくる!」
僕は操縦室を飛びだして下の長い螺旋階段を見て絶望した。
魔導エレベーターなら行けるか?
「いい、ツルバ、お前を担いで行った方が速い!」
剣をストレージへ入れ、ツルバを左腕で担ぎ上げエレベーターに乗った。
初めてのエレベーターだが、何とか乗れた。
下に下り下り……浮遊感を覚える。
「あと数階だ、耐えろ!」
「……あぁ……?」
一階に着くと、無数の死体があった。
そこの中心でカイナが泣いていた。さっき見た光景と全然ちがうんだが。
「だ、誰かポーション持っていないか?」
僕が上手く出ない声でお願いすると、兵士がツルバを見て持ってきてくれた。
「ありがとう!」
しかし、僕がツルバを下ろすと目はどこも見つめておらず、首に力がはいっていない、息もしていないことが分かった。見たくなかったHPを確認すると0になっていた。自分の左手がだらんと落ちていくのが分かった。
「あ……嘘だ」
僕は無意識にポーションをツルバの頭に掛けた。
中身が空になっても何も変わらない。
顔から色が抜けて死体のそれになってしまった。
「うわあぁあ!」
真上に叫んだ。このぶつけようのない怒りを。
何分経っただろうか、ようやく落ち着いた僕にキリカが話しかけた。
「さっきまでここで、あの兵士達が、私たちのためにココを抑えてくれた」
「何人……死んだ?」
「十人、全員……」
「そうか……」
でもなぜだ?死にたくないと言っていたのあいつらだった。
「彼らに伝えられなかった。本当にカイナを殺したのはツルバだって……」
これを聞いた他の兵士達は、僕を信じて戦った十人の兵士達の前で立ち尽くした。
そして僕も同様に十人の兵士に両手を合わせた。
自分に問いた。お前は何をしているんだ?目的のために誰が何人死んだかわかっているのか?
結果的にツルバという危険因子を排除できたのかもしれない、だがそれで良かったのか。
残るねっとりとしたものが頭からかけられた気がした。
「カイナ、キリカ……実は」
僕はさっきのことを話した。
するとカイナが何かを決めたように深呼吸をした。
「……オトメ君、私ここに残ることにしました。だからミルザンド、ギルドには戻りません」
「え?ど、どうして?」
僕はそのために来たのに!?
「今回のことで多く死を招きました。前の私のせいで……だから、罪滅ぼしの為に、この国を作り直したいんです!まぁ?多少身勝手なこと言ってますけど……」
カイナは決意のある表情をしていた。
おい待て、カイナにどんな非があった?僕と同じ記憶障害者だぞ?前の自分がどんな人だって今の自分には関係ないことだろ?そうだろ……?
「でも、だってさ」
「王族が招いた被害です。今でも前でも私なんですから。できる人がやらないと」
立派な犯罪者の僕は死をもたらすことによって平和をもたらした。その後始末をしてくれると言っているのだ。これ以上に適任もいないだろう。
僕は正義の味方か、その逆か。
今はカイナに頼るしかないのか。
「そうか……君なら収束させることができそうだな……」
「はい……!少しづつですけど」
カイナは兵士達に呼びかけた。
「皆さん!聞いてください!」
カイナが皆の視線を集めた。
目は見たことが無いくらいに鋭く、血に宿ったカリスマ性を感じる。
「今回、多くの死を招きました。ツルバ軍師のやったことは元凶は私の父にありました。私は1回死んでいるので記憶がありませんが、この国の王女として治めていきたいです!力不足ですが、皆さん、力を貸してください!お願いします!」
すると次第に歓声が起き始めた。
「新女王の誕生だ!」
「俺らが支えます!」
兵士達もやる気だった。事実を知るものが多くなれば救われる者も出て来るだろう。
元々一つだったものが分かれては殺し合い、また一つになるなんてできるのだろうか。
敵は一人だけでいい。そう、僕だけで。
「もう安心だな……カイナ、僕は目的が終わったから帰るよ」
「え?オトメ君!」
「目的はカイナをツルバから救う事だった。それが叶うなら僕はどんな嫌われ者になっても構わなかった。けど、こんなに悲しい結果になるとは思っていなくて……」
「えぇ私も人が死ぬのは悲しいです。もう、こんな事が起こらないように、かんばります!」
犯罪者マインド僕に、カイナの決意はまぶしかった。
最後に言っておくならこれだろう。
「えー皆さん、今回の大罪人にオトメです。僕の選択は正しかった。けど……人なんか殺したくなんてなかったです……なので、だから……」
最後の言葉を言えずに僕は黒い外套を着て走り出した。
兵士達に合わせる顔がわからなくなったからだ。
「待ってーオトメ君!あ、カイナさんじゃあねー!」
キリカはカイナに手を振った。
カイナは呆然としながら小さく手を振った。
「じ、じゃあね……じゃあね!また……会おうね!」
僕は正しかった。そう、まだ僕のメンタルが軟弱なだけだ。兵士たちの顔を見ただろ?英雄を見る目でもない、憎しみを見る目でもなかった。正しさだけで人は見れないんだ。
最後に言いたかったことは「文句がある奴は僕を殺しにこい」だった。言えるわけないだろ?
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僕らは電車に乗っている。
空の色が変わって来た頃だ。
数名、同じ車両にいる。
「ふふふっ痛いな右腕!」
気持ちがフッと抜けて疲れが襲ってきた。
まるで体重が倍になったようだ。
「バカじゃないの……本当にバカ……」
だんだんキリカの顔が崩れて来た。
「え?ど、どうした?」
「カイナさんには甘いのに、わだしにはキツいのねオトメ君!」
鼻水とか涙とか色々飛んできたし……
私がわだしになってるし。
「あぁそうだな……さっきまで元気だったから。じゃ」
僕は、キリカの頭を左手で優しく撫でてやった。
「え、ちょっと!」
左腕でギューッと抱きしめた。
「ありがとう、君は今日のMVPだ」
キリカは嗚咽混じり声を僕にぶつけた。きっと剣を向けたこととか言いたかったのだろう。気にするな。キリカがいないと多分僕死んでたし。
あぁ、僕、殺人罪とかになるのかな。
目的の為とはいえ、小国を揺るがした罪は大きいだろう。
更に、キリカをも巻き込んだのだから、ギルドでは相当怒られるだろうな。
目的を果たしたのに、それ以上の重荷を背負った気分だった。
たとえこの世界に『死』が無くても。
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