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来た五月
19話 冷キャンプ
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「彼女でさえ掴むことが出来なかった刀を」
一太刀で決める。体力を吸い取る速度が半端ではない。
「降参なんてしねぇぞ!」
最後の防衛か、残った刀が射出される。適当にはじくことができた。手にほとんど感覚が無かった。
目標に向かって走る。一点を見つめて、全ての力で切っ先を伸ばす。
手ごたえなく刀は幽霊の体をすり抜ける。
手に持っていた刀は次第に消えてゆく。
「これがすべてだ……すみませんねぇ……真打は持ってないんです」
体を貫いた時に強烈な眩暈がした。もう立っていられない。体が勝手に膝をついた。
「届いたぞ、キミの意思と同等の一撃。彼女に劣らない重さだった」
年寄のような息で幽霊は胡坐をかいた。
「キミの勝ちだ。もう力は残っていない」
「そうですか……」
少し体が軽くなってきた。
周囲の雰囲気も戻ってきた気がする。
「一撃で?随分と……」
「弱いだろ?私も驚いた。まさか一撃とはな。彼女とは互いの一撃が交差した時に決着した。勝利したはずだったがな……彼女よりも強い後輩か、先輩の威厳もないな!」
「時間が経ってますからね、今の彼女なら世界中の幽霊を一撃でねじ伏せると思いますよ」
「そこまでか……人とは成長するものだな」
気が抜けて、体を崩しながら僕も座った。そして深呼吸。
「じゃあ聞かせてください、葛城優さんのことについて」
ーーーーーー
大体三年前、彼女はキャンプだとかでここを訪れた。
「こんにちわ、名前を葛城優乃。姿を見せなさい、私にはバッチリ見えてるから」
右手に巻かれた包帯をなびかせて彼女は立っていた。夜中だというのに元気だった。
「聞こえてるのー?」
「……」
厄介な人がやってきたと思った。こんな存在が意味のない幽霊風情になんの用事があるのだろう。
「……分かった、準備させてやるから。ここで待ってるわ」
そうして彼女は公園のブランコに座って一息ついた。
もしや姿を現すまで待つつもりか?
面倒だから日が昇っても出ていくなんてことをしなかった。
「ふわーあ……しぶといわね……いいわ、わかった、明日というか今日の夜も来るから、いい加減出てきてね」
日差しが気持ちよくなってきたところで彼女は公園から去って行った。目をぱちぱちさせて眠そうだった。悪いことをしてしまっただろうか、いや私は幽霊、自分が自分を信用できない存在だ。あそこで「こんにちわ」と姿を現してみろ、威厳というか沽券にかかわるだろう。
そして夜、彼女は懲りずに公園に来た。立派な睡眠不足だったのか少しふらついている。
「眠い……ねぇそろそろ出てきてよー」
早速ブランコに乗り、こぎながらあーあーものを言っている。
それから数分して彼女は寝てしまった。ここは夜冷える。しょうがない、特別に姿を見せてやろう。驚いてもらってさっさと帰ってもらおう。
「おい」
「……フッ」
空気を掠るような鼻息で笑い飛ばした彼女が勢いよく拳を突き出した。
それは間一髪距離が足りずに目の前で止まった。
「あれっ?……やだ恥ずかしい、ここまでやって外したなんて」
「……元気ではないか」
姿を現したことを後悔した。
「ま、まぁ?姿見せてくれてありがとう幽霊さん。ちょっとお願いあるんだけど」
面倒なので体を薄くした。
「あー!やめて、不意打ちは謝るから消えないで!」
「……ふむ」
しっかり謝罪が出来る娘だ、いい子ではないか。
「私と喧嘩しようぜ!」
「断る」
「んーえーなんで!あなたも暇でしょ?」
あなたも?
「来ただけでわかったよ。あなたはそこらの幽霊とは別格、超次元的な生き物に近いとな!」
「……?」
最近の子供の言葉はわからない。喧嘩というのも気が進まない、どうして少女とやりあわないといけないのか。
「私は大丈夫、強いからね。遠慮してるなら無用だよ。こっちも消す気でいくから」
「ほう?」
悪戯な笑みと共に包帯をほどいた。右手にはボロボロの札が張り付けられていた。
私は本能ににた何かであの札は危険だと理解した。
「喋れんじゃん」
「退屈は……してたからな」
ただの小娘ではないことがわかってなぜか安心した。随分と長い時見た公園の景色に衝撃的な色が加えられた気分だ。嫌ではない。高揚感があった。
生者の意識を断ち切る非接触性の刀、私はこれを数本使って彼女と運動をした。生者で言えば殺し合いに近いが、私たちにとっては生きている、今そこにいる価値を実感できるものだった。
勝敗は差し違える形で決着した。一応私の勝ちだった。笑い合って終わった気がする。
私はその時彼女に「白い刀」という名前を付けてもらった。また会おうと誓ったのだが、生者の時間と死者の時間は感覚が違うだろう、もう待ちくたびれたが、きっと来てくれると信じている。
ーーーーーー
「……こんど葛城優乃さんにお会いしたら、言っときますよ。待ってる人がいますよって。それくらいしてくれるでしょあの人なら。それと、優乃さんには妹がいるんです。僕と同期で。あんまり見えない人らしいです。明日連れてきます。じゃあ」
葛城優乃の話を聞けた僕は少し暖かい胸をぎゅっとするようにシャツを握りしめ、緩む口を抑えられずに公園を去った。
きっとあの幽霊にとって葛城優乃さんは友人に近いなにか、いや、僕がそれを決定するにはおこがましいのかもしれない。
さあ、帰ったら麗乃に話してやろう。そして一人にされて少し悲しかったことを伝えてやろう。
初対面の幽霊と友達、人には言えんな。
一太刀で決める。体力を吸い取る速度が半端ではない。
「降参なんてしねぇぞ!」
最後の防衛か、残った刀が射出される。適当にはじくことができた。手にほとんど感覚が無かった。
目標に向かって走る。一点を見つめて、全ての力で切っ先を伸ばす。
手ごたえなく刀は幽霊の体をすり抜ける。
手に持っていた刀は次第に消えてゆく。
「これがすべてだ……すみませんねぇ……真打は持ってないんです」
体を貫いた時に強烈な眩暈がした。もう立っていられない。体が勝手に膝をついた。
「届いたぞ、キミの意思と同等の一撃。彼女に劣らない重さだった」
年寄のような息で幽霊は胡坐をかいた。
「キミの勝ちだ。もう力は残っていない」
「そうですか……」
少し体が軽くなってきた。
周囲の雰囲気も戻ってきた気がする。
「一撃で?随分と……」
「弱いだろ?私も驚いた。まさか一撃とはな。彼女とは互いの一撃が交差した時に決着した。勝利したはずだったがな……彼女よりも強い後輩か、先輩の威厳もないな!」
「時間が経ってますからね、今の彼女なら世界中の幽霊を一撃でねじ伏せると思いますよ」
「そこまでか……人とは成長するものだな」
気が抜けて、体を崩しながら僕も座った。そして深呼吸。
「じゃあ聞かせてください、葛城優さんのことについて」
ーーーーーー
大体三年前、彼女はキャンプだとかでここを訪れた。
「こんにちわ、名前を葛城優乃。姿を見せなさい、私にはバッチリ見えてるから」
右手に巻かれた包帯をなびかせて彼女は立っていた。夜中だというのに元気だった。
「聞こえてるのー?」
「……」
厄介な人がやってきたと思った。こんな存在が意味のない幽霊風情になんの用事があるのだろう。
「……分かった、準備させてやるから。ここで待ってるわ」
そうして彼女は公園のブランコに座って一息ついた。
もしや姿を現すまで待つつもりか?
面倒だから日が昇っても出ていくなんてことをしなかった。
「ふわーあ……しぶといわね……いいわ、わかった、明日というか今日の夜も来るから、いい加減出てきてね」
日差しが気持ちよくなってきたところで彼女は公園から去って行った。目をぱちぱちさせて眠そうだった。悪いことをしてしまっただろうか、いや私は幽霊、自分が自分を信用できない存在だ。あそこで「こんにちわ」と姿を現してみろ、威厳というか沽券にかかわるだろう。
そして夜、彼女は懲りずに公園に来た。立派な睡眠不足だったのか少しふらついている。
「眠い……ねぇそろそろ出てきてよー」
早速ブランコに乗り、こぎながらあーあーものを言っている。
それから数分して彼女は寝てしまった。ここは夜冷える。しょうがない、特別に姿を見せてやろう。驚いてもらってさっさと帰ってもらおう。
「おい」
「……フッ」
空気を掠るような鼻息で笑い飛ばした彼女が勢いよく拳を突き出した。
それは間一髪距離が足りずに目の前で止まった。
「あれっ?……やだ恥ずかしい、ここまでやって外したなんて」
「……元気ではないか」
姿を現したことを後悔した。
「ま、まぁ?姿見せてくれてありがとう幽霊さん。ちょっとお願いあるんだけど」
面倒なので体を薄くした。
「あー!やめて、不意打ちは謝るから消えないで!」
「……ふむ」
しっかり謝罪が出来る娘だ、いい子ではないか。
「私と喧嘩しようぜ!」
「断る」
「んーえーなんで!あなたも暇でしょ?」
あなたも?
「来ただけでわかったよ。あなたはそこらの幽霊とは別格、超次元的な生き物に近いとな!」
「……?」
最近の子供の言葉はわからない。喧嘩というのも気が進まない、どうして少女とやりあわないといけないのか。
「私は大丈夫、強いからね。遠慮してるなら無用だよ。こっちも消す気でいくから」
「ほう?」
悪戯な笑みと共に包帯をほどいた。右手にはボロボロの札が張り付けられていた。
私は本能ににた何かであの札は危険だと理解した。
「喋れんじゃん」
「退屈は……してたからな」
ただの小娘ではないことがわかってなぜか安心した。随分と長い時見た公園の景色に衝撃的な色が加えられた気分だ。嫌ではない。高揚感があった。
生者の意識を断ち切る非接触性の刀、私はこれを数本使って彼女と運動をした。生者で言えば殺し合いに近いが、私たちにとっては生きている、今そこにいる価値を実感できるものだった。
勝敗は差し違える形で決着した。一応私の勝ちだった。笑い合って終わった気がする。
私はその時彼女に「白い刀」という名前を付けてもらった。また会おうと誓ったのだが、生者の時間と死者の時間は感覚が違うだろう、もう待ちくたびれたが、きっと来てくれると信じている。
ーーーーーー
「……こんど葛城優乃さんにお会いしたら、言っときますよ。待ってる人がいますよって。それくらいしてくれるでしょあの人なら。それと、優乃さんには妹がいるんです。僕と同期で。あんまり見えない人らしいです。明日連れてきます。じゃあ」
葛城優乃の話を聞けた僕は少し暖かい胸をぎゅっとするようにシャツを握りしめ、緩む口を抑えられずに公園を去った。
きっとあの幽霊にとって葛城優乃さんは友人に近いなにか、いや、僕がそれを決定するにはおこがましいのかもしれない。
さあ、帰ったら麗乃に話してやろう。そして一人にされて少し悲しかったことを伝えてやろう。
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