如月デッドエンド

音音てすぃ

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010.2/19

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 日曜日の昼に、僕は高丘真敷に起こされた。
 よく晴れた空は清々しい青でここ最近で一番暖かいかもしれない。窓からの景色は以上、僕は高丘真敷に馬乗りにされている。

「起きて音希田君。これ以上は寝すぎだって」
「重いです……あ……重いわけないか」
「すげー失礼なこと言うね音希田君、何か言うことはないかね」

 自信ありげに腕を組みムフんと鼻息を鳴らしていた。
 もちろん彼女は幽霊なので重さはない。なんと言うか生気を少しずつ吸い取られる気分というか冷たいというか。

「聞いたよ、太刀川和彌を呼んでくれたんだよな。彼は前まで憑いていた樹谷幹也っていう……僕の友達の体を借りて駆けつけてくれた。ホント助かった、ありがとう」
「でしょー気が利く女なのですよ」

 僕に憑いてる幽霊、高丘真敷を引き離しベッドから起き上がる。不思議と火傷跡は痛くない、ただ筋肉痛が酷かった。

「どうして分かったんだ?僕がその……喧嘩してるって」
「えぇ喧嘩なのアレ?」

 違うね、どっからどう見ても殺し合いですね。向こうが殺す気マンマンの。

「最近体が薄いから音希田君の体に張り付いてたんだ。そしたら変な工場行って殴り合い始めるし、怖くて逃げた。なんとか助っ人探せないかとしていた時人体模型先輩がいたのでした」
「人体模型先輩?あの魔改造人体模型か、結局あの人は来なかったけど」
「そう、人体模型先輩は学校外には出られないらしくて、めちゃくちゃ強いっていう太刀川君を紹介してもらったの」

 幽霊って実は深夜に学校で運動会やってます?人体模型先輩の人脈凄いな。

「五月に音希田君の事を知ったって言ってたから話は早かった。家に帰ったらまた出かけそうだったからすぐに夜助けて欲しいって太刀川君に言ったんだ」
「た、大変でしたね……おかげで助かった」

 高丘真敷はもう一度ムフんと鼻息を荒くした。結論、この一件において彼女の働きは僕の延命処置となった。
 というか張り付いていた?背中にでも張り付かれていたらそりゃ見えないよな。
 つまり葛城優乃と接触したときの悪寒は高丘真敷の冷たさ……ということにしておこう。
 僕は白装束の高丘真敷をテッペンからつま先まで見てから言った。

「そういえば最近色が薄いって……」
「おうおうおうおう!少しずつ成仏してるんかねー!」
「それはなんと言いますか……おめでとう?」
「おめでたいことだよ。ありがとう音希田君」

 悲しいとは言わなかった。そもそも死者は生者と関わるものじゃないのだから。これは僕の倫理観だ。
 真敷ちゃんがポジティブに話すのも彼女自信自分が居てはならない存在だと認識しているからだろう。
 でも、そういったよそ行きの意見を置いておくとどうしても悲しくなってきた。僕は内頬を少し噛んで立ち上がった。

「じゃあキツそうだったら僕の体にいつでも張り付いてろよ」
「マジかー助かるよ音希田君起きるまで起きてたから眠い」
「幽霊も眠くな……」

 真敷ちゃんは僕の体へ溶けていくように消えていくと、背中に冷たい感覚が生まれた。今彼女が張り付いているのがわかった。
 霊能者には見せられませんね。

「おやすみ真敷ちゃん」

 僕は扉を開けてリビングへ階段を降りる。今日は予定がある。ハルに会ってアタックαの充電を頼むのだ。まだ連絡してないけど。

「おはよう」
「おはよう兄ちゃん」

 日曜日の家族は健康的にお昼ご飯を食べようとしていた。一応僕の分もあるようだ。感謝感謝。

「感謝感謝」
「今起こしにいこうとしてたのよ、夜遅く帰ってきて朝起きなかったから」

 母は日曜の朝も早い。ご飯美味しいです。

「ほらお風呂入っちゃって、昨日入ってないでしょ」
「あーうん入ってくる」

 ハルへメッセージを送ってからお風呂場へ向かった。
 服を脱いで体を見ると痣だらけだが痛みはだいぶマシになっているし火傷はもう目立たない。よかったー。

ーーーーーー

 タオルで髪を多少乾かしながらスマホを確認してみたところハルから返信がきていた。

『今日直接会えるか?武器の充電してほしい』
『すみません、今日予定があります。というかそんなに使ったんですか?練習したんですか?』
『マジか、それなら大丈夫!そうそう練習!』

 あまり無理にやらせようとすれば勘ぐられる。
 これで葛城優乃戦において僕は素手になった。今更バットとかつかっても意味無いだろうし。
 いや待て、月曜日なら放課後にやってもらえるだろう。今日は休日なのだ。
 唐突に原初に帰りたくなった。
 僕は髪を乾かした後、冷蔵庫から卵を三つとり部屋に向かった。ゆで卵じゃない、生卵。僕がもっとも不得意な投擲はここ1年でだいぶマシになったはずだ!
 日曜日ということもあり健康的な時間帯から溜まった課題を進めていく音希田廻君だった。

ーーーーーー

 段々月明かりが暗くなってきた。満月は12日に終わっていたようだった。休日の居間はのんびりとした空気が流れていて何か良い事をしようと思った僕は財布を手に取った。

「買いに行くけど、リクエスト」
「ココア」
「ココアは家にあるでしょ」
「……あれあれ、炭酸、酸っぱいやつ」
「母さんは?」
「コーヒー以外ならなんでも」

 まだ補導される時間ではない。

「寒いとアレだから」
「えーこんな大袈裟な、いらないよ」

 母さんは僕が部屋着で出ようとしたところにコートを持ってきた。

「いいから」
「……了解、ありがとう」

 僕はリュックを背負って家の近くの自販機へ向かった。
 やっぱり今日は暖かい。ずっとこんな感じでいたい。そんな言語化しない怠惰な感情で足を進めた。

「やっぱりまだコートあった方がよかったか」

 お母様天才。
 数分歩いて自販機が見えたところで僕の足は止まった。誰かいる、それは見覚えがある。

「やばい麗乃だ……」

 何故か葛城麗乃がいた。学校外で接触してはいけないルールを思い出し僕は踵を返して音を立てずにそろそろと歩いた。よく聞く熊から逃げるように慎重に。

「……ん?まわる……?」
「(やばいヤバい!バレたら葛城優乃に殺される!)」

 この距離で気づくなよ?

「おーい」
「ヒィィ!」

 気づかれた。

ーーーーーー

「廻君も夜遊びですかな」
「……ボクはマワルじゃナイヨ」

 僕達は自販機の明かりに群がる蛾のように並んだ。葛城優乃の気配はない、ひとまず息を吐いた。

「なんで出歩いてるの?」
「さ、散歩」
「リュック背負って?」
「の、飲み物買いに来た」
「なんかあった?話してみぃなさい」

 ぎこちない距離感と視線で不審がられるのは仕方の無いことだ。気配がないだけでいつどこから葛城優乃に刺されるか分からないのだから。

「あ、あなただってこんな日の落ちた時間に出歩いているではありませんか。淑女がこんなことしてはいけませんよ、家族が心配します……というか寒くないのか?」

 麗乃はスウェットのまま出かけたみたいだった。コートを着た僕とは違って指先から体が冷えそうだ。

「すぐ帰るし、少し外出たかっただけ」

 今日は比較的暖かい日だったが、外に出ればさすがに僕でも寒かった。麗乃はもっとだろう。風邪をひかれては癇癪で葛城優乃に殺されるかもしれない。明日決着だとしても僕の中の善意が許さなかった。

「葛城麗乃さん少々失礼致します。そして今日会ったことは他言無用でお願いします」

 僕はコートを脱いで麗乃に被せた。僕自身寒くないといったら嘘だが十分耐えられる。

「え、いいいいらないよ!」
「家少し遠いだろ、明日学校だし風邪ひくとキツいぜ」

 少し耳が赤い、よっぽど歩いたのだろうか。今日で寒さが骨身にしみる辛さが分かった僕だからできる芸当です。

「じゃあ僕は飲み物買うので」

 千円札を入れ、がこんがこんと数本買ってからリュックに詰めた。当然指先が少し悴んできた。

「……明日返す」
「そうしてくれ、じゃあ」
「またね」

 麗乃はオーバーサイズ気味のコートから手を少し出して手を振った。鳩が豆鉄砲食らったとはああいった顔のことをいうのだろうか。
 帰りは余計に買った熱々のココアを啜りながら帰るのであった。

 葛城麗乃はコートに顔を埋めて歩き出す。暖かい、やっぱり上着あれば良かった。
 少しいい匂いがすると思った直後、上空を過ぎ去った流れ星を見逃さなかった。

「あー願い事忘れた」
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