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取り調べ

風向き変わらず

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そんなフランを見て、トリトル卿は。
「隠居されたとは言え、そのような事をされては困ります。こやつらは賊なのは紛れもない事実。」
フランは顔を上げると。
「ならば、何があっても、そなたが責任を負うのだな?」
トリトル卿はフランの言葉に聞き、笑みを浮かべて頷いた。
「えぇ、全ての責任は負います。」
フランは残りのメンバーを見ながら。
「この中で賛同致す者はおるか?」
一同は黙ったまま、反応に困っていた。
「畏れ多いですが、言わせて頂くと。フラン様は少しお歳を取られすぎた様で……この様な賊如きに何を怯えられてるのか。この様な賊を罰せられない様な国にしたいのか?」
トリトル卿は熱く語った。
多くの者にとって、フランは英雄譚で語られる者で目の前の人物だと言う実感がないと言うのが本心であろう。
そして、トリトル卿は今後もこの国の重臣として、君臨するであろう人物なのは感じていた。
「では、この賊への判決を決めたい。処刑が相当だと思う方は挙手をお願い致します。」
そして、手を挙げた数は六名であった。
この場の有効票は最初の9名とベイル、そしてダインとローブ姿の女性の12票であった。
フランには残念ながら、票はなかった。
トリトル卿は少し顔を顰めながら。
「他の方々は処刑には反対という事ですか?」
その言葉を言い終わるか同時に部屋のドアが乱暴に開けられ、一人の兵士が入ってきた。
「申し訳ございません。火急の……。」
トリトル卿はそれを見て。
「今は大切な会議の最中だぞ。」
ダインはそれを制した。
「火急の報せとは何だ?」
その兵士がした報告は。
「城門にリザードマンの集団が。」
トリトル卿は呆れた様に。
「たかが、リザードマン如き。」
「それが黒きリザードマンで……ただ主であるリョーに面会をさせて貰いたいと。」
トリトル卿は呆れ顔で。
「黒でも緑でも関係ない。その様な要望は聞けぬ。」
だが、黒きの二文字で数人がざわついた。
「黒きリザードマン?それは真か?」
そう口を開いたのはダインであった。
「一体だけですが、間違いなく黒きリザードマンです。」
ダインはリョーの方を向き。
「黒きリザードマンとは知り合いか?」
残念ながら、黒リザードマンに知り合いは居ない。
首を横に振ると、苛立つトリトル卿は。
「仲間か?そいつらの数は?」
「数は五、六体です。」
トリトル卿は拍子抜けしたかのように。
「追い払え。」
兵士は躊躇した様にダインを見ていた。
「ダイン殿、良いですね?」
トリトル卿は急かす様に。
「……フラン様、勝てますか?」
フランは冷めた声で。
「全ての責任はソイツが取るのだろう?ケルベロス相手にケンカを売るんだから。」
その言葉に一同は騒然となった。
「フラン様、今……何と?」
慌てたのはシュラルであった。
だが、同時に驚いたのはリョーであった。
多分、フランが言うケルベロスはその前に伏せてる虎丸の事であろう。
だが、虎丸はケルベロスではなく、フェンリルのはずだ。
「だから、その使役獣はケルベロスの幼体だ。ケルベロスなら、ほぼ完全な人化しても不思議ではないであろう。」
シュラルは慌てて、ゲイガを見て。
「直ぐに討伐軍の依頼を。」
ゲイガは首を横に振った。
「無理です。先日のトリトル卿の発言により、ギルドは我が国内での一切の活動を当分見合わせるとの通達が……。」
シュラルはトリトル卿の発言を問い、その内容に愕然とした。
「トリトル……貴様、何故その様な事を。」
トリトル卿は事の重大性が分かっていないのか。
「何を大げさに……。それにこれがケルベロスの幼体なんて事は。軍部が動かぬなら、私の私兵で処理致します。」
そう言うと、近くの者に指示を出した。
だが、数分もしないうちに。
「トリトル卿の私兵、殲滅されました。黒きリザードマンはこれが答えかと。」
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