ショートショート集

そらうみ

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夢の君

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 目を開けると、そこには穏やかに眠っている直哉の顔があった。
 驚きと恥ずかしさが同時に込み上げ、そして少し笑ってしまう。
 一緒に住むようになって、もうずいぶん経つのに、未だに直哉といる事が信じられない。
 今でも直哉の顔を近くで見ると、緊張してしまう自分に可笑しくなる。

 直哉とは地元が同じで、大学に上がるまで学校が一緒だったが、特に接点があった訳でもなかった。
 高校卒業間近に、突然、直哉から俺に告白して来たのだ。喜びよりも、驚きと戸惑いが大きかった。

 直哉が俺の気持ちに気づいていた?だとしたら、いつから気づいていたんだ?
 どうして直哉が、俺の事を好きだと言っている?

 混乱する俺の様子を直哉は不安そうに見ていたが、やがて
「本気なんだけど…付き合ってくれる?」
と聞いてきた。
 俺はやっとのことで返事をして、それから今に至る。

 俺は眠っている直哉に触れようと手を伸ばすが、触れる直前で動きを止め、手を引っ込める。
 時折、直哉は触れると消えてしまう存在に思えてしまう。
 直哉に、どうして俺を好きになったのか聞いてみたことがあったけれど、いつか話すよと言って、笑ってはぐらかされてしまった。
 別に直哉の気持ちを疑ったことはないけれど、どうして?という気持ちがいつも心の片隅にある。
 直哉にそれ以上追求したら、何だかこの関係が消えてしまいそうで、それ以上は何も言えず黙ってしまう。
 今でも、ほんの少し不安に似た気持ちを抱えながら、翔太は再びゆっくりと目を閉じた。



 目を開けると、静かに眠る翔太の寝顔があった。
 それを見て、思わず笑みが溢れる。

 あぁ、やっぱり間違ってなかった、と。

 翔太とは小さい頃から学校が同じだったが、特に仲良くしていたわけではなかった。普段過ごしている友達のグループも違ったし、特に関わりがある訳では無かった。

 事の始まりは、物心ついた時から見ていた、いつも同じ内容の夢だった。
 その夢では、いつも大人の男性が現れ、俺を見て優しく笑っていた。
 俺はその人が笑ってくれるのが嬉しくて、その人のそばに行こうとするが、もう少しで手が届く距離になると、その人がすっと消えてしまうのだった。
 夢はいつも同じで、その人に触れようと近づくと、その人が消えてしまう。
 その人は間違いなく自分に好意を持ってくれていることが分かるし、その人と仲良くなれるという確信があるのに、どうしても近づくことが出来ない。
 いつも夢から目が覚めては、もどかしい思いを感じていた。

 そんな気持ちを持ちながら毎日を過ごしていると、ある時、同じクラスの翔太が、夢に出てくる人になんとなく似ていると気が付いた。
 まさかと思ったが、成長するにつれて、翔太が夢の人物に近づいているのが分かった。

 夢に出てくる人物は、未来の翔太の姿に違いない。

 それからは、自然と翔太の存在を意識するようになり、長年、夢でもどかしい思いをしてきた反動なのか、高校卒業時に、俺から翔太に告白したのだ。
 告白した時、翔太が混乱しているのを見て、俺が一人で舞い上がっていたのが分かる。けれど、確信はあった。夢の人物は、間違いなく俺に好意がある。
 けれど、それは夢の中の事で、現実的に考えれば何の確証もなく、自分が勝手に思い込んでいるだけなのだと気づいた。不安になり始めていたけれど、翔太は俺の気持ちに答えてくれた。
 やっぱり、間違いなかったんだ。

 それから翔太とは別々の大学に進んだが、頻繁に会っては、恋人として一緒に過ごすようになった。
 翔太はいつも緊張している様だったけれど、俺は長年の望みが叶って嬉しかった。
 翔太が、なぜ自分を好きになったのか聞いて来たけれど、理由があまりにも非現実的だし、なんだか恥ずかしくて言うことが出来なかった。
 それからも、段々と夢の人物に翔太が近づいていくのを感じ、社会人になってから、俺は翔太に同棲しようと持ち掛け、今に至る。
 
 結局、翔太と付き合う事になっても、夢の内容は変わらなかった。
 相変わらず夢に出てくる人物には触れることが出来なかったし、夢の中の俺も、いつもと同じだと分かっていて、もう手を伸ばそうとはしていなかった。
 今回も同じなんだと思っていたら、初めて、夢の人物が俺に話しかけてきた。

「…直哉。俺を見つけてくれて、ありがとうーーー」
 
 そこで俺は目を覚ました。まさに今、目の前で眠っている翔太が、夢の人物の姿と一致したのだ。
 俺はゆっくりと手を伸ばして、眠っている翔太の頬に触れた。翔太は目を覚まして俺を見る。
「…どうした?」
 俺は少し寝ぼけた顔の翔太を見て微笑む。

 やっと、触れることができたーーー。

 俺はようやく、長年の夢を翔太に打ち明けようと口を開く。

「おはよう翔太。あのさ、笑わずに聞いてほしいんだけれどーーー」
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