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前編
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城を出てどれほど経っただろうか?
俺たちは今、ひたすら山道を歩き続けている。
周りには木々が生い茂っているが、歩道がきちんとしているので、歩くのには全く問題ない。
この道は誰かが整備している訳ではない。そして、獣が通って作った獣道でもない。
そう、この道は・・・俺が外の世界へ行くために出来た道なのだ。
この道を通るのも初めてだが、この道が出来たのは、俺の前を歩く人物が俺を導いているからだ。
俺は目の前の人物を追って、ただひたすら歩き続けているだけだ。
外の世界へ・・・実際に俺が外の世界へ向かう事になるとは全く思ってもいなかった。
俺はこの道を歩き、そして、その先まで辿り着くことが出来るのだろうか?
俺は歩きながらも空を見上げ、この道を歩く事になった始まりを思い出す。
少し時は戻る。
その日、俺はいつもの様に外で過ごしていた。
毎日同じ事の繰り返し。けれどもそれは、俺にとってちっとも苦にならない。
いつもの様に過ごしていると、遠く方から1人の人物が歩いて来るのが見えた。
この道を通る者はいつも決まっている。だから遠くにその人物が見えた時、俺はすぐに知らない奴だと気が付いた。
俺は動きを止め、じっとその人物が近づいて来るのを見つめていた。
その人物もやがて俺に気づき、そしてゆっくりと近づいてきた。
「少し尋ねたいのだが・・・この国の城へ向かうには、この道で合っているのだろうか?」
周りには誰も居らず、俺に話しかけているのは間違いない。けれど、俺は無言で相手の顔を見つめ続けていた。
その人物は旅人の格好をしていて、少し痩せ細っていたが、その瞳には相手を見抜くような鋭さがあった。
そんな目を俺が見つめ続けていると、相手は気まずそうな様子を見せ、目を逸らした。
「・・・作業中にすまなかった・・・知らなければ良いんだ」
そう言って、また歩き始めようとする。俺は慌てて我に返り答える。
「この道で合っている。このまま真っ直ぐ向かえば、すぐに城が見えてくる」
「そうか、ありがとう。邪魔して悪かった」
そう言ってチラリと俺の手元に目をやり、そのまま歩いて行ってしまった。
俺はその人物が見えなくなるまで見送っていた。
畑に立ち、両手に収穫したばかりの芋を握りしめながら・・・。
俺が城に戻り、身なりを整え応接の部屋へと向かうと、そこには蒸されて山盛りになっている芋を囲み、家族が一生懸命に食べていた。
「え!? 皆何してるの??? 来客は???」
「おう、戻ったか。待っていたぞ」
国王である父が、両手に芋を握り、口をハクハクさせながら俺に話しかけた。
「今回の芋も絶品ね。流石、リオルは美味しい芋を育てる才能があるわね」
母も手で口を抑え、モグモグと小さく口を動かしながら俺に向かって言う。
「母様、リオルの作ったものは全て絶品よ。あーほんと美味しいわこの芋。幾らでも食べられる・・・」
そう言って、誰よりも1番早いスピードで食べている姉。
家族に俺が作った芋を褒められ、美味しそうに食べてもらって悪い気はしない。嬉しくなって俺は答える。
「ありがとう・・・今年のは特に出来が良くて・・・って、違う!来客!!! おそらく“導く人"だ! え?来てない? まさかあの道を・・・迷子!?」
慌てる俺に、気付けば手に握っていた芋を食べ終えた父が答える。
「いや、いらっしゃったぞ? 今はもう客室で休んでもらっている。長旅だっただろうからお疲れの様子だったな」
「そうなの? じゃあとうとう・・・姉上そんなに芋を食べていて平気なんですか!? というか、この場の全員、芋食べている場合ですか!?」
1人声を上げる俺。けれども、家族全員手と口が止まらない。父上も次の芋行ってるし!
すると、母が俺に向かってにっこりと笑った。
「こんな状況だから、皆一生懸命にリオルの作ったお芋を食べているのよ」
「・・・どう言う事ですか?」
次の芋の半分を食べ終えた父が答えた。
「リオル、“導く人“はお前を選んだぞ」
「・・・へ? 冗談・・・ですよね・・・? だって・・・姉上は・・・?」
姉は両手で芋を持ち、交互に頬張りながら答えた。
「“導く人"は、この国で1番初めに出会ったリオルが気に入ったみたい。おめでとう」
「・・・え?」
この国で1番初めに出会ったから・・・?って、俺さっき土まみれで芋を両手に持って、畑に突っ立っていたよな?その俺を気に入った!? え!? おかしいだろ!?
俺は予想外の展開に混乱していた。
“導く人“が俺を選んだ? と言う事は、俺は・・・この国を出て行かなくてはいけない・・・そして・・・。
全く考えてもいなかった状況に、俺は言葉を失っていた。
だって、そんな覚悟・・・元々可能性すら・・・。
混乱している俺とは違って、家族はまだ芋を食べ続けている。
え? 何この状況? 泣いたら良いのか? 怒ったら良いのか?
すると母がようやく芋を食べる手を止め、立ち上がって俺に近づいてきた。
「リオル、大丈夫よ。私たち、この芋の味は決して忘れないわ」
「・・・」
・・・芋の味を忘れない。俺じゃない・・・芋の味・・・。
「母上・・・」
俺は様々な感情を飲み込み、母を見つめた。
「なあに?」
「口の端に芋が付いてますよ」
母は、ふふふと笑って、再び芋を食べようと席へ戻っていった。
次の日、俺は“導く人“と対面し、そしてすぐ、急かされるように城の外へと出ていた。
え? もう行かなくちゃいけないのか?
城の者が皆、お見送りをしてくれてる。家族もニコニコと俺を見送っている。
え? 昨日の今日で、え? そしてこの明るいお見送り・・・もしかして俺って厄介払い!?
昨日からずっと混乱している俺を他所に、“導く人“は皆にお辞儀をして、城を後に歩きだした。俺も慌てて後を追いかけるが、何度振り返っても、家族や城の者達はずっと変わらず笑顔で俺を見送っていた。
そしてそのまま、俺達はひたすら山道を歩き続けていたのだ。
「・・・」
「・・・」
お互い何も話さず、ただ歩きづける。流石にこのままでは不味いと思い、思い切って声を掛ける。
「あの・・・えっと、アルト王子?」
すると、目の前を歩く人物が足を止め、振り返って俺を見た。
「何か?」
「えっと・・・ちょっとお聞きしたいのですが、どうして俺を選んだのでしょうか?」
「選んだと言うほどでもないが・・・。私も聞きたいのだが、この国の者は皆・・・いや・・・妖精の血の者は、皆こんなにも、美しいのか?」
「え? まあ・・・美しいかはわからないけれど、皆顔は似ている・・・かな?」
そう、俺たちの国の者は、先祖に妖精が居た。
妖精は元々、人間界では特別な場所でしか生きられない。そして俺たちが住んでいる国は、ちょうど人間と妖精が共存出来る特別な場所だった。
その昔、この特別な場所で出会った人間と妖精が恋に落ち、そこで生まれた者達がこの国を作った。
その恋に落ちた妖精である俺の祖先は、子供が産まれてから、その場所にある特別な魔法をかけた。
あの国の者は、国の外へ出る事が出来ず、そして外部の者はあの国へ入る事が出来ない。
けれど、人間界に2重の虹がかかった時、国へ選ばれた者だけが入る事を許される。ちなみにどうやって選ばれるかは分からないが、どこかで妖精が判断していると言われている。
そうして俺たちの国へやって来た者は、この国で気に入った者を1人、人間界へ連れていく事が出来る。外部からやって来て、俺たちの誰か1人を連れて行く人物を、”導く人“と呼んでいる。
俺たち子孫は完全な妖精では無いから、人間界でも生きていく事が出来るのだ。
稀に2重の虹が繋るタイミングでなくても、人間界から妖精界にやって来て、そのまま住み着く者もいるが、その者は俺たちを外の世界に連れていく事は出来ない。
俺は先ほどから俺を見つめ続けるアルト王子を不思議に思う。そう言えば、顔が美しいとか言われていたな。
俺はずっとあの国にいて、皆似たような顔だから、顔が美しいとか分からない。
「アルト王子は、美しく・・・無い?」
「ずっと、母親に似て美しいと言われてきた。美しい顔だけが取り柄だと・・・いつも兄上や周りの者達に・・・」
「? 俺はよく分からないけれど、アルト王子は美しいのか」
「どうしてリオル王子は、私に付いて来たのだ?」
「え? 逆に聞かれている?」
俺は思わず空を仰ぐ。
先祖の妖精は、俺たち子孫にも、ある魔法を掛けたのだ。
妖精の血がある者は、人間とは違った特別な力がある。なので人間に悪用されないよう国にバリアを張り、人間との交流を防いだ。けれど人間の中には、妖精の俺たちを守れる程強い人間もいる。そのような人物と一緒なら、外の世界でも無事に生きていけるはずだから外に出ても大丈夫。けれど付いて行くのなら、先祖のようにその人間から愛される事が条件。愛されるのは素晴らしい事であり、その喜びは体験した方がいい。なので、選ばれたら強制的に国を出て行きなさい、と言う事だ。
なんたる事だ・・・過保護と理想の押し付けが強すぎる・・・。
そして今回選ばれたてしまったのが・・・俺である。
俺はアルト王子に簡単に国の成り立ちと、先祖の呪縛(もうこれは呪縛だと思っている)について説明した。・・・愛されるという部分は省いてだ。
「だから・・・俺たちは外から来た人に選ばれたら、強制的に付いていかなくちゃ行けない」
アルト王子は黙って最後まで話を聞き、しばらくしてから話し始めた。
「そう言うことか・・・私の国では、リオルの国は”妖精の国“と呼ばれているが、妖精の国へ行き、そこで妖精を連れて帰ってきたら、国が栄えると言われていた。
だから、妖精の国への道が通じた時、王族の者が迎えにいくのがしきたりとなっている。ちょうど5世代前の王が、妖精の国へ行き、妖精を連れ帰って来たのだ。歴代妖精を連れて来た王の治世は栄え、名誉ある者として名を刻まれている」
「じゃあ、そんな名誉な事をさせてもらえるアルト王子も、みんなに期待されているんだな」
「いや・・・やはり妖精の国へ行くには、そう簡単な事ではない。1人で挑まなくてはいけないし、実際、妖精の国を目指して命を落とした者もいる・・・私以外の者は、誰も挑戦しようとしなかったのだ。
実は今、私の国では大変な飢饉に見舞われていている。そしてちょうど空に2重の虹が掛かり、国民の皆が妖精の訪れを期待した。これでようやく救われると。そこで・・・私が選ばれたのだ。城の者は皆、私が妖精を連れて帰るとは思っていないようだったし、とにかく誰かが向かわないと、国民に示しがつかなくなっていた」
そう言って、アルト王子が俺から目を逸らす。
なるほど。人間の方も色々あるのか。
俺は改めてアルト王子に問いかける。
「で、俺を選んだ理由は?」
「・・・私は妖精が何か、全く知らなかったのだ。妖精を連れ帰った王は、歴史に名を残しているが、不思議と妖精の事は、全くと言って良いほど記述がないのだ。妖精がやって来た事実だけがあり、それ以外は一切何も分からないのだ。
だからその、妖精の姿が・・・人間のような者では無い可能性も想像していて・・・あの国に入り、初めて出会ったリオルを見て安心し、リオルが妖精だったら良いと思っただけだ。
私もリオルを見て、正直に言うが、私と共にいて、外見を比べられる事の無い程の者を初めて見た」
人型の俺に安心して選んだ・・・と言う事だよな。アルト王子の中で、妖精はいったいどんな姿だと思われていたのだろう・・・。
そして王子は改めて俺に向かい合った。
「正直、私自身も妖精を連れて帰れるとは思っていなかった。そして私は妖精の力を信じていない。
確かにあの国の食べ物はとても美味しかった。実際私も飢餓でずっとろくなものを食べていなかったのもあるが、私が食べさせてもらったものを、国の者達にも食べさせてやることが出来ればと思った。
けれどそれより、私は君を連れて帰る事により、私の立場が上がるのだ。すると私は今までと違った立場から国の為に出来る事が増える。妖精の力を頼るよりも、人としてやるべき事が沢山ある。
私は妖精の力を信じていないのだから、君に何かしてもらおうとは思っていない。出来るのであれば、私の国で作物を作ってくれれば助かる。ただそれだけだ。
だから、すぐにとは無理だが、国が落ち着けば君には国に帰ってもらってもいいと思っている」
俺は下を向く。
この王子は、何も知らないんだ。
祖先は子孫が人間界と関わりを持たないようにし、特定の人間のみが、俺たちをあの国から連れ出すことが出来るようにした。
そして・・・国の外へ連れ出す前には、最後の試験があると言う事を・・・。
俺たちは今、ひたすら山道を歩き続けている。
周りには木々が生い茂っているが、歩道がきちんとしているので、歩くのには全く問題ない。
この道は誰かが整備している訳ではない。そして、獣が通って作った獣道でもない。
そう、この道は・・・俺が外の世界へ行くために出来た道なのだ。
この道を通るのも初めてだが、この道が出来たのは、俺の前を歩く人物が俺を導いているからだ。
俺は目の前の人物を追って、ただひたすら歩き続けているだけだ。
外の世界へ・・・実際に俺が外の世界へ向かう事になるとは全く思ってもいなかった。
俺はこの道を歩き、そして、その先まで辿り着くことが出来るのだろうか?
俺は歩きながらも空を見上げ、この道を歩く事になった始まりを思い出す。
少し時は戻る。
その日、俺はいつもの様に外で過ごしていた。
毎日同じ事の繰り返し。けれどもそれは、俺にとってちっとも苦にならない。
いつもの様に過ごしていると、遠く方から1人の人物が歩いて来るのが見えた。
この道を通る者はいつも決まっている。だから遠くにその人物が見えた時、俺はすぐに知らない奴だと気が付いた。
俺は動きを止め、じっとその人物が近づいて来るのを見つめていた。
その人物もやがて俺に気づき、そしてゆっくりと近づいてきた。
「少し尋ねたいのだが・・・この国の城へ向かうには、この道で合っているのだろうか?」
周りには誰も居らず、俺に話しかけているのは間違いない。けれど、俺は無言で相手の顔を見つめ続けていた。
その人物は旅人の格好をしていて、少し痩せ細っていたが、その瞳には相手を見抜くような鋭さがあった。
そんな目を俺が見つめ続けていると、相手は気まずそうな様子を見せ、目を逸らした。
「・・・作業中にすまなかった・・・知らなければ良いんだ」
そう言って、また歩き始めようとする。俺は慌てて我に返り答える。
「この道で合っている。このまま真っ直ぐ向かえば、すぐに城が見えてくる」
「そうか、ありがとう。邪魔して悪かった」
そう言ってチラリと俺の手元に目をやり、そのまま歩いて行ってしまった。
俺はその人物が見えなくなるまで見送っていた。
畑に立ち、両手に収穫したばかりの芋を握りしめながら・・・。
俺が城に戻り、身なりを整え応接の部屋へと向かうと、そこには蒸されて山盛りになっている芋を囲み、家族が一生懸命に食べていた。
「え!? 皆何してるの??? 来客は???」
「おう、戻ったか。待っていたぞ」
国王である父が、両手に芋を握り、口をハクハクさせながら俺に話しかけた。
「今回の芋も絶品ね。流石、リオルは美味しい芋を育てる才能があるわね」
母も手で口を抑え、モグモグと小さく口を動かしながら俺に向かって言う。
「母様、リオルの作ったものは全て絶品よ。あーほんと美味しいわこの芋。幾らでも食べられる・・・」
そう言って、誰よりも1番早いスピードで食べている姉。
家族に俺が作った芋を褒められ、美味しそうに食べてもらって悪い気はしない。嬉しくなって俺は答える。
「ありがとう・・・今年のは特に出来が良くて・・・って、違う!来客!!! おそらく“導く人"だ! え?来てない? まさかあの道を・・・迷子!?」
慌てる俺に、気付けば手に握っていた芋を食べ終えた父が答える。
「いや、いらっしゃったぞ? 今はもう客室で休んでもらっている。長旅だっただろうからお疲れの様子だったな」
「そうなの? じゃあとうとう・・・姉上そんなに芋を食べていて平気なんですか!? というか、この場の全員、芋食べている場合ですか!?」
1人声を上げる俺。けれども、家族全員手と口が止まらない。父上も次の芋行ってるし!
すると、母が俺に向かってにっこりと笑った。
「こんな状況だから、皆一生懸命にリオルの作ったお芋を食べているのよ」
「・・・どう言う事ですか?」
次の芋の半分を食べ終えた父が答えた。
「リオル、“導く人“はお前を選んだぞ」
「・・・へ? 冗談・・・ですよね・・・? だって・・・姉上は・・・?」
姉は両手で芋を持ち、交互に頬張りながら答えた。
「“導く人"は、この国で1番初めに出会ったリオルが気に入ったみたい。おめでとう」
「・・・え?」
この国で1番初めに出会ったから・・・?って、俺さっき土まみれで芋を両手に持って、畑に突っ立っていたよな?その俺を気に入った!? え!? おかしいだろ!?
俺は予想外の展開に混乱していた。
“導く人“が俺を選んだ? と言う事は、俺は・・・この国を出て行かなくてはいけない・・・そして・・・。
全く考えてもいなかった状況に、俺は言葉を失っていた。
だって、そんな覚悟・・・元々可能性すら・・・。
混乱している俺とは違って、家族はまだ芋を食べ続けている。
え? 何この状況? 泣いたら良いのか? 怒ったら良いのか?
すると母がようやく芋を食べる手を止め、立ち上がって俺に近づいてきた。
「リオル、大丈夫よ。私たち、この芋の味は決して忘れないわ」
「・・・」
・・・芋の味を忘れない。俺じゃない・・・芋の味・・・。
「母上・・・」
俺は様々な感情を飲み込み、母を見つめた。
「なあに?」
「口の端に芋が付いてますよ」
母は、ふふふと笑って、再び芋を食べようと席へ戻っていった。
次の日、俺は“導く人“と対面し、そしてすぐ、急かされるように城の外へと出ていた。
え? もう行かなくちゃいけないのか?
城の者が皆、お見送りをしてくれてる。家族もニコニコと俺を見送っている。
え? 昨日の今日で、え? そしてこの明るいお見送り・・・もしかして俺って厄介払い!?
昨日からずっと混乱している俺を他所に、“導く人“は皆にお辞儀をして、城を後に歩きだした。俺も慌てて後を追いかけるが、何度振り返っても、家族や城の者達はずっと変わらず笑顔で俺を見送っていた。
そしてそのまま、俺達はひたすら山道を歩き続けていたのだ。
「・・・」
「・・・」
お互い何も話さず、ただ歩きづける。流石にこのままでは不味いと思い、思い切って声を掛ける。
「あの・・・えっと、アルト王子?」
すると、目の前を歩く人物が足を止め、振り返って俺を見た。
「何か?」
「えっと・・・ちょっとお聞きしたいのですが、どうして俺を選んだのでしょうか?」
「選んだと言うほどでもないが・・・。私も聞きたいのだが、この国の者は皆・・・いや・・・妖精の血の者は、皆こんなにも、美しいのか?」
「え? まあ・・・美しいかはわからないけれど、皆顔は似ている・・・かな?」
そう、俺たちの国の者は、先祖に妖精が居た。
妖精は元々、人間界では特別な場所でしか生きられない。そして俺たちが住んでいる国は、ちょうど人間と妖精が共存出来る特別な場所だった。
その昔、この特別な場所で出会った人間と妖精が恋に落ち、そこで生まれた者達がこの国を作った。
その恋に落ちた妖精である俺の祖先は、子供が産まれてから、その場所にある特別な魔法をかけた。
あの国の者は、国の外へ出る事が出来ず、そして外部の者はあの国へ入る事が出来ない。
けれど、人間界に2重の虹がかかった時、国へ選ばれた者だけが入る事を許される。ちなみにどうやって選ばれるかは分からないが、どこかで妖精が判断していると言われている。
そうして俺たちの国へやって来た者は、この国で気に入った者を1人、人間界へ連れていく事が出来る。外部からやって来て、俺たちの誰か1人を連れて行く人物を、”導く人“と呼んでいる。
俺たち子孫は完全な妖精では無いから、人間界でも生きていく事が出来るのだ。
稀に2重の虹が繋るタイミングでなくても、人間界から妖精界にやって来て、そのまま住み着く者もいるが、その者は俺たちを外の世界に連れていく事は出来ない。
俺は先ほどから俺を見つめ続けるアルト王子を不思議に思う。そう言えば、顔が美しいとか言われていたな。
俺はずっとあの国にいて、皆似たような顔だから、顔が美しいとか分からない。
「アルト王子は、美しく・・・無い?」
「ずっと、母親に似て美しいと言われてきた。美しい顔だけが取り柄だと・・・いつも兄上や周りの者達に・・・」
「? 俺はよく分からないけれど、アルト王子は美しいのか」
「どうしてリオル王子は、私に付いて来たのだ?」
「え? 逆に聞かれている?」
俺は思わず空を仰ぐ。
先祖の妖精は、俺たち子孫にも、ある魔法を掛けたのだ。
妖精の血がある者は、人間とは違った特別な力がある。なので人間に悪用されないよう国にバリアを張り、人間との交流を防いだ。けれど人間の中には、妖精の俺たちを守れる程強い人間もいる。そのような人物と一緒なら、外の世界でも無事に生きていけるはずだから外に出ても大丈夫。けれど付いて行くのなら、先祖のようにその人間から愛される事が条件。愛されるのは素晴らしい事であり、その喜びは体験した方がいい。なので、選ばれたら強制的に国を出て行きなさい、と言う事だ。
なんたる事だ・・・過保護と理想の押し付けが強すぎる・・・。
そして今回選ばれたてしまったのが・・・俺である。
俺はアルト王子に簡単に国の成り立ちと、先祖の呪縛(もうこれは呪縛だと思っている)について説明した。・・・愛されるという部分は省いてだ。
「だから・・・俺たちは外から来た人に選ばれたら、強制的に付いていかなくちゃ行けない」
アルト王子は黙って最後まで話を聞き、しばらくしてから話し始めた。
「そう言うことか・・・私の国では、リオルの国は”妖精の国“と呼ばれているが、妖精の国へ行き、そこで妖精を連れて帰ってきたら、国が栄えると言われていた。
だから、妖精の国への道が通じた時、王族の者が迎えにいくのがしきたりとなっている。ちょうど5世代前の王が、妖精の国へ行き、妖精を連れ帰って来たのだ。歴代妖精を連れて来た王の治世は栄え、名誉ある者として名を刻まれている」
「じゃあ、そんな名誉な事をさせてもらえるアルト王子も、みんなに期待されているんだな」
「いや・・・やはり妖精の国へ行くには、そう簡単な事ではない。1人で挑まなくてはいけないし、実際、妖精の国を目指して命を落とした者もいる・・・私以外の者は、誰も挑戦しようとしなかったのだ。
実は今、私の国では大変な飢饉に見舞われていている。そしてちょうど空に2重の虹が掛かり、国民の皆が妖精の訪れを期待した。これでようやく救われると。そこで・・・私が選ばれたのだ。城の者は皆、私が妖精を連れて帰るとは思っていないようだったし、とにかく誰かが向かわないと、国民に示しがつかなくなっていた」
そう言って、アルト王子が俺から目を逸らす。
なるほど。人間の方も色々あるのか。
俺は改めてアルト王子に問いかける。
「で、俺を選んだ理由は?」
「・・・私は妖精が何か、全く知らなかったのだ。妖精を連れ帰った王は、歴史に名を残しているが、不思議と妖精の事は、全くと言って良いほど記述がないのだ。妖精がやって来た事実だけがあり、それ以外は一切何も分からないのだ。
だからその、妖精の姿が・・・人間のような者では無い可能性も想像していて・・・あの国に入り、初めて出会ったリオルを見て安心し、リオルが妖精だったら良いと思っただけだ。
私もリオルを見て、正直に言うが、私と共にいて、外見を比べられる事の無い程の者を初めて見た」
人型の俺に安心して選んだ・・・と言う事だよな。アルト王子の中で、妖精はいったいどんな姿だと思われていたのだろう・・・。
そして王子は改めて俺に向かい合った。
「正直、私自身も妖精を連れて帰れるとは思っていなかった。そして私は妖精の力を信じていない。
確かにあの国の食べ物はとても美味しかった。実際私も飢餓でずっとろくなものを食べていなかったのもあるが、私が食べさせてもらったものを、国の者達にも食べさせてやることが出来ればと思った。
けれどそれより、私は君を連れて帰る事により、私の立場が上がるのだ。すると私は今までと違った立場から国の為に出来る事が増える。妖精の力を頼るよりも、人としてやるべき事が沢山ある。
私は妖精の力を信じていないのだから、君に何かしてもらおうとは思っていない。出来るのであれば、私の国で作物を作ってくれれば助かる。ただそれだけだ。
だから、すぐにとは無理だが、国が落ち着けば君には国に帰ってもらってもいいと思っている」
俺は下を向く。
この王子は、何も知らないんだ。
祖先は子孫が人間界と関わりを持たないようにし、特定の人間のみが、俺たちをあの国から連れ出すことが出来るようにした。
そして・・・国の外へ連れ出す前には、最後の試験があると言う事を・・・。
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