転生オメガの奮闘記

そらうみ

文字の大きさ
上 下
5 / 15
番なんて知るものか

アリスが教えてくれた事

しおりを挟む
オメガだけは絶対嫌だ。
というか絶対無理だ。


俺がオメガの存在を初めて知る日、
それは俺が10歳になる誕生日の朝だった。

その日は、屋敷中が朝から誕生日会の準備で騒がしかった。

俺は今日のために用意された衣装を来て部屋に居たのだが、
俺の様子を見にくる両親や兄は、しばらく俺を見ていると、手で口を抑えて部屋を出ていく。

俺、笑われてるのか?
何この衣装、そんなにおかしいのか?そんなに似合ってない?

俺が不安を抱えながら珍しく1人になった時、部屋をノックして入ってくる者がいた。

「失礼する。レオンス、お誕生日おめでとう。」

アリスがニッコリと微笑んで俺を祝ってくれた。
アリスはいつも兄と稽古の為か髪を一つにまとめていたが、今日はおろしている。
そして普段の動きやすそうなズボン姿から、今日は白いドレスを着ていた。

めちゃくちゃ可愛い!
お姫様って感じだ!

「アリスありがとう!ドレス姿凄く可愛い!」

女の子のアリスに対して素直に褒める事が出来る。
この世界で俺はアリスの年下だが、実際はアリスがずっと年下の感覚なのだ。

アリスがまたニッコリと微笑んでくれる。
そしてその微笑みと一緒に、いつもの爽やかな香りがする。
いや…いつもよりちょっと甘い感じがする。

「ありがとう。レオンスも素敵だよ。」

「本当!?おかしくない!?皆んな何も言わず口を抑えて出て行くから、
笑いを堪えられているのかと思ってた…。」

「ははっ。きっとレオンスが可愛すぎて耐えられなかったんだろう。」

はい、今日の可愛い頂きましたー。
今日は誰からも可愛いを言われないと思ったのにな…。
でもアリスに言われるのは…というか可愛い女の子に可愛いと言われるのはどうなのだろうか?
もう10歳なんですけど?流石に自分の容姿が心配になってくる。

俺の微妙な心境に気づかず、アリスが声をかけてくる。

「レオンスも10歳になるのか…ようやく血の儀式が出来るのだな。」

「その血の儀式…痛くない?」


これは誕生日が近づき教えてもらった事だ。
血の儀式では、特別な液体の入った壺に、血を数滴垂らす。
すると液体が血に反応して色が変わるのだ。

アリスがビビっている俺にまた微笑みながら話してくれる。

「大丈夫。指の先から少し血を垂らすだけだから、そんなに痛くないよ。
でもまあ儀式なんかしなくても、レオンスはオメガで間違いないけどね。」

「…オメガ?」

初めて聞く単語に、俺は混乱する。

あれ?ベータじゃなくて?というかオメガというのもあったのか?それが噂の珍しい血液型か?

「儀式の前までは、推測で言ってはいけないと言われているけど、儀式の当日に変わるとも思えないし。結局は迷信だしね。
まあ、みんなレオンスがオメガだって確信しているけれどね。」

「え?俺ベータじゃないの?」

「?ベータだと思っていたのか?そんな甘い匂いのするベータがいるはずないよ。」

俺が…甘い匂い?

「えっと…オメガって…アルファやベータと何が違うの?」

「レオンス…本当に何も知らなかったんだな。」

アリスが俺に近づく。

「私で良ければ簡単に説明するよ。夜まで時間はあるしね。」

俺は黙って頷き、そのままアリスと部屋のソファに並んで座った。


「人々は皆、アルファ、ベータ、そしてオメガに分かれている。
そしてこの3つに分かれたのが、この国が建国された時だと言われている。
レオンスも、建国の物語は知っているだろう?

神に悪事を働く怪物を、初代の王とその王を支えた人物が倒した物語だ。
怪物を倒した時、2人の功績に対して神が褒美を与えた。その褒美がアルファとオメガなんだ。

王とそのもう1人の人物は互いに愛しあっていたんだ。だが2人が愛し合っていても男だから子供は産まれない。
神は褒美として、2人に子供が出来るよう王をアルファに、そしてもう1人を子供の産めるオメガにしたのだ。

レオンス大丈夫か?何だか凄い顔をしているけど…続けて良いんだな?

初代の王はアルファになり、そしてオメガになった人物と結ばれ子供を作り、この国を作っていったんだ。
アルファとオメガで結ばれた2人を番と言うが、特に男のアルファと男のオメガの番はとても崇高なものとされている。
神に認められた2人とも言われるからね。

レオンス本当に大丈夫なのか?何だが顔が青白くないか?

…分かった続けるよ。もうほとんど終わりだけど。

アルファは初代の王と血のつながりがあると言われているが、オメガはどのような血筋で生まれてくるかは分からない。
そしてアルファとオメガは自然とお互いを求めあっていて互いに匂いを感じる。
そして、神より定められている番は…レオンス、本当に顔色が良くない。ちょっと休憩しよう。」

アリスが優しく俺の背中をさすってくれたが、俺は正直動揺しまくっていた。

…男が子供を産む?いやいやいやいやちょっと待て。なかなか衝撃的な話なのだが、まず差し当たっての問題がある。

「アリス…俺がオメガって…言ったよね?」

「?ああ言ったよ。ほぼほぼ間違いない。」

「俺、子供が産める…体なのか…?いやでもまだオメガと決まっていないし…というか別にもしオメガだとしても男と結婚する訳じゃないし!」

いつもと違う口調になっていたが、俺はそれどころではなかった。

「…レオンス、男のオメガは数が少なく貴重なんだ。男のオメガが生まれる事は一族にとって名誉な事だし、
そして先ほども言ったけど、男のアルファと男のオメガの番は何より崇高とされているんだよ。
きっとレオンスには沢山のアルファの男性から縁談が来るよ。それこそ、王族からだってあり得る。」

アリスが、恐ろしいことを言った。いっぱい言った。
俺、強制的に男と結婚させられる?
そして、王族からも?
王族の男と俺が…止めよう。何だが逃げたくなって来る。

「俺…女の子が好きなんだけど…。」

「…レオンス、アルファとオメガが結ばれるのは本当に素晴らしい事だと言われている。
きっと男女なんか関係ないんだよ。実際私も、みんなだって、レオンスの側にいるだけでとっても幸せになれるんだ。きっと番は男女なんて関係ない。自然と結ばれるのだと思う。」

アリスがそう言って俺を見つめる。

「レオンス。君は素晴らしい存在なんだ。
全く知らなかったから驚いているみたいだけど、私も、周りのみんなも君を誇りに思うよ。」

アリスはそう言っていつもの可愛い笑顔を向けてくれたが、俺の内心はそれどころではなかった。

オメガだけは絶対嫌だ。
というか絶対無理だ。


万が一、億が一、俺がオメガだったら…。


誕生日会が始まるまで、俺はそのままずっと放心状態になっていた。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

邪悪な魔術師の成れの果て

きりか
BL
邪悪な魔術師を倒し、歓喜に打ち震える人々のなか、サシャの足元には戦地に似つかわしくない赤子が…。その赤子は、倒したハズの魔術師と同じ瞳。邪悪な魔術師(攻)と、育ての親となったサシャ(受)のお話。 すみません!エチシーンが苦手で逃げてしまいました。 それでもよかったら、お暇つぶしに読んでくださいませ。

きっと世界は美しい

木原あざみ
BL
人気者美形×根暗。自分に自信のないトラウマ持ちが初めての恋に四苦八苦する話です。 ** 本当に幼いころ、世界は優しく正しいのだと信じていた。けれど、それはただの幻想だ。世界は不平等で、こんなにも息苦しい。 それなのに、世界の中心で笑っているような男に恋をしてしまった……というような話です。 大学生同士。リア充美形と根暗くんがアパートのお隣さんになったことで始まる恋の話。 「好きになれない」のスピンオフですが、話自体は繋がっていないので、この話単独でも問題なく読めると思います。 少しでも楽しんでいただければ嬉しいです。

すべてはあなたを守るため

高菜あやめ
BL
【天然超絶美形な王太子×妾のフリした護衛】 Y国の次期国王セレスタン王太子殿下の妾になるため、はるばるX国からやってきたロキ。だが妾とは表向きの姿で、その正体はY国政府の依頼で派遣された『雇われ』護衛だ。戴冠式を一か月後に控え、殿下をあらゆる刺客から守りぬかなくてはならない。しかしこの任務、殿下に素性を知られないことが条件で、そのため武器も取り上げられ、丸腰で護衛をするとか無茶な注文をされる。ロキははたして殿下を守りぬけるのか……愛情深い王太子殿下とポンコツ護衛のほのぼの切ないラブコメディです

お可愛らしいことで

野犬 猫兄
BL
漆黒の男が青年騎士を意地悪く可愛がっている話。

この噛み痕は、無効。

ことわ子
BL
執着強めのαで高校一年生の茜トキ×αアレルギーのβで高校三年生の品野千秋 α、β、Ωの三つの性が存在する現代で、品野千秋(しなのちあき)は一番人口が多いとされる平凡なβで、これまた平凡な高校三年生として暮らしていた。 いや、正しくは"平凡に暮らしたい"高校生として、自らを『αアレルギー』と自称するほど日々αを憎みながら生活していた。 千秋がαアレルギーになったのは幼少期のトラウマが原因だった。その時から千秋はαに対し強い拒否反応を示すようになり、わざわざαのいない高校へ進学するなど、徹底してαを避け続けた。 そんなある日、千秋は体育の授業中に熱中症で倒れてしまう。保健室で目を覚ますと、そこには親友の向田翔(むこうだかける)ともう一人、初めて見る下級生の男がいた。 その男と、トラウマの原因となった人物の顔が重なり千秋は混乱するが、男は千秋の混乱をよそに急に距離を詰めてくる。 「やっと見つけた」 男は誰もが見惚れる顔でそう言った。

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

思い込み激しめな友人の恋愛相談を、仕方なく聞いていただけのはずだった

たけむら
BL
「思い込み激しめな友人の恋愛相談を、仕方なく聞いていただけのはずだった」 大学の同期・仁島くんのことが好きになってしまった、と友人・佐倉から世紀の大暴露を押し付けられた名和 正人(なわ まさと)は、その後も幾度となく呼び出されては、恋愛相談をされている。あまりのしつこさに、八つ当たりだと分かっていながらも、友人が好きになってしまったというお相手への怒りが次第に募っていく正人だったが…?

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

処理中です...