転生オメガの奮闘記

そらうみ

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番なんて知るものか

アリスが教えてくれた事

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オメガだけは絶対嫌だ。
というか絶対無理だ。


俺がオメガの存在を初めて知る日、
それは俺が10歳になる誕生日の朝だった。

その日は、屋敷中が朝から誕生日会の準備で騒がしかった。

俺は今日のために用意された衣装を来て部屋に居たのだが、
俺の様子を見にくる両親や兄は、しばらく俺を見ていると、手で口を抑えて部屋を出ていく。

俺、笑われてるのか?
何この衣装、そんなにおかしいのか?そんなに似合ってない?

俺が不安を抱えながら珍しく1人になった時、部屋をノックして入ってくる者がいた。

「失礼する。レオンス、お誕生日おめでとう。」

アリスがニッコリと微笑んで俺を祝ってくれた。
アリスはいつも兄と稽古の為か髪を一つにまとめていたが、今日はおろしている。
そして普段の動きやすそうなズボン姿から、今日は白いドレスを着ていた。

めちゃくちゃ可愛い!
お姫様って感じだ!

「アリスありがとう!ドレス姿凄く可愛い!」

女の子のアリスに対して素直に褒める事が出来る。
この世界で俺はアリスの年下だが、実際はアリスがずっと年下の感覚なのだ。

アリスがまたニッコリと微笑んでくれる。
そしてその微笑みと一緒に、いつもの爽やかな香りがする。
いや…いつもよりちょっと甘い感じがする。

「ありがとう。レオンスも素敵だよ。」

「本当!?おかしくない!?皆んな何も言わず口を抑えて出て行くから、
笑いを堪えられているのかと思ってた…。」

「ははっ。きっとレオンスが可愛すぎて耐えられなかったんだろう。」

はい、今日の可愛い頂きましたー。
今日は誰からも可愛いを言われないと思ったのにな…。
でもアリスに言われるのは…というか可愛い女の子に可愛いと言われるのはどうなのだろうか?
もう10歳なんですけど?流石に自分の容姿が心配になってくる。

俺の微妙な心境に気づかず、アリスが声をかけてくる。

「レオンスも10歳になるのか…ようやく血の儀式が出来るのだな。」

「その血の儀式…痛くない?」


これは誕生日が近づき教えてもらった事だ。
血の儀式では、特別な液体の入った壺に、血を数滴垂らす。
すると液体が血に反応して色が変わるのだ。

アリスがビビっている俺にまた微笑みながら話してくれる。

「大丈夫。指の先から少し血を垂らすだけだから、そんなに痛くないよ。
でもまあ儀式なんかしなくても、レオンスはオメガで間違いないけどね。」

「…オメガ?」

初めて聞く単語に、俺は混乱する。

あれ?ベータじゃなくて?というかオメガというのもあったのか?それが噂の珍しい血液型か?

「儀式の前までは、推測で言ってはいけないと言われているけど、儀式の当日に変わるとも思えないし。結局は迷信だしね。
まあ、みんなレオンスがオメガだって確信しているけれどね。」

「え?俺ベータじゃないの?」

「?ベータだと思っていたのか?そんな甘い匂いのするベータがいるはずないよ。」

俺が…甘い匂い?

「えっと…オメガって…アルファやベータと何が違うの?」

「レオンス…本当に何も知らなかったんだな。」

アリスが俺に近づく。

「私で良ければ簡単に説明するよ。夜まで時間はあるしね。」

俺は黙って頷き、そのままアリスと部屋のソファに並んで座った。


「人々は皆、アルファ、ベータ、そしてオメガに分かれている。
そしてこの3つに分かれたのが、この国が建国された時だと言われている。
レオンスも、建国の物語は知っているだろう?

神に悪事を働く怪物を、初代の王とその王を支えた人物が倒した物語だ。
怪物を倒した時、2人の功績に対して神が褒美を与えた。その褒美がアルファとオメガなんだ。

王とそのもう1人の人物は互いに愛しあっていたんだ。だが2人が愛し合っていても男だから子供は産まれない。
神は褒美として、2人に子供が出来るよう王をアルファに、そしてもう1人を子供の産めるオメガにしたのだ。

レオンス大丈夫か?何だか凄い顔をしているけど…続けて良いんだな?

初代の王はアルファになり、そしてオメガになった人物と結ばれ子供を作り、この国を作っていったんだ。
アルファとオメガで結ばれた2人を番と言うが、特に男のアルファと男のオメガの番はとても崇高なものとされている。
神に認められた2人とも言われるからね。

レオンス本当に大丈夫なのか?何だが顔が青白くないか?

…分かった続けるよ。もうほとんど終わりだけど。

アルファは初代の王と血のつながりがあると言われているが、オメガはどのような血筋で生まれてくるかは分からない。
そしてアルファとオメガは自然とお互いを求めあっていて互いに匂いを感じる。
そして、神より定められている番は…レオンス、本当に顔色が良くない。ちょっと休憩しよう。」

アリスが優しく俺の背中をさすってくれたが、俺は正直動揺しまくっていた。

…男が子供を産む?いやいやいやいやちょっと待て。なかなか衝撃的な話なのだが、まず差し当たっての問題がある。

「アリス…俺がオメガって…言ったよね?」

「?ああ言ったよ。ほぼほぼ間違いない。」

「俺、子供が産める…体なのか…?いやでもまだオメガと決まっていないし…というか別にもしオメガだとしても男と結婚する訳じゃないし!」

いつもと違う口調になっていたが、俺はそれどころではなかった。

「…レオンス、男のオメガは数が少なく貴重なんだ。男のオメガが生まれる事は一族にとって名誉な事だし、
そして先ほども言ったけど、男のアルファと男のオメガの番は何より崇高とされているんだよ。
きっとレオンスには沢山のアルファの男性から縁談が来るよ。それこそ、王族からだってあり得る。」

アリスが、恐ろしいことを言った。いっぱい言った。
俺、強制的に男と結婚させられる?
そして、王族からも?
王族の男と俺が…止めよう。何だが逃げたくなって来る。

「俺…女の子が好きなんだけど…。」

「…レオンス、アルファとオメガが結ばれるのは本当に素晴らしい事だと言われている。
きっと男女なんか関係ないんだよ。実際私も、みんなだって、レオンスの側にいるだけでとっても幸せになれるんだ。きっと番は男女なんて関係ない。自然と結ばれるのだと思う。」

アリスがそう言って俺を見つめる。

「レオンス。君は素晴らしい存在なんだ。
全く知らなかったから驚いているみたいだけど、私も、周りのみんなも君を誇りに思うよ。」

アリスはそう言っていつもの可愛い笑顔を向けてくれたが、俺の内心はそれどころではなかった。

オメガだけは絶対嫌だ。
というか絶対無理だ。


万が一、億が一、俺がオメガだったら…。


誕生日会が始まるまで、俺はそのままずっと放心状態になっていた。




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