学園の俺様と、辺境地の僕

そらうみ

文字の大きさ
上 下
6 / 12
後編

6

しおりを挟む
「で!?どうなったんだ!?」
 翌日、部屋で僕はマイクに詰め寄られていた。
 昨日、ルーンは会場に着いて僕の姿が見当たらないのに気づき、マイクに僕の事を聞いたようだ。
 体調不良だと聞くと、そのまま会場を抜け出して僕の所に来たようで、皆がルーンがどこへ行ったのか気になっていたようだ。
 僕はマイクに、昨日の庭園での事を話した。
 ルーンに今後関わらないで欲しいと言ったけれど、ルーンが関りを切らないで欲しいと言われた事を話した。
「微妙に進展して…ないな?」
 何故か、マイクがじれったそうに言う。
「けれど、僕はルーンの気持ちが分かったよ」
「え、ええっ!?!?」
「僕は元々、身分違いの付き合いに馴染んでない。だから、ルーンは僕が、他の人と比べて三大貴族だからって愛想よくせず、どちらかと言えば軽蔑してたのに気づいてみたいだ。だからそれが気になってたんだろうね」
「軽蔑…」
「だって、自分の立場を分かっての態度がどうしても不愉快だったし、こちらの事を考えずに、自分が思っている事が正しいんだって感じで接してくるのもどうかと思っていたんだ。こちらの事を考えずにぐいぐいくるし…」
「待て。待て待て待て。何だか聞いてるこっちが悲しくなってきた。お前、ルーンをそういう風に思っていたのか?」
「そうみたいだね。あんまり考えないようにしていたけど」
「…っ。…で?関わる関わらないはどうするんだ?俺のランチタイムに平穏は訪れるのか?」
「もう少しだけルーンと過ごしてみるよ。それでもやっぱり関わりたくないと思ったら、もう退学する気でいる」
「…平穏は諦めた。俺ももう少し付き合うわ」
「あぁ、それだけれどさ…」
 僕がマイクに言うと、マイクは今までで一番驚いた表情で僕を見ていた。

 その日の昼食の時間。僕は学園の庭園に来ていた。
 昨日の夜、本当にここに立っていたのかと思うほど、雰囲気が違った。
 僕は何となく自分の両手を見る。昨日、ルーンはこの手を握っていた。
 本当に、ルーンはどうしてそんなにも僕の事が気になるんだ?
 その時、後ろからいきなりルーンが現れた。
「悪い、待ったか?」
「いや…今来たところ」
 僕は必死に動機を抑えていた。
 ルーンは昨日の事は少しも気にしていないようで、二人で空いているベンチに腰掛ける。
 そして食堂でもらったランチボックスを開けて、昼食を取り始めた。
 僕はこれからルーンと関わっていくことで決めたことがある。
 2人で昼食を取る事、そして、友人のように接するという事だ。
 昼食に関しては、ずっとマイクを付き合わせて申し訳なく思っていたし、いつも僕とジャンさんで話しているから、ルーンとはきちんと話せていなかった。
 だから、あえて二人になることで、ルーンと向き合おうと思ったのだ。
 そして、ルーンを三大貴族として接しない事にした。
 元々、そんなに意識してはいなかったけど、それでも肩書のない状態で付き合ってみることにした。
 要はルーンと僕は、友達のようになれるかどうかを試すのだ。
 目標設定が曖昧だから友達になる感覚でいればいいんだろうけれど…友達ってなろうとしてなるものか?と思ったのは言わないことにした。
 それにしても、庭園を見ながら昼食を取るのは気分が良かった。今まで食堂ではみんなの視線を感じていたし、外で食べるのも悪くない。
「俺が…」
「…ん?」
 ルーンが視線を合わさずに話す。
「俺がこの前引き抜いてしまった草は、どうしたんだ?」
「…?あ、ああ。元に戻したよ」
「大丈夫だったのか?」
「まあすぐに戻したし、元々丈夫なのだったから、今あそこで青い花を咲かせている辺りがそうだよ」
「そうか…」
「気にしてたんだ?」
「まぁ、カイルが大事に育てていたんだろ?」
「僕っていうより、ほとんど庭師の人が育ててるんだけど…。ルーンもそういう事気にするんだ」
「…」
 ルーンは黙ってしまったが、僕は正直驚いていた。
 ルーンが草の心配をするだなんて。
「ふ~ん」
 僕は何故か可笑しかったが、笑うと怒られそうなので、堪えて昼食を食べた。

 それから僕は、ルーンと過ごすことが増えていった。
 昼食はもちろん、僕を見かけたらルーンが声を掛けてくるし、授業が終わってからは、何故かルーンが僕と一緒に過ごすようになっていた。
 僕は図書室で勉強する事が多かったので、ルーンも僕の隣で勉強するようになっていた。
 一緒に居ても何か特別な事を話すわけでもないし、いつも何を話しているのかと聞かれても答えるような内容ではなかった。(実際マイクがたまに聞いてきた)けれど、前よりもルーンは僕の話を聞いてくれたし、授業の内容を話すことも多くなっていた。
 周りもなぜか、ダンスパーティー以降僕に質問してくる者もいなくて、以前よりも、もっと遠くから見守られているようだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

とある文官のひとりごと

きりか
BL
貧乏な弱小子爵家出身のノア・マキシム。 アシュリー王国の花形騎士団の文官として、日々頑張っているが、学生の頃からやたらと絡んでくるイケメン部隊長であるアベル・エメを大の苦手というか、天敵認定をしていた。しかし、ある日、父の借金が判明して…。 基本コメディで、少しだけシリアス? エチシーンところか、チュッどまりで申し訳ございません(土下座) ムーンライト様でも公開しております。

悩める文官のひとりごと

きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。 そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。 エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。 ムーンライト様にも掲載しております。 

もう遅いなんて言わせない

木葉茶々
BL
受けのことを蔑ろにしすぎて受けに出ていかれてから存在の大きさに気づき攻めが奮闘する話

どこにでもある話と思ったら、まさか?

きりか
BL
ストロベリームーンとニュースで言われた月夜の晩に、リストラ対象になった俺は、アルコールによって現実逃避をし、異世界転生らしきこととなったが、あまりにありきたりな展開に笑いがこみ上げてきたところ、イケメンが2人現れて…。

憧れていた天然色

きりか
BL
母という名ばかりの女と、継父に虐げられていた、オメガの僕。ある日、新しい女のもとに継父が出ていき、火災で母を亡くしたところ、憧れの色を纏っていたアルファの同情心を煽り…。 オメガバースですが、活かしきれていなくて申し訳ないです。

邪悪な魔術師の成れの果て

きりか
BL
邪悪な魔術師を倒し、歓喜に打ち震える人々のなか、サシャの足元には戦地に似つかわしくない赤子が…。その赤子は、倒したハズの魔術師と同じ瞳。邪悪な魔術師(攻)と、育ての親となったサシャ(受)のお話。 すみません!エチシーンが苦手で逃げてしまいました。 それでもよかったら、お暇つぶしに読んでくださいませ。

【完結】嬉しいと花を咲かせちゃう俺は、モブになりたい

古井重箱
BL
【あらすじ】三塚伊織は高校一年生。嬉しいと周囲に花を咲かせてしまう特異体質の持ち主だ。伊織は感情がダダ漏れな自分が嫌でモブになりたいと願っている。そんな時、イケメンサッカー部員の鈴木綺羅斗と仲良くなって──【注記】陽キャDK×陰キャDK

幸せになりたかった話

幡谷ナツキ
BL
 このまま幸せでいたかった。  このまま幸せになりたかった。  このまま幸せにしたかった。  けれど、まあ、それと全部置いておいて。 「苦労もいつかは笑い話になるかもね」  そんな未来を想像して、一歩踏み出そうじゃないか。

処理中です...