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鬼ヶ島にて
決心
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桃太郎は少年と話す事により、ようやく決心がついた。そして少年に別れを告げ、ゆっくりと暗闇の道へと戻って行く。
暗闇の中を歩いているというのに、桃太郎は恐れる事なく進んで行く。この洞窟では一度も壁にぶつかったり、何かにつまづく事がなかった。きっとそういう場所なのだと思う。ただ、桃太郎がこの洞窟へやって来たのは二度目になる。その事だけが気になったが、今さら後戻りできる訳でもないし少年と一緒にいても洞窟を出られるとは思わなかった。
とにかくこの道を進んで行くしかない。これ以外に方法はないのだ。そして桃太郎は歩きながら考える。六が島に帰ってきて、再び出会う事が出来れば私はどうすればいいのか。
六の望みを自分が叶えてやれるか分からない。以前に部屋で六が欲しいと言っても、六は私を受け入れてはくれなかった。六はこの島でのんびりと暮らしたい訳ではないのだ。私は六を、この島から、鬼の大将である事から、そして憎悪の輪廻の輪から抜け出せるようにしなければならない。
そう考えながら、桃太郎は暗闇の中で小さく笑ってしまった。六は私にとんでもなく大層なことを求めていたんだな。けれどそれが出来ると信じて、私の言葉を信じてずっと生きて来たんだ。いや・・・信じているよりも、六自身も分かっていたのかも知れない。私にそんな大層な事が出来る訳ないと。けれどそれでも、それしか望みはなかったのだろう。そして私が無力だとしり、六は私から離れたんだ。
私は早く、六に合わなくてはならないーーー。
しかし、いくら進んでも出口に近付いている様子が全くなかった。早くこの洞窟から出ないと行けないという焦りと、一方で妙な落ち着きがあった。
この洞窟は実際の洞窟とは違う。心の内面が反映されている場所であり、そしてとても神聖な場所なのだ。この洞窟に対して考えを改め、焦る気持ちを抑え、そしてひたすら立ち止まらず進んで行く。それしかこの洞窟から抜け出す方法は無いのだと桃太郎は分かっていた。そして焦りを抑え、無心で歩き進んでいると、ふとある考えが浮かんだ。そして歩きながらその考えに浸っていた。きっと今この場所で考えた事に意味があると思えてきた。そして、桃太郎の中である考えがまとまった時、先の方から誰かの気配がした。足を止め、その気配を探ると、相手はゆっくりと桃太郎に近付いていた。暗闇の中なのに、相手の姿がぼんやりと浮かんでいるように見える。弱くても、まるで自ら光を放っているように思えた。
そしてその人物は桃太郎のすぐ近くにとなり、そして優しく微笑んだかのような雰囲気が伝わってきた。
「桃太郎さん。お迎えに来ましたよ」
「その声は・・・椿なのか?」
すると、相手が微笑みを深めたような感じがした。
「そうです。私はどうも人の姿が派手で、こんな暗闇ですら自分の姿が浮かんでくる有様です。けれど・・・今回に限っては、自分の容姿が良かったと思えました」
そして、目の前の人物は手を伸ばした。
「さあ行きましょう。あまり時間はありません。六様が島に帰って来てから、三田様が六様に大将の座をかけ、勝負を挑もうとしています」
桃太郎はゆっくりと手を差し出し、椿の手を握った。
「六は・・・三田に殺されようとしている」
椿は桃太郎の手を強く握りしめた。
「ーーー急ぎましょう」
そしてその手を引き、洞窟の外へと向かっていった。
鬼ヶ島の開けた場所で、六と三田が向かい合っていた。そしてその周りには、島の鬼達全員が集まり、2人の様子を見守っていた。
その中に犬のミズキと猿の吉も紛れていた。誰も動かず、まるでその空間だけ時が止まっていたようだが、やがて三田が動いた。2人は武器を持っていなかったが、明らかにいつもの練習とは違う戦いをしていた。特に三田は六への攻撃に躊躇いがなく、その目には六への尊敬や忠義心が消え、ただ冷静に相手を捉えていた。六は三田の攻撃を受け流しつつ、隙をうかがっているようだった。そんな2人を誰も止める事なく、周りの者はじっと見つめている。皆はこの戦いが鬼の大将の座を賭けたものだと分かっていて、負けた方は命を落とす事も分かっていた。冷静な鬼達とは対照的に、ミズキは2人の戦いの様子を心配そうに眺め、そして吉は何かを考えているかのように時折視線をそらしながら戦いを見ていた。すると、後ろから2人に声をかける者がいた。
「ミズキ、吉」
吉はすぐさま後ろを振り返り、その姿を確かめるとミズキを引っ張って観衆の後方へ移動した。六と三田の戦いは続き、周りの鬼達はミズキと吉がその場を離れた事にも気付いていなかった。
「椿の人の姿を見たのは久々だなぁ」
吉は自分達を呼んだ椿を眺めながら言った。椿は小さくため息をつき、吉を見る。
「吉が私の人の姿を盗み見たのを思い出しましたよ。もう二度と、あなたに姿を見せまいと誓っていたのですがね」
「いやぁこんな時にはその姿は役に立つ。もしやと思ってすぐに駆け付ける事が出来やしたね」
するとミズキが2人の会話に割り込んできた。
「今はそんな事を話している場合じゃない。椿、桃太郎さんは見つかったのか?」
「ええ。先ほど洞窟から連れ出して来ましたよ。そして2人に、桃太郎さんからの言付けがあるんです」
そう言って椿はミズキと吉に話をする。3人が話しているまさにその時、広場の方では六と三田の戦いに進展があった。
三田の攻撃が六に入るようになり、三田が優勢になり始めていた。六は鬼の中で1番強いと言われていたが、三田の攻撃は六に匹敵する動きを見せていた。周りの鬼達も三田の強さを認め、じっと戦いの行方を見ている。しかし戦っている三田だけは気が付いていた。六は全力を出していない訳ではなく、全力が出せていない。
この数年間、三田は六の側に仕えていたが、六が三田に指導するのは、いつも鬼の将来の事を見据えていた。その姿を見ながら三田は六を尊敬していたのが、一方でその行為は、三田を次の大将へと育てる為であったと気が付いた。そして今、六に大将の座をかけて戦いを挑むまでになってしまっていた。三田も、どうしてこの流れになってしまったのか分からない。けれど、すべて六がここまで考えて行った事なのだと思えた。そして今、六が三田に敗れようとしている。
六は決して手を抜いている訳ではない。そんな事をすればすぐに三田には分かる。周りに分からないように手を抜く事は出来るかも知れないが、三田にそれは通用しない。六はただ、全力が出せなくなっているのだ。それは手を抜いているのとは違う。この違いを分かっているのは三田しかいない。もし始めから六が手を抜く戦いをするのなら、三田はすぐにでもこの戦いを降りていただろう。けれど、今目の前にいる六は本当に全力で戦っている。そして、今の六では三田に勝てないのだ。大将を交代するのが六の目的だったとして、それを意図的にしようとしていても、手を抜くなどといった行為はせず、ただ自然と三田が優勢になる状況なのだ。もしかしたら、三田が現時点で六より力が無ければ、六は容赦なく三田を倒していただろう。
三田はそんな思いを胸に、六への攻撃を加えていく。決して最後まで油断せず、冷静に六を追い詰めていく。そしてやがて三田の攻撃を受け、六が三田に倒されてしまった。
桃太郎は洞窟出て、遠くの高台から六と三田の戦いを眺めていた。そしてまさに今、六が三田に倒され三田が立ち上がって周りの鬼達に宣言しているところだった。
「私は今、六に勝利した。そしてこれからは私が鬼の大将となる。まず初めに、鬼の掟に従い、敗れた六にとどめを刺す」
周りの鬼達は三田の声をきき、跪いて頭を下げた。三田は倒れた六から距離を置き、周りの鬼達を眺めていた。そしてふと、遠くの方でこちらを見ている人物に気が付いた。桃太郎がそこに立っていてこちらを見ている。この間まで、六が居なくなり気力の失っていた様子から変わり、今の桃太郎は力強く立ってこちらを見ていた。三田は少し笑いながら、桃太郎を指さした。
「あそこに居るのは、鬼ヶ島にやって来た桃太郎だ。どうやら二度洞窟へと入って、二度も無事に戻って来たようだ。今まで二度もあの洞窟へ足を踏み入れたものはいない。私は桃太郎に敬意を表す。そして、桃太郎は以前の大将のモノだったが、今は私が大将だ。大将のモノはそのまま私のモノだ」
鬼達が少し頭を上げて桃太郎を見ていた。そして倒れたままの六は全く反応しない。
桃太郎は三田の宣言を聞きながら、ずっと六を見ていた。そしてゆっくりと、その場へ近付いていった。鬼達は近付いてきた桃太郎に道を空けた。そのまま三田の側に行くのだと思ったが、桃太郎は六の側に行き、その場にしゃがみ込んだ。六は仰向けに倒れ、うっすらと目を開けていた。桃太郎は六に囁く。
「六、待たせた。先ほどまで君に会っていたんだ。六が望む通り、鬼の輪廻から解放してあげたい。私と共に来てくれ」
そう言って桃太郎は六を担ぎ、ゆっくりと立ち上がった。身長差のある六を、桃太郎が軽々と持ち上げていた。周りの鬼達はざわめいていたが、三田はその様子を見ながら、桃太郎に変化があったのを確信した。そして冷たいめで桃太郎を見た。
「桃太郎ーーー六は私に殺されなければならない。六を下すんだ」
桃太郎は三田を見つめ、六を下ろそうとしなかった。
「もし私が六を渡さなければ、私はどうなるんだ?」
「鬼の大将に逆らった事になる。それがどういう事か、桃太郎にはわかるだろ?」
「そうだな。鬼ヶ島では大将は絶対だ。そして私は鬼の大将に逆らったという事で罪人だ。だからーーー今から罪を償おうと思う」
そう言って、桃太郎は六を抱えたままその場から駆け出した。
暗闇の中を歩いているというのに、桃太郎は恐れる事なく進んで行く。この洞窟では一度も壁にぶつかったり、何かにつまづく事がなかった。きっとそういう場所なのだと思う。ただ、桃太郎がこの洞窟へやって来たのは二度目になる。その事だけが気になったが、今さら後戻りできる訳でもないし少年と一緒にいても洞窟を出られるとは思わなかった。
とにかくこの道を進んで行くしかない。これ以外に方法はないのだ。そして桃太郎は歩きながら考える。六が島に帰ってきて、再び出会う事が出来れば私はどうすればいいのか。
六の望みを自分が叶えてやれるか分からない。以前に部屋で六が欲しいと言っても、六は私を受け入れてはくれなかった。六はこの島でのんびりと暮らしたい訳ではないのだ。私は六を、この島から、鬼の大将である事から、そして憎悪の輪廻の輪から抜け出せるようにしなければならない。
そう考えながら、桃太郎は暗闇の中で小さく笑ってしまった。六は私にとんでもなく大層なことを求めていたんだな。けれどそれが出来ると信じて、私の言葉を信じてずっと生きて来たんだ。いや・・・信じているよりも、六自身も分かっていたのかも知れない。私にそんな大層な事が出来る訳ないと。けれどそれでも、それしか望みはなかったのだろう。そして私が無力だとしり、六は私から離れたんだ。
私は早く、六に合わなくてはならないーーー。
しかし、いくら進んでも出口に近付いている様子が全くなかった。早くこの洞窟から出ないと行けないという焦りと、一方で妙な落ち着きがあった。
この洞窟は実際の洞窟とは違う。心の内面が反映されている場所であり、そしてとても神聖な場所なのだ。この洞窟に対して考えを改め、焦る気持ちを抑え、そしてひたすら立ち止まらず進んで行く。それしかこの洞窟から抜け出す方法は無いのだと桃太郎は分かっていた。そして焦りを抑え、無心で歩き進んでいると、ふとある考えが浮かんだ。そして歩きながらその考えに浸っていた。きっと今この場所で考えた事に意味があると思えてきた。そして、桃太郎の中である考えがまとまった時、先の方から誰かの気配がした。足を止め、その気配を探ると、相手はゆっくりと桃太郎に近付いていた。暗闇の中なのに、相手の姿がぼんやりと浮かんでいるように見える。弱くても、まるで自ら光を放っているように思えた。
そしてその人物は桃太郎のすぐ近くにとなり、そして優しく微笑んだかのような雰囲気が伝わってきた。
「桃太郎さん。お迎えに来ましたよ」
「その声は・・・椿なのか?」
すると、相手が微笑みを深めたような感じがした。
「そうです。私はどうも人の姿が派手で、こんな暗闇ですら自分の姿が浮かんでくる有様です。けれど・・・今回に限っては、自分の容姿が良かったと思えました」
そして、目の前の人物は手を伸ばした。
「さあ行きましょう。あまり時間はありません。六様が島に帰って来てから、三田様が六様に大将の座をかけ、勝負を挑もうとしています」
桃太郎はゆっくりと手を差し出し、椿の手を握った。
「六は・・・三田に殺されようとしている」
椿は桃太郎の手を強く握りしめた。
「ーーー急ぎましょう」
そしてその手を引き、洞窟の外へと向かっていった。
鬼ヶ島の開けた場所で、六と三田が向かい合っていた。そしてその周りには、島の鬼達全員が集まり、2人の様子を見守っていた。
その中に犬のミズキと猿の吉も紛れていた。誰も動かず、まるでその空間だけ時が止まっていたようだが、やがて三田が動いた。2人は武器を持っていなかったが、明らかにいつもの練習とは違う戦いをしていた。特に三田は六への攻撃に躊躇いがなく、その目には六への尊敬や忠義心が消え、ただ冷静に相手を捉えていた。六は三田の攻撃を受け流しつつ、隙をうかがっているようだった。そんな2人を誰も止める事なく、周りの者はじっと見つめている。皆はこの戦いが鬼の大将の座を賭けたものだと分かっていて、負けた方は命を落とす事も分かっていた。冷静な鬼達とは対照的に、ミズキは2人の戦いの様子を心配そうに眺め、そして吉は何かを考えているかのように時折視線をそらしながら戦いを見ていた。すると、後ろから2人に声をかける者がいた。
「ミズキ、吉」
吉はすぐさま後ろを振り返り、その姿を確かめるとミズキを引っ張って観衆の後方へ移動した。六と三田の戦いは続き、周りの鬼達はミズキと吉がその場を離れた事にも気付いていなかった。
「椿の人の姿を見たのは久々だなぁ」
吉は自分達を呼んだ椿を眺めながら言った。椿は小さくため息をつき、吉を見る。
「吉が私の人の姿を盗み見たのを思い出しましたよ。もう二度と、あなたに姿を見せまいと誓っていたのですがね」
「いやぁこんな時にはその姿は役に立つ。もしやと思ってすぐに駆け付ける事が出来やしたね」
するとミズキが2人の会話に割り込んできた。
「今はそんな事を話している場合じゃない。椿、桃太郎さんは見つかったのか?」
「ええ。先ほど洞窟から連れ出して来ましたよ。そして2人に、桃太郎さんからの言付けがあるんです」
そう言って椿はミズキと吉に話をする。3人が話しているまさにその時、広場の方では六と三田の戦いに進展があった。
三田の攻撃が六に入るようになり、三田が優勢になり始めていた。六は鬼の中で1番強いと言われていたが、三田の攻撃は六に匹敵する動きを見せていた。周りの鬼達も三田の強さを認め、じっと戦いの行方を見ている。しかし戦っている三田だけは気が付いていた。六は全力を出していない訳ではなく、全力が出せていない。
この数年間、三田は六の側に仕えていたが、六が三田に指導するのは、いつも鬼の将来の事を見据えていた。その姿を見ながら三田は六を尊敬していたのが、一方でその行為は、三田を次の大将へと育てる為であったと気が付いた。そして今、六に大将の座をかけて戦いを挑むまでになってしまっていた。三田も、どうしてこの流れになってしまったのか分からない。けれど、すべて六がここまで考えて行った事なのだと思えた。そして今、六が三田に敗れようとしている。
六は決して手を抜いている訳ではない。そんな事をすればすぐに三田には分かる。周りに分からないように手を抜く事は出来るかも知れないが、三田にそれは通用しない。六はただ、全力が出せなくなっているのだ。それは手を抜いているのとは違う。この違いを分かっているのは三田しかいない。もし始めから六が手を抜く戦いをするのなら、三田はすぐにでもこの戦いを降りていただろう。けれど、今目の前にいる六は本当に全力で戦っている。そして、今の六では三田に勝てないのだ。大将を交代するのが六の目的だったとして、それを意図的にしようとしていても、手を抜くなどといった行為はせず、ただ自然と三田が優勢になる状況なのだ。もしかしたら、三田が現時点で六より力が無ければ、六は容赦なく三田を倒していただろう。
三田はそんな思いを胸に、六への攻撃を加えていく。決して最後まで油断せず、冷静に六を追い詰めていく。そしてやがて三田の攻撃を受け、六が三田に倒されてしまった。
桃太郎は洞窟出て、遠くの高台から六と三田の戦いを眺めていた。そしてまさに今、六が三田に倒され三田が立ち上がって周りの鬼達に宣言しているところだった。
「私は今、六に勝利した。そしてこれからは私が鬼の大将となる。まず初めに、鬼の掟に従い、敗れた六にとどめを刺す」
周りの鬼達は三田の声をきき、跪いて頭を下げた。三田は倒れた六から距離を置き、周りの鬼達を眺めていた。そしてふと、遠くの方でこちらを見ている人物に気が付いた。桃太郎がそこに立っていてこちらを見ている。この間まで、六が居なくなり気力の失っていた様子から変わり、今の桃太郎は力強く立ってこちらを見ていた。三田は少し笑いながら、桃太郎を指さした。
「あそこに居るのは、鬼ヶ島にやって来た桃太郎だ。どうやら二度洞窟へと入って、二度も無事に戻って来たようだ。今まで二度もあの洞窟へ足を踏み入れたものはいない。私は桃太郎に敬意を表す。そして、桃太郎は以前の大将のモノだったが、今は私が大将だ。大将のモノはそのまま私のモノだ」
鬼達が少し頭を上げて桃太郎を見ていた。そして倒れたままの六は全く反応しない。
桃太郎は三田の宣言を聞きながら、ずっと六を見ていた。そしてゆっくりと、その場へ近付いていった。鬼達は近付いてきた桃太郎に道を空けた。そのまま三田の側に行くのだと思ったが、桃太郎は六の側に行き、その場にしゃがみ込んだ。六は仰向けに倒れ、うっすらと目を開けていた。桃太郎は六に囁く。
「六、待たせた。先ほどまで君に会っていたんだ。六が望む通り、鬼の輪廻から解放してあげたい。私と共に来てくれ」
そう言って桃太郎は六を担ぎ、ゆっくりと立ち上がった。身長差のある六を、桃太郎が軽々と持ち上げていた。周りの鬼達はざわめいていたが、三田はその様子を見ながら、桃太郎に変化があったのを確信した。そして冷たいめで桃太郎を見た。
「桃太郎ーーー六は私に殺されなければならない。六を下すんだ」
桃太郎は三田を見つめ、六を下ろそうとしなかった。
「もし私が六を渡さなければ、私はどうなるんだ?」
「鬼の大将に逆らった事になる。それがどういう事か、桃太郎にはわかるだろ?」
「そうだな。鬼ヶ島では大将は絶対だ。そして私は鬼の大将に逆らったという事で罪人だ。だからーーー今から罪を償おうと思う」
そう言って、桃太郎は六を抱えたままその場から駆け出した。
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