鬼と桃太郎

そらうみ

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鬼ヶ島にて

鏡の先

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 三度目となる鏡の祠へ、三田と桃太郎は洞窟の中を歩いていた。
 桃太郎は前を進む三田の背中を見る。六ほど身長が高いわけではなく痩せた体型をしているが、三田も六のように強い事は知っていた。そしてふと、こんな時でも六のことを考えている自分に気づき反射的に頭を振った。
 今は六の事を考えている場合ではない。三田が”鏡の先“へと案内してくれるのだ。ここに初めて来た時のような強い関心は無いものの、それでもやはりこの祠の先に興味がある。そして三田は、”鏡の先“から戻るものは少ないと言っていた。それはつまり”赦しの滝“のように何か理由がある者が行く場所なのだろうか?
 ”赦しの滝“での事を思い出す。”鏡の先“も意味のある場所なのだと思う。三田は、六の行動全てに意味があると言っていた。だとしたら今、三田が私を“鏡の先”へ案内するのはどういう意味があるのだろうか?
 そんな事を思いながら、桃太郎は少し可笑しくなった。
 私は今ここにいる状況が、何か意味があるのではないかと必死に探している。けれどきっと、“鏡の先”へ行くのも止めるのも、六にとっては関係のない事なのだと思った。「さよなら」と言った六を思い出し、あの瞬間六が私へ関心を向けた最後だったと思い、再び胸が痛くなる。
 ”鏡の先“がどんな場所でも構わない。元々鬼ヶ島に来た時も、先の事など分からずに来たのだ。それにもし六がこの島に戻って来た時、今までのように距離を取られるようならば、いっそ”鏡の先“から戻って来なくても良いのでは無いだろうか?そんな気さえしてきてしまう。
 そんな事を考えていると、桃太郎は立ち止まっていた三田の背中にぶつかった。
「っ・・・すまない。考え事をしていた」
 すると三田が振り返り桃太郎を見る。
「そうだろうな。もしかしたら帰って来られないかもしれないんだ。よく考えた方がいいだろう」
 桃太郎は三田の言葉を聞いて、三田の背後へ視線を向ける。
 何度か来た鏡の祠、そしてその右側の洞窟へと目を向ける。今から自分はあの先に向かうが、もしかしたら戻っては来れないかもしれない。けれど迷う事などなかった。
 桃太郎は、最後に三田に尋ねる。
「三田。どうして今、私をここへ連れて来たんだ?」
「“鏡の先”へ行って戻って来る事は、鬼にとって名誉な事になる。特にやる事もないんだ。挑戦してみたら良いかと思っただけだ」
「・・・そうか」
 桃太郎には三田の真意が分からなかったが、本当にそう思っての事だと思えた。
 桃太郎は向き合っている三田を追い越し、1人洞窟の奥へと進んだ。その足取りには迷いも恐怖も無かった。三田も桃太郎を止める事なく、黙って桃太郎を見ていた。そして桃太郎が洞窟へ入って行く直前に後ろから声を掛けた。
「桃太郎、もし戻って来られたらその時は全てが変わる事になる。待っている」
 桃太郎は少し驚きながら振り返ると、三田はいつものように何の感情もない表情をしていた。その表情を見て桃太郎は少しだけ微笑み、“鏡の先”へと進んで行った。



 暗い道をただひたすら歩き続ける。ほとんど何も見えていないと言ってもいい。最初は両手を前方へと伸ばしながら慎重に歩いていた。何かに転んだりぶつかったりするのかと思ったが、たまに小石を踏む感触があるだけで、障害となるものは何一つなかった。けれどもいつかは壁にぶつかる可能性があると思い、それほど早くない速度でゆっくりと歩いていた。
 こんな状況になって、自分が全く恐怖を感じていない事に驚いた。それどころか思考が止まり、あんなに毎日考えていた六の事ですら頭から離れていき、今はただひたすら暗闇の中を歩き続ける事にだけ集中していた。
 どれくらい歩き続けているのか分からない。まだこの洞窟に入って少ししか経っていないかもしれないし、もっと時間が経っているのかもしれない。けれど桃太郎は足を止める事なく、休む事もなくひたすらに歩き続ける。
 歩き始めてから一度も壁にぶつからず、気が付けば前方に伸ばしていた手を下ろし、ただただ暗闇の中を歩き続ける。
 疲労も、喉の渇きも、歩いている感覚すら無くなってきた時、暗闇の中に小さな光が見えた。桃太郎はその光に向かって歩くと、光は段々と大きくなり、広い空間へと辿り着いた。そこでは岩の壁や床自体が光っているようで、空間全体が明るくなっていた。
 最初目が光に慣れない桃太郎は入り口でじっと立っていたが、やがて目が慣れ全体を見渡せる様になると、空間の真ん中に岩があり、その岩の上に座る1人の人物が目に止まった。
 その人物も、じっと桃太郎を見ていた。
 桃太郎はゆっくりとその人物へと近づいて行く。やがて相手の顔立ちがはっきり見える所まで来ると、桃太郎は自分の鼓動が大きくなっている事に気がついた。
 相手は近付いてくる桃太郎を黙って見ていたが、やがて桃太郎が近づき立ち止まると、相手の方から話しかけてきた。
「貴方は誰?」
 声を掛けてきたのは桃太郎と同じくらいの年齢の少女で、静かに桃太郎を見つめていた。
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