鬼と桃太郎

そらうみ

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鬼ヶ島にて

祠へ

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 六が島を離れ、桃太郎は気力を失ってしまっていた。
 稽古をする事もなく、気が向くと島を歩き、海岸から六が向かった方向を眺める。三田はいつも一定の距離を持って桃太郎の後をついて来ていたが、何も言う事はなかった。
 桃太郎はどうすれば良いの分からなくなってしまっていた。

 いつものように、桃太郎は島の海岸に座りながら陸の方を眺めて考えていた。
 鬼ヶ島を訪れ自分の出生を知った今、ここに居る事の意味も分からない。唯一桃太郎が関心を持っていた六も、まるで桃太郎と永遠の別れのように離れて行ってしまった。もしこのまま六が自分への関心も無くしたなら、自分はこの先どうなるのだろうか?三田を自分の護衛に付けてくれているのは、まだ自分に関心があると言う事なのだろうか?もしこの島から出て行く事になったら、自分はまたあの村に戻り、今までの通りの生活を送るのだろうか?おじいさんとおばあさんと共に一生?
 桃太郎は今まで自分の事を考えていなかった事に気付く。
 もしおじいさんとおばあさんが居なくなったら・・・私はあの村に居続ける事が出来るだろうか?
 私は・・・何故桃から生まれて来たのだろう?

 ある日、初めて三田の方から桃太郎に声をかけてきた。
「桃太郎様、少し尋ねたい事があります」
 桃太郎はゆっくりと三田を見る。
「何だろう?」
「あなたはいつも、頭とはどのように過ごしていたんですか?」
「どのように?」
「私が護衛に加わってから六様は私に遠慮しているのか思っていたのですが、どうやらそうでは無かったようですね。普段も今のように過ごしていたのですか?」
「三田が加わってからも私たちの生活に変わりなかった。三田、私の事は桃太郎と呼び捨てにしてくれ」
「分かりました。では桃太郎、頭に抱かれていないのですか?」
「抱かれる・・・?」
「鬼の実である桃太郎と一緒にいて、頭が何もしていないのが信じられない」
「鬼の実か・・・」
 桃太郎は答えながら少し笑っていた。自分が重ねていた手を振り解いた六。本当に自分が鬼の実なら、そんな事は起こらないだろう。
「私は鬼の実では無いよ。どうやら鬼の実は鬼を魅了するようだが、六は私に魅了されていなかったしね。実際三田だってそうだろ?」
 そう桃太郎が笑いながら三田を見ると、三田は真剣な表情で桃太郎を見ていた。その表情を見て桃太郎も黙ってしまう。三田が黙ったまま桃太郎に近づき、自分の顔を桃太郎に近づけた。
「いや、あなたは鬼の実ですよ。私は頭を尊敬している。あの人だから言う事を聞いている。だから今でも、頭への忠誠心で必死に理性を保っている様なものです」
「三田・・・」
 三田は桃太郎から顔を離し、並んで座った。
「だから私は今、頭の意図が測りかねている。最初、桃太郎と共に2ヶ月この島に残れと言われたのは、頭への忠誠心を試されているのかと思った。鬼の本能を越えて、頭のモノに手を出さないくらいのね。けれど、どうも自信が無くなって来た。今はまだ堪えれるが、いつか理性が飛びそうになるのではないかと思う」
 三田は独り言のように呟いた。三田は心の内を話したからなのか、気さくに話すようになっていたが、一方の桃太郎は三田と違い緊張し始めていた。隣に並んで座る三田の顔を見て体に力が入っているのが分かった。前に自分を襲ってきた鬼の2人を思い出したのだ。
 そんな桃太郎の身構えに気付いて、三田が少し笑っていた。
「別に、今ここであんたを襲うほど理性が飛んでいる訳じゃ無い。そもそも頭は試すような事はしない。全てを見通し、考えて行動する。頭の行動の全てに意味がある。だから皆、頭に付いて行くんだ」
「滝に落とされた・・・鬼達は?」
「あぁ、あいつらか。あいつらは元々問題のある奴らだったんだ。あいつらも、桃太郎を口実に頭に処分されたんだろう」
 桃太郎は分からなくなっていた。どこまで六は把握していたのだろうか?もしかしたら、あの鬼達が襲って来たのも?私がこの島に来ることも?
 もしそうだとしても、六が計画してその結果が今ならば私と六はもう何も無いのだろう。六が島を離れる前に言った「さよなら」が自分に対してーーーもう必要ないと言われたのだと思えた。
 三田が桃太郎の様子を見て、いつものように無気力な状態に戻っているのを見ると、少し考えてからある提案をしてきた。
「桃太郎、もうこの島に興味は無くなったのか?」
「興味?」
「最初の頃は、この島にとても興味を示していたようだが?案内しようか?」
 三田が桃太郎を気に掛けてきたのが初めてだったので桃太郎は少し驚いたが、やがて小さく微笑んで答えた。
「皆が島中を案内してくれたし、今は特に見たいところや行きたいところも無い。ありがとう」
「いや、まだこの島で行っていない場所がある」
「そうなのか。けれど今は何処にも行きたいと思わない。ここでじっとしているよ」
「いや、桃太郎が今こそ行くべき場所だ」
 そう言って、三田は桃太郎の腕を掴み立ち上がる。桃太郎は三田の力強い手に引っ張られて、強制的に立ち上がった。
 混乱する桃太郎の目を見て、三田が真剣な表情で言った。
「桃太郎、今から鏡の祠に案内する」
 桃太郎が何か言おうとしたが、三田はそれを遮るように話し続ける。
「行くのは鏡の祠の右の道の先だ。そこは“鏡の先”と言われている」
 桃太郎は鏡の祠がある場所を思い出し、そこから二手に道が続いていた事を思い出していた。そうだ、右側に道があった。“赦しの滝”へ行くのに左の道へと進んだが、右側はまた別の場所へと繋がっていたのだ。
 桃太郎の表情に興味が表れているのを見ながら、三田は続けた。
「“鏡の先”は特別な場所で、一度しか入ってはいけない決まりだ。そして桃太郎はそこへは1人で行く事になる。そしてーーー」
 三田が再び真剣な表情で桃太郎を見つめてきたので、桃太郎は三田の言葉をじっと待った。
「先に伝えておくが、“鏡の先“から無事に戻れる者は少ない。桃太郎はそこに行くべきだとは思うが、最終は自分の意思で決めるんだ」
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