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鬼ヶ島にて
三田
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桃太郎は六に抱きかかえられながら家へと帰った。六は桃太郎を部屋に送り届けてから何処かへ行ってしまい、ミズキも部屋には入って来なかった。桃太郎は部屋で1人になってから、ずっと先ほどの事を考えていた。
鬼が崖から落ちた瞬間、体の力が抜けてしまった。あの感覚は一体何だったのだろうか?
決して落とされた鬼に対して同情した訳では無い。けれどあの感覚はまるで、あの鬼と共に自分も一緒に落ちてしまったようだった。
桃太郎は部屋の天井を見ながらぼんやりとする。
ずっと鏡の祠の奥に興味があり、そしてその場所は赦しの滝だった。自分は赦しの滝に行きたかったのだろうか?赦しの滝は自分のどんな罪でも許される場所だと言っていた。自分は何か許されたい事があるのだろうか?罪の意識があるのだろうか?産まれてから今まで、村の外にすら出た事が無かったのに。いや・・・元々私は、あの村へ流れ着いたのだった。それも桃の中に入って・・・。
すると、扉の外から知らない声が聞こえてきた。
「失礼します」
扉を開け部屋に入って来たのは、桃太郎よりも少し背の高い青年で、桃太郎を見ずに、視線を下げたまま桃太郎の側までやって来た。桃太郎の近くに座っても目を合わせようとしない。
桃太郎がじっと相手を見ていると、相手はそのまま話し始めた。
「初めまして、桃太郎様。私は三田と申します。今回の事もあり、頭からミズキと共に桃太郎様の護衛に加わるよう命じられました。よろしくお願いいたします」
そう言って、両手をつき頭を下げる。三田と名乗った青年はしっかりと挨拶をし、昨日自分を襲った鬼達と雰囲気がまるで違った。桃太郎は鬼という存在が分からなくなってきていた。
人とほとんど同じような姿であり、乱暴な者もいれば、六や三田のような者もいる。いや・・・六も三田も、本当は昨日の鬼のような一面を持っているのだろうか?
そんな事を思いながら三田の頭の角を見ていると、桃太郎はある事に気が付いた。
「君は・・・先ほど、あの場にいたのだろうか?」
「はい、先ほどあの場にて、例の鬼を崖から落としたのは私です」
そう言って三田がゆっくりと頭を上げ、初めて桃太郎と視線を合わせた。
三田の視線はまっすぐだが、そこに感情というものが全く出ていなかった。桃太郎は再び、赦しの滝での出来事を思い出す。
「桃太郎様、私は決してあの鬼の様な事は致しません。私にとって頭の命令が全てであり、頭が大切にされている桃太郎様に危害を加えるような事は致しません」
三田の言葉を聞き、桃太郎はじっと考える。六が桃太郎を大切にしている、その言葉に違和感を感じたのだ。
今まで私を大切にしてくれたのは、お爺さんとお婆さんだけだ。ずっとあの村で育ち、2人以外の村人からは大切にされた事など、ましてや好意的な態度を向けられた事など一度もなかった。ずっと軽蔑と恐れの視線を受けて育って来たのだ。六が自分に対して村人のような感情を向けているとは思わない。けれど、お爺さんやお婆さんのように大切にされているのとも違う気がしていた。大切にされていると言われたが、何かが違うのだ。それを今、三田に説明する事が出来ない。そうだ・・・私はずっと、六が私に対してどの様な思いを向けているのか分からなかったのだ。
ずっと考え込みながら何も言わない桃太郎の様子を見て、三田が再び話し始める。
「私はこの先も、貴方から信用されるとは思っておりません。けれど、頭に対しての忠誠だけは信じて頂きたい。私はそれが全てなのです」
「いや、少し考え事をしてしまっていたんだ。すまない。元々私はよそ者なんだ。こちらこそ、よろしく頼みたい」
桃太郎がそう言うと、三田は何も言わず小さく頭を下げ、部屋から出て行ってしまった。
私はよそ者。
桃太郎は自分が言った言葉をもう一度小さく呟く。
私がよそ者で無かったことなど、今まで一度も無い。私は一体何者なのだろうか?私は・・・存在してはいけない者なのだろうか?
桃太郎はゆっくりと膝を抱え、まるで自分を押し潰すかのように、強く体を抱き締めた。
鬼が崖から落ちた瞬間、体の力が抜けてしまった。あの感覚は一体何だったのだろうか?
決して落とされた鬼に対して同情した訳では無い。けれどあの感覚はまるで、あの鬼と共に自分も一緒に落ちてしまったようだった。
桃太郎は部屋の天井を見ながらぼんやりとする。
ずっと鏡の祠の奥に興味があり、そしてその場所は赦しの滝だった。自分は赦しの滝に行きたかったのだろうか?赦しの滝は自分のどんな罪でも許される場所だと言っていた。自分は何か許されたい事があるのだろうか?罪の意識があるのだろうか?産まれてから今まで、村の外にすら出た事が無かったのに。いや・・・元々私は、あの村へ流れ着いたのだった。それも桃の中に入って・・・。
すると、扉の外から知らない声が聞こえてきた。
「失礼します」
扉を開け部屋に入って来たのは、桃太郎よりも少し背の高い青年で、桃太郎を見ずに、視線を下げたまま桃太郎の側までやって来た。桃太郎の近くに座っても目を合わせようとしない。
桃太郎がじっと相手を見ていると、相手はそのまま話し始めた。
「初めまして、桃太郎様。私は三田と申します。今回の事もあり、頭からミズキと共に桃太郎様の護衛に加わるよう命じられました。よろしくお願いいたします」
そう言って、両手をつき頭を下げる。三田と名乗った青年はしっかりと挨拶をし、昨日自分を襲った鬼達と雰囲気がまるで違った。桃太郎は鬼という存在が分からなくなってきていた。
人とほとんど同じような姿であり、乱暴な者もいれば、六や三田のような者もいる。いや・・・六も三田も、本当は昨日の鬼のような一面を持っているのだろうか?
そんな事を思いながら三田の頭の角を見ていると、桃太郎はある事に気が付いた。
「君は・・・先ほど、あの場にいたのだろうか?」
「はい、先ほどあの場にて、例の鬼を崖から落としたのは私です」
そう言って三田がゆっくりと頭を上げ、初めて桃太郎と視線を合わせた。
三田の視線はまっすぐだが、そこに感情というものが全く出ていなかった。桃太郎は再び、赦しの滝での出来事を思い出す。
「桃太郎様、私は決してあの鬼の様な事は致しません。私にとって頭の命令が全てであり、頭が大切にされている桃太郎様に危害を加えるような事は致しません」
三田の言葉を聞き、桃太郎はじっと考える。六が桃太郎を大切にしている、その言葉に違和感を感じたのだ。
今まで私を大切にしてくれたのは、お爺さんとお婆さんだけだ。ずっとあの村で育ち、2人以外の村人からは大切にされた事など、ましてや好意的な態度を向けられた事など一度もなかった。ずっと軽蔑と恐れの視線を受けて育って来たのだ。六が自分に対して村人のような感情を向けているとは思わない。けれど、お爺さんやお婆さんのように大切にされているのとも違う気がしていた。大切にされていると言われたが、何かが違うのだ。それを今、三田に説明する事が出来ない。そうだ・・・私はずっと、六が私に対してどの様な思いを向けているのか分からなかったのだ。
ずっと考え込みながら何も言わない桃太郎の様子を見て、三田が再び話し始める。
「私はこの先も、貴方から信用されるとは思っておりません。けれど、頭に対しての忠誠だけは信じて頂きたい。私はそれが全てなのです」
「いや、少し考え事をしてしまっていたんだ。すまない。元々私はよそ者なんだ。こちらこそ、よろしく頼みたい」
桃太郎がそう言うと、三田は何も言わず小さく頭を下げ、部屋から出て行ってしまった。
私はよそ者。
桃太郎は自分が言った言葉をもう一度小さく呟く。
私がよそ者で無かったことなど、今まで一度も無い。私は一体何者なのだろうか?私は・・・存在してはいけない者なのだろうか?
桃太郎はゆっくりと膝を抱え、まるで自分を押し潰すかのように、強く体を抱き締めた。
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