鬼と桃太郎

そらうみ

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鬼ヶ島にて

赦しの滝

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 桃太郎は六やミズキと共に鏡の祠へとやって来た。3人が祠の場所に辿り着くと、そこには何人かの鬼が居て、六を見ると皆黙って頭を下げた。
 家を出てから洞窟に入っても、桃太郎もミズキも何も話さず、六も黙って桃太郎の手を引き歩いていた。そしてまた同じ様に何も話さず、祠の左隣にある道へと向かって歩き出していた。桃太郎は六に手を引かれながら、鏡の祠を横目にその先へと進んで行く。
 ずっと興味があった道の先へと進んでいるのに、桃太郎の気持ちは落ち着かず、今すぐにでも引き返したくなっていた。先に進めば進むほど、不安が大きくなってゆく。けれど六の引く手は強く、桃太郎の気持ちに気づき、桃太郎が逃げ出さないよう引っ張っているようだった。
 桃太郎は後ろにミズキや他の鬼達が付いて来ているのを感じながら、そのまま黙って六に付いて行くしかなかった。

 奥へと進んで行くと、次第に水の流れる音が聞こえてくる。不思議と道も明るくなり、やがて崖へと辿り着いた。崖から先には大きな滝があり、上から勢いよく水が流れている。崖の端で六が立ち止まり、桃太郎を見つめた。
「桃太郎、この滝が“ゆるしの滝”だ。ここは滝の上部で、この崖の先からは滝壺へ真っ逆さまに落ちてしまう。転ばないように気をつけるんだ」
 桃太郎が恐る恐る滝壺を見てみると、底は暗くて見えず、ここからどれほど距離があるのか分からない。やがて六が、後から付いて来ている鬼達の方へと視線を向けた。桃太郎もつられて六の視線の先を追うと、ちょうど他の鬼達が辿り着いたところだった。そしてその最後尾には、昨日桃太郎を襲った鬼の1人が、口を布で塞がれ、手を後ろで縛られた状態で立っていた。
 その鬼は体中に傷や殴られたような跡があり、立っているのもやっとの様子なのだが、目だけが恐怖で激しく震えていた。
 桃太郎は昨日の事を思い出し、そして鬼の異様な様子を見て思わず後ずさったが、六がしっかりと桃太郎の体を押さえながら、楽しそうに話し始めた。
「こいつは昨日桃太郎を襲った奴だ。大将である私のモノに勝手に手を出して傷付けた。鬼ヶ島では幾つか決まりがあり、それは必ず守られなければならない・・・大将のモノを傷付けてはいけない、奪ってはいけないのもその一つだ。守られなかった者は、問答無用で私に殺されても仕方がない。桃太郎を襲ったもう1人は、昨晩あの場で始末したが、こいつは皆への見せしめにしようと思ってね・・・」
 六が手招きをすると、周りの鬼達が縛った鬼を六の近くまで強引に連れてゆく。
 昨日桃太郎を襲った鬼だとは思えないほど、鬼は恐怖で全身を震わせ、何かを話そうと必死になっていたが、口に巻かれている布で何を話そうとしているのか分からない。
「さて、私は皆への見せしめと言ったが、今回は“赦しの滝”において、こいつの罪を赦そうと思う。桃太郎、この“赦しの滝“に落ちると、どんな罪でも赦す事が決まりなんだ。どんな罪でもだ。そして落ちた者へは干渉しない、これは絶対なんだ」
 そう言うと、六はゆっくりと目の前にいる鬼を無表情で見つめた。
「この滝の下へ行くのならば、私はお前を赦そう」
 目の前に居る鬼は、今にも泣き出しそうな表情で必死に何かを訴えようとしているが、六が視線で合図をすると、周りにいた鬼の1人が側へやって来て、縛られた鬼を崖の側へと引っ張って行き、そしてそのままその鬼を、崖からあっさりと突き落としてしまった。

 桃太郎は鬼が崖から落ちるのをただ見ていた。そして、その鬼の姿が視界から消えた瞬間に足の力が抜けてしまい、気付けばその場に手をついて座り込んでいた。まるで自分がその場から飛び降りたような感じがしたのだ。
 やがて隣に立っていた六がゆっくりとしゃがみ込み、昨日と同じ様に桃太郎を抱きかかえ、そのまま来た時と同じ様に、何も話さず家へと帰って行ったのだった。
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