鬼と桃太郎

そらうみ

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鬼ヶ島にて

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 桃太郎が洞窟の入り口に近づくと、そこにはミズキが立っていた。ミズキが桃太郎を見つめ、そして桃太郎の後ろへと視線を向ける。そして再び視線を桃太郎に合わせると、真剣な表情で話し始めた。
「桃太郎さんお待ちしていました。ここに来るまで吉に何か言われませんでしたか?」
「なぜ私が鬼ヶ島に来たのかと聞かれた。吉は、私が本気で鬼退治に来たのでは無いと感じ、この島に来たことを不思議に思っていたようだ」
 きじ椿つばきも、側で桃太郎と吉の会話を聞いていたはずだ。嘘をつく必要も無いと思い、正直に答える。しかし吉と別れる際に、ほこらに気をつけろと言われた事は言わないでいた。
 ミズキは桃太郎の返答を聞いて、小さくため息をつく。
「桃太郎さん。正直に言いますが、私は吉と仲が良くありません。吉が何を考えているのか、本心がいつも読めないのです。いつか私たちを裏切るのではと思ってしまい、どうも警戒心を持ってしまうのです。吉が桃太郎さんを傷つける事はないと思いますが・・・。桃太郎さん、この島で過ごすのであれば、周りの全てに警戒して下さい。もちろん、私も含めて」
 ミズキは悲しそうに微笑みながら言いうと、桃太郎を洞窟の中へと案内した。
 桃太郎はミズキの側から離れないように歩く。洞窟と言っても、大きな岩が重なり合っているので、隙間からは沢山の光が降り注ぎ、とても明るかった。吉は何度も桃太郎の様子を気にしては、洞窟の奥へと進んでいく。桃太郎は洞窟を進みながら、ミズキの後ろ姿を眺めていた。ミズキの白い髪が、岩の隙間から注ぐ光に当たり、時折光って見えた。

 しばらく洞窟を進むと、広い空間の場所に出た。天井も高く、見上げると大きな隙間から空の色が見える。そして奥の方に、小さな古い祠があるのが見えた。ミズキは立ち止まり、祠を指差す。
「桃太郎さん、あれが“鏡の祠”です。鬼ヶ島にたった一つの祠です。ここは鬼ヶ島にとって神聖な場所であり、これ以上は進みません」
 桃太郎はミズキの指差す方を見て、祠とその周りを見る。祠の両隣に、それぞれ奥へと洞窟が続いていた。
「ミズキ、両隣の道の奥には何かあるのか?」
 桃太郎はミズキが立ち止まっているのに、ミズキを追い越すかのように歩きながら質問する。何故自分が歩き出しているのか分からない。ただ、祠の奥に強い興味があった。
 すると突然、耳元で誰かが囁いた。
「桃太郎、ミズキが言っていただろう?今日はこれ以上は進まない。止まるんだ」
 桃太郎が驚いて振り向くと、そこには六が立っていた。耳元で囁かれるまで、六の存在に全く気づかなかった。あまりに驚き、桃太郎はただ六を見つめる。六は桃太郎を見て微笑んだが、目が笑っていなかった。
「桃太郎、またいつか祠の先も案内すると約束する。そうだな・・・きっとすぐに案内する事になるだろう。今日はここまでにして戻ろう」
 そう言うと、六は桃太郎に背を向けて、洞窟の出口へと向かって歩き出した。側にいたミズキは、何故か悲しげな表情で桃太郎を見つめる。桃太郎は何も言わず、ゆっくりと六の後へと続き、そしてミズキがその後へと続いた。
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