6 / 24
鬼ヶ島にて
鬼の大将
しおりを挟む
ミズキが去ってしばらくすると、今度は鬼の大将がやってきた。
桃太郎はやって来た鬼を見上げる。人の姿をしていて、頭から角を生やしている。背は高いが、人間離れしている程の大きさでなはい。鬼は桃太郎の前で座り、手にしていた笊をその場に置く。笊の中にはさまざまな果実が入っていた。鬼は笊から一つ桃を取り出して桃太郎に差し出す。桃太郎は動かず、黙って鬼を見つめていた。鬼は動かない桃太郎を見て首を傾げる。
「どうした?桃は嫌いか?」
「・・・」
「ふむ。名前が桃太郎なので、てっきり桃が好きだと思ったが・・・。そうだな。生まれた時に名前を付けられていれば、その名は本人の意思とは関係ないか」
「・・・桃は・・・嫌いでは・・・無い」
桃太郎がゆっくりと答えると、鬼は微笑み、手にした桃の皮を、手で器用に剥き始めた。鬼は目線を手元に落とし、手を動かしたまま話し始めた。
「桃太郎、先ほどは乱暴な事をしてしまったが、私が君を歓迎しているのは本当だ」
「乱暴とは・・・私の口を舐めた事か?」
鬼は驚いた表情で桃太郎を見つめた。
「君を気絶させてしまった事だが? ・・・そうだな、そちらも乱暴だったかな」
鬼は少し笑いながら、皮を剥き終えた桃を、今度は腰から小刀を取り出して小さく切る。そして切った一欠片を、桃太郎の口元へと運んでいった。桃太郎は動かず、じっと鬼を見つめたままだ。鬼はそんな桃太郎を見て微笑んでいる。
「この桃は鬼ヶ島で取れた特別なものだ。少しでも口に入れた方がいい。きっと気分も良くなる」
桃太郎はそれでも動かず、じっと鬼を見つめ続けた。けれど、鬼は微笑みながらも、その目が少しも笑っていない事に気づいた。
桃太郎はその目を見ながら、ゆっくりと小さく口を開く。そして鬼が桃太郎の口の中へと、桃の一欠片を入れた。
桃が口の中に入ると、香りが強く広がった。一口噛むと果汁が溢れる。不思議な事に、噛めば噛むほど、果汁は止まらず口の中に溢れてくる。桃太郎が静かに桃を噛み続けるのを、鬼は優しく見ている。
「君はもう少しここで休憩した方がいい。その後で鬼ヶ島を案内しよう。
鬼ヶ島では、必ず私かミズキの側を離れないように」
桃太郎はようやく桃を飲み込み、鬼に尋ねる。
「ミズキの主人はお前なのか」
「そうだ。気付いているかもしれないが、猿と雉も私の指示で君に近づいたのだ」
「猿と雉も無事なんだな。ならば私が気にする事はない。・・・鬼ヶ島を案内すると言ったが、私が鬼を退治しに来た事は知っているのだろう?」
「知っているよ。けれど君は、私たちになす術なく、先程まで意識を失っていたんだ。とっくに鬼退治は諦めてくれていると思っていたよ。他の鬼達も私ほどではないが力がある。今の君では勝てないよ」
「私は・・・君たちを退治しにこの鬼ヶ島へやってきたのだ。鬼の力に敵わない人間ならば、鬼は歓迎するのか?」
「いや、もちろん君だから歓迎するんだ。鬼退治が目的だったね?そんなに目的を達成させたいのなら、今日から人間の村で暴れる事は止めよう。私たちが村で暴れ回るから、鬼退治しようと思ったのだろう?私から他の鬼にきちんと伝える。私たちが暴れ回らなければ、君の目的は果たされたと言ってもいいだろう」
桃太郎が驚いて鬼を見つめる。
鬼はゆっくりと片手を桃太郎の口へと運んでいき、桃太郎に触れる直前で手を下ろした。
「これで君の目的は果たせるし、後はゆっくりこの鬼ヶ島で過ごしてくれればいい。また後で会いに来るよ」
鬼はそう言って桃太郎に顔を近づけ、そのままゆっくりと口を開く。
「桃太郎、私は“六”と言う。ここでは私の事は“六”と言うように」
そして鬼はゆっくり立ち上がり、動かない桃太郎をその場に残し、洞窟の出口へと向かっていった。
桃太郎はやって来た鬼を見上げる。人の姿をしていて、頭から角を生やしている。背は高いが、人間離れしている程の大きさでなはい。鬼は桃太郎の前で座り、手にしていた笊をその場に置く。笊の中にはさまざまな果実が入っていた。鬼は笊から一つ桃を取り出して桃太郎に差し出す。桃太郎は動かず、黙って鬼を見つめていた。鬼は動かない桃太郎を見て首を傾げる。
「どうした?桃は嫌いか?」
「・・・」
「ふむ。名前が桃太郎なので、てっきり桃が好きだと思ったが・・・。そうだな。生まれた時に名前を付けられていれば、その名は本人の意思とは関係ないか」
「・・・桃は・・・嫌いでは・・・無い」
桃太郎がゆっくりと答えると、鬼は微笑み、手にした桃の皮を、手で器用に剥き始めた。鬼は目線を手元に落とし、手を動かしたまま話し始めた。
「桃太郎、先ほどは乱暴な事をしてしまったが、私が君を歓迎しているのは本当だ」
「乱暴とは・・・私の口を舐めた事か?」
鬼は驚いた表情で桃太郎を見つめた。
「君を気絶させてしまった事だが? ・・・そうだな、そちらも乱暴だったかな」
鬼は少し笑いながら、皮を剥き終えた桃を、今度は腰から小刀を取り出して小さく切る。そして切った一欠片を、桃太郎の口元へと運んでいった。桃太郎は動かず、じっと鬼を見つめたままだ。鬼はそんな桃太郎を見て微笑んでいる。
「この桃は鬼ヶ島で取れた特別なものだ。少しでも口に入れた方がいい。きっと気分も良くなる」
桃太郎はそれでも動かず、じっと鬼を見つめ続けた。けれど、鬼は微笑みながらも、その目が少しも笑っていない事に気づいた。
桃太郎はその目を見ながら、ゆっくりと小さく口を開く。そして鬼が桃太郎の口の中へと、桃の一欠片を入れた。
桃が口の中に入ると、香りが強く広がった。一口噛むと果汁が溢れる。不思議な事に、噛めば噛むほど、果汁は止まらず口の中に溢れてくる。桃太郎が静かに桃を噛み続けるのを、鬼は優しく見ている。
「君はもう少しここで休憩した方がいい。その後で鬼ヶ島を案内しよう。
鬼ヶ島では、必ず私かミズキの側を離れないように」
桃太郎はようやく桃を飲み込み、鬼に尋ねる。
「ミズキの主人はお前なのか」
「そうだ。気付いているかもしれないが、猿と雉も私の指示で君に近づいたのだ」
「猿と雉も無事なんだな。ならば私が気にする事はない。・・・鬼ヶ島を案内すると言ったが、私が鬼を退治しに来た事は知っているのだろう?」
「知っているよ。けれど君は、私たちになす術なく、先程まで意識を失っていたんだ。とっくに鬼退治は諦めてくれていると思っていたよ。他の鬼達も私ほどではないが力がある。今の君では勝てないよ」
「私は・・・君たちを退治しにこの鬼ヶ島へやってきたのだ。鬼の力に敵わない人間ならば、鬼は歓迎するのか?」
「いや、もちろん君だから歓迎するんだ。鬼退治が目的だったね?そんなに目的を達成させたいのなら、今日から人間の村で暴れる事は止めよう。私たちが村で暴れ回るから、鬼退治しようと思ったのだろう?私から他の鬼にきちんと伝える。私たちが暴れ回らなければ、君の目的は果たされたと言ってもいいだろう」
桃太郎が驚いて鬼を見つめる。
鬼はゆっくりと片手を桃太郎の口へと運んでいき、桃太郎に触れる直前で手を下ろした。
「これで君の目的は果たせるし、後はゆっくりこの鬼ヶ島で過ごしてくれればいい。また後で会いに来るよ」
鬼はそう言って桃太郎に顔を近づけ、そのままゆっくりと口を開く。
「桃太郎、私は“六”と言う。ここでは私の事は“六”と言うように」
そして鬼はゆっくり立ち上がり、動かない桃太郎をその場に残し、洞窟の出口へと向かっていった。
20
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

悩める文官のひとりごと
きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。
そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。
エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。
ムーンライト様にも掲載しております。


馬鹿な先輩と後輩くん
ぽぽ
BL
美形新人×平凡上司
新人の教育係を任された主人公。しかし彼は自分が教える事も必要が無いほど完璧だった。だけど愛想は悪い。一方、主人公は愛想は良いがミスばかりをする。そんな凸凹な二人の話。
━━━━━━━━━━━━━━━
作者は飲み会を経験した事ないので誤った物を書いているかもしれませんがご了承ください。
本来は二次創作にて登場させたモブでしたが余りにもタイプだったのでモブルートを書いた所ただの創作BLになってました。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる