鬼と桃太郎

そらうみ

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鬼ヶ島にて

主人に忠実な犬

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 桃太郎が目を覚ますと薄暗い洞窟の中にいた。藁の敷物に手をつき、ゆっくりと上体を起こす。そして片手の指先をゆっくりと自分の唇へと運んだ。
 私は鬼ヶ島に着いた。そして鬼に口を舐められ、気が付けばここに運ばれていた。
 桃太郎はそのまま周りを見渡す。特に閉じ込められている様子ではないが、入り口へと続く道は遠い。壁には蝋燭がいくつか灯されており、ゆらゆらと揺れている。起き上がろうとすると、遠くの方から足音が近づいてきた。辺りを見渡しても、身の回りには持ってきていた刀はなく、桃太郎はやって来る者をじっと待つだけだった。
「桃太郎さん、気が付きましたか?どこか痛むところはありますか?」
 やって来たのは、桃太郎と同じくらいの青年だった。白い髪に、大きな丸い目をしている。桃太郎はその目を見つめながら動かずにいる。青年は桃太郎に近づき、しゃがみこんで桃太郎と視線を合わせる。
「気分はどうですか?お腹は空いていますか?何か食事を持って来ましょうか?」
「君は・・・犬なのか?」
 桃太郎は青年の質問に答えずに話しかけた。青年は微笑み、桃太郎を見つめた。
「はい。桃太郎さんは分かるのですね。そうです、一緒に鬼ヶ島までお供した犬ですよ」
「君は鬼だったのか?犬に化けていたのか?」
「いえ、鬼ではありません。犬が人の姿に化けているだけです」
 そう言って、犬は桃太郎に微笑んだ。
「犬は…元々、鬼ヶ島の者だったんだな」
 桃太郎が犬に話すと、犬は少し申し訳なさそうな表情をして桃太郎を見つめた。
「はい…私は元々、主人の命令で、ずっと桃太郎さんを探していたんです。そして桃太郎さんを無事に鬼ヶ島へ連れてくる事が、私の役目だったんです」
「君の主人が、私と話した背の高い鬼なのか?」
「ええ、そうです。あの方が鬼の大将です。私は昔、あの方に命を救っていただいたんです。だから主人の願いを、桃太郎さんをこの鬼ヶ島へ連れてこようとしていたのです」
「どうやら始めから全て、鬼の大将の思うままだったんだな」
 桃太郎は犬から視線を外し、じっと自分の手を見つめた。犬は桃太郎の様子を見て再び微笑み、立ち上がって出口へ去ろうとした。桃太郎は、去りゆく犬に後ろから声をかけた。
「犬・・・君に名前があるなら教えて欲しい」
 犬はゆっくり振り返り、桃太郎を見つめて答えた。
「・・・ミズキです」
 そう言って、ミズキはゆっくりと、遠い出口へと歩いて行った。
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