鬼と桃太郎

そらうみ

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いざ鬼ヶ島へ

桃から生まれた桃太郎

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 桃太郎は毎日お爺さんの芝刈りを手伝い薪を折り、畑を耕しては平和に暮らしていた。
 お爺さんとお婆さんも、桃太郎と一緒に暮らすようになってからは毎日嬉しそうで、桃太郎をとても可愛がっている。しかし桃太郎が住む同じ村の人々は、桃太郎がとても力が強く、そして人より成長が早いため、いつも桃太郎を遠くから不審そうに見ていた。桃太郎が桃から生まれてきたという話も、初めはお爺さんとお婆さんの作り話と受け止めていたが、実際に桃太郎が人並み外れている力があるので、本当に桃から生まれてきたのではないかと話し、余計に桃太郎からは距離を置くようになっていた。

 桃太郎が村の人々とあまり関わらず、いつもの様に過ごしていたある日、近くの村で鬼が暴れたという噂が広まった。そして実際、襲われた村の人々がこの村にも逃げてきた。逃げてきた人々は鬼に襲われた時の状況を皆に話した。
「あれは本当に恐ろしい鬼達だった。身体は俺たちよりはるかに大きく、角を生やし、力は怪力なんてもんじゃなかった。家の牛も軽々と持ち上げ、そのまま持って行ってしまった。最近はここら辺の村々を荒らしに回っている。きっともうそろそろ、この村にもやって来るに違いない」
「領主も鬼退治に乗り出し始めたようだ。鬼を退治すれば、たんまりと褒美をくれるらしい。しかし、実際鬼を見たものは、とても人の力で鬼が倒せるとは思わんよ」
 逃げてきた村の人々が次々に話続ける。桃太郎が住む村の人々は、鬼の話を聞いては、次は自分達の村に鬼がやって来ると、不安な気持ちで日々を過ごすようになっていた。
 鬼がやってきたら、なす術がない。だが何処へ逃げれば安全なのか分からない。領主や役人達が鬼を退治すると言っても、きっと小さな村一つ一つを守ってくれやしないだろう。とにかく、役人だろうが何だろうが、鬼を退治してくれる者なら何でも構わない。早く誰かが鬼を退治してくれないかと強く願うようになっていた。
 そして、そんな村の人々の不安と苛立ち、そして誰でもいいから助けてほしいという思いが、次第に桃太郎へと集まっていった。
 あの家の桃太郎は、人並み外れた力がある。あいつならひょっとすると、鬼を倒せるのではないのだろうか?
 そう言って、村の人々が桃太郎に鬼ヶ島へ鬼退治に行くよう言い始めるのに、時間はかからなかった。

 とうとうある日、村長や村の人々が桃太郎の家に集まり、どうか桃太郎に鬼退治へ行って欲しいと言いにやって来た。お爺さんもお婆さんも、桃太郎がいくら強くても、鬼を倒せるとは思っていなかった。しかし村の者達は、わらをもすがる思いで、桃太郎を鬼ヶ島へと勧める。そしてずっと話を聞いていた桃太郎が、ゆっくりと話し始めた。
「私が鬼ヶ島へ鬼退治に参りましょう。ただし私がいない間、どうかお爺さんとお婆さんの面倒を見て下さい」
 桃太郎はそれだけ話すと、早々と旅支度を始めた。村の者達は喜んで、お爺さんとお婆さんの世話をすると言ったが、お爺さんとお婆さんはそれどころではなかった。
 大事な桃太郎が鬼ヶ島へ行ってしまう。もしかしたらもう会えないかもしれない。
 村の者達が帰った後も、2人は桃太郎に考え直すよう何度も説得するが、桃太郎は聞く耳を持たない。そして2人に対し、桃太郎が話し始めた。
「お爺さん、お婆さん。そんなに心配しないで下さい。私はきっと鬼ヶ島から帰ってきます。
 実は、村の者達に言われる前から、私は鬼ヶ島へ行こうと考えていたのです。何故かは分かりません。ですが、きっと私は鬼ヶ島へ行かなければならないという思いだけが、日に日に大きくなっていたのです。
 村の者達はきっとお2人の面倒を見てくれます。そして私も、必ず2人から頂いたご恩をお返ししますよ。どうか私を止めないで下さい」

 桃太郎の強い意志を聞き、2人はとても驚いたが、桃太郎の本気が伝わり、2人は桃太郎を見送る事にした。お爺さんは桃太郎に、村の者から預かった刀を渡し、お婆さんは桃太郎のために食べ物を準備した。

 そして、村の者が寝静まる真夜中、桃太郎は2人に見送られながら、1人鬼ヶ島に向けて旅立っていった。
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