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そらうみ

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運命のアルファを探す俺

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文化祭当日。
俺は今、講堂で泰昌やすまさのクラスの劇を観ていた。
劇のタイトルは「シンデレラ」で、男女逆転バージョン仕様になっていた。

泰昌はクラスでも目立っているし、絶対主役だろうと思ったら、違っていた。
ならば継母か!?と思えばそれも違い、魔法使いでもなく、結局最後まで泰昌が舞台に出てくる事はなかった。

「泰昌・・・出てなかったのか・・・」

俺は1人鑑賞を終え、講堂の隅で呟く。
一緒に劇を観る予定だったりょうが、クラスの当番で劇の時間と合わず、俺は1人で観に来ていたのだ。
1人だったけれど、劇もそれなりに面白くて満足している。そう思いながら講堂の外へ出ると、ちょうど泰昌が劇で使い終わった道具を運び出していた。
話しかけたら迷惑だろうと思い、そのままその場を去ろうとすると、泰昌が俺に気づき、道具を持ったまま近づいて来た。

「蓮、もしかして劇を観に来てくれてた?」

「うん。面白かったよ」

「ありがとう。えっと、亮は?蓮1人?」

「あークラスの当番で時間が合わなくて、というか泰昌、劇に出てなかったんだな」

「亮に言ってなかったっけ?俺大道具係だったから」

「そうだったんだ。舞台で泰昌を観たかったなー」

「つまり?」

「舞台で泰昌のドレス姿を観たかったなー」

「だろうな、みんなに言われた。
俺目立つの苦手だし、工作とか作るの好きだから。
クラスで配役決める時も、大道具めちゃくちゃ頑張るって言いまくって、劇に出るのを回避した」

泰昌が悪戯っぽく笑った。
すると、何処か俺の後ろの方で女子の奇声が聞こえてくる。
背も高いしナチュラルに目立っている泰昌君は、目立つのが苦手なのか、そうですか。
というか、泰昌ずっと道具持ちながら話続けている。

「泰昌、片づけの途中だろ?俺も教室戻るし、邪魔したな」

「ん?ああ、別に気にしないよ。
それよりさ、今持っているのを片付けたら、他の片付けは文化祭が終わってからになるんだ。だからもう自由行動になるんだけれど、良ければこの後一緒にご飯食べないか?亮も合流するんだろ?」

「まだ食べてないけど・・・」

俺は笑顔の泰昌を見つめる。
亮に確認しなくても・・・まあ別にいっか。
亮には、泰昌といるから当番終わったら合流するように連絡を入れておこう。

「じゃあ一緒に食べよう」

「おう。ちょっとこの荷物だけ教室に持って行くから、ここで待ってて」

「うん。待ってるなー」

泰昌は早々と教室へ向かっていった。
俺たちと一緒で良いのかな?と思いながらも、本人が言うから俺は別に構わない。
俺は携帯を取り出し、亮へメッセージを送った。




泰昌と俺は、校舎の裏側に並んで座っていた。
周りには誰もいないし、こんな場所があるなんて知らなかった。
昼ごはん用に買った焼きそばを置き、俺たちは亮がやってくるのを待つ。
良い天気だなーと思いながら空を見上げていると、泰昌が俺に話しかけてきた。

「蓮・・・この前亮に謝られたんだけど、俺がアルファだって聞いたんだよな?」

「へっ?・・・あっうん、そうなんだ。
今、亮が謝ったって言った?」

「うん。蓮に俺がアルファだって言ってしまった、ごめんって」

「あーそれは・・・流れというか何というか・・・ごめん俺のせいでもある。
亮は決して言いふらそうとして言った訳じゃないから。俺も別に言いふらすとかしないから」

「うん。亮がどんなやつかは分かってるし、蓮が言いふらさないなら別に良いんだけど」

「言わない言わない。俺オメガなんだけど、亮にアルファ探してるって言ってたからなんだ」

「・・・オメガ・・・なんだ」

「うんオメガ。いやー最近ちょっとありまして、丁度アルファの恋人探してたんだ」

「蓮って、オメガなのを隠さないんだな」

「自分からわざわざ言わないけれど、絶対知られたくないとかでもないし」

「ふーん。・・・で? アルファの恋人探してるんだって?」

「そう。探していたんだが・・・聞いておくれ、俺は運命のアルファを見つけたんだ!
・・・正確に言うと、運命のアルファの存在を発見したんだ!」

「う・・・ん?」

キョトンとしている泰昌に、俺は首筋の疼きから、ホームで運命のアルファに出会っている事を話した。

「運命の・・・アルファねぇ・・・」

「そう! きっともうすぐ出会えるはずなんだ」

「そういうことか・・・。うん、見つかるといいな」

泰昌が笑顔を俺に向ける。
俺はその笑顔を見て、何故そう思ったのか分からない。けれど、思わず思った事をそのまま言ってしまった。

「泰昌って・・・亮に気があったりする?」

その瞬間、泰昌の表情から感情が消えていた。

「・・・気があるように・・・見えてた?」

「いや・・・今のは本当に何も考えずに口から出た。でも、何だかそんな気がした」

「そっか・・・そう思ったか・・」

「思っただけで・・・」

「いや、何というのか・・・うん、自分でもはっきりとしてないんだけど。
亮が気になっているのは確かだろうな」

「そうなんだ。・・・もしかして、泰昌がこの高校に決めたのって、亮がいるから…?」

すると泰昌はおかしそうに笑った。

「そうだとしたら、凄いな。いや、高校は自分が行きたいから決めたよ。
ただ亮と同じ高校だと知って、嬉しかったのは否定しない」

「そう、なんだ。いやほんと色々聞きすぎてるな、ごめん」

「いや、俺も他の人なら答えてないけど、蓮がオメガだってさらりと言ってしまうから、ついつい答えてしまってる気がする。
亮の事を、こんな風に誰かに話したことも無かったし。
今初めて人に話せて、少し照れているけれど嬉しいのもある」

「・・・ひょっとして俺たちって今、恋バナしてる?何だかこそばゆいのだが」

「ははっ、そうなのかもな。蓮とはまだ数回しか話してないのに、こんな話をするなんてな」

するとその時、丁度噂していた人物がこちらにやって来るのが見えた。
俺たちは黙って亮が近づくのを見つめる。
亮は俺たちの所までやって来て、座っている俺たちを見下ろしながら話しかけてきた。

「2人とも、何でこんな所にいるんだ?」

「ここだと他に人もいないし、ゆっくり出来るかなーと思って」

泰昌が微笑みながら亮を見上げた。俺はそんな泰昌を見つめる。
泰昌はいつも通りの様子だ。
そして当然、亮もいつも通りの調子で答える。

「なるほど、確かに誰もいないな。あー腹へったー」

「お疲れ様。早く食べよう」

俺たちは昼ごはんを食べながら、この後どこに行こうか話した。
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