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〜十五歳〜
【Newspot : ニュースポット】
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最近のビッグニュースと言えば、ポチの小便事件。男子は視聴覚教室に、女子は家庭科室に移動しての性教育の時間。僕らはその事件の重要参考人だ。
その日、ポチは僕らにおだてられて、性教育もそっちのけ『男女生み分け法』について熱弁を振るっていた。買い手の付かない熟れたチェリーの僕たちにとって、スキンの必要性よりも役に立たない話だったが、やっぱり先生が羽目を外すのは可笑しい。その内容と言えば、たまに言葉を濁しながら『夜のバックは女の子、朝のフロントは男の子』というものだった。ポチはこれで見事に一姫二太郎を授かったと言い張ったが、それによるところかどうかは定かじゃあない。普段なら、理科以外の授業では手も挙げないライムが、積極的に発言する。
「男女の双子の場合はどうなんでしょうか、先生?」
やけにかしこまって、場の雰囲気を盛り上げる。まぁ言えば、プレッシャーを掛けにいったようなもんだ。しかし、教育上よろしくない言葉は一切使わずポチも上手くそれをかわす。
「なぁに、両方やりゃあいいのさ。」
拍手喝采。
会場は大いに盛り上がり、ポチも大満足。いつまでも鳴り止まないカーテンコール。
大事なのは、その後だ。視聴覚教室は大きな部屋で、普段は映画鑑賞や音楽の発表会などに使われている。ポチはその日、ピンマイクを引っ付けて授業を行っていた。その無意義な教育的指導を終え、拍手の雨の中、すぐ隣の便所へチョークまみれの手を洗いに行った彼は、なんと、そのまま小便をし始めてしまったのだ。あろう事かマイクのスイッチを入れたままでだ。その音は、当然、バッチシのアンプで拡声され、どでかいスピーカーから板書を写す時間を与えられた男子生徒全員にリアルタイムで放送されたのだ。
気分良く帰ってきた彼を待っていたのは、歓声混じりのスタンディングオベイションと、校長先生直々のブーイング。
誰かが叫ぶ。
「なぁに、両方やりゃあいいのさ!」
ニュースイーターは貪欲だ。
この話ですら、もう誰も見向きもしない。
ポチがそっと胸を撫で下ろしている姿が思い浮かぶ。
スクープ専門の5組のキャスターがもう次の噂を嗅ぎ回っ
ているらしい。今日、すっかりグラマーになったテニス部
の下級生が僕の所へ来て
「あの子、メグのお兄ちゃんと付き合ってるから。」
と吐き捨てていった。
まだ夏も来てないってのに、隣クラスのマドンナの心は、
すっかり秋空らしい。
雲一つない青空とは裏腹に、僕は少し妬けた。
彼女と別れてから、僕もひどく傷付いた。イチゴとは次の日すぐに仲直りしたが、もうすでに、何人かの女子は僕のことを冷やかな目で見つめていた。メグに伝わるのも時間の問題と覚悟していたが、どうやら、それはなかったらしい。なぜなら、彼女は今も僕を冷たい目で見てはいないから。それとも、相当僕に無関心なのかもしれない。あるいは、そういう男子に寛大なのか・・・ともかく、僕はまだメグとは話もできないでいる。彼女は僕に目もくれない。でも、そんな僕を好きだったあの娘の力無い微笑みは、僕を深く傷付けた分、僕に大きな事を教えてくれた。
僕は早まった。まだ無い階段を上ろうと必死だった。あの涙は多分、彼女への申し訳なさと自分への嫌悪感から来ていたんだと思う。イチゴは言う
「マス掻くのに好きな娘を使うなんてまっぴら御免やな。それこそ最低のすることやろ。俺はそこはプロフェショナルと左手に任せてる。」
それを聞いた、スマイルは
「俺は好きな娘だけを使って掻く。イチゴのは取っ替え引っ替えの浮気とおんなじやないか。」
と、言ってのけた。
僕は、ポルノ雑誌を見てマスを掻く。なのに、最後にはメグの顔がちらついたりするし、あの娘やテニス部の後輩の顔が何度も浮かぶこともあった。その度に僕は自分を責め、後ろめたい気持ちと脱力感をナンセンスな言葉の羅列と戦わせた。旺盛な想像力を押さえるための無気力なポリシー。
そこから、数日、僕だって何も考えなかった訳じゃない。
今や、自慢のポルノコレクションは、手書きのラムレーズン十食券と引き替えに、イチゴの部屋にある本棚の一番右端下に並べてある。もうマスなんて掻くもんか、絶対に。
今日で一週間になる。
昨日の夜、どうしてもマスを掻きたくなったけどあのジレンマと戦って負けることを思えば、性欲に勝利する第三の道を選んだ。
僕は今、夢見ているらしい。教室で眠っていたら、いつの間にか放課後になって、起きようと思うけれど起きられない。教室で眠っていることだけが分かっている。毎朝のように、股間が痛くて熱くてたまらない。僕はズボンを脱ぎ始める。
「おいっ、待て。誰か来たらどうすんだ・・・、
スイミングってのはまずいやろ。
だって、まだ4月だぞ。」
僕はとうとう、パンツに手を掛け、足を通そうと膝を曲げた。
布団を蹴飛ばし、目が覚めた。家、夜、すごい汗。掻かなくなってから今日で一週間・・・?冗談じゃない、もう5月に入って半分経つ。えっと、今日で二十八日目だ。
次の日、夢と寝て最後までいった。
家のガレージでメグの胸を触り、
レースのカーテンに覆われたベッドで母さんを抱いた。
でも、その二人は、二人であって二人ではなかった。
放課後の教室でひとりマスを掻く。
その教室は、あの日の夕方そのままだ。
オレンジ色した廊下の向こうから足音がして、
もうひとりの僕が、あの娘の手を引いて走っていく。
あの日のままだ・・・。
あの子だけが僕に気付いて、こちらを見る。
僕はこするのを止めない。
興奮はますますそのスピードを増していくし、
それ自体根っから質が悪い。
僕が目を逸らすと、彼女は黒板に貼られたヌードカレンダーに身を潜めた。
あの胸・・・、願いが叶ったんだ。
まるで、ポルノ雑誌のモデルのそれみたいだ。
けど彼女の望みって、グラマーだったっけ?
ピンク・グレープフルーツってのが一番ふさわしい。
メグが耳元でささやく。
「もう、時間なの。そろそろ行かなくちゃ・・・。」
オレが・・・?
それとも、キミが・・・?
スポット & スポット トゥ ミー
最悪だ、駄目なことのオンパレードだ。きっと、誰も許してくれない。あれから毎朝、日替わりキャスターのインタビュー。5組のキャスターはまだ来ない。ワイドショーは二度と見たくない。こんなのもあんなのも楽しくとも何ともない。帰ったら、まずオレンジジュースをたらふく飲んで、マスを掻こう。後、みんなに言ったスマイルにパイルドライバー・・・。
その日、ポチは僕らにおだてられて、性教育もそっちのけ『男女生み分け法』について熱弁を振るっていた。買い手の付かない熟れたチェリーの僕たちにとって、スキンの必要性よりも役に立たない話だったが、やっぱり先生が羽目を外すのは可笑しい。その内容と言えば、たまに言葉を濁しながら『夜のバックは女の子、朝のフロントは男の子』というものだった。ポチはこれで見事に一姫二太郎を授かったと言い張ったが、それによるところかどうかは定かじゃあない。普段なら、理科以外の授業では手も挙げないライムが、積極的に発言する。
「男女の双子の場合はどうなんでしょうか、先生?」
やけにかしこまって、場の雰囲気を盛り上げる。まぁ言えば、プレッシャーを掛けにいったようなもんだ。しかし、教育上よろしくない言葉は一切使わずポチも上手くそれをかわす。
「なぁに、両方やりゃあいいのさ。」
拍手喝采。
会場は大いに盛り上がり、ポチも大満足。いつまでも鳴り止まないカーテンコール。
大事なのは、その後だ。視聴覚教室は大きな部屋で、普段は映画鑑賞や音楽の発表会などに使われている。ポチはその日、ピンマイクを引っ付けて授業を行っていた。その無意義な教育的指導を終え、拍手の雨の中、すぐ隣の便所へチョークまみれの手を洗いに行った彼は、なんと、そのまま小便をし始めてしまったのだ。あろう事かマイクのスイッチを入れたままでだ。その音は、当然、バッチシのアンプで拡声され、どでかいスピーカーから板書を写す時間を与えられた男子生徒全員にリアルタイムで放送されたのだ。
気分良く帰ってきた彼を待っていたのは、歓声混じりのスタンディングオベイションと、校長先生直々のブーイング。
誰かが叫ぶ。
「なぁに、両方やりゃあいいのさ!」
ニュースイーターは貪欲だ。
この話ですら、もう誰も見向きもしない。
ポチがそっと胸を撫で下ろしている姿が思い浮かぶ。
スクープ専門の5組のキャスターがもう次の噂を嗅ぎ回っ
ているらしい。今日、すっかりグラマーになったテニス部
の下級生が僕の所へ来て
「あの子、メグのお兄ちゃんと付き合ってるから。」
と吐き捨てていった。
まだ夏も来てないってのに、隣クラスのマドンナの心は、
すっかり秋空らしい。
雲一つない青空とは裏腹に、僕は少し妬けた。
彼女と別れてから、僕もひどく傷付いた。イチゴとは次の日すぐに仲直りしたが、もうすでに、何人かの女子は僕のことを冷やかな目で見つめていた。メグに伝わるのも時間の問題と覚悟していたが、どうやら、それはなかったらしい。なぜなら、彼女は今も僕を冷たい目で見てはいないから。それとも、相当僕に無関心なのかもしれない。あるいは、そういう男子に寛大なのか・・・ともかく、僕はまだメグとは話もできないでいる。彼女は僕に目もくれない。でも、そんな僕を好きだったあの娘の力無い微笑みは、僕を深く傷付けた分、僕に大きな事を教えてくれた。
僕は早まった。まだ無い階段を上ろうと必死だった。あの涙は多分、彼女への申し訳なさと自分への嫌悪感から来ていたんだと思う。イチゴは言う
「マス掻くのに好きな娘を使うなんてまっぴら御免やな。それこそ最低のすることやろ。俺はそこはプロフェショナルと左手に任せてる。」
それを聞いた、スマイルは
「俺は好きな娘だけを使って掻く。イチゴのは取っ替え引っ替えの浮気とおんなじやないか。」
と、言ってのけた。
僕は、ポルノ雑誌を見てマスを掻く。なのに、最後にはメグの顔がちらついたりするし、あの娘やテニス部の後輩の顔が何度も浮かぶこともあった。その度に僕は自分を責め、後ろめたい気持ちと脱力感をナンセンスな言葉の羅列と戦わせた。旺盛な想像力を押さえるための無気力なポリシー。
そこから、数日、僕だって何も考えなかった訳じゃない。
今や、自慢のポルノコレクションは、手書きのラムレーズン十食券と引き替えに、イチゴの部屋にある本棚の一番右端下に並べてある。もうマスなんて掻くもんか、絶対に。
今日で一週間になる。
昨日の夜、どうしてもマスを掻きたくなったけどあのジレンマと戦って負けることを思えば、性欲に勝利する第三の道を選んだ。
僕は今、夢見ているらしい。教室で眠っていたら、いつの間にか放課後になって、起きようと思うけれど起きられない。教室で眠っていることだけが分かっている。毎朝のように、股間が痛くて熱くてたまらない。僕はズボンを脱ぎ始める。
「おいっ、待て。誰か来たらどうすんだ・・・、
スイミングってのはまずいやろ。
だって、まだ4月だぞ。」
僕はとうとう、パンツに手を掛け、足を通そうと膝を曲げた。
布団を蹴飛ばし、目が覚めた。家、夜、すごい汗。掻かなくなってから今日で一週間・・・?冗談じゃない、もう5月に入って半分経つ。えっと、今日で二十八日目だ。
次の日、夢と寝て最後までいった。
家のガレージでメグの胸を触り、
レースのカーテンに覆われたベッドで母さんを抱いた。
でも、その二人は、二人であって二人ではなかった。
放課後の教室でひとりマスを掻く。
その教室は、あの日の夕方そのままだ。
オレンジ色した廊下の向こうから足音がして、
もうひとりの僕が、あの娘の手を引いて走っていく。
あの日のままだ・・・。
あの子だけが僕に気付いて、こちらを見る。
僕はこするのを止めない。
興奮はますますそのスピードを増していくし、
それ自体根っから質が悪い。
僕が目を逸らすと、彼女は黒板に貼られたヌードカレンダーに身を潜めた。
あの胸・・・、願いが叶ったんだ。
まるで、ポルノ雑誌のモデルのそれみたいだ。
けど彼女の望みって、グラマーだったっけ?
ピンク・グレープフルーツってのが一番ふさわしい。
メグが耳元でささやく。
「もう、時間なの。そろそろ行かなくちゃ・・・。」
オレが・・・?
それとも、キミが・・・?
スポット & スポット トゥ ミー
最悪だ、駄目なことのオンパレードだ。きっと、誰も許してくれない。あれから毎朝、日替わりキャスターのインタビュー。5組のキャスターはまだ来ない。ワイドショーは二度と見たくない。こんなのもあんなのも楽しくとも何ともない。帰ったら、まずオレンジジュースをたらふく飲んで、マスを掻こう。後、みんなに言ったスマイルにパイルドライバー・・・。
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