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王女リリアと西の魔王
集落の夜
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炎の悪魔を倒した私たちは、その晩、ドワーフの集落で大歓待を受けた。
食べきれないほどのお肉やパンやシチューを食べさせてもらった。
お酒を勧めてくるドワーフもいたけど、そっちは断った。
大パーティーは夜十時頃まで続いたけど、
「ま、この方々は、明日から西の魔王の城に向かう身なのでな」
という長老のとりなしで、お開きになった。
パーティーが終わった私たちは、空いている小屋の寝室を借りて、眠ることになった。
シャワーを浴びた後、それぞれの部屋に入って眠りにつく。
たまに来る人間のお客用の部屋ということで、ベッドが小さいなんてことはなく、快適なベッドだった。
でも。
「……眠れない」
なんだか気が高ぶって、眠れなかった。
一日のうちに、シーサーペントと炎の悪魔なんて大物二匹を相手にしたせいかな?
私は起き上がって、外に出た。
さっきまでのパーティーのにぎやかさもどこへやら、集落の洞窟は静まりかえっている。
私は、近くをぶらついた。
ふと、誰かが、小屋のそばに置かれたベンチに座っているのが目についた。
ホルスだ。
私は近づいて、
「横、いいかな?」
と、声をかけた。
「どうぞ」
ホルスは言う。
「大変だったわね、今日は」
「ええ」
「あんたと会って、ゴブリンを追い払って、シーサーペントを倒しながら湖を渡って、炎の悪魔までやっつけて」
「はい」
「すっごい疲れてるはずなのに、なんだか眠れない」
「ボクも、です」
「なんでかな? 疲れすぎると、逆に眠れないなんて体験は、まあ、したことあるけどね。前に剣術師範のイッサー先生にたくさんしごかれた時に、疲れてるのに全然眠れない、なんて感じになっちゃって」
「剣術がお好きなんですね」
ホルスが微笑んだ。
「大好き」
私も笑い返した。
そのあと、
「でも、この世で一番じゃないかもしれない。ちょっと前まではともかく、今はね」
と、言い足した。
「じゃあ、この世で一番は?」
ホルスが聞いてくる。
「これから探すわ」
「ボクもそうします」
また、お互いに笑い返す。
少し経って、
「ボクが眠れないのは、多分、疲れすぎてるからじゃないと思います」
ホルスがつぶやいた。
「なんでだと思う?」
「――怖いですから、やっぱり」
「まあ、明日か明後日には魔王の城だろうからね」
「リリアさんは、怖くないですか?」
「怖くないわけが、ないじゃない」
「でも、ボクは今日一日過ごして、あなたがなにかを恐れてるようには見えませんでしたけど」
「怖くないふりをするのが得意なだけよ」
「そういうものですか」
「あとは――そうね。自分ができることを増やして腕を磨けば、どんなことでも怖い度合いは減ってくれるわ。なくなりはしないけど」
「なるほど」
「ま、これは、さっき言ってたイッサー先生の受け売りだけどね」
私は体を大きく伸ばした。
そして、ホルスの手を握った。
「あんたには私がついてるし、私にはあんたがついてるわ。だから大丈夫」
「……分かりました。ボクも、怖くないふりをします」
「お互いにがんばりましょ。ふりをね」
私はそう言って、立ち上がった。
「おやすみ、魔法使いさん」
「おやすみなさい」
私は小屋に帰って、ベッドに入った。
――不思議なほどに、よく眠れた。
食べきれないほどのお肉やパンやシチューを食べさせてもらった。
お酒を勧めてくるドワーフもいたけど、そっちは断った。
大パーティーは夜十時頃まで続いたけど、
「ま、この方々は、明日から西の魔王の城に向かう身なのでな」
という長老のとりなしで、お開きになった。
パーティーが終わった私たちは、空いている小屋の寝室を借りて、眠ることになった。
シャワーを浴びた後、それぞれの部屋に入って眠りにつく。
たまに来る人間のお客用の部屋ということで、ベッドが小さいなんてことはなく、快適なベッドだった。
でも。
「……眠れない」
なんだか気が高ぶって、眠れなかった。
一日のうちに、シーサーペントと炎の悪魔なんて大物二匹を相手にしたせいかな?
私は起き上がって、外に出た。
さっきまでのパーティーのにぎやかさもどこへやら、集落の洞窟は静まりかえっている。
私は、近くをぶらついた。
ふと、誰かが、小屋のそばに置かれたベンチに座っているのが目についた。
ホルスだ。
私は近づいて、
「横、いいかな?」
と、声をかけた。
「どうぞ」
ホルスは言う。
「大変だったわね、今日は」
「ええ」
「あんたと会って、ゴブリンを追い払って、シーサーペントを倒しながら湖を渡って、炎の悪魔までやっつけて」
「はい」
「すっごい疲れてるはずなのに、なんだか眠れない」
「ボクも、です」
「なんでかな? 疲れすぎると、逆に眠れないなんて体験は、まあ、したことあるけどね。前に剣術師範のイッサー先生にたくさんしごかれた時に、疲れてるのに全然眠れない、なんて感じになっちゃって」
「剣術がお好きなんですね」
ホルスが微笑んだ。
「大好き」
私も笑い返した。
そのあと、
「でも、この世で一番じゃないかもしれない。ちょっと前まではともかく、今はね」
と、言い足した。
「じゃあ、この世で一番は?」
ホルスが聞いてくる。
「これから探すわ」
「ボクもそうします」
また、お互いに笑い返す。
少し経って、
「ボクが眠れないのは、多分、疲れすぎてるからじゃないと思います」
ホルスがつぶやいた。
「なんでだと思う?」
「――怖いですから、やっぱり」
「まあ、明日か明後日には魔王の城だろうからね」
「リリアさんは、怖くないですか?」
「怖くないわけが、ないじゃない」
「でも、ボクは今日一日過ごして、あなたがなにかを恐れてるようには見えませんでしたけど」
「怖くないふりをするのが得意なだけよ」
「そういうものですか」
「あとは――そうね。自分ができることを増やして腕を磨けば、どんなことでも怖い度合いは減ってくれるわ。なくなりはしないけど」
「なるほど」
「ま、これは、さっき言ってたイッサー先生の受け売りだけどね」
私は体を大きく伸ばした。
そして、ホルスの手を握った。
「あんたには私がついてるし、私にはあんたがついてるわ。だから大丈夫」
「……分かりました。ボクも、怖くないふりをします」
「お互いにがんばりましょ。ふりをね」
私はそう言って、立ち上がった。
「おやすみ、魔法使いさん」
「おやすみなさい」
私は小屋に帰って、ベッドに入った。
――不思議なほどに、よく眠れた。
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