ソード・プリンセス! ~剣術王女の冒険日記~

吉口 浩

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王女リリアと西の魔王

魔法使いの少年・1

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「いやー、ありがとうございました、姫様」

 夜が明けたあと、私たちが起きた出来事を話すと、村長は、そう言って私に礼をした。

「別に好きでやっただけよ、気にしないで」

 私はそう言って手を振った。

「なにかお礼ができればよろしいのですがね」

 村長は言うけど、

「別にいいわよ。それに、私たち、西の魔王をやっつけにいかなきゃ」
「ご武運を祈っております」

 なんてやりとりをして、私とジョージは、村のみんなに別れを告げ、ギザ山脈へと続く森へと足を踏み入れた。
 結局、村からお礼にもらったのは、干し肉を多少と村で取れたりんご何個かってところ。
 ただでさえトロールに苦しまされてた相手から、あんまりお礼をもらうわけにはいかないもんね。
 本当はもらうつもりもなかったんだけど、村長からどうしてもと言われたので、仕方なくもらってきたのだ。
 それはさておき。

「なんだか嫌な感じの森だんべ」

 森を歩き始めて少し経ったところで、ジョージが言う。

「ま、気持ちがいい森林浴って感じじゃないわね」

 木が大量に生い茂っているせいで、昼間だというのに薄暗い。
 今にもなにかが出てきそうな感じだった。

「トロール以外にも、森の化け物っているのかしら?」

 歩きながら、私は言った。

「考えたくねえだなあ」

 ジョージはおっかなびっくりだ。
 これ以上びびらせてもまずい気がしたので、

「ま、ホントに危ない化け物がいるっていうなら村長さんが言った気もするし、どうってことはない気もするけどね……」

 と、安心させてやる。
 さらに少し歩いた。
 森はますます暗くなってくる。
 これはいよいよなにかが出そうだ、という雰囲気が強まってきた辺りで、

「おーい!」

 という声が、どこからかした。

「……今の声、私の気のせいかしら?」

 私はジョージの方を見て言った。
 するとジョージは、

「いや、ホントにしたべ」

 と答える。
 鼻と耳に関しては、ジョージの方が私よりもいい。
 そのジョージがそう言うなら、本当に声はしたんだろう。

「でも、こんなところに人間がいるかな? モンスターの声かも」
「お、脅かすのやめるだよ、姫さん」

 ジョージが震える。
 そこで、また、

「おーい、ここです!! 助けてください!!」

 という声がした。
 今度はさっきの声よりも大きくって、聞こえた方向もはっきりしている。
 私たちの頭上からだった。
 上を見てみると、一人の少年――年齢は私と同じぐらいだ――が、網にくるまれ、私たちの頭上に吊り下げられていた。
 ローブを着ていて、男にしては長い髪で片目が隠れている。

「そんなとこでなにしてんの?」

 私が聞くと、

「森の中を歩いてたら、この網に体を包まれちゃったんです」

 少年は言った。

「この網の罠は、ゴブリンがよく使うやつだんべ」

 ジョージが言う。
 ゴブリン。背の低い緑色の、人型の怪物だ。
 道具や罠を使うぐらいの知恵はあるけど、大して力はなくって、それほど怖い相手でもない。

「そういや、この森にはゴブリンも住んでるって話は、聞いたことがあるだ」
「トロールに比べりゃ危ない相手でもないから、村長は言わなかったのね」

 ジョージと私が話していると、

「あの……助けてもらってもいいですか」

 と、少年が言った。

「あ、ごめん」

 私は、剣を抜くと、ザンと少年の網を斬ってやった。
 網がバラバラになり、少年は地面に落ちて尻もちをついた。

「あいたた……」
「大丈夫?」

 私が聞くと、

「はい、ありがとうございます。ボクの名はホルス」

 と、少年は答えた。
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