ソード・プリンセス！ ～剣術王女の冒険日記～

王女リリアと西の魔王

ピロノ村のトロール・４

「な、なにごとやねん！」

　トロールは額を抑えたまま叫んだ。
　私は箱から飛び出し、

「あんたをお仕置きに来ただけよっ！」

　と、トロールに剣を突きつけた。
　私の後ろで、棍棒を持ったジョージが、

「トロールさんよ、下手に逆らうと、姫さんにバラバラにされるべ」

　と、言った。
　どうやら、自分で戦うつもりはないみたいだ。

「姫さんやて？」

　またジョージは余計なこと言って、と思いつつ、

「私はポッツンケップ王国の王女のリリアよ」

　と、私は名乗った。

「な、なして王女がこんなどうでもいい村に来るねん」

　トロールは大慌てだ。
　私は、この状況を利用してやらない手はない、と思い直した。

「あんたが村の人たちをいじめてるって話が、お城まで聞こえてきてね。これは許しちゃおけないってんで、王女の私が直々に派遣されたってわけ」

　と、嘘をつく。
　相手の戦う気をなくすためには、通りかかってやっつけることになったって言うよりも、こっちの方が効くだろう。

「なんやてえ？」
「王家ではあんたの悪さをすごく重く見ていてね、悪さをした化け物の見せしめとして、剥製にして飾ろうなんて話も出てるのよ」

　一回そういうつもりになると、案外すらすらと作り話を思いつくもんだと、我ながら驚く。

「勘弁してえな、ワイも食ってくために仕方なくやってたことなんやで」
「大人しく森の奥で獣と山菜でも食べてるか、里に出るなら力仕事でもやってお金を稼ぎなさい」
「うぬぬぬぬ」
「とにかく、これ以上村でなんかするっていうつもりなら、私が相手になるわよ」
「ぐぬぬぬぬ」

　トロールは少し迷った。
　じっと、私のことを見てくる。
　額の痛みが収まってきて、私の姿をじっくり見る余裕ができたのだろう。
　――こんな小娘には、不意さえ打たれなきゃ負けない。
　と、思ったのかどうかはしらないが、とにかくやっぱり戦う気になったようだ。
　腰に差している、長さニメートルばかりの棍棒を持つと、

「ぐおおお！！」

　と、私めがけて振り下ろしてきた。
　私は、剣を走らせて、
　
　ザッ

　と、その棍棒をみじん切りにしてやった。
　おがくずになった棍棒が、ぱらぱらと地面に落ちた。

「はれ？」

　トロールは、一瞬でなくなってしまった棍棒のあった場所を見ながら、呆然とした顔をする。

「お話中に不意打ちなんて、感心しないわ」

　私が言った。

「あんたの気持ちはよく分かったわ。棍棒の次は、あんたをみじん切りにすることにする」
「堪忍や、堪忍したってや」

　トロールは今度こそかなわないのを悟ったのか、私めがけてペコペコと謝る。

「どうしよ？」

　私はジョージに聞いてみた。

「トロールは単純だべ、一回怖がらせとけば、もう村には近づかねえだよ」

　ジョージは答える。
　このコボルドは、こう見えても、図鑑や書物を読んでいて、意外に物知りだったりするのだ。

「分かった。……トロールさん。もう二度と村には近づかないって約束するなら。生きて帰してあげてもいいわ」
「約束するする、しまんがな」

　トロールはぶんぶんとうなずいたあと、どしんどしんと一目散に去っていった。

「これにて一件落着ってわけね？」

　私はジョージに言った。

「……ま、村のトロールの件についてはだけんどもな」

　ジョージはうなずく。