ソード・プリンセス! ~剣術王女の冒険日記~

吉口 浩

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王女リリアと西の魔王

襲われたお城・3

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「力の腕輪ってなんなのよ?」

 私は聞いた。

「その名の通りの腕輪です。つけたものの持つ腕力を、一時的に百倍にするという魔法の遺物ですよ」

 ママは答える。

「なんだ、うちの国にそんなもんがあったんだ」
「いやしくもうちは、先祖代々続く、由緒正しい小国ですよ」

 ママが、うちの国を褒めたいんだかけなしたいんだかよく分からないことを言う。

「ただ、狙われると困るから、そんなに広くは知られないようにしてるんですけどね」
「うん、私も知らなかったぐらいだもんね」
「あなたには、十歳になった時に見せたはずですよ」

 ママはじろっと私を見る。

「そうだっけ? はは、忘れっぽくて」

 私は頭をかいた。

「ま、いいです。とにかく、あの西の魔王に、力の腕輪を盗まれてしまったものだから……」
「パパがこのザマってわけ?」

 私はベッドでうなっているパパを見た。

「王様は気が弱いからなあ」

 ジョージが言う。

「ま、そうなんだけどね……」

 私はため息をついた。
 パパと来たら、昔から気が弱くって、私が手をすりむいたと言えば大泣きするし、お城の豚小屋の豚が三頭逃げ出したとなったら夜も眠れないって感じなんだから。
 平和な国だからいいけど、戦乱の世の中だったら、とても王様なんてやってらんないわよ。

「魔法のアイテムが盗まれたとなったら、半年は寝込んでるかもね」

 私が言うと、ママも、

「参るわね、私一人だけじゃ、政務も大変だっていうのに」

 と、困り顔。
 もっとも、ママの方は、パパと違ってのんきなもんだから、言うほどむちゃくちゃ困った感じには見えないんだけどね。

「ねえ、ママ。その西の魔王ってやつを、軍隊でやっつけにいかないの?」

 私はママに聞いてみた。

「西の魔王の住むギザ山脈は険しくて、軍隊が入れるような場所じゃありませんよ」

 ママは言う。
 さらに、

「それに、今回の襲撃で兵士の半分ぐらいは怪我をしましたから、元気な兵士をむやみにお城から離れさせるわけには行かないわ」

 と、ため息。

「うーん、それもそっか」

 たしかに、力の腕輪を取り戻したいからって、お城を空にして出かけるわけにはいかないだろう。
 国を守るのが一番大事だもんね。
 だからって、お宝を奪われっぱなしっていうわけにはいかない気がする。
 私は少し考えたあと、

「ね、ママ。私が行こっか?」

 と、言った。

「あなたが?」
「うん、私が西の魔王のところまで行って、力の腕輪を取り戻してきてあげる」
「でも……」
「軍隊は動かせないんだから、誰かが一人で行くしかないでしょ」
「それはそうかもしれないけど」
「その一人は、この国で一番強い奴の方がいいわよね」
「それもそうかもしれないけど」

 自慢じゃないけど、腕っぷしで私に勝てる奴は、このお城の中にはいない。
 ……と、言いたいところだけど。

「いや、イッサー先生のが上だべ」

 ジョージが言った。
 そう。
 私の剣の師匠、剣術師範のイッサー先生だけは、私より腕が上だ。
 とはいえ、

「だってイッサー先生は、少し動くとぎっくり腰になるじゃない」

 私は言い返した。

「まあ、あの人も年だかんなあ」

 ジョージが言い、

「ええ、先ほども、西の魔王戦おうとなさっていたんだけど、激しく動いてその前に腰をおかしくしてしまって」

 と、ママもため息。

「ほら、だから、旅なんか出来る中では私が一番じゃん。ね、ママ。いつまでもパパを寝込ませとくわけにもいかないんだからさ」

 私がそうやって迫ると、ママはしばらく考えて、

「それもそうね」

 と、あっさりと答えた。
 なにしろ、うちのママは根本的にはのんきなのだ。

「よーし、話は決まった。ジョージ、出かけるわよ!」

 私が叫ぶと、

「え、オラもいくだかね」
「あんたはこのお城で一番、耳と鼻がいいからね。私と二人なら怖いものなしってわけよ」
「とほほ……オラは怖いだがねえ」

 こうして私は、コボルドのジョージを引き連れて、ギザ山脈にある西の魔王の城にめがけて、出発することになったのだ。
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