34 / 97
第7章 下町の通り魔
事後報告
しおりを挟む
翌日の昼。
五郎は冒険者ギルドの執務室に来ていた。
「……と、いうわけだ」
五郎はことと次第をゴードンに説明した。
ゴードンは話をひとしきり聞いて、
「流石はルー殿でございますな。昔、このギルドに所属していた頃にも、大した腕をお見せになっていたものです。しかし……」
「しかし、なんだね?」
「殺したのはまずうございましたね。犯人だという証拠もない。下手をすれば、あなた方が無関係なものを殺しただけかと疑われますぞ」
「だから、死体はそのまま置いてきた」
「これはこれは……」
そこで、執務室のドアがきいと開いた。
開けたのは、ゴードンがギルド事務所で使っている下働きの1人の若い男だった。
「なんです、あわただしい。人がいるんだからノックぐらいなさい」
と、ゴードンは男をしかった。
「すいません。ただ、領主様の方からこんな通達が来たもので」
「ま、いいでしょう。その通達を置いて帰りなさい」
「はいっ」
下働きの男は、ゴードンの机に一通の封書を置くと、すぐに部屋から出ていった。
「しつけが行き届きませんでもうしわけございませんね」
「若い者になにごとも上手くやれというのも無理さ」
「ほほほ……」
「ところで、その封書にはなんて書いてある?」
「少し確認してみましょう。五郎どのにもお知らせしていいものかどうか分かりませんので」
そう言ってゴードンは、封書の中から一枚の紙を取り出し、読んだ。
「ははあ……これはこれは……」
と顔をしかめる。
「なにかまずかったのかい」
「領主さまから、通り魔の捜索にもっと力を入れるようにとのご通達です」
「ほう?」
「これまでのターゲットは非武装の庶民ばかりでしたが……今回とうとう、武装した貴族の方が犠牲になりましたそうで」
「なるほど」
五郎は、大体のところの察しがついてきた。
とはいえ、話は最後まで聞かねば分からない。
「続けてくれ」
「カーマイン男爵のご子息が、下町で頭を叩き割られていたそうです」
「それはどんな男かね」
「肖像画の版画の写しが同封されております」
そう言ってゴードンは、一枚の絵を出した。
案の定、そこには例の、ルーが殺したやせた男の顔があった。
「ひどいこともあるもんだな。下町での火遊びがすぎたんだろう」
五郎が言った。
「ええ。本当にひどい話です」
「まあ、とにかく俺に出来るのはここまでだ」
五郎は立ち上がった。
「報酬はお支払いできかねますぞ」
「もちろん結構だ」
そう言って五郎は執務室を去った。
ゴードンは血のめぐりがいい男だ。
一体どういうことが起こったのか、言わずとも察しているだろう。
五郎はギルドの建物を出た。
空が青い。
(それにしても……)
許せぬ話もあるものだ、と思った。
(可能なら俺自身で斬ってもよかったぐらいだ)
と、今回ばかりは思う。
まあ、どちらにせよ終わったことである。
五郎は走るこぐま亭への道を歩き出した。
殺人がほぼなくなったというので、衛兵による通り魔狩りが終わったのは、1ヶ月後のことだった。
五郎は冒険者ギルドの執務室に来ていた。
「……と、いうわけだ」
五郎はことと次第をゴードンに説明した。
ゴードンは話をひとしきり聞いて、
「流石はルー殿でございますな。昔、このギルドに所属していた頃にも、大した腕をお見せになっていたものです。しかし……」
「しかし、なんだね?」
「殺したのはまずうございましたね。犯人だという証拠もない。下手をすれば、あなた方が無関係なものを殺しただけかと疑われますぞ」
「だから、死体はそのまま置いてきた」
「これはこれは……」
そこで、執務室のドアがきいと開いた。
開けたのは、ゴードンがギルド事務所で使っている下働きの1人の若い男だった。
「なんです、あわただしい。人がいるんだからノックぐらいなさい」
と、ゴードンは男をしかった。
「すいません。ただ、領主様の方からこんな通達が来たもので」
「ま、いいでしょう。その通達を置いて帰りなさい」
「はいっ」
下働きの男は、ゴードンの机に一通の封書を置くと、すぐに部屋から出ていった。
「しつけが行き届きませんでもうしわけございませんね」
「若い者になにごとも上手くやれというのも無理さ」
「ほほほ……」
「ところで、その封書にはなんて書いてある?」
「少し確認してみましょう。五郎どのにもお知らせしていいものかどうか分かりませんので」
そう言ってゴードンは、封書の中から一枚の紙を取り出し、読んだ。
「ははあ……これはこれは……」
と顔をしかめる。
「なにかまずかったのかい」
「領主さまから、通り魔の捜索にもっと力を入れるようにとのご通達です」
「ほう?」
「これまでのターゲットは非武装の庶民ばかりでしたが……今回とうとう、武装した貴族の方が犠牲になりましたそうで」
「なるほど」
五郎は、大体のところの察しがついてきた。
とはいえ、話は最後まで聞かねば分からない。
「続けてくれ」
「カーマイン男爵のご子息が、下町で頭を叩き割られていたそうです」
「それはどんな男かね」
「肖像画の版画の写しが同封されております」
そう言ってゴードンは、一枚の絵を出した。
案の定、そこには例の、ルーが殺したやせた男の顔があった。
「ひどいこともあるもんだな。下町での火遊びがすぎたんだろう」
五郎が言った。
「ええ。本当にひどい話です」
「まあ、とにかく俺に出来るのはここまでだ」
五郎は立ち上がった。
「報酬はお支払いできかねますぞ」
「もちろん結構だ」
そう言って五郎は執務室を去った。
ゴードンは血のめぐりがいい男だ。
一体どういうことが起こったのか、言わずとも察しているだろう。
五郎はギルドの建物を出た。
空が青い。
(それにしても……)
許せぬ話もあるものだ、と思った。
(可能なら俺自身で斬ってもよかったぐらいだ)
と、今回ばかりは思う。
まあ、どちらにせよ終わったことである。
五郎は走るこぐま亭への道を歩き出した。
殺人がほぼなくなったというので、衛兵による通り魔狩りが終わったのは、1ヶ月後のことだった。
10
お気に入りに追加
1,011
あなたにおすすめの小説
元万能技術者の冒険者にして釣り人な日々
於田縫紀
ファンタジー
俺は神殿技術者だったが過労死して転生。そして冒険者となった日の夜に記憶や技能・魔法を取り戻した。しかしかつて持っていた能力や魔法の他に、釣りに必要だと神が判断した様々な技能や魔法がおまけされていた。
今世はこれらを利用してのんびり釣り、最小限に仕事をしようと思ったのだが……
(タイトルは異なりますが、カクヨム投稿中の『何でも作れる元神殿技術者の冒険者にして釣り人な日々』と同じお話です。更新が追いつくまでは毎日更新、追いついた後は隔日更新となります)
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である
megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる