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しおりを挟む「あぁ、御主人様。どうか役立たずのボクを罵ってください」
「え?貴方まだ洗脳が解けてないの、鬱陶しい」
「なんと!鬱陶しいとは心が震える響き、ですが物足りないですよ」
「あー……」
兄のニールの事をすっかり忘れていたアルメスは頭を抱えた、忠実なる僕と化した彼だが些か持て余す。
「ねぇ兄様、暇ならば王家の事を探って頂戴。それとサハンナの方もね、このまま大人しくしているとは思えなくて。ないとは思うけれど不安要素はつまなければ」
「なるほど、大国アングラルドを敵に回すとは思えないですが、わかりました!お任せを」
こうして飼い慣らされた狗の如くニールは走っていった。
「さて、茶会の事を考えねば……第一回目はあちらの主導で行われるのよね。とは言え手ぶらでとはいかない、茶請けの菓子を見繕わなければ」
焼き菓子のリストをパラパラ捲り、どのような物が良いだろうと頭を悩ます。あちらも菓子類は用意しているので、重すぎず軽すぎないものを選択しなければならない。
「そう言えばお母様とはあれきり会えてないのよね、領地運営が忙しいのはわかるけど」
母アンジェルはとにかく忙しい、入り婿の父は自分のことばかりで役立たずなのだ。あれから大人しくしているのだが、相変わらずヘコヘコと重鎮らに媚を売って歩いていた。
今、母は秋の収穫で忙しく方々を回っていた、ワイン用の葡萄や小麦の備蓄にと飛び回っているのだ。
「私もお手伝いしたいのだけどまだ子供だと取り合ってくれないのよね」
まだ、十三歳という己の現実を恨めしく思う。
ちなみにオクタヴィア・アングラルドは19である、まぁまぁな歳の開きだが貴族間ではよくあることだ。
***
そして、いよいよ茶会が開かれる日となった。
オクタヴィアは隣国から来ているのだが、ちゃんとバラデルモ国内に居を構えていた。公爵、侯爵家に引けを取らない邸宅は流石としか言いようがない。
「仮住まいなので狭くて申し訳ない、アングラルドに戻ったらちゃんとした屋敷があるからね」
「え……いいえ、十分ですわ。その……花園の見事な事と言ったら豪壮そのものです」
「そうかい?こんなチンケなもので恐縮なのだが喜んで貰えたなら嬉しいよ」
「は、はは」
チンケなどと言うが王家の薔薇園が霞むほど立派なものだ、アルメスは井の中の蛙とか此のことかと青褪めた。今日はそのご立派な花園で茶会を開いていた。
ふたりは他愛ない話をしてしばし談笑する、眠れないほど緊張していたアルメスだがすっかり打ち解けたようすだ。彼は偉丈夫で厳格そうな顔と相まって委縮してしまうのだが、話てみれば年相応の男子だった。
そのギャップもあってか彼女はホッとしている。
”そろそろ、あの話を振っていいころかしら?”
アルメスは居住まいを正して「聞きたいことがあります」と畏まった、すると彼は悪戯な笑みを零すと「やはり気になるよね」と言った。
「なんと言うかな、啓示とでも言うのか。ある日、夢を見たんだ。悲しく苦しんでいる女性の夢さ、とてもリアルでこちらまで涙するほどだった。私は苦しむ彼女を救いたいと願った、この手で守ってあげなければならないとね。それから数日して再び夢を見た、とても残酷な夢だった……彼女はある女性に殺されてしまった。不慮の事故だとは思うが彼女が浮かばれないと思ったよ」
アルメスはヒュッと息を吸う、それは前回の人生で味わった屈辱だったからだ。
「あ、あの……その夢が啓示だと?ど、どうして」
「それは私も以前の記憶をもって生まれたからさ。私も丁度同じに苦しんでいたのだよ。私は腹違いの弟に殺されたんだ」
「なんですって!?」
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