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しおりを挟むメイドは残酷にして神以て言う。
「生きて抗いなさい、貴女はそれが出来るはずです」
「な、なんですって?私の何を知っているのよ!悔しいだけの人生をまた歩めと言うの!馬鹿にしないで」
ここにきて悔しさが爆発したアルメスは滂沱に涙を流した、誰にも見せまいとしていた苦い涙だ。
するとメイドは急に威厳に満ち少し低い声で語りだした。
「大丈夫、二度はありませんよ。貴女は幸せに生きるべきなんです」
「……え?まさか貴女……私が死に戻りしたことを知っていると言うの?」
「はい、そのようなものですね」
彼女は信じ難いと瞠目するが目の前のメイドはしっかりと認めた、そして母アンジェルも当然知っていると言うではないか。
「あぁ……そんなお母様までも、なんという事かしら」
「私が教えたのですけどね、最初は信じて貰えず苦労しましたよ」
「まぁまぁ!そんな事が!」
感動と衝撃で再び涙がじんわりと浮かびあがったが、グッと堪えて前を向く彼女だ。それを見届けたメイドはフワリと微笑むとこう言う。
「さて、アルメス嬢の物語は再び動き出した。後は悪漢共の始末だけ」
「っ!?あなた……その声は」
「ふふ、そうです。今はしがないメイドの姿……」
こそこそと話しているアルメスとメイドの様子に業を煮やした王の声が割って入る。何者なのか、それから不敬であると声高に喚き散らした。
「あぁ、これは失礼した。まだ身分を明かして無かったね……」
メイドがバサリと身を翻せばあっという間に凛々しい男性に変わった、上背も更に大きくなって剣を佩いている。
「え」
「なんだと!?」
「んまぁ……」
それぞれ驚愕して各々素っ頓狂な声を上げる、特に王と王妃の驚きようは尋常ではない。アルメスは一瞬で様変わりしたメイドに口をパクパクしていた。そこには騎士服を着た凛とした男子が立っていたからだ。
「うん、上出来だ。魔法の腕は鈍っていない」
「あ、貴方はいったい……メイドはどこに、わけがわからないわ」
「ふふ、ごめんよ。私は」
そう言いかけた時、王が口を挟んで「オクタヴィア・アングラルド殿下!」と叫んだではないか。彼は隣国アングラルド国の第一王子その人なのだ。
「やれ、自分で名乗りたかったのだがね。バラデルモの愚王よ、私は少々腹が立っている」
「は、ハハァ!お目にかかれて幸甚にございますれば」
「良い、定型文のような挨拶は要らん」
王子は胡散臭いものを見るように目を眇めた、大国であるアングラルドに頭が上がらない様子のバラデルモ王はカタカタと肩を震わせている。
「さてと随分な縁談を押し付けているようだな愚王。この国では本人の意思はガン無視なのかい?いくら王族とはいえ強引すぎるのではないか?」
「いえ、その……良き世継ぎを残さねばなりませんから……賢い姫君を娶るのは当然のことであると」
「へぇ?世継ぎのためにねぇ、ではこれをみて頂こうか」
王子は一枚の書面をぴらぴらとしてみせた、どうやら王璽が押された重要書類と見られる。
「は、拝見します」
王は震えながらそれを拝読する、すると見る見ると青褪めて地に伏した。
「なんと……なんてことだ……」
「どうだい?キミらに倣って良き伴侶をえる為に私が動いた結果だよ、より良き遺伝子を残すためにね。多少強引にいった方が良いんだろう?」
「あ、あわ……そんなバカな」
その書面に書かれていたのは、オクタヴィア・アングラルド王子とアルメス・オブリネール侯爵令嬢の婚約の書だった。日付はとうの昔のアルメスが8歳の頃に結ばれたものだ、彼女本人すら知らなかった真実である。
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