上 下
12 / 19

12

しおりを挟む




メイドは残酷にして神以てしんもって言う。
「生きて抗いなさい、貴女はそれが出来るはずです」
「な、なんですって?私の何を知っているのよ!悔しいだけの人生をまた歩めと言うの!馬鹿にしないで」
ここにきて悔しさが爆発したアルメスは滂沱に涙を流した、誰にも見せまいとしていた苦い涙だ。

するとメイドは急に威厳に満ち少し低い声で語りだした。
「大丈夫、二度はありませんよ。貴女は幸せに生きるべきなんです」
「……え?まさか貴女……私が死に戻りしたことを知っていると言うの?」
「はい、そのようなものですね」

彼女は信じ難いと瞠目するが目の前のメイドはしっかりと認めた、そして母アンジェルも当然知っていると言うではないか。
「あぁ……そんなお母様までも、なんという事かしら」
「私が教えたのですけどね、最初は信じて貰えず苦労しましたよ」
「まぁまぁ!そんな事が!」

感動と衝撃で再び涙がじんわりと浮かびあがったが、グッと堪えて前を向く彼女だ。それを見届けたメイドはフワリと微笑むとこう言う。

「さて、アルメス嬢の物語は再び動き出した。後は悪漢共の始末だけ」
「っ!?あなた……その声は」
「ふふ、そうです。今はしがないメイドの姿……」

こそこそと話しているアルメスとメイドの様子に業を煮やした王の声が割って入る。何者なのか、それから不敬であると声高に喚き散らした。

「あぁ、これは失礼した。まだ身分を明かして無かったね……」
メイドがバサリと身を翻せばあっという間に凛々しい男性に変わった、上背も更に大きくなって剣を佩いている。

「え」
「なんだと!?」
「んまぁ……」

それぞれ驚愕して各々素っ頓狂な声を上げる、特に王と王妃の驚きようは尋常ではない。アルメスは一瞬で様変わりしたメイドに口をパクパクしていた。そこには騎士服を着た凛とした男子が立っていたからだ。

「うん、上出来だ。魔法の腕は鈍っていない」
「あ、貴方はいったい……メイドはどこに、わけがわからないわ」
「ふふ、ごめんよ。私は」

そう言いかけた時、王が口を挟んで「オクタヴィア・アングラルド殿下!」と叫んだではないか。彼は隣国アングラルド国の第一王子その人なのだ。

「やれ、自分で名乗りたかったのだがね。バラデルモの愚王よ、私は少々腹が立っている」
「は、ハハァ!お目にかかれて幸甚にございますれば」
「良い、定型文のような挨拶は要らん」

王子は胡散臭いものを見るように目を眇めた、大国であるアングラルドに頭が上がらない様子のバラデルモ王はカタカタと肩を震わせている。
「さてと随分な縁談を押し付けているようだな愚王。この国では本人の意思はガン無視なのかい?いくら王族とはいえ強引すぎるのではないか?」

「いえ、その……良き世継ぎを残さねばなりませんから……賢い姫君を娶るのは当然のことであると」
「へぇ?世継ぎのためにねぇ、ではこれをみて頂こうか」
王子は一枚の書面をぴらぴらとしてみせた、どうやら王璽が押された重要書類と見られる。

「は、拝見します」
王は震えながらそれを拝読する、すると見る見ると青褪めて地に伏した。
「なんと……なんてことだ……」
「どうだい?キミらに倣って良き伴侶をえる為に私が動いた結果だよ、より良き遺伝子を残すためにね。多少強引にいった方が良いんだろう?」

「あ、あわ……そんなバカな」

その書面に書かれていたのは、オクタヴィア・アングラルド王子とアルメス・オブリネール侯爵令嬢の婚約の書だった。日付はとうの昔のアルメスが8歳の頃に結ばれたものだ、彼女本人すら知らなかった真実である。










しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

殿下に裏切られたことを感謝しています。だから妹と一緒に幸せになってください。なれるのであれば。

田太 優
恋愛
王子の誕生日パーティーは私を婚約者として正式に発表する場のはずだった。 しかし、事もあろうか王子は妹の嘘を信じて冤罪で私を断罪したのだ。 追い出された私は王家との関係を優先した親からも追い出される。 でも…面倒なことから解放され、私はやっと自分らしく生きられるようになった。

婚約破棄した王子は年下の幼馴染を溺愛「彼女を本気で愛してる結婚したい」国王「許さん!一緒に国外追放する」

window
恋愛
「僕はアンジェラと婚約破棄する!本当は幼馴染のニーナを愛しているんだ」 アンジェラ・グラール公爵令嬢とロバート・エヴァンス王子との婚約発表および、お披露目イベントが行われていたが突然のロバートの主張で会場から大きなどよめきが起きた。 「お前は何を言っているんだ!頭がおかしくなったのか?」 アンドレア国王の怒鳴り声が響いて静まった会場。その舞台で親子喧嘩が始まって収拾のつかぬ混乱ぶりは目を覆わんばかりでした。 気まずい雰囲気が漂っている中、婚約披露パーティーは早々に切り上げられることになった。アンジェラの一生一度の晴れ舞台は、婚約者のロバートに台なしにされてしまった。

「本当に僕の子供なのか検査して調べたい」子供と顔が似てないと責められ離婚と多額の慰謝料を請求された。

window
恋愛
ソフィア伯爵令嬢は公爵位を継いだ恋人で幼馴染のジャックと結婚して公爵夫人になった。何一つ不自由のない環境で誰もが羨むような生活をして、二人の子供に恵まれて幸福の絶頂期でもあった。 「長男は僕に似てるけど、次男の顔は全く似てないから病院で検査したい」 ある日ジャックからそう言われてソフィアは、時間が止まったような気持ちで精神的な打撃を受けた。すぐに返す言葉が出てこなかった。この出来事がきっかけで仲睦まじい夫婦にひびが入り崩れ出していく。

【完結】婚約者と養い親に不要といわれたので、幼馴染の側近と国を出ます

衿乃 光希(絵本大賞参加中)
恋愛
卒業パーティーの最中、婚約者から突然婚約破棄を告げられたシェリーヌ。 婚約者の心を留めておけないような娘はいらないと、養父からも不要と言われる。 シェリーヌは16年過ごした国を出る。 生まれた時からの側近アランと一緒に・・・。 完結しました。

聖女で美人の姉と妹に婚約者の王子と幼馴染をとられて婚約破棄「辛い」私だけが恋愛できず仲間外れの毎日

window
恋愛
「好きな人ができたから別れたいんだ」 「相手はフローラお姉様ですよね?」 「その通りだ」 「わかりました。今までありがとう」 公爵令嬢アメリア・ヴァレンシュタインは婚約者のクロフォード・シュヴァインシュタイガー王子に呼び出されて婚約破棄を言い渡された。アメリアは全く感情が乱されることなく婚約破棄を受け入れた。 アメリアは婚約破棄されることを分かっていた。なので動揺することはなかったが心に悔しさだけが残る。 三姉妹の次女として生まれ内気でおとなしい性格のアメリアは、気が強く図々しい性格の聖女である姉のフローラと妹のエリザベスに婚約者と幼馴染をとられてしまう。 信頼していた婚約者と幼馴染は性格に問題のある姉と妹と肉体関係を持って、アメリアに冷たい態度をとるようになる。アメリアだけが恋愛できず仲間外れにされる辛い毎日を過ごすことになった―― 閲覧注意

夫の告白に衝撃「家を出て行け!」幼馴染と再婚するから子供も置いて出ていけと言われた。

window
恋愛
伯爵家の長男レオナルド・フォックスと公爵令嬢の長女イリス・ミシュランは結婚した。 三人の子供に恵まれて平穏な生活を送っていた。 だがその日、夫のレオナルドの言葉で幸せな家庭は崩れてしまった。 レオナルドは幼馴染のエレナと再婚すると言い妻のイリスに家を出て行くように言う。 イリスは驚くべき告白に動揺したような表情になる。 子供の親権も放棄しろと言われてイリスは戸惑うことばかりでどうすればいいのか分からなくて混乱した。

婚約者に嫌われているようなので離れてみたら、なぜか抗議されました

花々
恋愛
メリアム侯爵家の令嬢クラリッサは、婚約者である公爵家のライアンから蔑まれている。 クラリッサは「お前の目は醜い」というライアンの言葉を鵜呑みにし、いつも前髪で顔を隠しながら過ごしていた。 そんなある日、クラリッサは王家主催のパーティーに参加する。 いつも通りクラリッサをほったらかしてほかの参加者と談笑しているライアンから離れて廊下に出たところ、見知らぬ青年がうずくまっているのを見つける。クラリッサが心配して介抱すると、青年からいたく感謝される。 数日後、クラリッサの元になぜか王家からの使者がやってきて……。 ✴︎感想誠にありがとうございます❗️ ✴︎(承認不要の方)ご指摘ありがとうございます。第一王子のミスでした💦 ✴︎ヒロインの実家は侯爵家です。誤字失礼しました😵

【完結】私と婚約破棄して恋人と結婚する? ならば即刻我が家から出ていって頂きます

水月 潮
恋愛
ソフィア・リシャール侯爵令嬢にはビクター・ダリオ子爵令息という婚約者がいる。 ビクターは両親が亡くなっており、ダリオ子爵家は早々にビクターの叔父に乗っ取られていた。 ソフィアの母とビクターの母は友人で、彼女が生前書いた”ビクターのことを託す”手紙が届き、亡き友人の願いによりソフィアの母はビクターを引き取り、ソフィアの婚約者にすることにした。 しかし、ソフィアとビクターの結婚式の三ヶ月前、ビクターはブリジット・サルー男爵令嬢をリシャール侯爵邸に連れてきて、彼女と結婚するからソフィアと婚約破棄すると告げる。 ※設定は緩いです。物語としてお楽しみ頂けたらと思います。 *HOTランキング1位到達(2021.8.17) ありがとうございます(*≧∀≦*)

処理中です...