完結 お飾り正妃も都合よい側妃もお断りします！

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例の建国祭から約二週間が過ぎた頃。
国王から召喚命令が来た、アルメスは嫌な予感を拭えず蒼くなった。そう、”側妃として王太子に仕えるように”とあの時と同じ日に呼び出されたのである。

もちろん正妃はサハンナを指名している、前世と同じに無能な王太子夫妻に変わり働けというつもりなのだ。

「どうしよう……運命はやはり変えられないの？だったら何故私は戻されたというの」
気の強い彼女だったがあまりの事に涙が止まらない、どうして、どうしてと何度も繰り返し心労のあまり高熱を出して寝込んでしまう。

だが、時間は止まってくれない、フラフラになりながらも寝床から這い出て支度をする。
『何れにせよ、自分の言葉で断わりたいわ。そして変わらないというのならば……』
彼女はスゥと表情が消えてあるものを懐に入れた、一丁のナイフである。そう、彼女は自決覚悟で臨もうと言うのである。誰にも苦悩を打ち明けずに彼女は決意したのだ。

『誰が大人しくあんな男の元に嫁ぐものですか！お母様に御迷惑を掛けずに済むにはこれしかない』
涙も枯れきったアルメスは表情の抜けた顔のまま馬車に乗り込む、しかし、いつもと違うことに気が付いた。

母アンジェル付きのあの上背のあるメイドが同乗したのである、彼女は「道中お世話させていただきます」軽く挨拶をするとニッコリ微笑んだ。
「お母上のご命令で同行いたします、宜しくい願いします」
「……そう、誰がついてこようがどうでも良いわ」

アルメスはメイドを一瞥しただけでプイとソッポを向いてしまう、それでもメイドはニコニコと朗らかにそこにいた。


＊＊＊

そこには王をはじめ王妃、クレマン王太子、サハンナ・キンバリーが勢ぞろいしていた。みんな彼女を見下した顔をしている。

「アルメス・オブリネールご命令通り参りました」
彼女は固い表情のまま王と王妃の前に現れた、すると王は鷹揚に頷き「其方に誉ある大役を与えよう」と言った。
「我が子、クレマンの側妃として迎えようではないか。喜ぶが良い」
「そうですよ、これは名誉あることです」

王も王妃も媚びへつらって”喜んで”と言うものと決めつけていた。だが、そんなことをアルメスが言うはずもない。
「下衆が、誰がこんな馬鹿王子の伴侶になるものか！お前達が甘やかして育てたせいだ！その尻拭いなど誰がやるものですか！」
「な、なんだと!?」
信じられないものを見るように王はポカンとしている、王妃とて同様だ。クレマンにいたっては「どういうこと？」と呆けていた。

「はっ！わからないの？お断りだと言ったのよ、この老害どもめ！」
「んなっ！無礼者め！余を誰だと……」
「あら、わかっていてよ、能無しの王太子を育てた能無し王だわ。アハハハッ」

彼女は兵達が動いたタイミングでナイフを懐から出し一気に喉を突こうする。あまりの速さに誰もが手を出せずにいた、はずだった。
カキン！と弾かれる音が響いた、寸でのところで刃が阻止されたのだ。それでも僅かに掠めたのか一筋の赤が首筋に流れた。

「やれ、お転婆だこと。もうちょっと遅かったらザックリいってましたよ？」
「あ、あなた……どうして邪魔をするの！私はこれが最良だと」
「最良？どこがですか、バカ共の為に貴女が若い命を散らす必要などない」
「え？」