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しおりを挟む「ようこそ皆様、存分に楽しんで頂戴!王家自慢の薔薇園を開放しますわ」
王妃マリゲーテはニコニコと人好きする笑顔で挨拶をした、少しふくよかな肢体を揺らして壇上から下りてゆく。
「さあ、始まったわ。私達は4番目に挨拶をするわよ」
「え、ええ、お母様……」
三大公爵の後に次ぎ列をなしたオブリネール家は母のアンジェルを筆頭に父ランデルが鼻息荒く立っていた。その横には兄のニールが控えている。
アルメスはと言えば緊張した面持ちで前方を見据えている、その瞳が捕らえるのはクレマン・バラデルモ王太子の姿だ。彼はやはり外面が良く、王妃と同じ笑顔を振りまき「無礼講」だとでも言いたげだ。
『あぁ、あの笑顔に騙されたのよね、見目だけは良いんだから腹立たしい!』
まだ14歳の彼は初々しい顔で愛想を振りまいている、そのうち本性を現して横暴に生きるのだろう。鼻梁も美しいその横顔をじっと見つめるアルメスである。
『今度こそは間違えないわ、傍若無人な男に騙されてなるものですか!』
彼女は広げた扇の奥で密かに悪態をつく。
***
「この度は王妃様のお茶会おめでとうございます、お招きいただきまして至福に存じます」
「まあまぁ、オブリネール夫人!久しいこと、お元気?」
「はい、この通りでございます」
母アンジェルは差しさわりない挨拶をして引こうとした、ところが何を思ったのか父ランデルが余計な事をする。たかが入り婿だというにしゃしゃり出たのだ。
「王妃様!我が娘アルメスです、以後お見知りおきを!」
「な!」
王妃も母も呆気にとられる、わざわざ言うまでもなく幼少期から顔は知っている。それにも拘わらず父はゴリ押しをしたのだ。
「ランデル、不躾過ぎるわ。王妃様はすでにアルメスの事をご存じなのよ」
「ホホホ!良いのよ夫人、オブリネール嬢楽しんでいってね」
「……はい、王妃様」
”この親父は!”と睨みたいのを我慢して彼女は楚々としてその場を離れる。その背後からガツガツとランデルの脹脛を蹴り飛ばして苛立ちを露わにした。
「いた!痛いぞアルメス!止さないか!」
「あら~空気が読めないバカな蠅がいるもので、仕方ないのですよ。ゲシゲシ!」
「そうですよ、恥ずかしいたらない!ガンガン!」
兄ニールも参戦して親父の脹脛を蹴り上げる、オブリネール家にはランデルの味方は誰ひとりいないのだ。逃げても追い立ててくるのでランデルは半べそで「止めてくれ、俺が悪かった」と訴えるまで続いた。
「父の足は明日には腫れあがって動けないんじゃないかな?」
「あら、それくらい当然だわ、あのバカ親父が!」
その時だ、彼らの後を追うように王太子クレマンが声を掛けてきたではないか。
「やあ、アルメス嬢先ほどは言葉を交わせず失礼した」
「ほほ、それはどうも」
『こっちは掛けられたくないっつーの!何用で来たのよ!しかもアルメス呼び!信じられない』
再び扇の出番がきてバサリと口元を隠した、歯ぎしりしたアルメスはとても見せられた顔ではない。
「どうだろうか、俺と一曲踊ってくれないか?」
「はあ?茶の席で何をおっしゃるの」
茶会で踊るなどあり得ないとアルメスは非難した。確かに踊ることもあるが、薔薇園はかなり狭い。それを考慮してこの場は小さな楽団しかいないのだ。
「なんでだ!王太子の俺様が相手してやろうと言うのに!」
我儘王子の化けの皮が剥がれた瞬間だった。
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