完結 お飾り正妃も都合よい側妃もお断りします!

音爽(ネソウ)

文字の大きさ
上 下
8 / 19

しおりを挟む



「ようこそ皆様、存分に楽しんで頂戴!王家自慢の薔薇園を開放しますわ」
王妃マリゲーテはニコニコと人好きする笑顔で挨拶をした、少しふくよかな肢体を揺らして壇上から下りてゆく。

「さあ、始まったわ。私達は4番目に挨拶をするわよ」
「え、ええ、お母様……」
三大公爵の後に次ぎ列をなしたオブリネール家は母のアンジェルを筆頭に父ランデルが鼻息荒く立っていた。その横には兄のニールが控えている。

アルメスはと言えば緊張した面持ちで前方を見据えている、その瞳が捕らえるのはクレマン・バラデルモ王太子の姿だ。彼はやはり外面が良く、王妃と同じ笑顔を振りまき「無礼講」だとでも言いたげだ。

『あぁ、あの笑顔に騙されたのよね、見目だけは良いんだから腹立たしい!』
まだ14歳の彼は初々しい顔で愛想を振りまいている、そのうち本性を現して横暴に生きるのだろう。鼻梁も美しいその横顔をじっと見つめるアルメスである。

『今度こそは間違えないわ、傍若無人な男に騙されてなるものですか!』
彼女は広げた扇の奥で密かに悪態をつく。



***


「この度は王妃様のお茶会おめでとうございます、お招きいただきまして至福に存じます」
「まあまぁ、オブリネール夫人!久しいこと、お元気?」
「はい、この通りでございます」

母アンジェルは差しさわりない挨拶をして引こうとした、ところが何を思ったのか父ランデルが余計な事をする。たかが入り婿だというにしゃしゃり出たのだ。
「王妃様!我が娘アルメスです、以後お見知りおきを!」
「な!」

王妃も母も呆気にとられる、わざわざ言うまでもなく幼少期から顔は知っている。それにも拘わらず父はゴリ押しをしたのだ。
「ランデル、不躾過ぎるわ。王妃様はすでにアルメスの事をご存じなのよ」
「ホホホ!良いのよ夫人、オブリネール嬢楽しんでいってね」
「……はい、王妃様」

”この親父は!”と睨みたいのを我慢して彼女は楚々としてその場を離れる。その背後からガツガツとランデルの脹脛を蹴り飛ばして苛立ちを露わにした。
「いた!痛いぞアルメス!止さないか!」
「あら~空気が読めないバカな蠅がいるもので、仕方ないのですよ。ゲシゲシ!」
「そうですよ、恥ずかしいたらない!ガンガン!」

兄ニールも参戦して親父の脹脛を蹴り上げる、オブリネール家にはランデルの味方は誰ひとりいないのだ。逃げても追い立ててくるのでランデルは半べそで「止めてくれ、俺が悪かった」と訴えるまで続いた。

「父の足は明日には腫れあがって動けないんじゃないかな?」
「あら、それくらい当然だわ、あのバカ親父が!」

その時だ、彼らの後を追うように王太子クレマンが声を掛けてきたではないか。
「やあ、アルメス嬢先ほどは言葉を交わせず失礼した」
「ほほ、それはどうも」

『こっちは掛けられたくないっつーの!何用で来たのよ!しかもアルメス呼び!信じられない』
再び扇の出番がきてバサリと口元を隠した、歯ぎしりしたアルメスはとても見せられた顔ではない。

「どうだろうか、俺と一曲踊ってくれないか?」
「はあ?茶の席で何をおっしゃるの」
茶会で踊るなどあり得ないとアルメスは非難した。確かに踊ることもあるが、薔薇園はかなり狭い。それを考慮してこの場は小さな楽団しかいないのだ。

「なんでだ!王太子の俺様が相手してやろうと言うのに!」
我儘王子の化けの皮が剥がれた瞬間だった。









しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢は永眠しました

詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」 長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。 だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。 ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」 *思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

【完結】婚約を解消して進路変更を希望いたします

宇水涼麻
ファンタジー
三ヶ月後に卒業を迎える学園の食堂では卒業後の進路についての話題がそここで繰り広げられている。 しかし、一つのテーブルそんなものは関係ないとばかりに四人の生徒が戯れていた。 そこへ美しく気品ある三人の女子生徒が近付いた。 彼女たちの卒業後の進路はどうなるのだろうか? 中世ヨーロッパ風のお話です。 HOTにランクインしました。ありがとうございます! ファンタジーの週間人気部門で1位になりました。みなさまのおかげです! ありがとうございます!

最近彼氏の様子がおかしい!私を溺愛し大切にしてくれる幼馴染の彼氏が急に冷たくなった衝撃の理由。

window
恋愛
ソフィア・フランチェスカ男爵令嬢はロナウド・オスバッカス子爵令息に結婚を申し込まれた。 幼馴染で恋人の二人は学園を卒業したら夫婦になる永遠の愛を誓う。超名門校のフォージャー学園に入学し恋愛と楽しい学園生活を送っていたが、学年が上がると愛する彼女の様子がおかしい事に気がつきました。 一緒に下校している時ロナウドにはソフィアが不安そうな顔をしているように見えて、心配そうな視線を向けて話しかけた。 ソフィアは彼を心配させないように無理に笑顔を作って、何でもないと答えますが本当は学園の経営者である理事長の娘アイリーン・クロフォード公爵令嬢に精神的に追い詰められていた。

もう私、好きなようにさせていただきますね? 〜とりあえず、元婚約者はコテンパン〜

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「婚約破棄ですね、はいどうぞ」 婚約者から、婚約破棄を言い渡されたので、そういう対応を致しました。 もう面倒だし、食い下がる事も辞めたのですが、まぁ家族が許してくれたから全ては大団円ですね。 ……え? いまさら何ですか? 殿下。 そんな虫のいいお話に、まさか私が「はい分かりました」と頷くとは思っていませんよね? もう私の、使い潰されるだけの生活からは解放されたのです。 だって私はもう貴方の婚約者ではありませんから。 これはそうやって、自らが得た自由の為に戦う令嬢の物語。 ※本作はそれぞれ違うタイプのざまぁをお届けする、『野菜の夏休みざまぁ』作品、4作の内の1作です。    他作品は検索画面で『野菜の夏休みざまぁ』と打つとヒット致します。

「女友達と旅行に行っただけで別れると言われた」僕が何したの?理由がわからない弟が泣きながら相談してきた。

window
恋愛
「アリス姉さん助けてくれ!女友達と旅行に行っただけなのに婚約しているフローラに別れると言われたんだ!」 弟のハリーが泣きながら訪問して来た。姉のアリス王妃は突然来たハリーに驚きながら、夫の若き国王マイケルと話を聞いた。 結婚して平和な生活を送っていた新婚夫婦にハリーは涙を流して理由を話した。ハリーは侯爵家の長男で伯爵家のフローラ令嬢と婚約をしている。 それなのに婚約破棄して別れるとはどういう事なのか?詳しく話を聞いてみると、ハリーの返答に姉夫婦は呆れてしまった。 非常に頭の悪い弟が常識的な姉夫婦に相談して婚約者の彼女と話し合うが……

許婚と親友は両片思いだったので2人の仲を取り持つことにしました

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<2人の仲を応援するので、どうか私を嫌わないでください> 私には子供のころから決められた許嫁がいた。ある日、久しぶりに再会した親友を紹介した私は次第に2人がお互いを好きになっていく様子に気が付いた。どちらも私にとっては大切な存在。2人から邪魔者と思われ、嫌われたくはないので、私は全力で許嫁と親友の仲を取り持つ事を心に決めた。すると彼の評判が悪くなっていき、それまで冷たかった彼の態度が軟化してきて話は意外な展開に・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

夫の告白に衝撃「家を出て行け!」幼馴染と再婚するから子供も置いて出ていけと言われた。

window
恋愛
伯爵家の長男レオナルド・フォックスと公爵令嬢の長女イリス・ミシュランは結婚した。 三人の子供に恵まれて平穏な生活を送っていた。 だがその日、夫のレオナルドの言葉で幸せな家庭は崩れてしまった。 レオナルドは幼馴染のエレナと再婚すると言い妻のイリスに家を出て行くように言う。 イリスは驚くべき告白に動揺したような表情になる。 子供の親権も放棄しろと言われてイリスは戸惑うことばかりでどうすればいいのか分からなくて混乱した。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

処理中です...