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しおりを挟む連日続いた仕事のせいでアルメスは寝不足だった、平均睡眠時間3時間、そして今日は三晩徹夜である。流石に具合が悪くなった彼女はどうにか仕事量を調整出来ないか王太子に訴えた。
だが、返って来た返事は酷いものだった。
「はあ?休みたいだと!?巫山戯るなよ!公務を舐めているのか!」
「しかし、このままでは返って捗りません」
「ええい、シツコイな!黙って働いておれば良い!……いいか父上達には内緒だからな!」
「そんな……」
訴え虚しく仕事を更に押し付けられたアルメスはフラフラと執務室に入って行く。そこに昼頃まで寝腐っていたサハンナが笑いながら声を掛けて来た。
「あらぁ、アルメス御機嫌よう!クスクス、酷い顔ねぇ化粧くらいしたらどうなの?」
「正妃様……あの寝不足で」
事情を話したが「ふーん」の一言で済ませるサハンナだ、大欠伸をしてまだまだ寝足りないとほざく。アルメスはつい恨めしい顔で「良い御身分ですね」と言ってしまう。
「は?何よ、その顔はまるで私がサボっているみたいじゃないの!こう見えて私は忙しいの、だって毎晩王太子様の御世話をしているのよ。お世継ぎを産むという大義をね!キャハハハ!」
「くっ!」
彼女は寝不足が祟って眩暈と吐き気を覚えた、何故自分はこんなヤツの下で働くのか解らない。
「酷い……私は三日間寝ていないのに!どうして」
「な、なによう!寝たいなら適当に睡眠をとれば良いじゃないの!」
「それが出来ないから悩んでいるのです!うぅ……」
大声を上げてしまった反動が疲れた身体にズシンとのしかかった、アルメスは立っているのも辛いようだ。そして、ふらつく足取りで「貴女が少しでも手伝ってくれたら」とサハンナにじり寄る。
「や、やめてよ!私に近づかないで、気持ち悪い!」
寝不足で目の下に出来た隈のせいでか余計に迫力があった、羨ましいと思うアルメスは思考回路も上手く回っていないようだ。
「どうして……手伝ってよ、そうしたら私は……」
「ひぃ!来ないでったら!」
サハンナは思わずドンッと彼女を押した、するとアルメスが急に視界から消えた。「え」茫然とするサハンナは彼女が消えた箇所をゆっくり見下ろす。そこには階段で押されたアルメスが真っ逆さまに落ちていた。
「きゃー!誰か来てぇ!」
金切声を上げたサハンナは混乱していて「私は悪くない、知らない!」と譫言のように呟く。
「どうした?何があったのだ?」
呑気にお茶を飲んでいたクレマンは怪訝な顔でサハンナの元へ駆け寄った。
「ひぃ~私は知らない彼女が勝手に落ちたのよ!そうよ、そうなのよ」
階下に延びているアルメスを目撃したクレマンは「なんてこと」と蒼くなる。彼女の腕と足があらぬ方向に向いていた。頭からは血がドクドクと流れている、彼女の命は絶望的だ。
「お、お前がやったのか?」
「ど、どうしよう……私、私は」
「……落ち着くんだ、これは不幸な事故なんだ。分かるな?」
「事故?」
「そうさ、目撃者がいたわけではないのだろう?侍女とメイドは?」
「いまはいない……ベッドメイキングをしてると思う」
それを聞いたクレマンはニヤリと笑い「それならば良い」と言った。そのうちに騒ぎを聞きつけた輩がドヤドヤとやって来たが誰も現場を見ておらず「事故」として処理されてしまうのだった。
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