目を覚ました気弱な彼女は腹黒令嬢になり復讐する

17

子爵邸から大泣きする声が響いた。
顔を真っ赤に染めて、泣き喚くその顔はまるでシワシワの猿のようだ。


「奥方は？」
現状を把握しようと家令は部屋を見回し、侍女長に声をかけた。

「はい、お疲れになって寝室で休まれてます。普段から貧血気味でしたので、お顔を一目見ると気を失われました」
「そうか、旦那様は執務からすぐ戻られる。医者は待機させておくように」


畏まりましたと返事して、侍女長は子爵の部屋を整える為足早に去って行く。
「さて、数日は騒がしいだろうな……」


家令は弱り始めた足腰を叱咤して、己の執務にあたった。




午後3時、大慌てで戻った子爵は妻の元へ駆け寄った。
「メリナ！大丈夫か！？」

「まぁアナタ、病気ではないのよ大袈裟な」
「そ、そうか！だが大事な時に一人にしてすまなかった！」

「いいえ、仕方ありません。……こればかりは予測できませんもの」


力なく微笑む妻は少し窶れて見えた、微熱があるのか目が赤く目頭が痛いと言った。
子爵はメイドに言いつけて氷水をとりかえるよう指示をだした。


「我が子に会えるのはいつだ？」
「……明日には会えますよ、触れるのは遠慮して貰いますが」

そうかそうと、産後に疲弊した妻を労う。涙を浮かべて「ありがとう」と子爵は呟いた。
後日会った３番目の娘は、最初は赤い顔で誰に似たのかも判別ができなかった。


しかし、半月もすると姪のジーンに生き写しだと気が付いた。


「そうかキミは私に似たのだな、いやベンス家の血を濃く受け継いだのだ」

だが、薄っすら生えた髪の毛の色は淡い金髪だ、そこだけが違う。
生前のジーンはオレンジがかった金髪だったから。







ジーンが儚くなってから一月後、ルノア・ベンスの妻メリナが身ごもった。
悲しみに昏くなっていた祖父ノーマンは「ジーンが戻ってきたのだ！」と年甲斐もなく小躍りした。

それから約280日後。
メリナは無事出産したところだった。


それには息子のルノアは苦笑いをしたが、対面した我が子はジーンに似すぎていた。
「父がこの子をみたら……ハハッ言うまでもないな」


ベンス商会会頭のノーマンは多忙で、7番目の孫に会えたのは誕生の報せから3か月経ってからだった。

「おお！ジーン……お前はジーンなのだな？」
触れたら壊れそうな、とても小さな手をノーマンはそっと触れた、ピクリと反応した赤子は彼の指をキュッと握った。


その様子を微笑ましく見守っていたルノアは
「ねぇ、父さん。その子の名前なんだけど……」