目を覚ました気弱な彼女は腹黒令嬢になり復讐する

音爽(ネソウ)

文字の大きさ
上 下
8 / 21

屋根裏の悪鬼

しおりを挟む

こんなに気持ちが浮かない夏休み前なんて初めてだ。

いつもなら待ち遠しくて堪らないのに...。

食堂で列に並んでいると、俊也に気づいた一部の生徒がなにやらコソコソ話してる。

黒髪になってるのが珍しいんだと思うけど...髪色の変化くらいで注目を浴びる俊也、て気の毒だな、て感じる。

もし俺が俊也のように金髪で黒髪にしたとしても特に話題なんかにはならないだろう。

不意に食堂を見渡し、視線が辿り着いた先には遥斗くんと和斗くんが並んで食事していた。

仲良さそうな笑顔の二人。
...やっぱり、付き合ってるとかなのかな。

トレイに食事を乗せて貰い、俺は意を決して遥斗くんと和斗くんの前に向かった。

「ちょ、樹」

涼太が驚いた様子で引き止めようとしたけど。

二人の前にトレイを置き、立ち竦んだ俺を二人が見上げた。

その瞬間、なんとも言えない違和感を覚えた。

一卵性の双子だから、同じ顔なのは確かなのに、遥斗くんはきょとん、とした眼差し、兄の和斗くんの瞳は細められ険しかった。

「なに?てか、誰?お前」

...和斗くんのセリフに、遥斗くんは俺の事を和斗くんに話してない事に気づいた。

遥斗くんが、

「知らない。席間違えてない?」

と、まるで、俺をそこから離したいかのようだった。

ゴクリ、喉を鳴らして、席に座った。

「....質問があって」

「....質問?」

和斗くんが険しさを変えずに訝しんだ。

「....徒歩で移動中のあなたですが、うっかり寝坊してしまい、このままでは大事な待ち合わせに遅れてしまいそうです。さて、どうしますか?」

以前、俊也にされた心理テストだ。

その後、涼太からアレはサイコパス診断だと聞いた。
サイコパスは事故や事件を作り上げて理由にするのらしい。

「なにそれ。心理テストかなんか?」

遥斗くんの問いに頷くと、しばらく、遥斗くんは斜め上を向き、うーん、と唸り、

「ごめん、もう一回」

先程の俊也の心理テストを反芻した。

「大事な待ち合わせ、か。相手とかその待ち合わせの事情もあるな。友達とかなら待ってて貰うし、無理なら帰って貰う。けど、大事な人だったり、遊びじゃない、こう、今は学生だけど、仕事とかだったら、上司に連絡したりあるだろうし...」

思いがけず、遥斗くんは真剣に考えてくれた。

「まあ、そうだな。悪い、遥斗、自販機でコーヒー買って来てくんない?いつもの奴」

「えっ、うん、いいけど」

「悪いな」

和斗くんの笑顔に遥斗くんも微笑みを返し立ち上がり、食堂の入口にある自販機に向かっていく。

その背中を見つめた。

「サイコパス診断だろ、それ」

「えっ」

慌てて和斗くんに視線を戻す。

和斗くんは箸を持ったまま口元を歪め、笑みを含んでた。

「しょーもな。てかさ、俺たちをサイコパスとでも思った訳?めっちゃ失礼だよな」

「....ごめん」

「つーか、サイコパスとは無縁なんで、俺はさ」

....俺は?

遥斗くんはどうなるんだろう。

真剣に考えていた遥斗くんとは明らかに違う。

「....和斗くん、このテスト知ってたんだね」

「まあな」

「...遥斗くんを自販機に行かせたのは...診断の内容を知ってたから....?」

はっ、と和斗くんが笑った。

「勘繰りすぎ。サイコパスなんじゃねー?お前」

「....」

唖然とし、言葉を失った。

「お待たせ、兄さん」

「ああ、サンキュ」

「ううん」

途端、和斗くんは狡猾な笑みを消し、遥斗くんを見上げ優しく微笑み、缶コーヒーを受け取った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

今、私は幸せなの。ほっといて

青葉めいこ
ファンタジー
王族特有の色彩を持たない無能な王子をサポートするために婚約した公爵令嬢の私。初対面から王子に悪態を吐かれていたので、いつか必ず婚約を破談にすると決意していた。 卒業式のパーティーで、ある告白(告発?)をし、望み通り婚約は破談となり修道女になった。 そんな私の元に、元婚約者やら弟やらが訪ねてくる。 「今、私は幸せなの。ほっといて」 小説家になろうにも投稿しています。

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

婚約は破棄なんですよね?

もるだ
恋愛
義理の妹ティナはナターシャの婚約者にいじめられていたと嘘をつき、信じた婚約者に婚約破棄を言い渡される。昔からナターシャをいじめて物を奪っていたのはティナなのに、得意の演技でナターシャを悪者に仕立て上げてきた。我慢の限界を迎えたナターシャは、ティナにされたように濡れ衣を着せかえす!

未来予知できる王太子妃は断罪返しを開始します

もるだ
恋愛
未来で起こる出来事が分かるクラーラは、王宮で開催されるパーティーの会場で大好きな婚約者──ルーカス王太子殿下から謀反を企てたと断罪される。王太子妃を狙うマリアに嵌められたと予知したクラーラは、断罪返しを開始する!

妹に婚約者を奪われ、屋敷から追放されました。でもそれが、私を虐げていた人たちの破滅の始まりでした

水上
恋愛
「ソフィア、悪いがお前との婚約は破棄させてもらう」 子爵令嬢である私、ソフィア・ベルモントは、婚約者である子爵令息のジェイソン・フロストに婚約破棄を言い渡された。 彼の隣には、私の妹であるシルビアがいる。 彼女はジェイソンの腕に体を寄せ、勝ち誇ったような表情でこちらを見ている。 こんなこと、許されることではない。 そう思ったけれど、すでに両親は了承していた。 完全に、シルビアの味方なのだ。 しかも……。 「お前はもう用済みだ。この屋敷から出て行け」 私はお父様から追放を宣言された。 必死に食い下がるも、お父様のビンタによって、私の言葉はかき消された。 「いつまで床に這いつくばっているのよ、見苦しい」 お母様は冷たい言葉を私にかけてきた。 その目は、娘を見る目ではなかった。 「惨めね、お姉さま……」 シルビアは歪んだ笑みを浮かべて、私の方を見ていた。 そうして私は、妹に婚約者を奪われ、屋敷から追放された。 途方もなく歩いていたが、そんな私に、ある人物が声を掛けてきた。 一方、私を虐げてきた人たちは、破滅へのカウントダウンがすでに始まっていることに、まだ気づいてはいなかった……。

初恋の人と再会したら、妹の取り巻きになっていました

山科ひさき
恋愛
物心ついた頃から美しい双子の妹の陰に隠れ、実の両親にすら愛されることのなかったエミリー。彼女は妹のみの誕生日会を開いている最中の家から抜け出し、その先で出会った少年に恋をする。 だが再会した彼は美しい妹の言葉を信じ、エミリーを「妹を執拗にいじめる最低な姉」だと思い込んでいた。 なろうにも投稿しています。

理不尽な理由で婚約者から断罪されることを知ったので、ささやかな抵抗をしてみた結果……。

水上
恋愛
バーンズ学園に通う伯爵令嬢である私、マリア・マクベインはある日、とあるトラブルに巻き込まれた。 その際、婚約者である伯爵令息スティーヴ・バークが、理不尽な理由で私のことを断罪するつもりだということを知った。 そこで、ささやかな抵抗をすることにしたのだけれど、その結果……。

【完結24万pt感謝】子息の廃嫡? そんなことは家でやれ! 国には関係ないぞ!

宇水涼麻
ファンタジー
貴族達が会する場で、四人の青年が高らかに婚約解消を宣った。 そこに国王陛下が登場し、有無を言わさずそれを認めた。 慌てて否定した青年たちの親に、国王陛下は騒ぎを起こした責任として罰金を課した。その金額があまりに高額で、親たちは青年たちの廃嫡することで免れようとする。 貴族家として、これまで後継者として育ててきた者を廃嫡するのは大変な決断である。 しかし、国王陛下はそれを意味なしと袖にした。それは今回の集会に理由がある。 〰️ 〰️ 〰️ 中世ヨーロッパ風の婚約破棄物語です。 完結しました。いつもありがとうございます!

処理中です...