目を覚ました気弱な彼女は腹黒令嬢になり復讐する

音爽(ネソウ)

文字の大きさ
上 下
5 / 21

5

しおりを挟む
屋根裏部屋から届く声を聞きながらジーンは眠りについた。



「ふふ、ウルサイなどと思わないわ。なんて心地良い音かしら」
そう呟くとジーンはベッドに身を沈め夢に落ちた。



ジーンは仄暗い場所で一人で佇んでいる夢を見た。
青白い光で微かに目視できるのは、壊れて崩れた石柱と冷たい白色の床だった。

「夢なのに冷たいとわかるものなのね……」

見回すと細く長く延びる階段を見つけた、先が暗くて足元は見えないが恐怖はなかった。
なにもかも諦めた彼女だからこそかもしれない。


「踏み外して死ねるのならそれでいいもの……」
微笑みながら階段をヒタヒタと上る、時々崩れている箇所があって踏み外しそうだったがジーンは気にしなかった。


やがて広い踊り場に出た、階段はまだ先に延びてはいるがそれ以上進むことは叶わなかった。
黒衣を纏った何者かが彼女を拘束したからだ。

銀色の髪に青白い瓜実顔の男は恐ろしく美しい貌をしている。だが死神ではなさそうだ。



「……死を期待して上ったのに、ガッカリしたわ」
「夢を叶える途中でそれを望むのか?お前の魂は美味しそうに光っているぞ」


黒衣の男は掌に何かを乗せて、ジーンの目の前に突き出した。
ドクドクと動く赤い塊は心臓だった。


「ひょっとして私の心臓?」
「そうだぞ、なんだ覚えてないのか。呑気なヤツだな」
拍子抜けした男は拘束を解いた、逃げる様子がないと知って何故かつまらなそうだ。



男は悪魔だと名乗った、高熱を出して気を失った時に生死を彷徨った彼女が無意識に悪魔を呼んだのだという。

「さっぱり記憶にないわ」

「……意識の混濁にあったからな、目覚めとともに忘れたか。可笑しいと思わないのか?己の性格がガラリと変わった事に違和感を持つだろうに」


「あら、あなたのせいなの?……そっかそういう契約をしたってことね」
「理解が早くて助かるね、あの日、お前の悲しい魂に呼ばれて来た甲斐があったよ。凄く美味そうだ」

目の前の悪魔はジーンの心臓にキスを落としてニヤリと笑う。

「ふーん、魂って心臓に宿るものなの?」

「いいや、そういうわけじゃない。別に契約箇所がたまたま心臓だっただけさ。脳でも眼球でもなんでもいいのさ、ただな命に係わる重大な箇所ほど願いは叶い易く俺の魔力も強くなる、そして魂も美味しくなるんだ」


悪魔は舌なめずりして下品に嗤った。

「よくわからないわ、結局魂はどこにあるのよ?」
「秘密だ」


なんだそれはとジーンは不貞腐れた。

「それで私の願いは叶ったと判断して迎えにきたの?」
「いいや、残念ながらお前の魂はまだ満足してない、非常に残念だがな!でもそれは魂がもっと美味くなるという事だからな、我慢してやる」

「それはどうも」


それから悪魔は契約箇所を増やせと言ってきた。
「なんだ、それが目的だったの。どうぞ、好きなところを奪えばいいわ」


ジーンは迷うことなく両手を広げて身を捧げるように微笑んだ。
「なんて潔い、お前はとても自分に残酷で美しいのだな」


悪魔は蠱惑的な笑みを浮かべるとジーンの身体に触れた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

今、私は幸せなの。ほっといて

青葉めいこ
ファンタジー
王族特有の色彩を持たない無能な王子をサポートするために婚約した公爵令嬢の私。初対面から王子に悪態を吐かれていたので、いつか必ず婚約を破談にすると決意していた。 卒業式のパーティーで、ある告白(告発?)をし、望み通り婚約は破談となり修道女になった。 そんな私の元に、元婚約者やら弟やらが訪ねてくる。 「今、私は幸せなの。ほっといて」 小説家になろうにも投稿しています。

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

婚約は破棄なんですよね?

もるだ
恋愛
義理の妹ティナはナターシャの婚約者にいじめられていたと嘘をつき、信じた婚約者に婚約破棄を言い渡される。昔からナターシャをいじめて物を奪っていたのはティナなのに、得意の演技でナターシャを悪者に仕立て上げてきた。我慢の限界を迎えたナターシャは、ティナにされたように濡れ衣を着せかえす!

未来予知できる王太子妃は断罪返しを開始します

もるだ
恋愛
未来で起こる出来事が分かるクラーラは、王宮で開催されるパーティーの会場で大好きな婚約者──ルーカス王太子殿下から謀反を企てたと断罪される。王太子妃を狙うマリアに嵌められたと予知したクラーラは、断罪返しを開始する!

妹に婚約者を奪われ、屋敷から追放されました。でもそれが、私を虐げていた人たちの破滅の始まりでした

水上
恋愛
「ソフィア、悪いがお前との婚約は破棄させてもらう」 子爵令嬢である私、ソフィア・ベルモントは、婚約者である子爵令息のジェイソン・フロストに婚約破棄を言い渡された。 彼の隣には、私の妹であるシルビアがいる。 彼女はジェイソンの腕に体を寄せ、勝ち誇ったような表情でこちらを見ている。 こんなこと、許されることではない。 そう思ったけれど、すでに両親は了承していた。 完全に、シルビアの味方なのだ。 しかも……。 「お前はもう用済みだ。この屋敷から出て行け」 私はお父様から追放を宣言された。 必死に食い下がるも、お父様のビンタによって、私の言葉はかき消された。 「いつまで床に這いつくばっているのよ、見苦しい」 お母様は冷たい言葉を私にかけてきた。 その目は、娘を見る目ではなかった。 「惨めね、お姉さま……」 シルビアは歪んだ笑みを浮かべて、私の方を見ていた。 そうして私は、妹に婚約者を奪われ、屋敷から追放された。 途方もなく歩いていたが、そんな私に、ある人物が声を掛けてきた。 一方、私を虐げてきた人たちは、破滅へのカウントダウンがすでに始まっていることに、まだ気づいてはいなかった……。

初恋の人と再会したら、妹の取り巻きになっていました

山科ひさき
恋愛
物心ついた頃から美しい双子の妹の陰に隠れ、実の両親にすら愛されることのなかったエミリー。彼女は妹のみの誕生日会を開いている最中の家から抜け出し、その先で出会った少年に恋をする。 だが再会した彼は美しい妹の言葉を信じ、エミリーを「妹を執拗にいじめる最低な姉」だと思い込んでいた。 なろうにも投稿しています。

理不尽な理由で婚約者から断罪されることを知ったので、ささやかな抵抗をしてみた結果……。

水上
恋愛
バーンズ学園に通う伯爵令嬢である私、マリア・マクベインはある日、とあるトラブルに巻き込まれた。 その際、婚約者である伯爵令息スティーヴ・バークが、理不尽な理由で私のことを断罪するつもりだということを知った。 そこで、ささやかな抵抗をすることにしたのだけれど、その結果……。

【完結24万pt感謝】子息の廃嫡? そんなことは家でやれ! 国には関係ないぞ!

宇水涼麻
ファンタジー
貴族達が会する場で、四人の青年が高らかに婚約解消を宣った。 そこに国王陛下が登場し、有無を言わさずそれを認めた。 慌てて否定した青年たちの親に、国王陛下は騒ぎを起こした責任として罰金を課した。その金額があまりに高額で、親たちは青年たちの廃嫡することで免れようとする。 貴族家として、これまで後継者として育ててきた者を廃嫡するのは大変な決断である。 しかし、国王陛下はそれを意味なしと袖にした。それは今回の集会に理由がある。 〰️ 〰️ 〰️ 中世ヨーロッパ風の婚約破棄物語です。 完結しました。いつもありがとうございます!

処理中です...