完結 虚ろ森の歌姫が恋の歌を唄うまで

音爽(ネソウ)

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戦う旋律

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焼けつく夏の終わりに、生徒たちは懐かしい顔を見せ合っていた。
「はーい!ひさぶりね、メル!元気だった?」
「ええ、すっかり元気だわ。ボーラは……言うまでもないか」
「ふふ~ん!当たり前じゃないの」

ふたりの話は恋バナなどの濃い心はなりを潜めていて、互いに切磋琢磨な物言いで話合いは進む。
「なになに?なんの話なんだい」
「あ、ポール様。ごきげんよう、コンコルソのことですわ」
「あぁ、それなら丁度いいものをボクは土産にもってきたんだ」

それは大きめのダンボールできたプレートだった、彼女たちはそれを見るや驚きを隠せない。特にこの名指しの彼女は大慌てしていた。
「う~恥ずかしいわ」
「何をいってるの、良い出来栄えじゃないのよ!応援は任せて!」
「う、うん。ありがとう」




王家主催の歌唱コンコルソ。

最優秀に選ばれた者はお抱えの歌手に任命をされ王家の「胡蝶の歌姫」の称号を賜る。
幸福が飛んでくるという有難い花言葉から、誰もが喜びに浮ついている。彼女メルチェラは登場してますっくにその祭壇を見つめた。

薔薇を一輪差し出だして価値で決意表明の証とする。
「この瞬間に表明を……」
彼女は深く場にお辞儀してから退散していた、もはや誰にも彼女を引き戻せることは出来やしない。彼女の背後からロメルダ嬢が突き進む、やはり同じ所作を繰り返す。

メルチェラは道すがらチラリと顔を見た、やはり歌姫は堂々とした態度で颯爽と祈りをし退散していた。
やはり食えないタイプであると彼女は嘆息する。
「……どうか見守っていてディノ様」



全員が揃うと早速と演奏会が始まった、予選を見守る生徒達は思っていた以上に人々いるようだ。メルチェラは一瞬で己の活躍を期待した生徒がいると気が付く。
「まぁ、はりきり過ぎよ。まったくもう仕方ないわよね、ふふふっ」
彼女はさっきまでの震えが嘘の用に消えてしまったように微笑み返した。”ガンバレ メルチェラ 私達の女神”と書かれて応援をしている。

「見えているかしら、ディノ。私は精一杯頑張ってここにいるわ」
彼らを見据える彼女の顔には何一つ迷いはなくなっていた。彼女はすぅと息を吐いて壇上に登る。誰もが彼女へ一挙手一投足に注目していた。


***

「やった!やったわディノ!」
彼が立たずむ傍へ駆け寄り、思い切り跳ねるように小躍りした。乱暴な事だったが、彼はびくともすせず彼女をみて受け入れた。
「やぁ、おめでとう。私の想像を超える成果だったようだ」
「えへへぇ~、このままだったらいいのにね。でも、次もかんばるから応援してださい」
「もちろん、では早速」
「ん?」

指のサイズを確かめるように手を絡めさせて、キュッと腕を掴む。
「つぎはそうだな、弱点とまではいかないが苦手な部分を尽き崩す勢いでレッスンをしようか。さぁ、下りて」
「ええ~。うーわかりました……」
まだまだ、基本常用の最中にいる彼は、このままでは行けないとピシャリという。



一方、ホネアーン伯爵家では見事コンコルソにて優秀な成績を扇げて燃え上がっていた。特に演奏家の夫人はこれに多いに湧き上がる。
「ホホホッ!私の娘が候補に選ばれたのは当然のことよ、これは揺るぎない事実!」
「……そうね、お母様。そうなのだけど」

見事に輝いた彼女ではあるが、どこか空々しい気分のままそこにいた。それは事実に間違いはなかったのだが、候補には他にもいたせいである。
今日は彼女を祝う席が設けらたのだが、いまいち気乗りできないでいる。

「あの子……リーヴァ伯爵の子が気になって仕方ないのよ」
いつしか祝いの席から遠のいて窓辺にきて呟いた、幾度目かとも知らぬ溜息がもれても彼女の気が晴れない。
だが、そこへ空気を読まない声が届く。
「あ……あの、おめでとうございます!素晴らしいことですね」
「……何方かしら、私は祝うどころではないのよね」

得体のしれない者を訝しい目を向けた、ロメルダはただ厳しい眼差しで彼を見据える。だか、その様子さえもなんと麗しい事だろうと身悶える男がいた。
「わ、私はロメルダ様のお役にててるのならば、どのような内容だろうと受け入れます」
「は?どのような意見だろうとというの?ふーん、だったらあのリーヴァの娘を完膚なきまで叩き潰すなんてころは出来るのでしょうね」

少し意地悪くしてやろうと彼女は身構える、その時の彼女はまさにそれしか埋まらない感情だったのだから。
「もちろんです、貴方のためならばなんだって」
「まぁ、気持ちはわかったはよ……でも不正はしたいわけではないの」
彼女は苦笑いを浮かべてそう嘆いてみせるが、彼の意見は少し違っていた。

「ならば、どうでしょうか。彼女が得意とする楽曲を横取りするのは如何かと」
「なんですって?」
歌姫になりたいものならば、楽曲が被ることも厭わないというのが本線ルールである。相手は不慣れな新参者である彼女の歌声はその曲があってこそだ。

「面白い……貴方、お名前は?」
「カルロ、カルロ・ラメウラといいます」



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