ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)

文字の大きさ
上 下
74 / 82
激動篇

勘違いから始まることもある

しおりを挟む
誤解から始まった都市作りは、ボクの気持ちを放置されたまま進んだ。
ただの暇つぶしで書いたと言ったのに……。

「まだ不貞腐れているのですか?これほど緻密に都市計画を立てられたのでしょうに」
「誤解だと何度も言ったが?」

「何をおっしゃる、時間を持て余してた日々は退屈だったでしょう。これからは欠伸をする暇もなくなるのです。良いことではないですか」
「……ぐぬ、痛いところを」

マホガニーは眼鏡をクイクイとして、例の地図の中央を指で叩いた。
おまえ、伊達眼鏡なんてかけて恰好つけるんじゃないよ!


都市計画に選ばれたの最初にラクガキした蜘蛛の巣状のものだった。
当初は、建築資材は提供しないと突っぱねてやったら諦めると思ったんだ。とうぜんだが、周辺には伐採できるような木々など存在しない。精霊の戦で荒れた地を癒したとはいえ雑草が生えた程度だったからね。


もちろん、他所から資材を集めるのも許可しなかったさ。
なのに……。



「石材ならいくらでも出してやるぞ。粘土質の土だって豊富に提供しようではないか!」
「はぁ……そう」

ボクの隣で鼻息荒く張り切るのはゲノーモスだ。更にその隣にはなんとサラマンデルがいる。
代替わりした同士ウマが合うらしく、あの戦い以来行動をともにしているらしい。

「……お前達、いがみ合ってなかったかい?」

「それは先代同士のことだろう、我らには関係がない。なぁ、サラ」
「あぁ、俺達は相性が良い性質だからな仲良くなって当然なのさ」

二人の幼い精霊は楽しそうに笑い合っている。
ボク的にはかなり複雑な心境だよ、いまだに混乱しているんだ。

経緯はともかく、都市計画を聞きつけた彼らは詫びと協力と称してここへやって来た。
歓迎とまではいかないが、大精霊を無下にも出来ずボクは離れ屋敷を建立した。
想定外に半共生となったボクら、まぁなんとか平和に暮らしている。


代替わりした若い火の精霊王は、終息後にボクの屋敷へ謝罪へ訪れた。
彼に罪はないが、ドリアード族を巻き込んだ惨事は看過できないと言ってね。
気持ちだけで良いとボクは断ったが、彼は燃えるような深紅の宝珠と火の衣を賠償金として支払った。
宝珠は純度の高い大粒のルビーだった。

ちなみに火の衣はサラマンデルの鱗から出来ている珍品だと聞いた。
本来の姿は巨大なトカゲなんだとか、見てみたいと頼んだが「醜いから嫌だ」と断られた。

「それは残念だ、うちのアクティは巨大生物が好きなんだが」
「そう言うな巨体を晒したら広範囲を焼き尽くしてしまうぞ?それ故に先代は悲しい思いもしている」

「う、それは困る……やっと緑の加護が行き渡ったばかりなのに」
グルドことクロノスと戦った先代サラマンデルすら真の姿を晒してない、本来の姿で戦えば勝敗はひっくり返った可能性もあるぞ、余程嫌なのだろうな。
一応は和解をしたが、いま現在ボクとサラマンデルは少々ギクシャクしている、そのうち友と呼べる仲になれたら良いと思う。



***

――そして今に至るわけだが。

緑の屋敷から少し離れた場所で、2大精霊の二人は協力し合って煉瓦を焼いている。
窯を作ったのはゲノーモスで焼くのはサラマンデルだ。焼成に凝りだした二人は壺や皿まで作る予定だという。
なんていうか、やることが人間じみていてボクは呆れている。

もし、シルフィードが聞いたらなんて言うかな?



戦後の処理を済ませた彼は、結晶化したままのウンディーネを湖の祠に寝かせてきたという。
目覚めるのはいつか見当もつかないとシルフィードは言った。

ボクは水の恵みが枯れることを懸念したが、ウンディーネが湖底に居る限り、水は浄化され続けるから問題はないそうだ。そうか、ゲノーモスが結晶化していても怨嗟の念が湧きだし地を穢してたものな。
幸いウンディーネは穏やかに眠れている、シルフィードの加護のせいだろうか。


しばしの別れをしたあの日。
『人間がウンディーネにチョッカイかけぬよう我が結界を張った。安心しろ』と言った。
シルフィードはとても昏い笑みを浮かべ、良からぬ者が近づくと渦流が発生する仕掛けだと説明した。

つくづく大精霊は恐ろしいよ。
人を愛してはいるが、反面とても厳しいんだな。


そして今頃はどこに漂っているのか、風の精霊の彼女は常に世界中を駆け巡っていてひとつ所に留まらない。
次会うのはいつのことやら。今の瞬間か明日か、もしくはボクが朽ちて代替わりしても姿を現すか怪しいところさ。


少し寂しいが、ときどき天空から眷属のアリエラが降りてきて鬣を梳いてくれと強請りにくる。
ボクもモフモフが堪能できるし悪くはない。

久しぶりにそのアリエラが尋ねてきたので果物を分けてやった。その後、銀の背に乗せてもらい屋敷上空を見下ろすことにした。

上空を旋回して俯瞰で見た景色は緑に溢れている。
「豊で立派な国になりそうではないか、人々が住むには申し分ない。かつての住人達を呼んではどうだ?」
「よしてくれ、人間共などと関わりたくない。ましてや集落など誘致したくないよ」

「うーむ、ドリアード王は些か頑固なのだな」
「……慣れ合うには時間がかかる、これまでの歴史を振り返れば簡単なことではないんだ」

ボクが頑なに拒否の意を言葉にすると、アリエラは悲し気に溜息を吐いた。
やがて放射状に延びていくだろう街道が完成しても、人間達と交流することは受け入れ難いと思った。

ボク達は数回空を旋回してから地上に降りた。
陽はまだ高かったがボクはひとり居室に籠ることにした。


寝具へ乱暴に飛び乗り、うつ伏せになってボクはしばし苦悩する。
「わかっているんだ……本当はね」

ボクも精霊の端くれ、なんの為に豊穣の力を神から与えられたのか。
――存在意義とは、使命とはなんなのかを。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「無加護」で孤児な私は追い出されたのでのんびりスローライフ生活!…のはずが精霊王に甘く溺愛されてます!?

白井
恋愛
誰もが精霊の加護を受ける国で、リリアは何の精霊の加護も持たない『無加護』として生まれる。 「魂の罪人め、呪われた悪魔め!」 精霊に嫌われ、人に石を投げられ泥まみれ孤児院ではこき使われてきた。 それでも生きるしかないリリアは決心する。 誰にも迷惑をかけないように、森でスローライフをしよう! それなのに―…… 「麗しき私の乙女よ」 すっごい美形…。えっ精霊王!? どうして無加護の私が精霊王に溺愛されてるの!? 森で出会った精霊王に愛され、リリアの運命は変わっていく。

妹が聖女の再来と呼ばれているようです

田尾風香
ファンタジー
ダンジョンのある辺境の地で回復術士として働いていたけど、父に呼び戻されてモンテリーノ学校に入学した。そこには、私の婚約者であるファルター殿下と、腹違いの妹であるピーアがいたんだけど。 「マレン・メクレンブルク! 貴様とは婚約破棄する!」  どうやらファルター殿下は、"低能"と呼ばれている私じゃなく、"聖女の再来"とまで呼ばれるくらいに成績の良い妹と婚約したいらしい。 それは別に構わない。国王陛下の裁定で無事に婚約破棄が成った直後、私に婚約を申し込んできたのは、辺境の地で一緒だったハインリヒ様だった。 戸惑う日々を送る私を余所に、事件が起こる。――学校に、ダンジョンが出現したのだった。 更新は不定期です。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

王太子様に婚約破棄されましたので、辺境の地でモフモフな動物達と幸せなスローライフをいたします。

なつめ猫
ファンタジー
公爵令嬢のエリーゼは、婚約者であるレオン王太子に婚約破棄を言い渡されてしまう。 二人は、一年後に、国を挙げての結婚を控えていたが、それが全て無駄に終わってしまう。 失意の内にエリーゼは、公爵家が管理している辺境の地へ引き篭もるようにして王都を去ってしまうのであった。 ――そう、引き篭もるようにして……。 表向きは失意の内に辺境の地へ篭ったエリーゼは、多くの貴族から同情されていたが……。 じつは公爵令嬢のエリーゼは、本当は、貴族には向かない性格だった。 ギスギスしている貴族の社交の場が苦手だったエリーゼは、辺境の地で、モフモフな動物とスローライフを楽しむことにしたのだった。 ただ一つ、エリーゼには稀有な才能があり、それは王国で随一の回復魔法の使い手であり、唯一精霊に愛される存在であった。

【完結】「異世界に召喚されたら聖女を名乗る女に冤罪をかけられ森に捨てられました。特殊スキルで育てたリンゴを食べて生き抜きます」

まほりろ
恋愛
※小説家になろう「異世界転生ジャンル」日間ランキング9位!2022/09/05 仕事からの帰り道、近所に住むセレブ女子大生と一緒に異世界に召喚された。 私たちを呼び出したのは中世ヨーロッパ風の世界に住むイケメン王子。 王子は美人女子大生に夢中になり彼女を本物の聖女と認定した。 冴えない見た目の私は、故郷で女子大生を脅迫していた冤罪をかけられ追放されてしまう。 本物の聖女は私だったのに……。この国が困ったことになっても助けてあげないんだから。 「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します。 ※小説家になろう先行投稿。カクヨム、エブリスタにも投稿予定。 ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。

外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~

そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」 「何てことなの……」 「全く期待はずれだ」 私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。 このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。 そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。 だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。 そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。 そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど? 私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。 私は最高の仲間と最強を目指すから。

処理中です...