ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)

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新天地篇

モフモフ空を飛ぶ

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約四分の一を梳き終えたボクはアリエラの様子を覗う。
巨大な猫に成り下がった精霊はいまも愉快な喉音を立てている、なんか言えよ!

ゴロロンと鳴らすばかりなので櫛の手入れと毛玉の山を処理しよう。よくまぁこんなに抜け毛を溜めて置いたものだと呆れる。
「この毛玉は貰っていいすか?」
アクティが獣臭が凄いそれを欲しがった、お前の趣味がわからんな。

「野性的なこのゴワゴワがそそるっすよ!わかんないすかね!?」
うん、わかんない。


ヤシの実の外皮のようなそれはタワシ材だと思うんだ……。
毛玉を回収したアクティはまさにタワシを作り上げて、クロノスバッグから解放された馬たちへと向かう。
すると馬の身体を丁寧にマッサージを始めた。

「なるほど!そう使うとは想定外だ」
「ふむ、馬好きのアクティにしか閃かない事ですね。勉強になる」
クソまじめなマホガニーまで感心していた、ボクも手伝いに行きたいな。

そう思って林檎を生やそうと馬のほうへ行こうとしたら、大きな不満声が阻止する。
「我との取引を放棄するか?ドリュアス」
「えー?アリエラが転寝するから悪いと思う、それに取引というけど契約完了してないでしょ?」
「ぐぬぬ……策士め」

策もクソもないと思うんだが。
「まぁいいや、シルフィード様を呼んでくれるのならトリミングの続きをするよ」
「……我が主を呼ぶなど不敬はできぬ、貴殿を背に乗せ会いに行くならかまわぬぞ。だから是非に鬣をだな」
「よし!約束だぞ、無事シルフィード様に会えたらトリミングしてやる」
「んな!?」


風の精霊王に会ってからと言われたアリエラは少々不満なようだが、手入れ終了後に逃げられても困る。
「そうガッカリしないで、約束の後は必ずトリミングするから例え協力してもらえなくてもね。それにモフモフしたいし」
「もふもふ……それはそんなに良いものか?我の毛は固いと思うが」

それは丁寧に梳いて洗浄すれば改善するはずだよ、後はナッツオイルでしなやかにする。
あらかた掻い摘んで説明すればアリエラは「よかろう」と許可をくれた。
絶対モフりまくってやる!

それからアリエラは目を閉じて主の気配を探ると言った。
風を操り匂いを嗅ぎ出した、大きな鼻をヒクヒクさせる様がなにか可愛い。


「よし、見つけたぞ。ここより西へ行った小さな離島にいらっしゃる」
「ここからどれくらい?」

アリエラの見立てではこの地から二日ほどの距離だという、飛んで二日ということはかなり遠い。
転移をすすめたがシルフィードは常に結界を張っているらしくダメだと言われた。
ちぇっ!

「側近の我にしか結界内へは侵入が許されない、我が背にのれば可能だ。早く乗れ」
「うん、わかった。でもこの子も一緒にいい?クルミ妖精のグルドっていうんだ」

懐で寝腐っていた小太りの獣をみせれば、アリエラは何故か酷く驚いた顔をした。
なんなの?

「うむ、良かろう一緒に乗せて行こう。あの方はひとつ所に留まらんからな急ぐぞ」
「うん、よろしくね」

彼の大きな背にまたがる、ゴツゴツした背骨が尻に当たって少し痛いが我慢だ。
銀の針のような毛がチクチクする、それを撫でれば合図と受け取ったアリエラは大翼を広げた。

「ふぎゃぁ!?」

急激に飛び上がるものだから浮遊感に襲われて悲鳴をあげてしまった。
下方では皆がこちらを見上げていた、アクティが羨ましいと言っている。お前はブレないね。
ラミンが大きく手を振って、その横でエリマは微笑んでいる。マホガニーは渋面だった。一番後ろにいたのにメイペルは尻もちをついていた。

「お早いお帰りを」
「うん、行ってきます!留守番をお願いね」

銀の獅子は西方向へ旋回すると大翼を優雅に上下させて空を駆ける。
思ったほどの荒風は当たらないのには拍子抜けをした。

「乗り心地は悪くないね、向かい風に落とされるかと警戒をしてたのに」
「我は風の精霊だ、客人を振り落とすようなヘマをするものか」

鞍代わりに蔦を這わせようとしたら「我は馬ではない擽ったいからやめろ」とアリエラが怒った。
そうか馬扱いして悪かったよ。

移動二日と聞いていたので大地へ降りてキャンプかと思えば、そのまま滑空するとアリエラは言う。
「空を駆ける精霊が何故わざわざ地へ降りて寝る必要がある?雲の上で寝るぞ。」



キャンプ1日目、雲の上とやらに到着したボク達。
恐々と足を下ろすとなるほど突き抜けたりはしなかった。なんとも不思議だ。
「雲とはてっきり水蒸気の塊かと思ってたけど……」
「そういう雲とは違うのだよ、地を這い生きるものは知らんだろうがこうして固定された雲が点在するのだ」

そう言われても納得はできないよ、足元の雲はひんやり冷たい綿花のようだった。
ふわふわなので一見はモフれそうだが感触はともかく凄く冷たいので安らげそうはない。じつに残念だ。

「我の近くへ来い、暖気を作ってやろう」
「ほんと!?ありがとう凍えて一晩過ごすかと思ったよ」

アリエラの周辺2mほどだけが温かい空気に包まれていた、とても良い温もりだ。
寝そべる彼の腹近くでボクも寝転ぶ、グルドは懐から出てきてアリエラの背で寝ると言った。
「このリスもどきは良く寝るのだな」
「うん、旅に出てからずっと眠そうなんだ。無理をさせてるのかもしれない」

アリエラは何事か話そうとしたが口ごもる。
獣型精霊はやたら秘密を持ちたがる性質なのか?

歯がゆい気持ちだったが心地良い温もりのせいでボクは瞼が閉じてしまった。
翌日気が付いた時にはすでにアリエラの背の上だった。


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